ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

トッカータとフーガとパイナップル

2009-08-18 03:28:19 | 太平洋地域
 ”Ukulele Bach”by Herb Ohta

 ハワイ在住の日系二世のウクレレ名人、オータサンことハーブ太田が2000年に発表したアルバムなのだけれど、あんまり聴いた事のある人が、というか、このアルバムの存在自体を知っている人があまりいないみたいだ。
 どんな事情かなかなか発売にならず、オータサン自身もハワイと東京を往復し、結構めんどくさい思いをして吹き込んだこのアルバムが結局陽の目をみないのでは?と心配になったようだし、発売後も、まあマイナーなレーベルのせいもあろうが、あまり話題になったとも言いがたい。

 私にしてからが、ある通販サイトのカタログの端のほうに、あんまり売る気もなさそうに置かれているこれを見て、「へえ、こんなアルバムが出ていたのか」とそこで初めて知って買い求めた次第で。で、その後、すぐにそのサイトは”発売中止”の表示に変わっている。アマゾンとかでははじめから扱いはなかったようだ。
 とはいえ、私がここで話題にしたのがきっかけで、このアルバムが幻の名盤扱いで”発掘”騒ぎとなり、さあ、紙ジャケデジリマボートラ付きで再発売しろ!との音楽ファンの声が燎原の火のように広がる、なんて事にも、まずならないだろう。
 なぜならこれは、ウクレレ一本で弾いたヨハン・セバスティアン・バッハ作品集などという素っ頓狂な、かつ誰が面白がるのだ?みたいな企画盤であるからだ。

 トッカータとフーガ、ブーレ、シシリアーノ、なんてのから”主よ、人の心の喜びよ”なんて曲まで、よく知られたバッハの曲が何の伴奏もなしに全16曲、ウクレレ一本で演奏されている。ギャグなし、ギミックなし、実直な性格のオータサンらしい、誠実にバッハの作品と向き合った達者な演奏が収められている。
 けど、使用楽器がウクレレだからね。これは、本来は”出オチの芸”でしょ?ウクレレ持ってステージに出てきたから何をやるのかと思ったらバッハを弾き始めた。無茶をしやがる、けど、結構上手く弾きこなすじゃないかと、初めは笑いが、そのうち賞賛の拍手が起こる、と。

 で、まあ、その一曲で終わっておくのが無事であろう。それがこのアルバム、全曲バッハですよ。しかも無伴奏。確かにこれ、話題にもならずに終わったのも無理はないかなあ・・・
 とか言ってますが。かねてよりオータサンのファンである私は、実はこのアルバム、気に入ってるんです。聴いているうちに、オータサンのウクレレの鄙びた響きによってポケットサイズに変容されたバッハの音楽の魂が、人の掌の上で風に吹かれてコロコロ転がっている、みたいな奇妙な幻想が生まれてくるのであって。なんだかすべての事象の輪郭が丸くなり、生の喜びを歌いだすような。まあ、私もいい加減、訳の分からない話をしているけど。

 と言うわけで。もちろん、You-Tubeに試聴用の画像はありませんでした。かわりに、似たような事をやっているジョン・キングと言う人のウクレレによるバッハ演奏を下に貼っておきます。というのも、どうかと思うが。





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