偶然なのか、それとも偶然だけとは言い切れないものが働いたのかー。
この春に高校2年になった娘を持つ私は、自分自身の高校同窓会
準備委員に加わることになってしまい、高校時代の思い出にどっぷりつかった
早春から初夏を過ごしています。
その数か月の中で読んだ本も、高校生が主人公のものだと知ってて
手にしたものもあれば、「偶然」にそうだったものもあり‥。
たとえばこの本は、映画化された作品が高い評価を受けていたことが
気になって、まずは原作からと思って借りた本。
新作が出れば買うと決めている春樹氏の本にも、高校時代の5人組が
描かれていて、ちょっとびっくり。
去年、ⅠとⅡを読んで、なぜかⅢは未読のままだったけど、一昨日から
読んでいるのはこの本。
でも、なんといってもよかったのは、「船に乗れ!Ⅲ」の前に読んでいた
この本です。
宮下奈都さんという作家は、少し前に、よく訪れるブログの紹介文で
知ったばかりで‥、この『よろこびの歌』も、図書館の棚からなんとなく
手にしたものでした。
その時は、女子高生が主人公というよりも、章ごとにつけられたタイトルが
すべてザ・ハイロウズの歌のものだと巻末に書いてあったことで
興味をひかれたのです。
主人公は、御木元玲。お母さんはヴァイオリニスト。
音楽大学の付属高校の受験に失敗し、数年前にできたばかりの新設校の
女子高になんとか滑り込み、何にも期待しない「ぼんやりした」日々を
ただ送って時間をやり過ごしています。
次にでてくる原千夏にしても、そのまた次の中溝早希にしても、みんな
それぞれの事情を抱えて、それぞれそれをヒミツにしたまま高校生活を
送っているわけで。
傍目からは、とても楽しそうに見えても、その子にはその子にしかわからない
「苦悩」があって、牽制しあいながら、駆け引きしながら、少しづつ自分を
出していくその過程とか、その時の空気感とか、ドキドキとか、戸惑いとか、
今でも十分思い出せるなあと思いながら読み進めました。
16歳から18歳にかけてかけがえない時間。
不変のものもあれば、30年前とはあきらかにちがう、というか、その頃には
なかったようなものもあって‥たとえば、自分はどのキャラでいこう、とか
それはキャラが違うよね、といった感覚‥とか、クラスの中に存在する上下関係の
肯定とか‥。
現役女子高生を横目に見ながら、かつての自分自身を思い出しながらの
読書は、とても楽しいものでした。
『よろこびの歌』は、6人の女子高生の話の連作になっていて、最後はまた
最初の主人公の御木元玲に戻っていくという形式で、12月1日から3月4日までの
わずか4カ月で、クラスの合唱コンクールが実際のきっかけとなって、彼女たち
それぞれがすこしづつ自分の殻を破って、すこしづづ溶けあっていく様が
丁寧に描かれています。
第一志望でない高校、ぼんやりした毎日、合唱コンクールとくれば、お決まりの流れで
お決まりのラストシーンなのでは、と思いたくなりますが、おおざっぱな流れはそうで
あったとしても、そこには、一人ひとりの物語があり、それは決してバカにした
ものではないです。
玲さんは、最終章でこう思い至ります。
世界は六十八億の人数分あって、それと同時に、ひとつしかない。
いくら現実逃避したところで、ここで私は生きていくのだ。こんな小さな街にも、
クラスメイトたちが住み、先生が住み、そして学校とは関係のない人がそれよりも
たくさん住んでいる。ピアノがほしくても与えられなかった子も、ヴァイオリニストを
母に持つ傲慢な娘も、ここで生きている。ここで私は生きていくのだ。専門的な
勉強をしていなければ通じないのなら、誰のための音楽だろう。
高校時代に、ここまで自分で考えることができたなんて、玲さんがんばったなと
私は思います。
閉じていた彼女の心を解き放つことになったあと5人の「それぞれのうた」も
とてもいとおしく、10代の気持ちを思い出しながら、ぜひ読んでみて欲しいなあと思います。