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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

そのときどきの心持ち

2018-07-20 18:09:27 | 好きな本

こちらの画像は文庫版の方ですが、私が読んだのは、単行本のほうで、
少し前に、古本屋で200円で売られていました。



単行本が出たのは2000年2月。
たいていの(春樹氏の)本は、出たらすぐに買っているのですが、
この短編集は持っていませんでした。
なぜかといえば、『新潮』に連作として載っていた1999年8月号から
12月号まで、そのたびに図書館へ読みに行っていたからです。

1999年、8月。
娘3歳になった年です。近くの図書館へ絵本を借りに行き、雑誌の棚の
文芸誌のところや、好きだった小説家の本などを、私自身もまた借りる
ようになったころだったのでしょうか。
詳しいことは覚えていませんが、雑誌コーナーの木のベンチに座って
その月の『新潮』を読んでいる自分の姿はうっすらと思い出せる気がします。

2002年になって文庫が出たときも買わなかったのに、数年前から、
機会があったら再読してみようと思っていたのは、この短編集が
1995年1月の、阪神淡路大震災後をひとつのテーマとして書かれていることと、
自分自身も2011年3月の大震災を自分の身におこったこととして、
とらえているからなのだと思います。

抗いようのない底知れない恐ろしいもの。

1999年に読んだときは、字面では理解していても、絶望や恐怖の表面を
なぞっていただけだったことでしょう。
2018年現在の私が、もろもろを理解し、経験し、いくらかでも賢くなり
深く思いを寄せられるようになっているかといえば、そういうものでも
ありませんが、少なくとも、1999年の後半に毎月、図書館のベンチに座り
膝の上に雑誌を広げていたときよりは、幾分経験値の矢印が上向きになって
いるかな、なっていればいいなあと思います。




目次をひらいて。

『UFOが釧路に降りる』
阪神淡路地震のニュースを連日見続けた奥さんが突然いなくなる、とことは
覚えていたが、主人公が釧路へ、どーして出かけることになったのかは
まるで思いだせず。(読み終えた今でも、UFOのあたりが飲みこめず‥)

  「それはね」とシマオさんはひっそりとした声で言った。
  「小村さんの中身が、あの箱の中に入っていたからよ。小村さんは
   そのことを知らずに、ここまで運んできて、自分の手で佐々木さんに
   渡しちゃったのよ。だからもう小村さんの中身は戻ってこない」


『アイロンのある風景』
浜辺でたき火をする人が、とても印象に残っていたが、その話のタイトルが
こちらだったとは。

   順子は男の顔を見上げた。「アイロンがアイロンじゃない、ということ?」
   「そのとおり」
   「つまり、それは何かの身代わりなのね?」
   「たぶんな」
   「そしてそれは何かを身代わりにしてしか描けないことなのね?」


『神の子どもたちはみな躍る』
表題作なのに、あらすじが思いだせなかった。主人公の名前が夫の名前と
同じ(漢字は違うが)だったことに読み始めてすぐに驚いた。

   様々な動物がだまし絵のように森の中にひそんでいた。
   中には見たこともないような恐ろしげな獣も混じっていた。
   彼はやがてその森を通り抜けていくことになるだろう。
   でも恐怖はなかった。だってそれは僕自身の中にある森なのだ。
   僕自身をかたちづくっている森なのだ。僕自身が抱えている獣なのだ。



『タイランド』
タイのリゾート地が舞台だったはなしがあったことは覚えていたが、この本に
はいっていたのか。

   「~しかしそれが本当に私が自分の耳で聴き取ったものなのかどうか、
    定かにはわかりません。一人の人間を長く一緒にいて、その言葉に
    従っていると、ある意味では一心同体のようになってしまうのです。
    私の申し上げていることはおわかりになりますか?」



『かえるくん、東京を救う』
かえるくんは、地下深いところで、みみずくんとの激闘を制し、生還して
きた話だとばかり思っていたが、実際にはかえるくんとみみずくんが戦う
シーンはどこにもなかった。

    「片桐さん」とかえるくんは神妙な声で言った。「あなたのような
     人にしか東京は救えないのです。そしてあなたのような人のために
     ぼくは東京を救おうとしているのです」



『蜂蜜パイ』
単行本になる時の、書きおろし作品なので、もしかしたら初めて読んだのかも
しれないと思う。そのくらい何も覚えていなかった。

     でも今はとりあえずここにいて、二人の女を護らなくてはならない。
     相手が誰であろうと、わけのわからない箱に入れさせたりはしない。
     たとえ空が落ちてきても、大地が音を立てて裂けても。



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