リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

セカンドチャンス

2019-05-26 05:43:00 | オヤジの日記

最近、国立駅近くのバーミヤンを利用することが多い。

14時から一番搾りが200円で飲めるのである。

 

冷静に考えれば、安いディスカウントストアで買って飲んだ方が安いのだが、ディスカウントストアでは「空間」は買えない。

餃子12個食って700円ちょっとなのだ。「空間」を計算に加えたら贅沢な時間と言っていいだろう。

バーミヤンに行くときは、必ずノートパソコンを持っていく。

ただ、パソコンを開けることはない。ただの飾りだ。とりあえず1時間の空間を利用するための道具として持っていく。

そもそも私は、得意先に説明する以外で、ノートパソコンを利用することはない。

よく電車やカフェでパソコンをカチャカチャしている人を見かけるが、そんなにパソコンが好きなの? と私は批判的に見てしまうのだ。

もし、それが仕事なら、なんで仕事時間内に仕事を終わらせることができないの? 時間外に、仕事をするって能率が悪すぎませんか。

ちゃんと計画的に仕事してますか? たとえ急ぎの仕事があったとしても、私は、それを計算してスケジュールをたてていますよ。

朝早く子供たちの弁当を作り、朝メシを作り、夕メシを作り、その合間に仕事をして、夜何時に終わらせるというのを全部計画して仕事をしている。

だから、外でパソコンを開けることは、得意先以外ではない。

1日が24時間というのは、誰にも平等に配分された時間だ。高貴な人も、私のように卑賤な人間にも割り当てられた尊い時間だ。

電車の中で、カチャカチャしている人を見ると、そんなに時間の使い方が下手なの? と思ってしまう私は、もちろん変人です。

誰がどこで何をしようと自由だ。そんなことを気にする方がおかしい。

 

それは、わかってますよ。

 

「Mさんは、本当に変わりませんね」とナイトウ君に言われた。

ナイトウ君は、ラーメンと北京ダックを食っていた。

ナイトウ君は、洋食屋のオヤジだ。おそらく、今年56歳になる・・・と思う。

 

ナイトウ君に関しては、少しデリケートな話になる。だから、「ナイトウ君」というのは、仮名だ。

大学を卒業して、大手法律事務所に勤めた私が、一番心に残った人がナイトウ君だった。

きっかけは、ナイトウ君のお兄さんが、法律事務所に相談に来たことだった。

「弟が窃盗で送検されました」

私が勤めていた弁護士事務所が、その事案を担当した。ナイトウ君は21歳だった。その窃盗の他に未成年のとき、起訴はされなかったが窃盗をしたことを自供した。

凶悪な犯罪ではなかった。弁護士とお兄さんが間に入って、示談が成立した。

 

そこで終わったかと思った。

しかし、ナイトウ君は、その後も2回窃盗を繰り返した。

2回目のとき、弁護士事務所にお兄さんに伴われて、ナイトウ君がやってきた。

小太りの背の小さい男だった。しかし、全身で反省を表している姿は、私の心に何かを埋め込んだ。

「私が弁済します。責任を持って、こいつを指導します」とお兄さんは言った。

ナイトウ君は、人間って、こんなにしおれるんだ、というくらいうなだれていた。

人間性善説を信じる私は、彼のうなだれた姿が芝居には見えなかった。

示談が成立した。

 

だが、30代後半の弁護士は「あいつはまたやるよ」と憎々しげに断定した。

弁護士のご意見は、当たった。

また兄と一緒に、ナイトウ君が事務所にやってきた。

兄が弁済して、示談が成立した。

そのとき、ナイトウ君は兄の顔を横目で見ながら、ずっと泣いていた。

 

ねえ、ナイトウ君、君はお兄さんのことが大好きだよね。

泣いているナイトウ君に聞いてみた。

ナイトウ君は、急に泣きやんで、「大好きです」と答えた。

そのとき、27歳の若造だった私は、この子は絶対に立ち直れると思った。

根拠はない。ただ、立ち直って欲しいと偉そうに思っただけだ。

 

その1ヶ月後、ナイトウ君から電話があった。

洋食屋で働くことになったというのだ。

たまたま入った洋食屋で従業員を募集していた。オーナーに話をすると面接をしてくれた。

ナイトウ君は窃盗のことを正直に話した。

オーナーは驚くそぶりも見せず、ナイトウ君に質問した。

「君が尊敬する人は誰ですか」

兄です。

「君が幸せにしたいと思っている人は誰ですか」

兄です。

「君が一番大事に思っている人は誰ですか」

兄です。

 

