リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

盲腸と関節技

2020-01-26 05:36:01 | オヤジの日記

水曜日、朝9時前にWEBデザイナーのタカダ君(通称ダルマ)からLINE電話が来た。

 

「師匠ーー」

気持ち悪い泣きそうな声だった。鳥肌がたった。

「見舞いに来てくれませんか」

見舞い? 何の見舞い? 俺には見舞いの趣味はないんだけど。見舞いクラブになんて入ってないぞ。

「師匠、病院の見舞いですよ。決まってるじゃないですかー」

泣きやがった。

誰が病院にいるんじゃ。都合が悪くなるとすぐ「適応障害」とか言って、入院したがる政治家か。それとも2年前に白かった毛が突然黒に変異したウサギのハナちゃんか。あるいは、謀反で雲隠れ中の明智光秀殿か。

「オレですって! 盲腸で入院してるんですよ。手術は終わったんですが、誰もいないんです」

ダルマは生意気にも10年前に結婚し、9歳と7歳、1歳のガキがいた。姫ダルマ2匹と坊ダルマ1匹だ。姫ダルマは、幸運にも奥さんのトモちゃんに似ていたので、きっと幸福な人生を歩むだろう。しかし、坊ダルマは、あってはならないことに、ダルマそっくりに生まれた。

お可哀想に。

私は、坊ダルマのために、毎日水をかぶってお祈りをしていた。ルックスで判断されない世の中が来ますように、と。

 

で・・・それはいいのだが、トモちゃんは、どうなさったのだ。面倒を見てくれないのか。まさか、別れたのか。

キミ、その顔で、ウワウワウワ浮気などというハレンチ東出なことをしたのではあるまいな。

「違いますよ、下の子が風邪ひいて熱出したんで、その世話で大変なんです」

そうか、姫ダルマ2が、お風邪でござるか。それは、トモちゃんも大変でござるな。

「だから、師匠に見舞いをお願いしているんじゃないですかー」

泣くなよ。

しかしね、タカダ君、入院と見舞いはセットなのか。朝メシに、納豆定食を頼んだら、当たり前のように味噌汁と漬物が付くセットと同類なのか。俺は、漬け物は受け入れるが味噌汁はいらないんですけど。

「師匠、銀河高原ビール2ダースで引き受けてください!」

痛いところをついてきたな。ダルマは、年に3回程度、私の好物の銀河高原ビールを賄賂として贈ってくるのだ。

いつもは1ダース。しかし、今回は2ダース。これは魅力的な提案だ。

私は、やや焦らしながら答えた。

見舞いに行ってやらんこともないこともないこともない。

「どっちなんですかー」

だから、泣くなよ。

 

今日の午後は、八王子から恐怖の関節技女が、ガキを連れてやってくることになっていた。

メインディッシュが、ゴツい500グラムのレアステーキなので、前菜は、腐ったハマグリの酒蒸しでいいだろう。

ということで、腐ったハマグリのお見舞いに行くことにした。ハマグリは、三鷹の病院で酒蒸しになっていた。

4人部屋というリーズナブルな部屋だった。しかし、今朝偶然にも相部屋の3人が相次いで退院したため、ダルマが4人部屋を占領していた。人がいない病室は、とても広く感じられた。

私は、用意された椅子に座って、バッグからクリアアサヒを出し、早速飲み始めた。

「ちょっと、師匠、ここは病院ですよ。アルコールは、さすがに」

チョットなに言ってるかわからない。確かに患者さんは飲んではダメだろうが、見舞い客には、そんな縛りはないのではないかい。

俺は、自分の子どもが生まれたとき、病室で生まれたばかりの子どもを見て、オイオイと泣きながらビールを飲んだぞ。看護師さんは、そんな私を天使のような笑顔で見守ってくださった。

 

あー、このチータラ美味いわ。で・・・退院は、いつなんだ。

「午後、検査して異常がなければ、明日です」

その1日が待てずに、俺を呼んだのか。

「なんだかんだ言っても、師匠なら絶対に来てくれると思って。それに、入院って、なんか人を不安にさせるんですよね。そんなとき、お気楽な師匠がそばにいたら、こっちもお気楽になれるんじゃないかと思って」

俺は落語家か。笑笑亭お気楽。

手術跡が開くくらい笑わせてやろうか。

 

・・・などと言っているうちに、Skypeのビデオ電話が来た。

八王子の関節技娘、ショウコだ。

「サトルさん、いまどこ?1時半の約束だったけど、1時に国立のロイヤルホストに変更できるかな。ごめんね、3時に用ができたの」

まあ、いいけど。

「本当に、ごめんね。アッレー、そこ病室じゃない?え?サトルさん、入院しているの?死ぬの?」

私はもう死んでいる。

「死んでもいいから、お年玉だけは届けてねえ」

 

ショウコは、毎年1月に私を呼び出して、自分の分とガキの分のお年玉を強奪するのだ。ただ、ショウコは、私の子ども2人にもお年玉をくれるから、去年までは大赤字にはならなかった。

だが、恐ろしいことに、去年ショウコはガキをまた一人追加した。つまり、今年は、4人分のお年玉が必要になる。

4対2。大々赤字ですよ。しかも、これに関節技が加わるという恐怖。拒否もできない。

割りに合わない。

でも、1年に1回の儀式ですからね。素直に受け入れましょう。

悪いね、タカダ君。待ち合わせが早まった。帰るよ。

そう言って、ダルマのガキ3人分のお年玉をサイドテーブルに置いたら、ダルマが「師匠ー」とまた泣いた。

お大事に。

 

ロイヤルホストに行ったら、もうショウコとガキ2人が待っていた。

おや?去年生まれたガキはどうした?

「まだ半年だからね。お母さんに見てもらっているの。冬はウイルスが怖いから」

そして、すぐにショウコは私の子どもたちのお年玉をくれた。

私も4人分をあげた。

ショウコとショウコのガキは、すでにお高いリッチなハンバーグを召し上がっていた。

少食の私は、イカのフリットとソーセージのグリル、ガーリックトースト、一番搾りだ。

そのとき、ショウコが唐突に言った。

「今年から関節技やめるから」

はー? 耳鳴りか。聞き慣れない日本語が聞こえたぞ。関節が、どうしたって?

「私も今年で30歳だから、自覚を持たないといけないと思うの。母親らしくしないとね」

関節技をやめれば、母親らしくなるものだろうか(そもそも、なぜ今ごろ気づくのだ。まあ、嬉しいけど)。私は、両腕の関節を愛おしくさすった。

 

ショウコは、生後半年のガキの画像を私に見せてくれた。

とても嬉しそうだ。慈愛にあふれた母親の顔をしていた。

ショウコのガキは、私にとって孫も同然。

「あれ、シラガジイジが泣いてるぞ」と帆香(ほのか)が私の顔を指差して笑った。それを見た悠帆(ゆうほ)は、ペーパーナプキンで目を拭ってくれた。

いいね、孫って。

気分がホンワカした。

 

ショウコが車を停めた駐車場まで一緒に歩いていった。

車は、ダイハツ・ムーヴ。

それを見た私は、つい余計なことを言ってしまった。

なんだよ、家族が一人増えたっていうのに、こんなチンケな軽自動車にまだ乗っているのかよ。

 

左腕の関節をきめられた。

 

 

ギブ、ギブ、ゴメンナサイ。

 


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