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みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0825「しずく80~消える」

2020-03-05 18:15:34 | ブログ連載~しずく

 千鶴(ちづる)は反論(はんろん)することも出来(でき)なかった。紳士(しんし)とともに部屋を出ると、心の中で呟(つぶや)いた。
「ごめんなさい、私にはこれ以上(いじょう)のことは…。許(ゆる)してね」
 千鶴が振(ふ)り返ると、男たちがしずくを取り囲(かこ)んでいた。そこで、部屋の扉(とびら)が閉まった。
「どうしたんだね?」紳士が千鶴に声をかけた。「何も気にすることはない。これも我々(われわれ)の自由(じゆう)のためだ。あの女の小さな命(いのち)が、我々に幸(しあわ)せを運(はこ)んでくれるんだ」
 突然(とつぜん)、部屋の扉が開いて男が飛び出してきた。紳士はにこやかに言った。
「ご苦労(くろう)だった。運び出してくれ。――最後(さいご)の始末(しまつ)は、こちらでやっておく。君(きみ)は今まで通り、他の連中(れんちゅう)を監視(かんし)してくれ。もし何かあったらすぐに連絡(れんらく)を――」
 男が口を挟(はさ)んだ。「あの…、それが…、消(き)えました…」
 紳士が怪訝(けげん)そうな顔で訊(き)き返した。「消えた…。何のことだ?」
「ですから、あの女です。突然(とつぜん)、光に包(つつ)まれて、消えてしまったんです」
 紳士は顔を真っ赤にして叫(さけ)んだ。「捜(さが)せ! ぐずぐずするな、部屋中くまなく捜すんだ!」
 男たちは家中(いえじゅう)へ散(ち)って行った。紳士は大きく息(いき)をつくと、千鶴に向かってぎこちない笑顔(えがお)を見せて言った。「さあ、君の出番(でばん)だ。捜してくれ、あの女を」
 千鶴は能力(ちから)を使って捜してみたが、しずくの姿(すがた)を見つけられなかった。紳士は叫び声をあげると、ゆっくり息を吐(は)いて言った。「まあいい…。今のところ、何の障害(しょうがい)にもなっていないからな…。しかし、計画(けいかく)を急(いそ)いだ方がよさそうだ」
<つぶやき>しずくはどこへ行ったの? 計画って、彼らは何をしようとしているのか?
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0824「自称天才」

2020-03-04 18:22:44 | ブログ短編

「やっと負(ま)けを認(みと)めたか。それでいい、俺(おれ)は天才(てんさい)だからな」
 男は笑(わら)いながら言った。
 負けを認めた探偵(たんてい)は、卑屈(ひくつ)になるでもなく穏(おだ)やかに話しかけた。
「君(きみ)は、最高(さいこう)の好敵手(こうてきしゅ)だ。お別れに、ハグさせてもらってもいいかな?」
「構(かま)わんよ。これでお終(しま)いだ。ここに人がやって来ることはないからな。静(しず)かに死(し)ねるぞ」
 男は出て行った。扉(とびら)の鍵(かぎ)をかける音が最後(さいご)に響(ひび)いた。――男が街(まち)へ戻(もど)ると、すぐに警官(けいかん)に取り囲(かこ)まれ連行(れんこう)された。だが、男は取り調べをする刑事(けいじ)に平然(へいぜん)と答えた。
「君たち凡人(ぼんじん)には、私の考えなど理解(りかい)できまい。どんなにあがいても、私が犯罪(はんざい)を犯(おか)した証拠(しょうこ)を見つけるなんて無理(むり)な話だ。私を釈放(しゃくほう)したまえ」
 刑事はにやりと笑うと、男の肩(かた)に手をかけて耳元(みみもと)にささやいた。「証拠ならあるさ。お前が持って来てくれたからな。わるいが、上着(うわぎ)を脱(ぬ)いでくれないか」
 刑事は上着をはぎとると、男の目の前に置いた。上着の背中(せなか)には一枚の紙(かみ)が貼(は)りつけてあった。そこには簡単(かんたん)な地図(ちず)と、この男は犯罪者(はんざいしゃ)だから警察(けいさつ)に連絡(れんらく)するようにと書かれてあった。男は憤慨(ふんがい)して声を荒(あら)げて叫(さけ)んだ。
「あの野郎(やろう)! 何てことをしてくれたんだ。俺の上着に――」
 刑事は男を座らせると勝ち誇(ほこ)ったように言った。「これで拉致監禁(らちかんきん)の罪(つみ)は免(まぬが)れないぞ。さあ、洗(あら)いざらい話してもらおうか。お前は天才なんだから、忘(わす)れたなんて通(とお)らないぞ」
<つぶやき>詰(つ)めの甘(あま)い天才は凡人と等しいのです。ところで、探偵は救出されたのか…。
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0823「エンディング」