オーナーは、その場で、ナイトウ君を採用してくれた。

最初は、店の掃除、厨房の掃除、調理器具の手入れが仕事だった。

そのあと、接客。

そして、レジ。

「え? お金の管理を任せてくれるんですか?」とナイトウ君はオーナーに聞いた。

「俺、レジの前を通ると、いつも心がザワザワするんです」とナイトウ君は、正直に言った。

それに対して、オーナーは、「ザワザワしたら、君のお兄さんのことを思い出してごらん」と言った。

そう言われたら、ザワザワがなくなった。

そのあと、ナイトウ君は、調理師免許をとった。

そして、子供のいないオーナー夫婦に請われて、オーナー夫婦の養子になった。

ナイトウ君のお兄さんは、涙を流して喜んでくれたという。

 

ナイトウ君の洋食屋に行くと、必ずポークカレーを出してくれる。

関西で13歳まで過ごしたナイトウ君は、なぜか「ポークカレーなんてあり得ないですよ」と頑なに拒んだが、私が、先入観なしに出してみ、と言ったら、かなり工夫したスープ風のルーのカレーを店で出した。それは結構当たったようだ。

カツを乗せたら、もっと当たった。

 

「カレーに方程式はいらないんですね」

 

その他に、私専用のオムライスも出してくれた。

オムライスは、チキンライスじゃねえぞ。ハムと玉ねぎを具材にするんだ。味付けはケチャップだけ。そして、ケチャップライスを包むオムレツは、トロトロフワフワは邪道だ。硬めの卵で包んでくれ。

俺は、うどん、ソバ、ラーメン、パスタは、アルデンテじゃなくちゃダメなんだ。

この間、東京駅八重洲口のパスタ屋さんに入って、スパゲティバジリコを頼んだのさ。

しかし、出されたのはフニャフニャの麺だった。久しぶりにテーブルをひっくり返しそうになったよね。

よくバラエティで、肉や魚を食って、「舌の上でとろけましたー」というお約束のコメントがあるが、とけちまったら味なんかわからないだろう、と俺は思ってしまうんだよね。

「いや、あれは、新鮮さ、美味しさを伝えるおきまりの褒め文句なんですから、そこまで目くじらをたてなくても・・・」

 

そんなこんなことは、俺も知っとるわい。

だけどね、俺には、絶えずアルデンテで、食い物を出して欲しいね。

カツカレーも今まで通り、カツは別皿で出してくださいな。カツにカレーなんかかけたら、最悪だよ。

衣のサクサク感と肉のジューシーさが台無しになる。

頼んますよ。

 

「本当に、Mさんって変わってますよね。でも、バーミヤンの餃子には文句は言わないんですよね」

 

餃子には方程式はいらないからね。

自分がうまいと思った味が、方程式だ。

洋食屋だが、餃子も出す店をナイトウ君はいま経営していた。

カツカレーがあって、オムライス、ナポリタンがある店に餃子がある。

いいよね、その雑然感。

俺は、いいと思うよ。

 

そのナイトウ君が参考にしているのが、バーミヤンの餃子なのだ。

参考にしているからといって、味をパクっているわけではない。ナイトウ君は私と同じでバーミヤンの餃子がただ好きなだけだ。

ナイトウ君の店の餃子は250円、ナポリタンは550円、カツカレーは650円という絶妙な価格設定だ。

味は絶妙に美味いかといえば、価格相応と言えるが、店としての居心地は抜群にいい。

義父義母は、もうリタイアしていた。今は常連客だった奥様と24歳で調理師免許をとった長男が、店を支えていた。

幸せを感じる洋食屋さんだ。

 

「僕のセカンドチャンスは、父と母のおかげです」とナイトウ君は言う。

「あのとき、面接で採用されなかったら、僕は、どうなっていたかわかりません。兄に迷惑をかけっぱなしの反省のない犯罪者のままだったかもしれません」

 

セカンドチャンスを逃さなかった君も偉いけどね。

 

