リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

34年目

2020-09-06 05:44:00 | オヤジの日記

ヨメと結婚して、来月6日で34年になる。

出会ったきっかけは覚えていない。ヨメも忘れたという。そんな2人なのだ。
グループ交際ではない。ナンパでもない。偶然運命的な出会いをしたわけでもない。
きっと知らない間に付き合っていたのだと思う。
私が25歳ヨメが22歳のときだ。
2人とも旅行が好きだったので、国内は色々なところに行った。
北海道、東北、北陸、草津でスキー、箱根、伊豆温泉巡り、寸又峡、飛騨高山、上高地、三重賢島、関西全域、広島、松江、道後温泉、熊本鹿児島、屋久島など。
どこでどうなったか覚えていないが、その過程で、結婚するかという話が出た。
そのとき、ヨメの顔が曇った。
「私はいいんだけど、母が反対すると思う」
ヨメの家は、筋金入りの巨大宗教の信者だった。
ヨメも両親の影響を受けて、物心ついたときから信者になった。自分でそうなったのかどうかは知らない。

義母は、とても頑固な人だった。「説得」というのが通じない人を久しぶりに見た。
何があっても、自分の娘は同じ信者と結婚させたいという考えを曲げなかった。
「それにね、自分の目で見たものしか信じないという罰当たりものの顔なんか見たくない。人間として一番下等だわ」
それは、私も同感する。

そのあと私たちは、東京から神戸に逃げた。
幸いにもヨメが勤める信販会社の支社が神戸にあった。ヨメは早速異動願いを出した。
そして、当時私は法律事務所に勤めていた。その事務所のボスの弟さんが神戸で法律事務所を開業していた。
私はボスに、神戸で武者修行をしたいんです、と無茶なお願いをした。事情を知らなければ納得できないだろうから、正直にすべてを話した。
ボスは納得してくれた。「ただすぐにとはいかないよ。向こうも準備があるからね。環境が整うまで時間をくれ」
95度の感謝のお辞儀。
ヨメの会社も3ヶ月後に許可が出た。

神戸でワンルームを借りた。幸いにも簡単なキッチンとミニ冷蔵庫がついていた。
しかし、その他には何もない。ただ、まわりの人のご好意で、ふとん2組といらなくなった電気ストーブ、やかん、掃除機、二合だきの炊飯ジャーを貸してくれた。
ありがたいことだ。
自分たちが買ったのは、ミニ卓袱台だだけだ。
まだ籍は入れていなかったが、新婚生活がスタートした。
お互い忙しかったので、朝は白米かシリアル、夜は惣菜で済ませた。でも2人とも元気に冬を乗り越えた。
問題は、義母のことだったが、まわりがじわじわと説得してくれた。だが、難攻不落の城はビクともしなかった。
そのうち、ヨメの本社から、帰還命令がきた。本社の命令なら断りきれない。5日で身のまわりを整理して帰った。
ボスの弟さんには不義理をしたのに、最後餞別までいただいた。泣いた。
友だちが紹介してくれた田無のアパートに仮住まい。今度は調度品や布団は自分たちで揃えた。
なんとなく気が楽になった。そのあと、住まいを転々としているうちに、子どもが2人生まれ安定した生活を手に入れた。
まともな家庭ができた。

波乱万丈というほどではないが、波の多い人生だった。これからも波はあるだろう。しかし、乗り越える自信はある。
先日、ヨメが聴いた。「ねえ、今年結婚して何年目かしら」
34年目だよ。
「うわー、私34年も我慢したんだ。感謝状が欲しいくらいだわ」
大丈夫、感謝状はないけど、感謝のしるしは用意した。俺たちに相応わしいものだよ。お楽しみに。
「ふーん、期待しないで待ってるわ。期待は裏切られることが多い。私の教訓よ」

それは、いい教訓だね。俺も教訓にしよう。

今回は、久しぶりにオチのないブログ。
なぜなら、体調が悪いから。
金曜日、医者に行ったら、ヘモグロビンの数値が下がっていると言われた。
ドクターストップ! 安静を言い渡された。
ははー、医者神さま。お言いつけは守りまする。2、3日安静にしていまするのでお許しを。

さて、次回のブログは、どうなることやら。それは誰にもわからぬ。

 


夏の夜の怪談

2020-09-02 05:30:53 | オヤジの日記

夕方、ウォーキングの終わりに、私としては珍しいことに、国立駅前のスターバックスに寄った。
国立に越してから、スターバックスに入るのは3回目だ。国立に限らず、今はスターバックスなどのカフェに入ることは、滅多にない。
オジサンは恥ずかしいのですよ。あきらかに浮いているような気がして。オジサンは、365日お洒落な格好をしないので、気が引けます。

スターバックスのテラスは、空いていた。私は、壁側の4人席に席を取った。
飲むのは、ホットコーヒーだ。アイスコーヒーは飲まない。
昔、祖母から言われた言葉を私は忠実に守っていた。
「暑いときは、冷たいものを飲んだり食べたりしてはいけません。暑いときは、温かいものを食べなさい。人間は、本来冷たいものを摂り入れるようにはできていないんです。内臓を守りましょう」
だから私は、スイカや生のキュウリなどを食ったことがなかった。キュウリやトマト、レタスなどは、必ず熱を通したものを食わせられた。それが当たり前だと思っていた。
冷たいものは、内臓に悪い。その教えが染みついていた。
ただ、私は家族や人様にその考えを強いるつもりはない。スイカを食ってもいいし、かき氷もオーケーだ。
食い物にストイックになる必要はない。それは、私だけでいい。

