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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

私のしんぱい

2006-01-11 17:10:53 | 好きな絵本

 すこし前に『すきまの時間』という絵本を知りました。
ベルギーに住むアンネ・エルボーという女性の方の作品です。
 タイトルがとっても素敵だなあと思いました。早速
図書館で借りて読んでみて、また次に、もっと作品が
知りたくなって、この絵本を借りてきました。


ちいさなしんぱい


『ちいさな しんぱい』





 写真ではよくわからないかもしれませんが、表紙に描かれて
いるのは、くまの アルシバルドです。

 ある朝、アルシバルドが目を覚ますと、頭の上に小さな雲が
浮かんでいました。題名の「ちいさな」と「しんぱい」の間に
描かれている雲です。
 
  まゆげの うえにある くもは、
   くまの アルバルドの
  ちいさな しんぱいに なりました。

 その雲は、一日中、アルシバルドがどこへ行ってもついてきます。
どうにかその雲から逃れよう、離れよう、忘れようと色々な方法を、
試してみるのですが、
 
  くもは、ついてきます・・・     「たすけて。」

 
 
アルシバルドの頭の上にある小さな雲は、絵で見るとおり、
「ただの小さな雲」に(も)見えます。(最後に雨を降らせることが
できたのだから、ほんとにただの雨雲かもしれません)
でも、「深読み」してみるとそれはただの雲ではなく、雲の形をした
不安、なのではないか、と思うこともできるわけです。目覚めて、
あれ?っと思い、その雲を認識した時から、それは彼の「心配」
になっていく。でも、もしかして、心のどこかにあった不安なものが、
雲という目に見える形になって現れたのだとしたら? 

 好きなものを食べてみたり、息を吐き出したり。
「ちいさな雲(の形をした心配)」から逃れるために、アルシバルドが
取る行動は、私たちが憂鬱な気持ちや、漠然とした不安から
脱しようとする時に、よく似ています。

 でも。
 アルシバルドのお話の結末は、彼が泣き出し、雲も泣き出し。
そして気がつけば雲はどこにも見当たらず。

   くもが いなくなって、
   ちいさな しんぱいも なくなりました。

 
ということは、やはりアルシバルドにとっては、雲そのものが
「心配の種」であったわけで、彼の中の漠とした不安が、雲という
目に見えるものの形をとっていたわけではなかったのです。

 愛らしいくまの、愛らしいちょっとしたお話・・・
 だったのかもしれません。

 しかし。
 
頭の上にあるちいさなくも、雲の形をした不安な気持ち、憂鬱の種。

それを生み出しているのは、私自身の心にほかならず、それから
解き放たれる方法を模索するのも、解決していくのも、私自身なのだ
ということを、このアルシバルドの絵本は教えてくれているように
思えてなりませんでした。

 なんかちょっと気になることがあった時。
 なんかちょっと気後れするような場面にあった時。
 なんかちょっと人を羨んでいる自分に気づき、憂鬱になった時。

頭の上にぽっかりと浮かんだ雲を思い浮かべることにします。
そして、それがどこまでも、どこまでもついてこようとても、
最後にはきれいに消えてなくなるように、イメージを広げて、
まずは大きく息を吐くことから試してみようと思います。


 
 この絵本が、私に多くのことを考えさせたのは、アンネ・エルボー
さんの絵のせいだったのでは?と思います。
縦、横27㎝という大判な画面に、あるページでは、木の幹に
しがみつくアルシバルドが左側に大きく描かれ、右側にはたった
一言「たすけて。」だけ。また、別の見開きでは、木陰に置かれた
木のテーブルと倒れた椅子。なだらかな丘に沿って鼻を前に
突き出した格好で横たわるアルシバルド。丘は真っ赤に
塗られていて、テーブルと椅子には影が描かれています。
空は白いのに、なんだか夕方みたいなんです。

 アンネ・エルボーさんの絵、ほかの作品。
 とっても気になっています。



 

コメント (10)
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