SNSが世の中で大手を振っている現代は、元犯罪者に対して、とても不寛容だ。

ネチネチネチネチと、過去をほじくって、人を隅に追いやる。マウンティグをしたいだけの人たち。自分より下だと思っている人は、本当に、あなたより下なんですかね。

罪を悔いている人には、セカンドチャンスを与えるべきだ、と私は思っている。

異論があるのはもちろん承知だが、彼の犯罪は、あなたたちに関係ありますか。立ち直った人を非難する権利は、誰にもない。事情も知らないのに、ネチネチ攻撃するのは、大切な時間を浪費する愚かな行為だ。

殺人など被害者がいる事案については、慎重になるべきだが、他は可能性を信じてもいいと思う。

「犯罪者の全部を俺は許さん」という狭量な社会は、窮屈過ぎて、俺はダメだ。

 

ナイトウ君のお兄さんは、地域の民生委員をしたのち、2年前に亡くなった。

葬儀に参列したが、ナイトウ君の悲嘆は相当なものだった。立っていられなかった。

それを支えたのが、80歳近い義父だった。義父は、打ちひしがれて泣き崩れるナイトウ君を穏やかに励ました。

「一番尊敬するのは、兄です。そして、今は父です」

ナイトウ君は、今も、私に繰り返し言っていた。

 

「明日は、兄が死んで3年目です。でも、兄は僕の作る洋食よりも、バーミヤンの餃子が好きだったんですよね。それってひどくないですか」

 

お兄さんは、君が店を構えているだけで嬉しかったんだと思うよ。

美味さは関係ないんだ。

 

まあ、俺もバーミヤンの餃子の方が好きだけどね。ハハハハハ・・・。

 

 

ナイトウ君が、昭和のズッコケをした。

 



炎上嫌いエンジョウ違い

2019-05-19 05:22:00 | オヤジの日記

1ヶ月前に、書くのをためらったバカバカしい話。

しかし、ブログネタがなくなったので、恥ずかしげもなく今回載せることにした。

 

SNSの意見なんて、少数派ですよ、そんな、どうでもいいことを1ヶ月前の同業者との飲み会で語ったことがあった。

 

有名人が悪さをして逮捕されたことに関して、「一般の会社なら即刻クビだよ。あの世界は甘いからな。しばらくしたら、簡単に復帰するんじゃないの。バカにしてるよ」とカマタさんが、憤懣やるかたなしという芝居がかった顔で言ったのだ。

そして、「SNSを見てごらんよ。みんな怒っているだろ」とも言った。

しかし、逮捕されたと言っても、まだ「容疑者」ですからね。判決が確定するまでは「推定無罪」だから、服務規程や会社の約款に「逮捕即解雇」と書いていない限り、「職業の自由」は、尊重されるはずですが。

私が、そう言うと「ほらまたMさんの屁理屈が始まった。みんなの意見を聞きなさいよ。SNSをよーく見てみな」と言われた。

通称「ハゲ増し軍団」が、2度うなずいた。

 

どうやら、カマタさんたちは、SNS信者のようだ。

そうは言いますけどね、インターネットは使い方によっては、広い世界に我々を導いてくれる優れものだが、SNS限定で考えると、とても狭い世界だと俺は思いますよ。

あれは、同好会の繋がりみたいなもので、「同好の士」の意見を尊重しすぎる嫌いがあると、私は思っているんですよ。

例えば、「炎上」というのがある。同じ意見、同じ価値観を持った人が、自分とは違う意見を持った人を叩く。

その事案が炎上したから、それは注目されていると捉える人がいるかもしれないが、「炎上勢力」のご意見は、全てに蔓延しているわけではない。その人たちだけの間で、同期しているに過ぎない。

 

聞いてみたことがありますか? 周りの人にぜひ聞いてみてください。私は、およそ30人以上の人に聞いてみたのですが、SNSやインターネットで、他人の意見を炎上させたり、同調して炎上意見に乗った人は、私の周りには1人もいなかった。

娘にも聞いてみた。娘は顔が広いので、色々な人に聞いてみたらしい。

「炎上に乗っかった人なんて、いないよ。1人もいない」

さらに、息子に聞いても、「いないなあ」と言っていた。

ただ、炎上とは違うが、ヨメの知り合いで2年前、勤務先が倒産して、失業保険で生活していたとき、やることが見当たらなくて、Yahooのアカウントを何個もとって、毎日コメント欄に否定的なコメントを100件以上投稿した人がいたらしい。

その人は、その後パート先を見つけたので、今はコメントを投稿するのは日曜限定にしたという。

 

