まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

米国のASSET PURCHASE AGREEMENT

2014-09-01 21:17:18 | M&A
○米国のM&A契約のセミナーでは、通常Stock Purchase Agreementの説明がなされます。しかし、大企業が部門売却をして事業ポートフォリオの入れ替え等も多いので、Asset Purchaseも良く行われます。ということで、今回はAsset Purchase Agreementの構造と注意点を、一例を示して書いて見ましょう。基本的には、Stock Purchase Agreementと同じですが、重要な違いが3つぐらいあります。①まず譲渡資産・負債を確定しますが、米国では譲渡しない資産・負債も記載します、② Closing Dateに譲渡対価=買収金額が確定せず、事後で確定額の精算が行われること、それと③受皿会社にて、Employee Benefit Plan& Pension等を、従前の企業と同等なものを揃えないといけないということです。この3つは、別に米国企業の場合に限らず日本でも同じですが、日本だと、受皿の新設子会社を作っても、親会社の制度を比較的短い期間で受皿会社に準備できますが、米国では1から作らないといけない場合が多いのではないでしょうか。日本でも同じですが、年金などは構築から実施まで半年から1年かかりますので、その間どのようにするのか、譲渡側の会社とよく協議する必要がありますね。日本でも時々ありますが、従業員は全員1年間出向にして、その間に準備すること等も考えないといけませんね。


○Asset Purchase Agreementの構造
1章 定義(Definitions) & 解釈 (Interpretation)

2章 事業譲渡(Purchase and Sale of the Business=株式取得と部分は太字で表示。
2.1 譲渡資産 (Purchase and Sale of Assets)
2.2 非譲渡(除外)資産(Excluded Assets)
2.3 譲渡負債 (Assumed Liabilities)
2.4 非譲渡(除外)負債 (Excluded Liabilities)
(その他知的財産=IP等を譲渡する規定等)
2.5 譲渡への同意(Consents to Certain Assignments)
-別会社への譲渡なので許認可や重要契約が承継されないので、売主・買主協力して許認可承継(再取得)・契約相手方・第三者同意の取付け。尚、この規定を、Pre-closing Covenantsとして入れる場合もあります。
2.6 買収金額(Consideration)
2.7 クロージング(Closing) –買収金額の支払、売買当事者の受渡書類(Deliveries) =Exhibit記載書類の締結等、またClosing Date現在の承継資産・負債はClosing Dateに確定しますので、例えばClosing Date日のAudited BSを作成して、Closing日後60日以内に、双方確認した上で、差額金額の精算を定めます。Closingのときに、予定金額の100%を支払い、一部の金額をEscrow Accountで調整するときもあります。(Escrow Accountを設定する信託会社は結構高い手数料を取りますね)
2.9 買収金額の資産への割当(Allocation of Purchase Price =PPA)

3章 売主の事実の表明と保証( Representations and Warranties of Seller)
・売主・買主とも契約締結時&Closing日現在有効と規定します。
・株式買収と同じような規定として以下。
Organization and Qualification/ Authority/ Binding Effect/ Financial Statements / Absence of Certain Changes or Events / Compliance with Law/ Material Contracts (重要契約-一覧はScheduleで開示)/ Litigation/ Non-Contravention(環境規制を含む法令順守)/Taxes/ Title to Property/Consents/ Product Warranty/ Permits & Licenses/ No Conflict
・Asset Purchase特有の規定として以下。
Transferred Assets・Sufficiency of the Assets(土地・建物・機械設備等)/  Inventory/ Intellectual Property / Customer and Suppliers/ Employees(移籍予定従業員)

4章 買主の事実の表明と保証(Representations and Warranties of Buyer)
Organization and Qualification/ Authorization/ Binding Effect /No Conflict/
Sufficiency of Funds / SEC Filing等- 重要なのは、支払うお金がありますということだけ。+独禁法のファイリングを行いますということぐらいです。

5章 売主・買主の約諾事項(Covenants) – Closing前までに行うべきPre-Closing CovenantsとClosing後に行うべきPost-Closing Covenantsがあります。

【Pre-Closing Covenants】
Conduct of Business Prior to the Closing/ Covenants Regarding Information/
Update of Disclosure Schedules (移籍従業員の変動等)/ Access and Information
/ Consents and Filings/ Notification of Certain Matters/ Transition Services ・ Shared IP・License 契約のアレンジ(Closing日に締結)

