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生ブリン2

2009-08-01 02:18:22 | その他
さて、で、ブリンはどうだったか?
これはもう文句無しでした!カーテンコールの拍手(スカルピアは第3幕は出番無いにもかかわらず、衣装も化粧もそのままで待ってたようです。エライ!)も一番大きかったし(トスカ<カヴァラドッシ<スカルピア 笑)

残念ながらロイヤル・オペラ・ハウスはそれほど音響の良い劇場というわけではなかったんですが(東京オペラシティ並み...自然な響きと言えば聞こえはいいけれど、要は残響が少なく、音が「響いてくる」というよりは直接ぶつかってくる感じ)、にもかかわらず、ブリンの厚みの有る声はホールの奥までムラなくまっすぐ満たすようでした。4晩目(5晩目だったかな?)ともなれば相当疲れてるんじゃないかと思うんですが...
しかも何と言うか、存在感がスゴイです。彼が舞台に出てくると(私はその時ブリンを見てなかったにも関わらず)、その瞬間、空気が変わったのが分かりました。

実はブリンのスカルピアはちょっとユニーク。
一般的にはスカルピア男爵は冷酷な権力者のエロ爺(笑)というイメージですが、この演出では、もっと動的で、ドロドロとした熱情を持つ一人の男として表現されてました。年齢も(一般的な設定よりは)やや若い感じ?
トスカへの想いも、ただ「一発○りたい」というよりは、本当に心の底から手に入れたがっているように見えました。
トスカの髪からリボンを1本抜き取って後生大事にしてたりするのも、変態と言われればそのとおりなんですが、かなり根深い執着を感じさせて、立場が違ってたら「いじらしい」と言えないこともないかも...(やっぱ言えないか 笑)
ただそうすると、そこまで情熱的に想われていながら、どうしてトスカが全くこれっぽっちもほだされないのか、てのが不思議になってくるんですよね。やっぱり『不気味なオッサン』風の外見がイヤだったのか(笑)

そもそもトスカはどうしてカヴァラドッシが好きなのか(あるいはスカルピアが嫌いなのか)、歌詞の中では全く言及してない(と思う)んですよ。カヴァラドッシの方はしきりにトスカの「黒い瞳」だの「情熱」だのを歌い上げてるんですが...
トスカはカヴァラドッシへの執着(嫉妬)は確かに見せるんですが、愛情とは違う気がします(少なくとも歌詞だけを見る限り)。「二人の隠れ家で甘い夜を過ごしましょう」と誘う時も、カヴァラドッシの都合とかは全く考えてなくて、どちらかというとその『状態』が好きなんじゃないかという気がしてきます。若くて(たぶん)ハンサムで(たぶん)才能有る芸術家(トスカ自身も『芸術家』)との『情熱的な関係』を愛していた(まさに"Vissi d'arte, vissi d'amore"「歌(芸術)に生き、恋に生き」)んじゃないかなと。まあ、それはそれでいいと思いますが、ただ、お話の中心は、『トスカとカヴァラドッシの恋』ではなく、『トスカとスカルピアの愛憎』のように思えてきますね。オペラを締めくくるトスカの最期のセリフも、「スカルピア、神の御前で!」ですし(笑)。「恋人とあの世で幸せになろう」じゃないんだね、っていう...
他のオペラ(とか映画とか)にもあるように、これは、イタリア人にとっていかに復讐が大事か、って物語なのかもしれません。

話が逸れましたが、この演出には他にもいくつも興味深いところがあって、楽しめました。

例えば第2幕の(というかこのオペラの)クライマックスシーン、スカルピアがトスカにのしかかって刺し殺された後、床にごろっとひっくり返ると、さっきまで白かったシャツの胸に赤いシミ。芸が細かい(笑)
だいたいにおいてロイヤル・オペラ(&ロイヤル・バレエ)の演出は、芸が細かいというか、演劇的ですね。

あと、一番印象的だったのが第1幕の終わり、スカルピアと合唱による「テ・デウム」(「警官3人、車1台、急げ」)。
第1幕の舞台セットはおおまかに言って上下2段になっていて、このシーンでは、神への賛歌を歌う人々が上段(教会の表側)、トスカへの執着を歌うスカルピアが下段(教会の奥)という配置。で、上段には煌々と照明が当てられ、下段はそれまでよりも暗めに落とされて(ここはスカルピアが主役なので、彼をライトアップするのが普通)、彼の暗い情念が比喩的に強調されてました。そして最後、双方の歌が重なって「テ・デウム」の大合唱になると、舞台全体が明るくなって華やかに(?)終幕(その中で十字を切ったスカルピアが聖母像の前に崩れるようにひざまずく)。なかなか上手い演出だと思いました。