SNSは、ときにいい情報源になりうる優れものだが、その道具を凶器に変える人がまれにいる。

だが、そんな人は、ごく少数だ。

インターネットのご意見は、少数派の集合体だ。決して、多数派ではない。

「少数派の意見の裏には、何十倍もの同じ意見が隠れている」という考え方は、インターネットに関しては、あまり当たっていない。

例えば、アンケートで二千人の人に意見を聞いて、賛同意見が30%ありましたという場合は、誤差はあっても、統計学上それに近い意見が同程度あると想像できる。

しかし、インターネット内で、年齢も性別も地域も特定されていない状態での無作為の悪意ある意見は、その同意の人数が予測しづらい。1つのアカウント イコール 1と数えるのは危険だ。正確さがない。

たとえ100万人のアカウントが「けしからん」と言ったとしても、それが、本当に100万人なのかは判別がしづらい。

それに、100万人というと大多数に思えるかもしれないが、何千万人もいるインターネット人口の中の100万人は、実は少数派だ。

その少数意見をゲスなマスメディア、ゲスゲスな記者が、「大炎上」と煽り、メシのタネにする。

その図式を肯定する人は、価値観がそうなのだから、私は否定しない。私と違う価値観を持った人は、少数派多数派に限らず、沢山いる。そのことは、私も理解している。

 

しかしね、カマタさん。

「SNSで、みんな怒っているから、おまえも同じように怒れよ」という、そもそもの根拠が、俺には、わからないんだよな。

SNSって、個人的なもんだろ。あんたが怒るのは、自由さ。いくらでも怒ればいい。

でも、俺は、あんたとは違う。そんなことで怒るほど、俺は沸点が低くねえんだ。

あんたが好きな自民党が選挙に勝つことは俺の本意ではないが、自民党が多数派を占めたとしても、俺は我慢するよ。

あんたが好きなジャイアンツが優勝したとしても、アンチジャイアンツの俺は我慢する。

余計な文句は言わねえ。拍手をしてもいい。

だが、あんたらの個人的な感想なんて、俺には関係ねえんだよ!

俳優やミュージシャンが逮捕されたから、怒れって? SNSでみんな怒っているから怒れって? 

SNSって、なんだよ! みんなって、いったい誰のことだよ! みんな名無しじゃねえか!

 

俺には、まるで、大きな池にできた小さな波紋を、無理やり、「あー、でっけえな!」「ワッショイ、ワッショイ!」と騒ぎ立てているようにしか見えないな。

あんた、祭りがしたいだけだろ! 祭りに乗り遅れるのが怖いだけだろ!

あんたの祭りに、俺を巻き込むんじゃねえよ!

 

「Mさん、珍しく酔いましたか?」

メンバーの中で最年長のオオサワさんが、私の上着の袖を強く引いて、たしなめた。

 

いえ、生ビール3杯くらいの量で俺が酔わないのは、オオサワさんもご存知でしょう。

 

俺は、最近、「エンジョウ」という言葉に敏感なんです。

なぜかって?

俺が、自分の娘と同じくらい愛おしく思っている娘のお友だちのミーちゃんが、令和元年の秋に結婚するんです。

 

その相手の名前が「円城(屋号)」って言うんですよ。

 

これが、冷静でいられますか!

 

いったい「エンジョウ」のどこが面白いっていうんだ!!

 

そんな風に吠えていたら、人類史上最も馬に激似の「お馬さん」が、私の肩を叩いて言った。

「Mさん、エンジョウイ(enjoy)してますか?

 

 

「お馬さん」のダジャレ!

 

 


油断はダメよ

2019-05-12 05:11:00 | オヤジの日記

色々な偶然が重なって、娘の彼氏のアキツくん(仮名)と2人きりで飲むことになった。

アキツくんに関しては「面倒臭い本気の彼」に書いたことがあった。

 

場所は、我が家だ。

猫好きのアキツくんは、我が家のブス猫に会いたがっていた。そこで、昨日の土曜日に会うことになった。私の家族も含めて会う予定だった。しかし、娘の大学時代のお友だちが事故に遭った。娘は、病院に駆けつけることになった。

