リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

馬の夏休み

2019-07-28 05:48:00 | オヤジの日記

馬がVOLVOでやってきた。

 

国立のバーミヤンで、人類史上最も馬に激似の「お馬さん」と打ち合わせをした。

仕事をシェアしたのだ。

お馬さんとは、年に数回仕事をシェアしていた。

今回は、趣味で絵画を描き続けている素人画家の個展の仕事だ。ポスターと招待状、プロフィール帖を作る。

お馬さんは、作品を一眼レフデジタルカメラで撮る係だ。私が、それをプロフィール帖に配置し、作者が一番気に入った作品をA2のポスターにする。

お馬さんは、若い頃から写真が趣味で、腕前は完全にプロだ。家に小さな写真スタジオも持っていた。

馬が一眼レフ? とうとう、そんな時代がやってきたか。豚が紅の空に向かって、飛行機を操縦する日も近いかもしれない。

ヒヒン、ブヒブヒ。

 

個展は2ヶ月先だが、原稿が早々と揃ってしまったので、とりあえず打ち合わせだけしておこうとお馬さんが希望した。その希望を叶えてあげたのだ。

打ち合わせが終わって、昼メシを食った。お馬さんは、喜多方ラーメン。私は何度食っても飽きないW焼餃子と生ビールだ。

しかし、お馬さんには、メシを食う前にひとつの儀式があった。ヒヅメを切ってもらうのだ。嘘でしたしたした。

超潔癖症のお馬さんは、テーブル周りを除菌スプレーでシュッシュするのである。これでもか、というくらい念入りにやる。その鬼気迫る姿は、まるでシュッシュ教の教祖様みたいだ。

お馬さんは、電車に乗れない。誰が座ったかわからない座席には座れない。つり革にも掴まれない。どの飲食店でも、周りから白い目で見られるが、構わず身の回りをひたすらシュッシュする。困った馬だ。

移動はVOLVOでしかできない。馬にとってVOLVOは、足代わり、ヒヅメ代わりなのだ。さらに、外でトイレにも入れない。大も小も家に帰るまで我慢する。きっと馬の膀胱は巨大なのだろう。でも、馬って基本的に垂れ流しですよね。

お馬さんも牧場では、できるのだろうか。

 

メシを食うとき、店の箸やフォークは使わない。消毒したマイ箸、マイフォーク、マイスプーン、マイナイフ、マイ馬具で食うのだ。

「だって、清潔かどうかわからないじゃないですか」

あんた、自分が一番清潔だと思っているのか。自惚れちゃあかんぞ。

人間は、そのままでは不潔だが、努力して清潔になったのだよ。都市や町、村もそう。努力して清潔を維持しているのだ。

その努力を否定するなかれ(馬には、わからんだろうが)。

 

そんなお馬さんが、夏休みに二泊三日でキャンプに行くという。

大丈夫だろうか。何本除菌スプレーを持っていけば、足りるだろうか。トイレは、どうするの? 公共のトイレに入れるかな。牧場があれば、垂れ流しできるが。

「ドライブのとき、2回携帯トイレを使ったことがあります。あれで乗り切ろうと思っています」

すごい覚悟だね。でも、何で急にキャンプに行こうと思ったの。潔癖すぎて家族旅行に行ったこともないお馬さんが。

「孫が、ジイちゃんとキャンプに行きたいって、泣きながら頼んできて」

そうなのだ。お馬さんは、私より10歳若いのに、40代終わりにジイちゃんになったのだ。孫は、そろそろ4歳になる。

お馬さんの長男は、馬の雰囲気を残していた。しかし、孫は完全な人間だ。馬の血統は三代続かないのかもしれない。残念だ。

 

