”Ventures In Space ”by Ventures
これを聴いていると、深夜のテレビなどでたまにやる昔のアメリカ製の三流SF映画の一シーンが脳裏に浮んでなりません。浜辺でビキニを着た金髪の”グラマーガール”がゴーゴー踊ってるの。何の必然性もなく。と、そこに煙を吹きながら現われる、思いっきりハリボテの安っぽい怪物。それこそは金星からやって来た謎の侵略者であった!
これは、日本に”エレキブーム”を巻き起こしたベンチャーズが1964年に発表した、”宇宙もの”の曲を集めたアルバムであります。あの頃は米ソの宇宙開発競争などもあり、こんなものが流行のファッションだったのでしょう。
同じ頃、別のエレキバンドが”テルスター”なんて”人工衛星もの”のヒット曲(?)を出し、また、スプートニクスなんて宇宙服を着てステージに出てくるそれ専門の連中まで現われた。そりゃ、”インスト・エレキバンドの第一人者”を持って任ずるベンチャーズも黙ってはいられなかったのかと思われます。
ともかく素っ頓狂な演奏の連発で、こいつは楽しいです。
なにしろSFネタのアルバムなんで奇矯なアイディアは出し放題。当時考えられた”宇宙っぽさ”を演出するために奇怪なテンション・コードが投売り状態で提示され、いつもより余計にエコーをかけてみました、のギターはぶっ飛んだフレーズを快調に奏でて、不吉な響きのキーボードと美しい女性コーラスは宇宙の神秘を歌い上げ、奇怪な効果音はいたるところに差し挟まれて。
すべてデタラメやり放題の無法地帯で、まさにオモチャ箱をひっくり返したような楽しさ。
でも演奏の聞かせ所の盛り上げ方は、いつもの”テケテケテケ♪のエレキ・サウンド”であるのも、なんか気恥ずかしくも嬉しかったりするのですわ。
いくつか聴かれるスペイシーな広がりを持ったバラードものの甘いメロディは、私なんかの世代には、青春時代に切ない思いで見上げたあの星空を思いおこさせ、ああ、あの頃は彼女も私も若かったとの感慨に。
いやいや、世界そのものが若かったのでしょうね。
あの頃、まだまだ人類が開くべき扉は無限に残されていると信じられ、未来は栄光に包まれていると皆は思い込んでいた。そんな栄光の輝きの影で、人類の抱え込んださまざまな矛盾は、知られぬまま膨れ上がっていたのだけれど。
まだ幼かった世界が夢見た、ついに人類が手を触れることの叶わない宇宙の地平線の幻。この無邪気な音楽の戯れの向こうに、そいつは面白くやがて哀しき、みたいな儚い姿で揺れているのであります・・・