息子は、大学時代の友だちとラーメンのハシゴに出かけた。ヨメは、ウォーキング仲間に無理やり誘われて、昭和記念公園を歩くことになった。

俺1人だから、やめる? とLINEで確認したら、アキツくんは「猫に会う気まんまんなんです。会わないと損した気分になるので、僕は1人でも構いませんけど」と答えた。

まあ・・・いいですけど。よっぽど猫がお好きなようで。ブスすぎてビックリすると思うけどね。

 

アキツくんは、午前11時32分にやってきた。

レトルト食品をお土産に持ってきてくれた。ハンバーグ、カレー、牛丼、ドリア、ふっくらゴハンを4個ずつ合計20個。よくこんな重いものを持ってこられたね。

「娘さんが、『うちの父は、料理は全部手作りで手を抜かないの。たまには休んで欲しいんだよね。たまにはレトルトでもいいのに』と言っていたので、平凡なもので申し訳ないですが」

最近のレトルトは、かなり美味いらしいから、ありがたくいただきます。

そのあと、酒をすすめた。あまり強くないが、少々は飲むというので、リクエスト通り焼酎を炭酸で割ってレモン汁を搾ったものを出した。かなり薄めだ。

私は、クリアアサヒ。

 

俺は酒飲みでね。大抵は、ビールかウィスキーのストレートだが、たまに味を変えるために、レモンサワーを飲むこともあったんだ。

でも、4、5年前にやめた。大人数男性ダンスヴォーカルユニットが、打ち上げのとき大量にレモンサワーを飲むというのを聞いて、飲む気がしなくなったんだ。

俺は、全員で同じものを食ったり、飲んだりする光景が苦手なんだ。学校の給食も苦痛だった。だから、いつもオカズをわざと一品残したんだ。そうすれば、ちょっとは人とは違うことになる。

「変わってますね」

そう。しかし、変わったことを毎日やると、まわりが慣れてきて、変だと思わなくなるんだよ。

 

そんなことを話していたら、今まで大人しく寝ていた我が家のブス猫・セキトリが起きてきて、いきなりアキツくんの膝に乗った。猫好きだというアキツくんも、その馴れ馴れしさに驚いていた。

「いつも、こんな感じなんですか」

セキトリは、相手が猫好き、猫嫌いに限らず、馴れ馴れしい。ふてぶてしい、と言ってもいい。

そして、何よりいいのは、セキトリの顔が、甚だしいブスだというところと体が格別でかいところだ。その特別感は、私を満足させてくれる。

「本当に、大きいですよね」と言いながら、セキトリの頭を撫でるアキツくん。セキトリが気持ちよさそうだ。ゴロゴロと喉を鳴らす音が、こちらまで聞こえてくる。

 

「ところで」とアキツくんが言った。

「僕のこと、ほとんど聞きませんよね」薄いレモンサワーの残りを一気に飲み干した。

私は黙って立ち上がり、レモンサワーのお代わりを作って、アキツくんの前に置いた。私は2本目のクリアアサヒを冷蔵庫から出した。ついでに、チータラを皿に盛って出した。

店だったら、税込で864円は取られるだろうが、うちは無料だ。感謝してほしい。

 

聞いてほしいのなら、聞くけど、と私はアキツくんに言った。

「いえ、気にならないのかな、と思ったので、聞いたのですけど」

もちろん、気になるさ。でも、俺は娘を信じているからね。娘が気に入ったのだから、君は絶対にいいやつだ。それに、ある程度の情報は、娘から聞いているから、2度聞きする必要はない。

 

私は、どうしようもないクズ人間クズ親父だが、うちの息子は、とてもピュアで真面目だ。そして、娘もピュアで真面目だ。さらに、判断力・適応力が優れている。

大学時代、大手スーパーやコンビニでアルバイトをしていた娘は、接客が巧みだった。客の要望を理解して誠心誠意接していた。接客の優れたアルバイトに与えられる賞を何度も貰っていた。

両方の会社の上司から、「卒業したら、うちに来てよ」と誘われたこともあったらしい。

親バカ丸出しだが、うちの娘なら、彼氏選びも間違わない、と私はバカ親なりに確信を持っていた。

 

だからね・・・と話を繋ごうとしたとき、娘からLINEが来た。

「予定より帰りが遅くなる。手術は無事終わったが、ご両親がまだ来ない。悪いが、アキツくんに昼ごはんを食べさせてやってくれ」

娘から指令が来た。昼メシを作るが、リクエストは、あるかい。

「いえ、お昼までいただくなんて」とアキツくんは遠慮したが、私が娘の指令はゼッタイだ、と脅すと小さく頷いた。

「では、チャーハンをお願いします」

ネギとチャーシューの手抜きチャーハンを作った。作っている間、アキツくんはブス猫のお土産に、と言って持ってきた、ちゃおチュールをセキトリにあげていた。セキトリが「ゴッツァンです」と鳴いた。

