SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「弓」 ~ 現代の神話

2007年04月17日 | 映画(ヤ行)
 小さな船の上のみが舞台の男と女の物語。と言えば、南海の孤島を舞台にした「流されて」のようだが、男女は老人と孫娘のようだし、老人は釣り客を舟に連れてきて食いつないでおり、まったく社会から途絶しているわけではない。

 その主役二人には台詞がない。ただ耳元で言葉を伝えているシーンはある。他の役者の台詞で「口がきけるのか?」と言っているくらいだからほとんどしゃべらない、という設定なのだろう。

 そのサイレントに近い二人の世界に外の若者がやって来て・・・・、という物語が起承転結鮮やかに語られる。

 どこの国のいつ頃の話かも定かではないが、それがどうであれほとんど不都合のない骨太の骨格がある。
 ただ、平穏な二人の生活に暗雲をもたらすデジタルオーディオ機や若者が耳にピアスをしていることからも紛れもない現代の話だし、拾われた孤児と思って見ていた少女は老人に拉致監禁された被害者らしいことも分かってきて、実は極めて現代的な問題を内包していることに観客は気付かされる。

 主筋を解き明かせば単純な三角関係の話で、基本的にはどちらかに傾いてもう一人は泣きを見ることになるわけだが、本作に関する限りその神話的といっても良い話法で、限りない祝福が恋人たちに与えられ、同時に悲しい思いをする人もいないという至福が訪れる。

 悲惨だったり、陰湿だったり、ギラギラした現代の日常を描きながら、いつかそれが崇高な高みに上り詰めている事を確認できるところにキム・ギドク作品を見る喜びがある。

 「弓」が人を射る武器であると同時に、たえなる調べを弦楽器から引出すものであることに改めて気付いた。


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1 コメント

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 (kimion20002000)
2007-04-23 22:53:46
TBありがとう。
そうですね。あの弓があんなにも美しい旋律を奏でる楽器になるんですね。印象に残りました。
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