スピリチャルTIMES 「とにかく生きてみる!」

スピリチャルTIMESの編集長北村洋一が、この不確定な社会に生きている人々の喜怒哀楽をレポートする。

スピリチャルタイムズフィクション短編 「それは俺のんや!」痴呆の母

2016年02月10日 | 自分的エッセー
お母んの、痴呆は進んでいる。絶対に良くはならない悲壮な病気ではないが、良くなる事は、素晴らしい神様の御利益を持ってしてでも無料だと思う。だから介護と言うか、一緒に暮らす家族としては悲壮感はあまりない。が、その分、病人として特別な気の使う事もしていない。
しかし、年寄りの痴呆は本当にすごいボケになる。「ボケてる」と言うと結構高い確率で怒る!
「ボケちゃうは、すぐ忘れるだけや!」まさしく的を得た答えである。靴下の片一方は本当に良く無くすのに、「この靴下、片一方あれへんで」と言うと、「うちもそう思っていたんや、なんでチンバさんになるんねやと」と返ってくる。「ボケてるから無くすねん!」と私が言うと、「ボケと違う、すぐ忘れるだけや!」お母んが言う。ボケと物忘れは違うのは違うのだが、哲学的に「ボケにあって物忘れに無いもの?」などを考え、反省と後悔くらい?と言う気持ちも起こってこない。

また気にいった女性の前なら、「それは笑わなしゃーない」と言うことで!と軽くスルーさせようとするが、本心は結構必死で向き合っているのだ。

こないだは、箸を無くした。前から使っていた赤い箸が、人気の無い神社の鳥居の様に赤の部分が剥げてきて、中の木目が出てきたので、はし箱付の箸を買って、「使う前、使った後、ここに直すんやで」と教えたのだけど、1週間も経たないうちに何処かに行ってしまった。箸など失うはずが無いのだが、まだなんとか脳が立ち上がってる人間には考えられないけど、多分不用物に見えてゴミと一緒に捨てるのだろうと思う。

先日も室内用のスリッパが 無くなった。この時期のフローリングは結構冷えるのに、何処にやったんやろうと考える。そう聞いても仕方が無いのだが、一様聞く。絶対に正解を言ってくれるはずも無いのに聞いてみる。これが痴呆と向き合う礼儀である。「さぁ何処にやったんやろーー」と言いながら、自分は知らんと言う立場を取る。この態度が三回に一回は腹がたつのだ。「自分やろ、猫かネズミが持って行ったんか?」ときついく言う。「私は知らんは、やった覚えが無い!」と繰り返す。
「やったんは、無くしたんはお母んや!」それは間違い無い。「それはわかるか?」と聞くと、「そんなん私は失くしていない!」と言い訳をする。私は「言う訳はするな~」とこれから成長していく小学生の野球チームの子供に言う様に大きい声でハッキリと言う。それと同時にコナンの様に辺りを見回して「はてさて?何処にスリッパが行ったんかを考える」。この推理が楽しくなって来たのはここ最近である。そして色々と探し当てるのだ。
以前はボケボケのお母んに向かって、「思い出せ、もうっぺんよーく考えて」という様なパッチもん心理カウンセラーの様に時間戻りを試みたりしたが、もともと痴呆の人間には時間を戻ることなど出来るわけが無いのだ。
時間の中を戻ったり、未来にフライイングしたり出来ないのが痴呆と呼ぶのだから。
でも、ウロウロと家の中を探し回る、お母んのスリッパ捜査の箇所も必見でオモシロイ。
自分が何処かに置いた事を忘れて、架空の誰かが置き忘れたのであろうスリッパの捜査にかかる。お母んも色んな処を探す、机の引き出しや、洗濯機の中や、本棚の横とかであるが、もうその辺を探す時には、何を探しているかは判っていないのだ。私もいよいよそれに乗り出して探し始める。先ず絶対に何処かにあるはずなんだと言う思いを確かめて、スリッパを並べたりかたずけたりするような場所に当たりをつける。
ビンゴ!案の定スリッパは靴箱の中に綺麗に揃えられて置いてあった。

それともう一つ厄介なのが靴下である。
ストーブで靴下を乾かす癖があるので、洗濯をして乾かしている靴下をわざわざ取ってきてストーブの前で広げて乾かしている。
これを二足というか一対でやってくれたら文句は無いのだが、片一方ずつやるから、靴下の片方行方不明状態になる。靴下は片方だけではどうにもならないので、片方がなくなると、キツイ落ち込みを感じるのだ。まして5本指タイプなんかだったら、色違いを履くという勇気さえもこっぱ微塵にされるのだ。もう捨てるしか無い!
さんざんお母んはその事を言うが、もうドントタッチ以外に方法はないところまで来ている。
そして遂に事件おきた。
私のピンクのフィットタイプのトランクスパンツが、干してある所から無くなったのだ。
またまた、お母んがどっかにしまいこんだんだろうと、いつものように推理を働かし仕舞い込む処を丹念に探し出してみたが見つからない!
アレ~~無いなと思いながひょっとしてゴミと一緒に出したのかとも思う。
パンツと言うことは理解してると思う。何かをこぼしてそれで拭いて、色が付いたからとも考えてみる。

夜中~~仕事から帰って来て、あんまりにも寒いので、風呂を沸かした。
「お母んも入るか?」と起こして聞いたら入ると言った。
そして風呂が沸いたので、「早く入りや」と急がした。脱衣所で脱いでいる様子であった。
メガネを置きに来た時に、私は見つけた。
「お母んーーそのパンツ俺のんや」と思ったが、もうそれを言う気力というか、介護者する者の目ではなかった。痴呆のお母んの息子の目でそれをみた。自分のパンツを履いてるお母んを。
「わからん事は無いわなー!」
「ピンクのパンツを履く僕が悪いのだろう」と思う。

静かに洗濯機の中に入れておくように言った。
それから後、洗濯はしたけど、私は私のピンクのパンツを履いていない。何か履けない。
お母んあげようーーと思う。

コメント
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