チャーハンをアキツくんの前に置いた。小さな皿に桜エビを盛ったものも出した。それをお好みでチャーハンの上にバラまくのである。チャーハンと桜エビの相性はいい。エビの旨味で、さらに美味しくなるのだ。

アキツくんも私も無言で一気に平らげた。

「ごちそうさまでした」

 

さっきの続きだけどね、と私は言ったあとで、クリアアサヒを飲み干した。3本目に挑戦。

うちの娘は、間違わない子だ。父親選びは間違えても、他のことは間違わない。

そして、嫌なら「イヤ」とはっきり言う子だ。

もしかしたら、将来、君は娘から「イヤ」と言われてしまうかもしれない。そのときは、悪いが、諦めてくれ。

私がそう言うと、アキツくんは上手に両方の口角を上げて微笑んだ。そして、ブス猫の体を抱えて、頬ずりをした。セキトリは嬉しそうだった。

そのあと、ブス猫を床に置いて、座り直した。正座をしたようだ。

「娘さんに嫌われることもあるかもしれません」と私の目を真っ直ぐ見つめた。

見つめないでくだされ、若君どの。照れるでは、ございませぬか。

「でも、嫌われないように、努力します。ただ、僕の方が嫌いになることもありますけどね」

それは、望むところだ。だから、嫌いになるきっかけを教えてあげよう。

娘は、小さい頃から私の顔の前で屁をすることに生きがいを感じていた。夏は下着姿で、家をウロチョロしている。夜中に突然、「あー、肉が食いてえ!」と叫んで、肉を焼いて食うことがある。どうだい?

「ああ、それ全部聞いたことがあります」

ちぇっ、つまんねえの。

 

「そろそろ、帰ります。ごちそうさまでした」

午後3時を過ぎていた。

アキツくんは、寝ているブス猫の体を一度吸ってから、腰を上げた。

玄関で靴を履き終えたあとで、アキツくんが振り向いた。

「今日は、残念なことが1つだけあります」

なんだい。

「娘さんからは、いつも『父は、つまらない冗談やバカ話をしたり、イタズラを仕掛けるのを趣味にしているの』と聞いていたんですけど、それがなかったものですから」

 

アキツくん、悪いけど玄関の上の棚を開けて、男用のサンダルを取ってくれないだろうか。肩を傷めてしまって、腕が上がらないんだ。

「わかりました」

棚の戸を開けた途端、リアルな蛇のおもちゃが落ちてきた。

「ギャー!」

アキツくんの素の叫び声。手を口に当てて叫ぶ様は、まるでオネエのようだった。

我が家では、油断をしてはいかんよ。娘から、アキツくんが蛇が大嫌いという情報を得て、朝から仕込んでおいたのだよ。

どうだい、このクソ親父のことは、嫌いになっただろ。でも、娘は別人格だから、関係ないからね。

 

顔面蒼白のまま、私に頭を下げたアキツくんは「クッソー、ひどい目に遭ったぁ!」と言いながら、ドアの外に消えた。

 

 

2人の仲は、大丈夫だろうか。心配だ。

 

 

 


浮世離れした人たち

2019-05-05 05:56:00 | オヤジの日記

平成の終わりは雨。令和の始まりも雨。

そんなときも渋谷のスクランブル交差点はお祭り騒ぎ。

踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損。

 

踊らない見ない阿呆の私と同類のミズシマさんに、「Mさん、お願いしたいことがあるんですけど」と電話越しに言われた。

ミズシマさんに関しては、「ミズシマルール」に書いたことがあった。

「僕もそうなんですけど、パソコン音痴の知り合いが身近に何人かいるんですよ。その人たちに、パソコンを教えてくれませんか。ギャラは、1日5万でどうでしょう」

いやいや、いつもただ食いをさせていただいているので、お代はいただきません。喜んでやらせていただきます。

「悪いですね。ボランティアさせてしまって」

ということで、私には似合わないボランティアをすることになった。

 

