報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「鬼の棲む宿」 4

2024-05-01 21:41:52 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月25日18時00分 天候:晴 栃木県那須塩原市某所 ホテル天長園8階・展望レストラン]

 上野利恵「さあ、ビールをどうぞ」
 愛原「ありがとう」

 夕食の見た目は、至って普通。
 温泉旅館の夕食なら、出て来るであろうというものばかり。
 固形燃料に火を灯して煮る1人鍋とか。
 今日はすき焼き鍋だった。
 他にも刺身の御造りや、タラの芽を含む天ぷら盛り合わせも出て来た。

 上野凛「火を点けさせて頂きます」
 愛原「ありがとう。……って、ええっ!?」

 体操服にブルマから、仲居の制服たる着物に着替えた上野凛。
 普通はチャッカマン辺りで固形燃料に火を点けるところだろうに、凛は爪の先から火を出して、これで着火していた。

 愛原「それ、キミの『血鬼術』かい?」
 凛「……か、どうかは分かりません。けど、何か出せるんですよ。といっても、指先から小さい火を出せるだけですよ。リサ先輩の電撃と比べたら、大したことないですね」
 愛原「いや、リサも今は電撃を出せなくなったぞ」

 静電気くらいなら出せるようだが。

 愛原「リサの前に現れた鬼の男は、口から火炎を吐いたり、その妹は逆に氷の息を吐いたりしていたが、そこまでではないか」
 凛「そうですね。なかなかそういう、攻撃的な血鬼術はちょっと……」

 そう言って、凛はチラッと母親の利恵を見た。

 利恵「凛、よそ見しないで、ちゃんと集中しなさい」
 凛「はーい」
 利恵「晩酌用に、天長会特製の地酒を御用意させて頂きますので、ご期待ください」
 愛原「ほお、それは楽しみだなぁ……」

[同日19時30分 天候:晴 同ホテル1階・大浴場]

 夕食が終わった後、私達は再び温泉に入ることにした。

 愛原「こ、今度は三助は要らないから」

 と、先に利恵に断りを入れておく。

 愛原「おー、やっぱり聞こえる」

 露天風呂にいると、すぐ近くに天長会の聖堂があるらしく、太鼓をドンドン叩く音や鐘がカーンカーンと鳴る音が聞こえて来る。
 何の儀式だか分からないが、少なくとも私達一般人が立ち入って良い場所ではない。

 愛原「温泉はいいんだよなぁ……温泉は」
 高橋「温泉はモノホンなんですよね?」
 愛原「ああ。脱衣所に効能とか書いてあったよ。アルカリ性単純温泉だそうだ」
 高橋「なるほど……。無色透明ですね」
 愛原「だからこそ、逆に肌にいいのかもな」
 高橋「そういうもんですか」
 愛原「そういうもんだよ。さて、そろそろ上がるか」
 高橋「はい」

 私達は大浴場から出て、脱衣所に出た。
 それで体を拭いて、浴衣を着た後で、牛乳を買い求める。

 愛原「風呂上がりには、牛乳だろう」
 高橋「先生の仰る通りです」

 高橋は普通の牛乳だが、私はコーヒー牛乳にした。
 温泉施設によくある瓶入り牛乳の自動販売機だ。

 愛原「さーて、早いとこ部屋に戻って、『おせっ接待』されるぞー!」
 高橋「いいんスか、先生?」
 愛原「これも『調査』だよ、『調査』」
 高橋「何の調査っスか……」