残念に思いながら、私は焼餃子と生ビールを追加注文した。お馬さんは、塩麹のからあげを頼んだ。

食い物が来る前に、お馬さんが、体を身震いさせながら言った。

「この前の朝、マンションのゴミ置き場に、ゴキブリがウジャウジャいるのを見てしまったんです。その日1日、テンションが上がらなくて、食欲もなかったです」

馬はゴキブリが苦手なようだ。

「だって、不潔じゃないですか!! ブヒヒン!」

お馬さんのいななきに、料理を運んできたウェイトレスさんが、驚いてジョッキを落としそうになった。両手でジョッキを守った。危ないアブナイ。一番大事なものを。

からあげを口に頰張りながら、お馬さんが言った。

「Mさんは、平気ですか」

いや、平気ではございません。ゴキブリを見かけたら・・・。

手近にある雑誌を丸めて、ポン、ポン、バシッ、この外道がー! あとは、ゴキブリ用マイ箸で挟んで、ゴミ箱にポイ。

ポンポンバシッ、ゴミ箱にポイ。

ポンポンバシッ、ゴミ箱にポイ。この外道がー! が日常でした(新しいマンションでは見かけなくなったが)。

 

おや? お馬さんの箸が止まったぞ。箸を持つ右手が震えていた。唇も震えていた。

大丈夫だろうか。キャンプ場にだって、ゴキブリはウジャウジャいるかもしれないのに。キャンプでゴキウジャはありえますよ。

そう思ったが、優しい私は何も言わなかった。

 

お馬さん、お孫さんとの夏を、思い切り楽しんで来てください。いい思い出を作ってください。

きっとゴキブリを気にする暇なんてないと思いますよ。楽しすぎて。

 

そのあと、お馬さんが残したからあげは、生ビールを追加して私が美味しくいただきました。

 

 

ウマまけた。ウマかった。

 


トウモロコシ

2019-07-21 05:59:00 | オヤジの日記

テクニカルイラストの達人・アホのイナバと国立のバーミヤンで仕事の打ち合わせをした。

 

イナバ君は、夏風邪をひいたようだ。

マスクをしていらっしゃった。

しかし、何かがおかしい。マスクってワイヤーが入ってますよね。そのワイヤーで、鼻の形を調整するんですよね。鼻の部分、フニャフニャじゃん、と思ったら、口の下あたりにワイヤーの痕跡が。

上下逆につけたんだね、イナバ君。とても似合っているよ。

 

「最近、ボロ雑巾が、名前を間違えるんですよ」とアホのイナバが言った。

ボルゾイ犬だよー。

 「僕が、モネって呼ぶとドガが来るんですよ。犬ってもっと賢いと思っていたんですけど、そうでもないんですね」

イナバ君の家では、ボルゾイ犬を二頭飼っていた。モネとドガ。どちらも気品のある美形だ。

2人が幼い頃から、私はイナバ君に画像を見せられていたから、見分けはつく。左耳の形で、簡単にわかるのだ。

イナバ君、モネの画像を見せてくれるかな。

スマートフォンで、画像を見せてもらった。

ああ、それ、ドガだねえ。じゃあ、ドガは?

ああ、それ、モネだねえ。

3年も一緒に暮らしていて、今さら間違えるのか。3年の蓄積は、どこにいった? 暮らしていない俺だって間違えないのに。

まあ、イナバ君らしくて、いいんだけどね。

 

「この間、紳士服のアオキに行ったんですよ」とアホが言う。

「3年ぶりに、靴下を買いに行きました」とアホ。

「ゴアシで1500円。まあ、リーズナブルですよね」

「でも、ゴアシで1500円って、何ですか」

ゴアシってなあに?

「だって、フタアシで1人分でしょ。ヨンアシで2人分ですよ。あとのゴアシは、片方しか履けないじゃないですか」

 

おまえは、何を言っているんだ?

 

一足という概念を知らんのか。

今年、48になる年男が、何を言う? 早見優。

イナバ君、人間の足は、左右でワンセットだよね。そのワンセットが一足なんだよね。要するに、左右揃ってヒトアシなんだ。

「でも、馴染みの靴屋さんでは、フタアシくださいって言うと、左右2つ持ってきてくれますけど」

それは、馴染みの店だから、君に恥をかかせたくないと思っているんだろうね。ちなみに、靴下も今まで馴染みのお店で買っていたんじゃないかい?