集まったのは、ミズシマさんとほぼ同じ年齢の70前の男女が3人。

ミズシマさんは、この日にために、新しいパソコンを4台用意していた。

ミズシマさんを含めて、パソコン知らずの人たちだ。ちなみに、ミズシマさんの奥様は、パソコンに親しんでいるという。

まずは、アルファベットで住所と名前を打つ練習をした。

お年寄りにキーボードを打つ練習をしてもらうと、「なんで、あいうえお順になっていないんだい」「日本人なのにローマ字って変だろうが」と文句を言う人が多いのだが、今回は、そのクレームがなかった。やりやすかった。

すんなりと住所名前を打つことに成功した。

次は、ブラウザの閲覧だ。

グーグルで好きな文字を検索してください、というと皆さん、「腰痛」とか「入れ歯」、「天海祐希」、「生前葬」などという生々しい言葉を検索していた。

「あらー、これは便利だわね」全員メガネをかけて食い入るように、画面を見つめていた。

 

次は、目に見える作品が欲しいと思ったので、付属で入っていた年賀状ソフトを使って作品を作ることにした。

年賀状には、まだ早いが、一番操作のしやすいのが年賀状だ。わかりやすくて簡単な方が、パソコンに馴染みやすい。

来年の干支はネズミらしいので、ソフトの中にあるネズミの画像を、好きな位置に配置してもらった。そして、年賀の言葉を添えて、思い通りの位置に埋め込んだ。

「おー! こんなに簡単にできるのかぁ」と感動していただいた。

あとは、宛名書きと自分の名前住所。これで、最初に打ち込んだ名前と住所が生きるのだ。

「おーーーー!」

懇意にしている印刷会社のオペレーターに頼んだはがきサイズの厚紙が、ここで生きることになる。

ミズシマさんが用意したインクジェットプリンターから打ち出されたご自分の作品を見たご老人たちの顔が、輝いた。

「わー、すごいね!」

3時間、楽しい時間を過ごさせていただいた。

 

3人の方々が帰ったあと、ミズシマさんが言った。

「さあ、今度はミーちゃんですよね」

 

ミーちゃんは、連休を利用して、3泊4日で東京に帰ってきていたのだ。

娘の大親友でもあるミーちゃんは、ミズシマさんという大スポンサーを得て、豊かな食生活を送っていた。

ミズシマさんは、大食いのミーちゃんのために、ひと月に一度は、ミーちゃんの赴任先の金沢まで奥さん同伴で出かけて、ミーちゃんにご奉仕していたのである。

金沢でも焼肉食べ放題が定番だった。

ただ、ミーちゃんの場合は、焼肉はメインではなく、白米がメインだったが。

それくらい、ミーちゃんは白米ラブの子だった。

いま、ミーちゃんは、白米と同じくらいラブな婚約者の「若ちゃま」がいるのだが、私が、どっちがラブ? と聞くと、照れ隠しに「う〜〜ん、白米」と答えるのであった。

 

ミーちゃんは、我が家に、3日泊まった。

ミーちゃんのために買った一升炊きの炊飯器は、毎日フル稼働して、家の中がコメの匂いで充満した。

しかし、「パピー、幸せですぅ」というミーちゃんの笑顔を見ると、こちらも幸せになる。

 

金沢に帰る前日、ミズシマさんのお誘いで、中央線立川駅近くの焼肉屋に入った。食べ放題だ。

ミズシマさんご夫婦と我が一家、そしてミーちゃんと若ちゃま、総勢8人だ。

早々と丼を持って、戦闘態勢になるミーちゃん。若ちゃまは皿を持って、寿司に突撃。我が息子は、タン塩命。娘は、しゃぶしゃぶ。

すげえな、人間の食欲って。

元号が変わっても、食欲は平成から受け継がれているんだな。

それを嬉しそうに見回すミズシマ夫妻。

最初に、分厚い封筒をミーちゃんに渡していたけど、あれって、札束じゃないよね。違うよね。

あとで、ミーちゃんに聞いたら、札束だったってよ(婚約祝いだという)。

返すのも失礼だと思って受け取ったけど、さすがにご馳走されるのは胸が痛むので、この回は、ミーちゃんが全部支払いましたよ。

 

こんな浮世離れした会食のあと、お開きになりましたが、ミズシマさんご夫婦は、次の日、ミーちゃんと若ちゃまの乗る新幹線に同乗して、金沢へ行くそうです。

 

どんだけ、ミーちゃんが好きやねん!