ねむたいむ

演劇・朗読 ゆるやかで懐かしい時間 

クラりモンドを観て

2024-05-26 | Weblog
芥川龍之介翻訳の「クラリモンド」を、狂言師・石田幸雄が独演するという。
その舞台を、お誘いがあって観てきた。
原作はフランスの作家・テオフィル・ゴーチェ。チラシにあるストーリーをみて気が付いたのだけど、昔、「死者との恋」だったか、「死者との接吻」だったかの題で読んだことのある作品だ。ちゃんと覚えていないけど、美しい幽霊だったか吸血鬼だったかに誘惑される青年のお話しだった。青空文庫に芥川龍之介の訳で載っていたので読んでみる。私が昔読んだのはわかりやすい現代語で訳したものだったけど、芥川の訳は、格調高い文語体でかなりややこしいのだ。これを狂言の手法で語るのか、よけいややこしくなるんじゃないか?
でもまあ狂言にも興味があったし(劇団大樹の川野さんがやっている狂言もまだちゃんと見たことがないのだ)、能舞台も観てみたいしという感じで、あまり期待もなく観に行ってきた。
真正面から見た能舞台は、磨き抜かれていてとても素敵で迫力があった。
物語も舞台向けに脚色されていてわかりやすかった。
美女クラリモンドに誘惑されて拒否した僧が、夢の中で愛を享受している。
何よりも石田氏の動きが美しい。芝居とも朗読とも違うリズムをもったセリフ運びが、音楽のようでこれまた美しい。
能にも夢幻能というものがあって、幽霊譚が多くある。幽霊がいて、それに対峙する形で僧侶がいる。能には霊を慰めるという意味合いもあるという。
能舞台で語る「クラリモンド」は、西洋のお話なのに舞台と袴姿の演者とも不思議とマッチしていた。難しそうと避けていた能にも、少し興味を持ってしまった。
観終わって、夜、食事をしての帰り、見上げると御所の暗い森を背景に美しい月が出ていた。満月の夜の素敵な経験だった。