「はい、20年以上の付き合いの洋品店です」

みんな、優しいね。イナバ君は、幸せだね。

 

「ところで」とアホのイナバ。

「石垣島に別荘があるじゃないですか」

アホは、いつも唐突だ。

「僕、クルーザーが欲しいなって、奥さんにお願いしたんですよ」

アホの奥さんは、8年前に親の遺産を継いで大金持ちになったのだ。

「でも、私はお金持ちの真似ごとはしたくないの」と奥さんは言う。

ちょっと待ってください。石垣島とハワイに別荘があるって、十分に金持ちですよね。今さら、クルーザーを渋る気持ちが私にはわからないんですけど。

 

「クルーザーは、ダメなんですって」とイナバ君が肩を落とした。

豪華客船なら、いいのだろうか。

ただ、どちらにしても、アホには船舶免許は取れないであろう。

ビンボー人には、どうでもいいことだが。

 

「僕は、石垣島の別荘のウッドデッキのハンモックで、うたたねをするのが、最高の幸せだったんです」

「でも、2年前に、カニに足を切られたんですよね」

今年、48になる男が靴下を脱いで、傷跡を見せた。「3針縫いました」。見せなくていいよ。

「そこで、僕は考えたんです。カニに足を切られなくするには、どうすればいいか。長靴を履けば、チョキンはないいだろうなと・・・でも、カニのチョキンは強いですね。足は無事でしたけど、長靴はチョキンされました。そのとき僕は考えました。長靴をもっと強くすればいいんだと。そこで、金網で長靴を覆ったんですね。それから、カニの被害には、合わなくなりました。

 

あのね、イナバ君。

それって、カニが侵入するルートに、高い壁を作ったり、ウッドデッキの周りに柵を作ればいいことじゃないかな。

そうすれば、カニ君は侵入しないと思うよ。

長靴なんか履かなくても、休暇をタップリ楽しめるんじゃないかな。

「ああ、Mさん、さすがですね。頭いいですね。今年は、それをやってみましょう。うたたねが楽しみになったなあ」

平和だね、イナバ君。

 

「ところで、今年のトウココロモシは、どうでした?」

今年もトウモロコシは美味しかったね。

イナバ君の奥さんは、東京日野市でレンタルファームを利用して、色々な野菜を栽培していた。その中に、トウモロコシがあった。毎年10本程度送ってくれるのだ。

今年も食ったが、美味かった。甘くて、豊かな歯ざわりがした。

「でも、今年のトココロモシシは、ちょっと味が変じゃありませんでした?」

いや、充分美味しかったよ。トウモロコシ。

「そうですか、トココロモッシ、僕は今年のは美味しく感じなかったんですけど。子供たちも今年のトウモモコロシは、イマイチだって言ってましたよ」

そうかなあ、あのトウモロコシは絶品だと思うがね。なんといっても、色が美しい。店で買うよりもはるかに新鮮に感じるよ。

「へー、あのトウモコロモシが、そんなに美味しかったですか。去年のトコココモシの方が、美味しかったと思うんだけどなあ」

 

美味かったね。あのトウモコロモシ。

 

「あれ、Mさん、いま変でしたよ。トウモコロモシって。トウコロモシでしょ。普通」

 

 

もう、ええわ!

 

 

 

 

 

 

 

ところで、詳しい情報は知らないのだが、雨上がり決死隊の宮迫氏が事務所を退社するという記事を見た。

そんなに大層なことなの。

お笑い芸人叩き、ひどすぎませんかね。

何で事務所は、自分のところの社員を守ろうとしないのだろうか。今まで多大な貢献をしてきただろうに。

反社会勢力のパーティに参加して、報酬をもらいました。それは非難されるべきだが、人生を棒にふるほどの落ち度とは、私には思えないのだが。

プロは、ギャラをもらったら、芸をするのが当たり前。

プロって、そういうもんですよ。それが、たとえ反社会勢力だったとしても、その場で分かるかどうかは、結果論です。私は、結果論にまでは、責任が持てないと思う派だ。

彼は、直接反社会勢力に加担したわけではない。嘘をついたからと言って、その嘘は保身のためだろう。誰だって、保身のための嘘をつく。それを認めないなんて、なんて狭量な世の中なんだ。

 

人間は、嘘をつく。

 

誰だって嘘をつく。

その嘘を認めない社会は、俺の想像を超えている。

 

あんたたち、嘘をついたこと一回もないのかよ。

そんなに、おキレイなのかよ。

芸人をいじめて、うさを晴らすのはやめてくれ。

いじめるなら、もっと強いやつをいじめてくれ。

 

そんないびつな正義感、私には臆病者にしか思えませんよ。

 

 


