”ALHAJI ODOLAYE AREMU / VOL.3”
ナイジェリア西部の伝承芸能にエグングンという仮面舞踏があり、そこから派生したのではないかと想像されている”ダダクアダ”なる音楽を聴く機会を得た。
音楽の形式はと言えば、毎度お馴染み、ヨルバ名物というか定番のトーキング・ドラムをメインに置いたパーカッション・アンサンブルと、それをバックにリード・ボーカルとコーラス陣がコブシのかかった掛け合いを聴かせる、という代物のようだ。実際、バンド(というのかどうか)のメンバーをずらりと並べたジャケ裏の写真など、アパラやフジのそれと、とりあえず見た目は変わるところはない。
盤は、かってアナログ盤として世に出たもののCD化であり、オリジナル盤は1978年に世に出ている。ちなみに歌手は60年代から80年代にかけて活躍した人であり、すでに故人だ。
伝承芸能より派生と言うことで、なんとなくご詠歌調の陰気くさい歌を聴く羽目になろうと想像していたのだが、実際に音を聴いてみると、意外に明るい声の調子に驚かされた。何かひょうきんな印象さえある。歌手たちは皆が終止、笑顔で歌っていると言われても納得出来る。
この系列の音楽を代表するフジやアパラの重々しく影や険のある響きとはそのあたり、あきらかにタイプの違う音楽である。おめでたい陽性の響き。むしろ私などには、幼少期の記憶にある物売りの声や夜回りの声調を思い出していた。
「火の用心、さっしゃりましょう~♪」とか、「金魚え~金魚っ♪」「玄米パンのホッカホカ~♪」などなど、記憶に残っている呼ばわりの声が、このとんでもない遠国の伝統歌謡を聴くうち、蘇ってきたのだ。
あるいは昔、役者の小沢昭一が「日本の放浪芸」などと称し、街角で伝承されてきた角付け芸の呼ばわりの声などをレコードに収めていたが、そこで聴かれた、まだ家々の門口で新年の祝いなど演じていた頃の”漫才”などもこの音楽に近しいものと感じられた。
この辺は、アフリカからユーラシア大陸を貫いて走るイスラム演歌連鎖域の可能性などと並べて考えてみたいところだ。これらの音楽も、何事かを寿ぐために奏でられていたのか?非常に興味深い。
盤の2曲目、というかアナログ盤時代はB面だった部分が始まると、音楽はそれなりに高揚を迎える。
伴奏のドラム陣も白熱化し始め、バックのボーカル陣が同じフレーズを何度も何度も繰り返してはリード歌手をけしかけ、また聴衆をシンプルな熱狂のほうに向けて導こうと企む。やはりだてに太鼓が並んでいるのではないなあ、いかに”縁起物”の響きがあろうと、これは大衆の間に生きて機能中のダンスミュージックなのだと、当たり前のことに気がつきつつ、とりあえず最初のレポートを終わっておく。しかしこれ、もっといろいろな盤を聴いておきたいね。