 私はコーヒー牛乳を飲み終えると、脱衣場を出た。

 男性スタッフ(半鬼)「どうぞ、愛原様。副支配人方がお待ちしております」
 愛原「ああ、分かった」

 私は高橋と一緒にエレベーターに乗り込み、7階の客室へと向かった。

 愛原「それじゃ高橋、おやすみ。お前達も『楽しんで』いいからな?」
 高橋「ありがとうございます。先生も、どうかお気をつけて」
 愛原「心配要らん」

 私は急いで自分の部屋に向かった。
 部屋に入ると、既に布団は敷かれていて……。

 上野利恵「愛原先生、お待ちしておりました」

 テーブルの上には晩酌用の酒を用意し、妖艶な熟女の笑みを浮かべた未亡人たる女将が待ち構えていた。

 利恵「さあさあ。まずは一献。『精が付き』ますよ?」
 愛原「それはありがたいな」
 利恵「もうすぐ娘達も来ますし、『楽しんで』くださいね」
 愛原「まさか温泉旅行で、『親子丼』が食えるとは思わなかったよ。しかし、本当にいいのかい?『親子丼』……いや、『母娘丼』なんて、人間の世界では鬼畜の所業とされる行為なんだが……」
 利恵「私達は鬼です。時折、人間の常識とはかけ離れたことを平気でする存在です。ですので、どうかお気になさらず……。できれば、愛原先生にも『鬼』になって頂ければと思うのですが……」
 愛原「残念ながら、俺は人間を辞めるつもりはないよ。……リサにも、前に1度言われたことがあるな」
 利恵「リサ姉様、考えることは同じのようですね」

 私は利恵と酒を酌み交わした。

 愛原「それにしても、俺は人間の女には全く相手にされないのに、どうしてキミ達は俺がいいんだ?」
 利恵「人間の女には、先生の魅力が到底理解できないのです。大丈夫。御心配無く。私は、先生の魅力を十分に理解しているつもりですよ?」
 愛原「そ、そうかね?それなら嬉しいが……」

 利恵が私に寄り掛かって来る。
 着物の胸元がはだけて、リサとは全く比べ物にならないくらいの豊かな胸の谷間が私の目の前に現れる。

 利恵「私は寂しい未亡人。どうか、今宵は私の『夫』になってください……」
 愛原「ありがたいこと言ってくれるなぁ……」

 利恵と口づけを交わそうとした時だった。
 突然、私の荷物のバッグがガサゴソと動き出した。

 愛原「んっ!?」

 まるで、中に生き物が入っているかのようだ。

 愛原「な、何だ!?」

 私は荷物に駆け寄り、バッグのファスナーを開けた。

 愛原「わぁっ!?」

 そこから飛び出して来たのは、2本の手!
 左右一対である。
 しかし、手首から先しか無い。
 そこで私は思い出した。
 あれは、リサの寄生虫が変化したものだと。
 しかし、家で留守番しているはずだが……。

 愛原「……あっ!?」

 もう1つ思い出す。
 手は2組いたはず。
 しかし、見送りをしてくれた手は1組だけだった。
 もう1組はてっきり家の中にいたものだと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。
 いつの間にか、私の荷物の中に紛れていたのだ。

 利恵「きゃっ!」

 手は左手で利恵の胸倉を掴み、右手で殴りつけた。

 利恵「リサ姉様!お許しください!お許しください!」

 利恵にはすぐにリサの手だと分かったようだ。
 1発殴りつけただけでは気が済まないのか、リサの化身たる手達は何度も殴りつけた。

 愛原「リサ!もうやめなさい!」
 右手「

 パァン!

 愛原「ぶっ!」

 右手を止めようとしたが、逆に平手打ちを食らってしまった。
 勢いでテーブルの上に、仰向けにダイブ。
 テーブルの上にあった酒やらつまみやらがメチャクチャになる。

 愛原「ぶっ!ぶはっ!」

 私はそのままテーブルから更に落ちたのだが、テーブルの上に転がった酒瓶の口が、ちょうど私の顔の上に来たもんだから、私は酒を直接浴びる形となってしまった。

 左手「

 手達は更にそんなテーブルをひっくり返したり、しばらく暴れていた。
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“私立探偵 愛原学” 「鬼の棲む宿」 3

2024-05-01 14:57:06 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月25日17時00分 天候:晴 栃木県那須塩原市某所 ホテル天長園1階・マッサージコーナー]

 私は半鬼姉妹からのマッサージを受けていた。
 今は仰向けになって、上野理子に膝枕をしてもらっている。

 上野凛「次は足ツボです。愛原先生はよくお酒をお飲みになるということで、肝臓に効くツボを押させて頂きます」
 愛原「それは助かる。……もしかして、リサみたいに手から触手を出せるとか?」
 凛「さすがにリサ先輩のような器用はことはできませんので、そこはご安心ください」
 愛原「何だ、そうか」
 凛「むしろ、サラサラの血の方がいいみたいです」
 愛原「うむ。健康の為には、血液はさらさらの方がいいってな……」
 凛「母も、血液はサラサラの方が飲みやすいと言います」
 愛原「そ、そうなのか……」

