ねむたいむ

演劇・朗読 ゆるやかで懐かしい時間 

一滴文庫

2011-05-24 | Weblog
先日、若州人形座の「はなれ瞽女おりん」を観に、福井県おおい町にある一滴文庫に行ってきた。

一滴文庫は、作家水上勉が出身地である若狭に設立した施設で、本館、茅葺館、劇場などが、山間に溶け込んだ佇まいで点在している。若州人形座は、その劇場を拠点に、水上作品を人形劇にして上演している。
劇場は思いのほか広く、200名以上も入っていたただろうか。黒子が操る1メートル弱の竹人形の傍らで、物語を語るのは女優の飛鳥井かがりさん。演出は、7月上演の「モクレンの探偵」で演出担当の幸さん。幸さんは黒子でも出演していた。
一人で何人もの人物のセリフをこなしていた飛鳥井さんの語りは圧巻だったし、竹人形も艶めいて素晴らしかった。劇中、舞台奥の幕がさっと開くと、外にある実際の竹林がのぞくという演出に、はっとさせられる。
水上勉の描く女は、みんな薄幸で美しく、すべての男を受け入れるマグダラのマリアみたいで、男の作家というものはこういう女が理想なんだと思いつつも、このおりんや「五番町夕霧楼」の夕子や「雁の寺」の里子には、女の私だって、切なくて哀しくて泣けてくるのだ。

一滴文庫のなかを散策した。六角堂で食事をして、竹人形館をみる。
子供たちが本を読むことで人生や夢を拾ってほしいという願いを込めて水上氏が蔵書を解放した図書室は、大好きな古い本の匂いで満ちていた。
その図書室に、見慣れたピンク色の二冊の本があった。新鋭戯曲集の4巻と5巻。4巻には私の作品「ポプコーンの降る街」が、5巻には「恋ごころのアドレス」が収められている。
その年の受賞作品を集めて劇団協議会が毎年発行する新鋭戯曲集は、たぶん今までで20巻ぐらい出ていると思うのだけど、そのなかの4巻と5巻だけが、一滴文庫の図書室にあったのだ。水上勉が亡くなるよりも前に発行された本だから、これも読んでくれたのだろうかと思うと、なんだかしみじみとうれしい。

京都から往復5時間。車を出してくれた制作の川那辺さんとダンサーの竹内絵美ちゃんの三人での、気分もリフレッシュした幸せな日帰り旅行だった。
(写真にみえている屋根は、一滴文庫の茅葺館です)