スマートフォンは みん

2019-07-14 06:46:00 | オヤジの日記

東急東横線・目黒線・南武線・横須賀線が乗り入れる武蔵小杉駅に行ってきた。

 

中央線国立駅から武蔵小杉駅へ行くには、簡単なルートでは、お隣の立川駅で南武線に乗り換えて、始発に乗っていくのが一回の乗り換えで行ける一番楽な方法だ。

しかし私は、中央線で吉祥寺まで行って、吉祥寺で井の頭線に乗り換え、渋谷で東急東横線に乗り換える方法を選んだ。

理由は簡単。慣れ親しんだ路線に乗りたかったから。東京武蔵野に住んでいた頃は、井の頭線をよく利用した。子どものころ住んでいた中目黒では、東急東横線をよく利用した。その方が馴染みが深い。それに、都会の景色を見ると落ち着くという私の性格上の問題もある。

そして、井の頭線と東急東横線は、昼間は空いているということもこの路線を選んだ理由だ。どうでもいいことだが。

 

井の頭線。

思った通り空いていた。半分も埋まっていなかった。気楽な気分になった私は、バッグから文庫本を取り出した。車内では、ほとんどの人がスマートフォンの画面を覗いていたが、私は、電車内では、スマートフォンより文庫派だ。長い距離の場合は、爆睡派。

自慢にもならないが、還暦過ぎて、メガネもコンタクトレンズも使わずに文庫本を読めるというのは、すごいことではないかと思う。

私は、若い頃から右目が超弱視だった。だから、それを補うために、左目が頑張ってくれているのではないか、と勝手に推測している。

文庫を読み始めたとき、「チロリロリン」という電子音が聞こえた。そして、「もしもし」。

 

私の経験上、携帯のマナーモードをオンにしていない人は、ほぼ百パーセントの確率で、車内で電話に出る。

「えっ、なあに? ワンちゃんのエサを買ってきて欲しいの。エサは何が欲しいの。いま、メモするから、待っていて」

70歳くらいの女性が、そのあと延々とワンちゃんに関して、電話を続けた。

その最中に、また電子音。向かいの50前後の女性が、スマートフォンを取り出した。「もしもし」。

「あらぁ、ひさしぶり」から始まって、夏休みにハワイ旅行をするという話を声を潜めることもなく話し始めた。

マナーモードを知らないのか。あるいは、自分だけは特別なの、と拡大解釈をしているのか。

そんなことを思っていたら、また左から電子音。

「この間は、どうも。70近くになってゴルフがあんなに楽しいものだとは思わなかったですよ。また連れていってください」そのあと、くどくどしいゴルフ談義が続いた。自己申告を信じるなら70前くらいの男性だった。

文庫本読書に集中できない。

 

車両を移った。

マナー感覚に優れた多くの人は、電車内ではマナーモードが当たりマエダのクラッカー(古い)。

もちろん、この程度のことで、目くじら立てるのが無粋なのは、わかっテルテル坊主。

ただね・・・電車内は、電話ボックスじゃないんですよ。公共の空間で、つまらない話をするんじゃねえよ。電車降りてから、電話しなさい。それが、オトナだぞ。

気分を入れ替えて文庫本読書を再開した。

乗り換えた東急東横線も空いていた。そして、静かだった。平和だった。愛菜ーの車両だった。読書が進んだ。

 

平和な気持ちのまま、武蔵小杉駅に着いた。

目指すは、タワーマンションだ。

ご存知の方はご存知だろうが、ご存知でない方はご存知でないと思う。この川崎市中原区武蔵小杉は、近年高層マンションが林立しているホットスポットだ。

右を見ても左を見ても上を見ても未来を見ても(まだ開発途中が多い)高層マンションだらけ。高層マンションの花火状態や〜(意味不明)。

そのタワーマンションの一室を購入した知り合いがいた。大学時代の陸上部の同期カツラだ。正しい姓は、ショウジという。カツラは、30過ぎてすぐに髪の毛が寂しいことになった。そこで某アデランスを使い始めた。それ以来、カツラは「カツラ」がメインネームになった。

同じ薄毛でも、同じ陸上部の同期ハゲは、観念して頭を剃ったが、カツラは毛にこだわり続けた。それは、きっと人生観の違いだろう。ハゲは、「毛がなくてよかったね」のタイプだったのだろう(意味不明)。