テラスを見渡すと、殆どの人が、スマートフォンかノートパソコンに夢中だった。
私のスマートフォンには、メールソフトとLINE、ツィーター、ウェザーニュース、乗り換えナビ、JR東日本運行情報しか入っていない。ゲームはいれていない。暇のつぶしようがない。
だから、たたただボーッとしていた。

そんなとき、「相席いいですか」という声が上の方から聞こえた。見上げると体格のいい50歳くらいの男が立っていた。
いや、相席といっても他にいくらでも席は空いてますけど。
「久しぶりにお会いしたので、話がしたいと思いまして」
久しぶりに会った? 人違いではないですか。私の記憶では、あなたが抜け落ちています。人違いとしか思えないんですけど。

「お話しているうちに思い出すと思います」と言って、男は強引に私の向かいの席に座った。手にはアイスコーヒーを持っていた。
それを男は、一気に飲み干した。「暑がりなんで、夏は水分がないと。ちょっとすみません。もう一杯買ってきます」
後ろ姿もでかいな。身長は185センチ、体重は85キロと見た。もし男が本当に私の知り合いなら、知り合いの中では1番背が高いかもしれない。
男は、アイスコーヒーを持って戻ってきた。意外と動きが俊敏だった。スポーツ経験があるのかもしれない。
「今年の暑さはこたえますね、本当につらいです」と言って、またアイスコーヒーを一気に飲んだ。
本当に暑さに弱いようだ。額には大粒の汗。首筋にも汗がしたたっていた。
着ているものは、上が白黒のボーダーTシャツ、下は白黒のブチ柄の短パンだった。そのTシャツが汗でビショビショだった。滅多にいない大汗かきだ。
その男が、「4ヶ月前まで、よくお会いしていました」と言った。
4ヶ月前?最近のことだな。懸命に記憶をたどってみた。よくお会いしてました、と言ったな。そんな親しい関係の人を思い出せないわけがない。
頭が混乱した。
男は、自信満々だ。私の記憶が歪んだのだろうか。それともやはり人違いか。
男は、私の心を見透かしたように断定的に言った。
「人違いではありません。お世話になった人を僕は、絶対に忘れません。ここでお姿を見たときは泣きそうなほど感動しました。会えた、会えたと思って神に感謝しましたよ」

悪いけど、ヒントをもらえるかな。
「あなたの名前は、ホニャララ。仕事はデザイン。料理とランニングが好きですよね。好きな女優は、柴咲コウ」
当たっているがな。ますますわけがわからなくなってきた。
混乱の極みのとき、男が突然言った。
「お母さん、お兄さん、お姉さんは元気ですか。皆さんにもお会いしたかったです。でも、もうあまり時間がないので」
それを聞いて、私の頭に閃いたものがあった。頭に稲妻が走った。
だが、突拍子もない話だ。この話を他人が聞いたら、おまえ狂ったかと言われかねない。
しかし、意を決して聞いてみた。喉がゴクリと鳴った。
私は声をかすらせて聞いた。馬鹿げた話だが、いいだろうか。突拍子のない質問だ。
男は、余裕を顔に見せてうなずいた。

君はセキトリなのか。4ヶ月前まで我が家にいた愛猫セキトリなのか。

「やっと思い出してくれましたね。そうです、セキトリです。やっと会えました。本当は、新盆に帰ってくるつもりでしたが、あのときは猛暑で体がいうことをきかなくて、さっき戻ってきました」
もう一度よく男の顔を見てみた。体がでかいわりに小顔だった。髪の毛はフサフサ。だが、所々にセキトリのような模様の白髪が分散していた。
そうか、セキトリ、帰ってきてくれんだね。
しかし、猫ではなく人間の姿だね。そんなことってできるのかい。
「どんな姿にでもなれます。お父さんに会うなら、この格好がいいかなと思って」
そのあと名残惜しそうな顔で、セキトリが言った。
「あーっ、時間がありません。もう行かないと」
セキトリが立ち上った。
「最後に、これだけは言わせてください。お父さん、お母さん、お兄さん、お姉さん。大好きです。今も」
「また会いにきます。さようなら」

セキトリの体が、徐々に薄くなっていった。そして、すぐに消えた。
暗くなった空を見上げると、ハチワレの白黒ブチが空を飛んでいた。セキトリの体が、瞬く間に雲の中に見えなくなった。
セキトリ、会いにきてくれて、ありがとう。
また会いにきますと言ってくれたな。
いつでも待っているよ、セキトリ。
君の顔は覚えた。もう忘れないよ。
椅子を見ると、彼の座った跡に、猫の毛がまとまって残っていた。
私は、セキトリの残したその毛とコーヒーカップを持ち帰った。宝物が、また増えた。


夢のような時間だった。

実際に、これは夢だった。今朝見た夏の夜の夢だった。