この時期、世界中でいちばんたくさん手紙を受け取っているのは、やはりあのお方‥サンタクロースさんでしょうね。
先週の金曜日は、今学期最後の「開き読み」の日でした。手にした絵本を読む前に、「もうすぐクリスマスですが、サンタさんへ手紙を書いたかなあ」と2年生に問い掛けてみました。突然の質問に驚いたのか、答えは曖昧でした。
「この本に出てくるひろこさんは、サンタさんへではないけれど、いろんな手紙を書きました‥どんな手紙かな」と、『もりのてがみ』を読み始めました。
『もりのてがみ』
片山令子 文 片山健 絵
この本を、私が知ったのは、海五郎さんの「わくわく本」の紹介記事を読んだからでした。図書館へリクエストを出し、手元に届き、読んでみて最初に思ったことは‥表紙に描かれている赤いオーバーを着た女の子の名前のこと、正確には、本の中での「呼ばれ方」のことなんです。
ひろこ、というのが彼女の名前なんですが、ひろこちゃんでも、ひろちゃんでも、ひろこでもなく、ひろこさんと、書かれているのです、こんなふうに。
さむい さむい ふゆです。
かぜのひ ゆきのひ、そとで あそべないとき、
ひろこさんは ストーブのそばで、
ともだちに てがみを かきました。
作者の片山令子さんが、女の子のことを「ひろこさん」と、さん付けにしたこと、些細なことのように見えて、実はお話を決定づけるほど大切なことではないかな、と感じました。
距離感が出るというか、作者が、主人公の女の子を、小さいながらも一人前とみなしていることが伝わってくるようで‥「ひろこさん」と書いた、片山令子さんってとてもいいなあと思ったのでした。
ひろこさんは、まず「ともだち」のりすへ手紙を書き、それを森のもみのきに提げておきました。なぜ、もみのきかというと、他の木はすっかり葉を落としてしまったけれど、もりの まんなかにある おおきな もみのきだけは、かわらない みどりの えだを ひろげていたからなのと、みんながもみのきの下で、遊んでいたことを思い出したからです。
りすの次には、とかげ、ことりたち、のうさぎ宛てと、どんどん手紙を書いては、もみのきにさげに行くひろこさん。前に書いたどの手紙も、濡れたり破れたりせずに、ちゃんとさがっています。
見開きいっぱいに枝を広げた大きなもみのきと、そこにさがっている色とりどりのひろこさんの手紙は、まるで飾りつけ途中の、クリスマスツリーのようです。
しずかに ゆきが ふりだしました。
「そうだ。もみのきに てがみを かこう。」
ひろこさんは そういって、うちへ かえっていきました。
おおきな もみのきさま 宛てに、このあとひろこさんが書いた手紙と絵は、とても素敵です。うっとりしたように目をふせているもみのきと、数々の手紙と、幹に寄り添って立つ(やはりうっとり顔の)ひろこさん‥。
全然クリスマスのお話じゃないけれど、ひろこさんがもみのきを大切に想う気持ちは、日々への感謝とイコールで結ばれ、それはすなわち、クリスマススピリッツではないかしら、と思うのです。
「てがみ、さげておきます。
よんでくれるかしら」
ひろこさんは もみのきに いいました。
もみのきは ゆきを かぶって、
しずかに しずかに たっていました。
お話の方は、残り5分の1で季節が変り、急展開します。赤いコートを脱いで、セーター姿で動物たちと遊ぶひろこさんも、とてもかわいらしいです。
片山健さんの描くもみのきからは、ほんとうに、さらさら さらさらと枝が鳴る音が聞こえてくるようです。