 

カツラが、タワーマンションを買ったのは、初孫(ういまご)ができたのを機に長女夫婦と同居するためだった。

どれを見ても代わり映えのしないタワーマンションの1つに入った。

液晶テレビ付きインターフォンに顔をぐっと近づけて ピンポンすると、ドアが開いた。

エレベーターもご立派だった。そこで2、3日は暮らしてもいいと思える快適さがあった。35階に登った。地上140メートルくらいだろうか。めまいがした。

玄関でカツラが待っていた。会うのは2年ぶりくらいだ。カツラのおかげで、白髪が目立たないから、老けた感じはしない。それに比べて、私はこの2年で白髪を増量したから、娘から「ジジイに近ずいたな」と褒められる毎日だ。

リビングに通された。ひ、ひ、ひ、ひ、広末涼子・・いや、広い。ダイニングキッチンを合わせたら、私が住むマンションと同じくらいの広末涼子ではないか。

鼻がムズムズしてきた。まさかの・・・オックション!

 

リビングには、奥様と長女様、長女様の旦那様がいた。型どおりの挨拶をしながら、高級そうに見えるフルーツの詰め合わせを渡した。私は、新築祝いや引越し祝いは、必ずこれだ。意味はない。もし果物アレルギーの人がいたら、そちらで処理してください。

初孫の顔を見せてくれるか。

カツラが眉を下げて、デレーっとした顔で頷いた。

初孫様は、別室で寝ていた。可愛い。4ヶ月だというから、猿から人間に切り替わった頃だろう。

天使だな、と私が言うと、カツラは「ああ、俺もそう思う」と目を潤ませた。

新しいニックネームを考えた。カツジイだ。

カツジイとリビングに戻った。リビングのソファに座ると、改めて家族を紹介された。

 

奥様、長女様、そして、長女の旦那様。

カツジイが言った。「婿さんの実家は金持ちでな。このマンションを買うとき、かなり援助してもらったんだよ」

カツジイ、他人にそういう生々しいことを言うなよ。白けるじゃないか。

奥様が気を利かせて、大酒飲みの私のためにキリンラガーの瓶を持ってきてくれた。遠慮なくいただきます。飲みながら、カツジイと近況を語り合った。

カツジイは、大学を出たあと証券会社に勤めた。しかし、その証券会社が消滅。その後も証券会社を渡り歩いた。だが、合併を繰り返して窮屈な状態になったので、45で会社を辞め、都内のシティホテルチェーンに転職して今に至る。

今の会社では、カツラだということがバレていないという。日本の技術、恐るべし。

そんなことを話している間、皆さまスマートフォンを取り出して覗き込んでおられた。

奥様は別室で飼っている愛犬2匹のそばにカメラを取り付けて、送られてくる映像をご覧になっていた。ときどきスマートフォンに向かって「ジョイくーん」などと話しかけていた。

長女様は、やはりお子様の近くにカメラを取り付けているらしく、「アリサ、よく寝てるわ」などとつぶやいていた。

長女様の旦那様は、1分に1回程度スマートフォンを手にとって、何かを確かめていらっしゃった。旦那様のお父様は、神奈川県の私立高校の経営をしておられる。そして、旦那様は専務理事だという。年は28。若いね。金持ちだね。

 

さて、皆さま私よりもスマートフォンに関心がおありのようなので、じゃあ、これで、と私は腰を上げた。

すると、カツジイが「なんだよ、せっかくだから何か食べていってくれよ。ただで帰すわけにはいかないよ。友達がきたんだから」と言った。「好きなものを言ってくれ、出前を取るから」

そういう面倒くさいことになると思ったから、昼時を避けて2時前後に訪問したのに、おまえら、まだ食っていなかったのかよ。

 

出前か。俺は人をもてなすときは、絶対に手作りを出すけどな、と思ったが、もちろんそんなことは言わない。

それに、人が奢ってくれるというのを拒む勇気が私にはない。

いや、帰るから。「いいから食べていってくれよ」。いや、今日は、いらないから、などという無駄なコントが嫌いだということもある。

 