【Post-Closing Covenants】
売主のNon-Competition/移籍承諾従業員の処遇 /税金(Taxes) =Straddle Periodの規定(Closing Dateまでは譲渡側、それ以降は譲受側負担の技術的規定)/Confidentiality (交渉時知り得た相手方秘密保持、移籍従業員の個人情報の守秘義務等)/ Use of the Seller Name (製品に付された売主名の当分の使用許諾)/買収金額の精算

6章 Closingの条件(Conditions Precedent to Closing)
6.1 一般的条件として、独禁法等の届出の効力が発生したこと。
6.2 買主の取引実行の条件として、売主の表明・保証がClosing日現在真実・正確であること、Pre-Closingの条件が満たされたこと(あるいは、買主がその条件を放棄すること)/ 必要な第三者との契約の承継に同意が得られたこと等を規定。
6.3 売主の取引実行の条件として、買収代金を受領したこと、買主の表明・保証がClosing日現在真実・正確であること、Pre-Closingの条件が満たされたこと等

7章 補償(Indemnification)-売主が表明・保証違反した場合、Covenants違反をした 場合、買主に対する補償額を規定。一件当たりUS$xx, 総額US$xx等と規定。買主もIndemnificationの規定がありますが、もっぱら買主保護の規定になります。
8章 解約条項等(Termination/Effect of Termination/Amendment and Waiver等)

9章 一般条項 (Miscellaneous Provisions) = Notices/ Expenses/ Entire Agreement/ Assignment/ Severability/ Governing Law/ Jurisdiction/ Waiver of Jury Trial/ Public Announcement/等

Schedules:-各条文の詳細なDisclosure Scheduleが添付されます。

Exhibits:ClosingDateに締結される、土地譲渡のDeed見本、受皿会社では直ぐに出来ない経理・人事・ITサービス等を当分行うTransition Services Agreement、IP資産譲渡契約書
案件によっていろいろ細かな規定を設けて、本文だけでも70-80ページになりますし、Disclosure ScheduleやExhibitsを加えると150ページにもなりますね。

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3 コメント

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Unknown (uk)
2014-09-06 18:57:13
>従業員は全員1年間出向にして、その間に準備すること等も考えないといけませんね

いつも勉強させてもらってます。すいません、出向はどちらからどちらへの話でしょうか。なんとなく、譲渡価格に反映されてしまいそうな気がします
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譲渡価格に反映できない理由です (masaru320)
2014-09-06 20:18:17
譲渡側に籍を置いて、譲渡先の受皿会社への出向になります。譲渡価格に反映できない理由は以下の通りです。
受皿会社では、福利厚生制度をすぐに構築しないといけません。法定福利は法定なので当然ですが、それを上回るEmployee Benefit Planが一般化していますので、それの構築もしないといけません。問題はPensionですね。これの構築に、最短6ヶ月通常1年ぐらいかかります。年金には、確定給付年金(DB=Defined Benefit Plan=伝統的なDBと90年代に開発された積立不足が少なくて済むCash Balance方式の2種類)と日本が真似をした確定拠出年金(DC=Defined Contribution Plan=いわゆるIRS401(k)適用年金)があります。
DBは、その会社の制度ですので移行できませんね。従い、譲渡側で割増退職金を払って清算すれば良いですね。勿論、時間がかかりますが、受皿会社で構築しても良いのですが、その間どうするかの問題がありますし、従業員の勤続年数を通算・反映する場合は、closingまでの費用負担については、譲渡側との価格の譲渡問題になります。しかし、問題は税制適格のDC 401Kですね。これはご承知の通り持ち運び可能、即ちPortableな制度ですね。日本では、昔の退職給与引当金制度の延長で企業側負担ですが、米国では(日本と違って)従業員の個人負担で、個人ごとに積立額が全部違います。これに、企業側がMatching contributionとして補助金を支給します。従い(原則、従業員個人負担の制度なので)譲渡価格に反映できないのですね。
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Unknown (masaru320)
2014-09-06 20:34:01
追加
個人ごとの積立額の総額を計算して、この金額を減額して、受皿会社で、従業員全員の個人口座を作って、そこに今までの積立額を振り込むというややこしい方法は考えられるのですが、こういった移行方法は401kでは想定していないので、税制メリットが消えてしまいます。この場合、従業員にどのように説明するか、なった億いただくかなど考えられます。尚、税制適格とは、①企業拠出金が一定限度まで損金算入、②運用収益が非課税、③企業拠出金の従業員への課税が給付時まで繰延などです。
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