これが戦争の代償だということ。
多くの代償のひとつということだ。 ポール・ハギス
7月1日、東宝シネマズ二条にて鑑賞。「クラッシュ」から3年。新しいポール・ハギスの作品「告発のとき」が公開されました。このところ、イラク戦争を題材にしたアメリカ映画がいくつか公開されています。
アメリカのイメージ、それは戦争につながる。戦争をやらかす国というのがつきまとうのだが・・・・・。でもそのイメージでアメリカだとひとくくりにするのはどうも誤解の一歩のように最近思うようになりました。すべてではないですが、公開されている作品のなかでも戦争がもたらす人々の複雑な思いや苦しみなどを伝えているものがいくつかあります。つい最近も紹介した「さよなら、いつかわかること」もそうでしたね。
さてこの「告発のとき」の映画化に至る流れは下記のとおりです。
米プレイボーイ誌に掲載された記事“Death and Dishonor”に書かれた、実際に起こった事件を、クリント・イーストウッドによる支援で、映画化を実現させたのです!凄いですよね。
実際大変だったようです。この事件が起きた2003年当時は、イラク戦争に加熱状態だったアメリカですから。というのも、事件の内容が、イラクから帰還した若い兵士が失踪し、その後焼死体で発見!父親が自ら真相を捜索し、その結果分かったのは、何と3小隊の戦闘員が殺人罪で告発という悲惨な記録だったのですから・・・・・。
ポール・ハギスはこう語っている。この作品で伝えたかったのは、何が正しくて何が間違っているのかという単純なことを言いたかったわけではない。僕が言いたかったのは、これが戦争の代償だったということ。多くの代償の中のひとつということだ。戦場に送られる若い兵士たちにいったい何が起こっているか、我々は直視しなければならない。この作品を書き始めた2003年~2004年は、まだこのテーマはポピュラーではなかったし、80パーセントの人々が政府の決定に支持していた。共和党だろうが、民主党だろうがーー彼らは必ずしも戦争を支持していたわけじゃないが、兵士をイラクに送るのには賛成だった。だからイラクで起こっていることを考えさせるような題材は非愛国的だと言われ、予算を確保するのが難しかった。でも僕と同じように問題意識を持ち始めた監督は他にもいたと思う。
ベトナム戦争のときは、戦場に多くのジャーナリストがいて、メディアで大々的にレポートしていたが、今はそれがない。僕らは自分たちに厳しい質問を問いかける必要がある。それで答えが出るわけではないが、人々の意識を高めることは出来る。この状況に目を開き、それを対処することが必要なのだ。リサーチのため、退役軍人と話をしたけれど、彼らの多くがトラウマを背負い、恥辱 抱えて帰還している。何故なら、イラク市民を助けるという名目のもとに派遣されたのに、実際は多くのイラク市民を殺しているからだ。でも彼らからはこの作品に対してポジティブな反応が得られた。厳しい現実を描いてくれたことに感謝をされた。そうその状況が本国に正確に伝わっていないと感じているんだ。
ポール・ハギスの話で、アメリカの中で、多くの人がこの戦争によって心が病んでいることを改めて、痛感しました。そしてこの作品を観れば、そのことがもっと分かります。
さて簡単にストーリーを・・・・・。
軍隊から脱出した息子の行方を捜す父親を通して、苛酷な真実が明らかになる
2004年11月1日、突然ハンク・ディアフィールド(トミー・リー・ジョーンズ)の元に、息子マイク(ジョナサン・タッカー)が軍から姿を消したと不穏なニュースが届けられる。ハンクも元軍人警官、息子マイクもその兄も軍人という典型的な軍人一家。それだけに、無許可で離隊などありえないと思ったハンクは妻ジョーン(スーザン・サランドン)を残し、息子を捜すために、帰還したはずのフォート・ラッドへ向かう。
カーネリー軍曹役(ジェームス・フランコ)
そういえば、スパイダーマンに出演していた。主人公ピーターの親友役ハリー・オズボーンだった。
帰国している同じ仲間(ぺニング、ロング、オーティーズ、ボナー)も皆、マイクの行方を知らなかった。地元警察のエミリー・サンダース(シャーリーズ・セロン)が彼の捜索を手伝い、消息を探っていた矢先に、息子の焼死体が発見されたという知らせが届く。
2人は真相を究明しょうと試みるが、息子の殺害現場が軍の管轄内だったために、事件は警察の捜査から手を離れてしまう。
しかしエミリー刑事の助けでマイクの死体が放棄された場所へ検証に向かったハンクは殺害現場が軍の管轄である基地の敷地外と見抜く。一歩一歩真実を解き明かしていく。しかし、そこには父親の知らない息子の“心の闇”が隠されていた!そしてこの事件の裏に潜む真実は、ハンクがこれまで信じてきた世界の全てを揺るがすほどの衝撃的な事実となる。疑うことなく抱き続けてきた自らの信念を根底から覆されるとき、人はどう真実と向き合い、どう答えを出すことができるのか?
実在の兵士を利用して、リアリティを追求。
物語は小さな町の中で展開するが、ドラマの背景となるのは軍隊であり、キャラクターの多くは軍に所属している軍人の持つ独特な雰囲気をリアルに表現するため、特技兵のゴードン・ボナー、そしてぺニング伍長の2人には実際に軍に勤めた経験のある若者がキャスティングされた。
この若者がイラク戦争を体験したひとり。
ハンクは彼を犯人と思い、殴りかかる!
軍を交えての犯人とのやり取り。エミリー刑事とハンク。
息子マイクの死に悲しむジョーン。長男も死んで、今度はマイクまで・・・・。彼女は何故2人とも奪われなければならないの?と叫ぶ。
ジョーンの悲しみを包む夫ハンク。トミー・リー・ジョーンズの演技は抑えた受けの演技だと書かれていた。確かに、息子の無残な死にも冷静沈着である。感情むき出しではない。
エミリー刑事を演じたシャーリーズ・セロン。ハギスが彼女をキャストに選んだのは、彼女が南アフリカ出身で幼い頃より、戦争の恐怖を身近で体験していることから。戦争が、普通の生活を送る者たちにとってどれだけ恐怖を及ぼすことを分かっている。だからこそ彼女も脚本を読んですぐにOKしたそうだ。
この作品の中では、母子家庭という設定のエミリー、ハンクの息子への思いが、きっと彼女の心を動かしたのは、彼女も母親だったからだろう。
監督ポール・ハギスとスーザン・サランドン
クリックして下さい!ポール・ハギスの紹介が詳細に分かります。この作品の公式サイトにもリンクできます。
※原題は「エラの谷で」。旧約聖書で幼いダビデが巨人ゴリアテと戦う「エラの谷」である。イラクを「エラ」に見立て、終わりのない戦いに挑む兵士たちの疲弊した心を浮かび上がらせるのだが、戦場の恐怖は兵士たちをずたずたに切り裂き、そこからまた新たな悲劇が生まれる。
ハギスが見つめるのはイラクでの戦闘ではない。その後遺症とでもいうべき帰還兵の荒廃した内面である。前に進めず後にも引けない切羽詰まった閉塞(へいそく)状況。9・11以降泥沼化の一途をたどるアメリカの悲鳴が聞こえてくる。2時間1分。(映画評論家 土屋好生)YOMIURI ON LINEより抜粋
ということで、またまた長い紹介となってしまいました。皆さんぜひご覧下さい。