じゃあ、ピザを食わせてくれ。

「いいのか、そんなもので? 寿司とか、うな重じゃなくて」

俺はおまえと違って「そんなもの」が好きなんだよ。

ピザ屋が近くにあったのか、20分くらいで「そんなもの」が届いた。「そんなもの」の他にパスタやサラダ、ラザニアも頼んだようだ。

カツジイが気を利かせてまたキリンラガーを持ってきてくれた。ありがとね。ビールを飲みながら「そんなもの」を食った。美味かった。ごちそうさま。

 

しかし、私のまわりの景色は、少し私の予想を超えていた。

カツジイは、ピザを食いながら、スマートフォンで株価をチェックしていた。奥様はお犬様の画面に夢中。長女様は、お子様に夢中。長女様の旦那様は、ときどきかかってくる学校からの電話に、席を立って応対していた。

それに対して、私は左ケツのポケットに入れたiPhoneを一度も出さなかった。2回ケツが震えたけど、私は知らんぷりしたぞ。

 

この家では、俺はゲストじゃなかったんだ〜!

スマートフォンよりも下の扱いだったんだあ〜!

 

ごちそうさまでした、と言って席を立ったときも、奥様、長女様、長女様の旦那様は、少し顔を上げて「どうも」と軽く頭を下げただけで、視線はすぐにスマートフォンに。

カツジイだけが、スマートフォンで株価をチェックしながら、玄関までエスコートしてくれた。

そして、薄い言葉の「また、遊びに来てくれよ」。

 

スマートフォンに操られる今どきの家族様。

 

冷静に考えると、カツラにとって、俺の序列がこの程度だったってことですよね。ただ、見せびらかしたかっただけ。

 

今回の私は、「招かれざる客」(本当は招かれていたんですけどね)。

 

「招待するから」というカツラの言葉を信じた俺がバカだった。

 

マンションを出て、高い建物を見上げながら思った。

 

 

拝啓  ゴジラ様  次に日本に上陸するときは  ぜひ  このマンションを真っ先に破壊してください

(このあと私は、家に帰るまで一度もiPhoneをケツから出さなかった)

 


おまえ

2019-07-07 05:19:00 | オヤジの日記

長年の友人の尾崎が、腎臓結石の手術を受けるという。

確か7年前にも手術をしたから、石を貯めやすい体質なのかもしれない。

 

病室で、そんなもの貯めて何が面白いんだ、と言ったら、尾崎は「俺は意志(石)が強いんだ」と珍しくダジャレを言った。

でも、怖いんだろ? 7年前も俺に怖い怖いって泣きついたじゃないか。

「ああ、怖いさ。だが、そんなことは『おまえ』にしか言えねえ。家族の前では、俺は強い父さんでいなきゃいけないからな」

守るものができた尾崎。

無敵だった尾崎が死を恐れるようになったのは、守るものがいるからだ。

 

最初の結婚のとき、尾崎はおそらく自分のことしか考えていなかった。喧嘩は日常茶飯事だった。

そして、オーディオが趣味だった尾崎は、たとえばジャズピアノを聴いているとき、奥さんが料理の支度をし始めると「うるせえ! 細かい音が聴こえねえじゃねえか!」と怒鳴ったという。

娘とは、1度も外で遊ばなかったようだ。要するに、生みっぱなし。愛情はあったが、尾崎はそれを表現することを知らなかった。

その結婚は長く続かなかった。

 

高校を1学期で退学して、アンダーグラウンドの世界で生きてきた尾崎と私が出会ったのは、ちょうど尾崎が表の世界に浮き上がった頃だった。

尾崎24歳、私が26歳だった。

新潟長岡駅で、死神のような顔をした尾崎に声をかけられたのだ。どこから見てもヤクザとしか思えない男が、目の前にいた。カツアゲしようってのか? 身構えた。

しかし、その男は穏やかな声で、「東京まで帰る金が足りない。悪いが、これを買ってくれないか」とペリカンの万年筆を差し出した。そして、目を瞬かせながら、「両親の形見なんだ」と言った。

その覚悟のこもった目を見て、拒める人はおそらくいない。俺も貧乏旅だが、3千円なら出せる、と言った。

尾崎は「俺が思っていた額と同じだ」と笑った(おそらく笑ったと思う。口を歪めただけかもしれないが)。

 