2020-03-03 18:24:53 | ブログ短編

 突然(とつぜん)、古(ふる)い友人が訪(たず)ねて来た。そいつとは、子供(こども)の頃(ころ)によく一緒(いっしょ)に遊(あそ)んでいた仲(なか)だ。ずいぶん前に、少し離(はな)れた場所(ばしょ)へ引っ越したので、会う機会(きかい)もなくなってしまった。
 その友人は白髪頭(しらがあたま)を下げると、昔(むかし)と同じ笑顔(えがお)を私に見せて言った。
「お互(たが)い歳(とし)を取ったなぁ。――実(じつ)は、借(か)りたままになっていた物を返(かえ)しに来たんだ」
 友人は持ってきた風呂敷(ふろしき)包みを広げた。中から、おもちゃが出てきた。これは…、確(たし)か子供の頃に流行(はや)っていたおもちゃだ。友人は言った。
「もう俺(おれ)たちの人生(じんせい)も残(のこ)りわずかだろ。人生の最後(さいご)を迎(むか)える前に、やり残(のこ)していることを一つずつ片(かた)づけようと思ってな。今、家の中を整理(せいり)しているとこなんだ。そしたら、これを見つけたんだ。覚(おぼ)えてるだろ? よく二人で遊んだじゃないか」
 そう言われても、私にはピンと来なかった。何となく昔遊んだ記憶(きおく)はかすかにあるが、自分のものだったかどうか…、これを貸(か)したことすらまるで覚えていない。
 友人は詫(わ)びと礼(れい)を繰(く)り返すと、「元気(げんき)でな」と言って帰って行った。私は、残された薄汚(うすよご)れたおもちゃを見て思った。いまさらこんなものを返されても…。でも、わざわざ届(とど)けに来てくれた友人の気持(きも)ちを思うと、むげにするわけにもいかない。
 私は独(ひと)り言のように呟(つぶや)いた。「残りわずかか…。そろそろ考えないとな――」
<つぶやき>律儀(りちぎ)な人もいるんですね。でも、このおもちゃ、レアものかもしれませんよ。
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0822「先手必勝」

2020-03-02 18:25:41 | ブログ短編

「ありがとう。絶対(ぜったい)に、君(きみ)を幸(しあわ)せにするから…」
 僕(ぼく)のプロポーズに彼女は、「はい」と答(こた)えてくれた。僕はもう、叫(さけ)び出しそうなくらい有頂天(うちょうてん)になっていた。でも、彼女の次の一言(ひとこと)で僕は現実(げんじつ)に戻(もど)された。
「結婚式(けっこんしき)はどうするの? 住(す)むところは? あなたの部屋(へや)じゃ狭(せま)いでしょ。あたしのところもそんなに変わらないから、二人で住むのは無理(むり)だわ」
「そ、それは…、これから二人で、ゆっくり話し合って決(き)めれば――」
「なに呑気(のんき)なこと言ってるの? それじゃ遅(おそ)いわよ」
「でも、君が、僕と一緒(いっしょ)になってくれるかどうか分からなかったし――」
「あなた、人生設計(じんせいせっけい)とかちゃんとしてる? 先(さき)のことまでしっかり考えて行動(こうどう)してよ。今のあなたの収入(しゅうにゅう)で暮(く)らしていけるの? 本当(ほんとう)にあたしのこと幸せにできる?」
「そ、それは、もちろんできるさ。絶対(ぜったい)に、君のこと幸せにするから。約束(やくそく)する」
「人生に、絶対なんてことないから。――しばらくは共稼(ともかせ)ぎでやっていけると思うけど、子供(こども)ができたらどうするの? あなただけの収入で、本当に大丈夫(だいじょうぶ)なのかしら?」
「それは、もちろん…。僕が、がんばって働(はたら)くから。心配(しんぱい)しなくても――」
「じゃあ、家事(かじ)とかも分担(ぶんたん)してくれるわよね。あなた、とっても優(やさ)しいから…」
「そりゃ、まかせてよ。僕で、できることは何でも…」
<つぶやき>家庭(かてい)での主導権争(しゅどうけんあらそ)いはもう始まってます。安請(やすう)け合いをすると大変(たいへん)なことに。
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0821「幸せな夢」

2020-03-01 18:12:30 | ブログ短編

 彼女は何かに悩(なや)んでいるように見えた。友だちがやって来て彼女に尋(たず)ねた。
「ねえ、どうしたのよ? 何か心配事(しんぱいごと)でもあるのかな。あたしでよかったら聞くよ」
「いえ、そんなんじゃないの」彼女は真顔(まがお)で続けた。「実(じつ)はね、夢(ゆめ)を見たの。とっても素敵(すてき)な夢よ。今までに、こんな幸せな気持ちになれたことなんかなかったと思うわ」
「そう…。それは良かったじゃない。で、それが――」
「つまりね、幸せな夢だったはずなのに、どうしても思い出せないのよ。どんな夢で、何で幸せな気持ちになれたのか…。私、思い出したいの」
「えっと…。それは、ただの夢でしょ? そんなの、思い出しても…」
「そうよ、だたの夢よ。でもね、何にもない私にとっては、これは重要(じゅうよう)なことなの」
「いやいや、ちょっと…。なに言ってるのよ。あなた、大丈夫(だいじょうぶ)?」
「どうせ、あなたには分からないわ。今の私の気持ちなんか…」
 彼女は悲(かな)しげな顔をして、「あなたは、仕事(しごと)も順調(じゅんちょう)だし、彼氏(かれし)だっているじゃない。結婚(けっこん)も秒読(びょうよ)みだって言ってたでしょ。まるで、私に当(あ)てつけるように…」
「ちょっと待ってよ。あたし、そんなつもりなんか…。あたしは、あなたにも幸せになってもらいたいって思ってるわよ。だって、あたしたち親友(しんゆう)なんだから」
「そうね…。でも、あなた結婚したら、もう私のことなんか…」
「もう、何でそうなるのかな? あたしたちの友情(ゆうじょう)は何があっても変わるわけないでしょ」
<つぶやき>一生の友だちがいるってことは、とっても幸せなこと。何にもないなんて…。
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