4) 須恵器を作る環境。
① 須恵器の生産には、高温に耐える粘土と燃料の薪(まき)が多量に必要になります。
) 従来の土器制作では、極端な話加工し易い粘土質であれば、余り土質を選ぶ必要も無く、
手近な土を利用すれば良かったのですが、須恵器の様に1000℃以上の高温(?)で焼成する
となると、土質を選ぶ必要があります。
) 海成粘土と水性粘土。
粘土には海成粘土と水性粘土の二種類に分類されます。
a) 海成粘土は耐火性が劣り、1000℃を超えると形が崩れ、表面がケロイド状に熔解し
海綿状になりますので、土師器の焼き物として使う事が出来ません。
原因は、粘土に塩分が含まれている為です。
b) 水性粘土は、淡水(真水)の湖や川の底に溜まった粘土層などで、1000℃以上でも
変形や熔解現象は起きません。それ故、須恵器にはこの粘土が使われます。
c) 海成粘土と水性粘土の区別。
イ) 粘土の色の違い。
海成粘土層は黒灰色~暗灰青色をしています。淡水成粘土層は緑青色をしています。
但し、地表の空気に長く晒された場合には、いずれも表面が白っぽくなっています。
ロ) 海成粘土は酸性で、淡水成粘土はアルカリ性になっています。
粘土を水に溶かし、pH(ペーハー=酸性、アルカリ性の度合い)や電気伝導度を測定
すると判明します。
ハ) 海成粘土層のあるところは、塩分を含む為、中々雑草が生えないとの事です。
d) 粘土の採掘。
須恵器に適する粘土は、必ずしも容易に手に出来た訳では有りません。
須恵器を焼いた窯跡近くには、粘土採掘坑や粘土土坑跡が数多く存在しています。
粘土の採掘には、土木工事の様に、山肌に道具を用いて横穴を掘った跡が見られます。
又、採掘場所の近くに、水簸(すいひ)したと思われる場所(設備)の存在する場合も有り
ます。但し、須恵器に使われた粘土が、全て水簸されていたと言う証拠は無いとの事です。
イ) 粘土を採掘する専業職人も存在していた可能性もあります。
即ち、粘土の選定が出来る経験者が先頭に立ち、採取可能の粘土層を見付けだし、
更に、採取の可能性を検討した後に採掘に取り掛かる事になります。
ロ) 横穴の坑道の長さは5~10m程度で、入り口の幅は約1.5mの物が多いようです。
坑道の奥は円形に広がりを持ちます。 更に、坑道から垂直方向に直径2~3m深さ
0.5m程度の竪穴が掘り下げられた状態が確認できます。
ハ) 上記の様な採掘場所は、同じ山に十数個存在する場所も有ります。
それだけ粘土の需要があり、又粘土の層が薄い事になります。
② 窯は半地下式の窖窯(あながま)が使われています。完全な地下式の窯は少ないです。
窖窯は良い土の出る所に窯を築く事になります。又水性粘土の上に窯を築く必要があります。
窯の温度が1200℃を超える場合もありますので、熱に強くなければなりません。
) 半地下式とは、斜面の傾斜角度を10~30度位にし、窯の底面部を船底風に掘り込み
窯の断面を蒲鉾状にし、両側の土を盛り上げた側壁、更に粘土で天井を付けた構造に
なっています。 窯の奥行き(長さ)は5~10m程度の物が多い様です。
風雨を避ける為、屋根があったはずです。
) 窯の構造。
基本的な構造は、焚口(たきぐち)、燃焼部、焼成部、煙道部で、特に煙突はありません。
当然スペース的には、焼成部が一番広いです。天井部には煙出しの小穴が空けられていま
した。 焚口は風が入る方向に開けられ、特に強い季節風が吹く方向に向いています。
7世紀以降の窯では、底面が階段状に作られた窯もありました。
・ 尚、現在でも窖窯は、無釉の焼締陶器を焼く窯として圧倒的人気を博しています。
その構造は須恵器を焼く窯とほぼ同じですが、現在では壁材に耐火レンガを使用し、煙突を
付け、ダンパーやドラフトの機能を持たせ、自然の風では無く煙突の引きの強さで、燃焼を
コントロールしています。
) 燃料に付いて。
以下次回に続きます。