それが尾崎との出会いだった。

そのとき、名刺を貰った。中野で薬屋と化粧品屋、文具店を営んでいるという。外見からは想像できない職業だ。訝っている私に、尾崎が言った。

「俺は、店を継いだだけだ。叔母の店だったんだ」

アンダーグラウンドの世界にいた尾崎を叔母が懸命に探したらしい。叔母は末期ガンだった。尾崎を病床に呼びつけた叔母は、「『おまえ』があたしを継ぐんだよ。おまえしかいないんだから!」と鬼気迫る顔で尾崎の胸ぐらを掴んだ。

それから、叔母が死ぬまで尾崎は病床で経営学の手ほどきを受けた。

私と出会ったとき、尾崎は店を受け継いだばかりだから、まだアンダーグラウンドのにおいが残っていた。つまり、怖いお兄さんだった。

しかし、気になる男ではあった。

あのとき、なんで俺に声をかけたんだ、と聞いたら、「スキだらけに見えたからだ」と尾崎は答えた。

「俺の人生で、あれほどスキだらけの男を見たのは初めてだ」

要するにバカってことかな?  アホホホホ。

 

2回目は、南青山のバーだった。

私の方から誘った。おごってくれないか。尾崎は、「いいぜ」と答えた。

尾崎は先に来て、アーリータイムスのストレートを飲んでいた。私も同じものを頼んだ。

乾杯はしない。昔も今も尾崎とは乾杯はしない。祝うものがないからだ。

尾崎に両親の形見だという万年筆を返した。尾崎は黙って受け取った。

そのとき、尾崎が突然聞いてきた。

 

「そういえば『おまえ』は何をしているんだ?」

 

そのときから、尾崎は私のことを「おまえ」と呼んだ。私の方が2つ年を食っているが、そのとき私は、「おまえ」という呼び方は、尾崎なりの親しさの表現だと理解した。

だから、私も尾崎を「おまえ」と呼んだ。そう呼び合って35年が経つ。

尾崎が「おまえ」と呼ぶのは、おそらく私だけだ。

妻の恵実やガキ3人のことは名前で呼ぶ。他の人の場合は、「さん」をつけることが多い。

 

与田ん(余談?)だが、極道顔ナンバーワンのコピーライター・ススキダも2つ下だが、私のことを「おまえ」と呼ぶ。大学陸上部の2つ下の芋洗坂係長にしか見えないカネコも、私を「おまえ」と呼ぶ。

2歳下は、「おまえ」が流行っているのかもしれない。

 

石を取ってもらったら、また飲もうぜ。尾崎に言った。

「ああ、楽しみにしている」

 

病室を出たら、尾崎の妻の恵実が待っていた。中野から国立まで車で送ってくれるという。

ありがたや。

車内で、恵実が、いきなり頭を下げた。「いきなり」はステーキだけでいいのに。

「Mさんは、尾崎の精神安定剤なんですよね。Mさんと話したあとの尾崎は、とても穏やかになります」

私が精神安定剤? ということは、いつも酒をおごってくれるのは、あれは処方箋代ということか。高い処方箋代だな。

「いいえ、安すぎるくらいですよ。尾崎は毎日おごってもいいって言ってますから」

毎日「死神顔」を見るのは嫌だな。こっちの方が精神安定剤が必要になる。

「尾崎はMさんの精神安定剤にはなりませんか」

 

精神安定剤にはならないけど、尾崎と同じ時代を生きること、それは悪くない。

 

「それ、尾崎に伝えてもいいですか。喜ぶと思います」

ようござんす。

国立で車を降りるとき、恵実に「私も一度でいいから、尾崎に『おまえ』って言ってもらいたいですね」と言われた。

じゃあ、まず、そちらから「おまえさん」と呼んでみたらどうだろうか。

「おまえさん、ですか? 言えないですよ、照れ臭くて」恵実がカラカラと笑った。

 

「恵実」、「龍一」、お互いを名前で呼び合う。結構いい夫婦だよ、おまえさんたち。

 

家に帰ったら、娘が待っていた。今日は仕事が早く終わったので、いつもより2時間早く帰ってきたという。

「今日の晩メシは何だ。手伝ってやってもいいぞい」

麻婆茄子と春巻きじゃ。

「よし、ボクは麻婆茄子を作ろう。『おまえ』は春巻きを作れ」

 

ここにも、私を「おまえ」と呼ぶやつがいた。