ねむたいむ

演劇・朗読 ゆるやかで懐かしい時間 

ホテルニューハンプシャー

2012-03-23 | Weblog
ジョン・アーウィングのことは村上春樹を通して知ったのだと思うのだけど、「ホテル・ニューハンプシャー」が、とくに好きだ。
映画化もされていて、読んだ後でDVDで映画も観たが、本で読んだ印象のほうが強烈だった。

行き詰った時、疲れた時、私はこの本を手に取る。
この本では、ぱらぱらとページをめくっているだけでも、すぐに突拍子もないものたちと出くわす。
何もかもが波乱万丈すぎて、いくら小説だからって、とあきれていると、「開いた窓の前で立ち止まるな」という言葉が出てきて、読むのをやめられない。
同性愛者の兄、近親相姦の姉弟、小人症の妹、熊の着ぐるみから何年も出られない娘、剥製になった愛犬などなどが次々登場してきても、「人生はすべておとぎ話」なんて言われると、納得して、また読み進んでいく。

そして読み終わってみると、なんだか変に爽やかなのだ。
哀しいのにやさしくて、重くるしいのに清清しい。
死がいっぱい出てくるのに、暗さを突き抜けた明るさのなかに、残された人たちが佇んでいる。登場人物だけでなく、読んだ後の私自身も、何かをふっきれたような気持ちになっている。

この本にははっとする言葉、シーンがたくさん出てくる。
なかでも一番心に残っているのが、
「人生は深刻だ。でも、芸術は喜びに満ちている」という一節だ。
生涯を街頭道化師として生きてきた男の言葉なのだけど、なんて素敵な言いぐさだろうと思う。
街頭道化師であることの、誇りと自信。苦悩と喜び。

上下2巻の長編だけど、私の心に残る小説ベスト10に入る作品です。










コメント
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