 上野利恵は完全な『鬼』だからなぁ……。
 それにしても凛は、母親が父親を食い殺してしまったことについて、何も思っていないのだろうか?
 まあ、聞かない方がいいのだろう。

 愛原「あれ?あんまり痛くない?俺の肝臓、大丈夫なんじゃない?」
 凛「いえ。全然ツボに入って行かないので、これは相当やられてますよ?」
 愛原「ま、マジか?」
 凛「そういう時は、直接啜るのです」
 愛原「ん?直接って?」
 凛「……」

 凛は舌をペロッと出すと、それが見る見るうちに細長くなっていき……。

 凛「頂きます」
 愛原「あうちっ!?」

 ブスリと肝臓辺りの反射区に突き刺す。

 上野理子「うわ、お姉ちゃん……直接啜ってる……。いいなぁ……」
 愛原「あぁあぁあ……」

 吸われてる吸われてる!
 鬼と人間のハーフに、老廃物の溜まった生き血を啜られてる!

 凛「さすがはリサ先輩の大好物……!」
 愛原「鬼の好みは俺には分からんが、リサにバレたら大変なんじゃないのかい?」
 凛「! どうか、内密にお願いします!口止め料は体で払います!」

 

 凛はそう言って、ブルマを脱いだ。
 ブルマの下は白い、スポーティーなショーツを穿いている。
 さすがは陸上部だ。

 愛原「その口止め料を受け取ったら、俺もリサに食い殺されるよ。分かったから、早くブルマを穿いて」
 凛「はい……」
 愛原「そのブルマは学校で買ったヤツ?」
 凛「はい。リサ先輩が購買で目ざとく見つけた、紺色のヤツです」
 愛原「なるほど、そうか」

 スクールカラーがグリーンの東京中央学園では、体操服も緑を基調としている。
 なのでジャージもクォーターパンツも緑色である。
 かつてのブルマや短パンも、同じ色だった。
 リサ達『魔王軍』のブルマ復活運動が実を結び、ブルマは復活したものの、廃止前のメーカーが既に製造を中止していた為に、今でも細々と製造を続けているメーカーに依頼するしか無かった。
 その為、ブルマの値段は通常のクォーターパンツよりも高い。
 従って、実際に着用しているのは『魔王軍』のメンバーやそのシンパだけである。
 その為、『魔王軍』のメンバーが卒業してしまうと、再びブルマは廃れるだろうとされている。

 凛「まあ、私は陸上部ですから、特に問題無く穿いてますけど」
 愛原「でもスパッツなんだろ?」
 凛「後で、ブルマに換えますから。リサ先輩からも、『愛原先生の御心が分からないのか!?裏切り者は処刑だ!』というお怒りを受けまして……」
 愛原「うちのリサが本っ当すいません!」

 すると突然、後ろから誰かに抱き着かれた。
 理子だった。

 理子「お姉ちゃんだけずるい。私も先生の血……欲しい……!」
 凛「理子はダメだよ!」
 理子「ヤダヤダ!欲しい欲しい!」
 愛原「少しだけならいいよ」
 理子「ほら、先生もそう言っているし!」
 凛「でも、肝臓の老廃物は私が吸い取っちゃったし……」
 愛原「ここはどうだ?ここの辺りも、随分ゴリゴリしていた。ゴリコリしてる部分は、老廃物が溜まってるんだろう?」
 凛「それはそうですけど、そこは骨盤辺りですよ」
 愛原「ということは、腰辺りじゃないか。ちょうど良かった。腰も少し痛いから、その辺りの老廃物は理子に取ってもらおう」
 理子「わーい!」
 凛「先生、やめた方が……」
 愛原「だから何で!?」

 ガブッ!(理子、愛原の足に噛み付く)

 愛原「いっでーっ!?」
 凛「理子、まだ舌変化ができないんです」
 愛原「それを早く言えーっ!」

 危うく鬼に捕食されるところだった。

[同日18時00分 天候:晴 同ホテル8階・展望レストラン]

 天気が良ければ、窓から那須連峰が見えるという。
 今はだいぶ日が傾いて、太陽がその那須連峰に沈もうとしていた。

 愛原「逢魔が時だな……」

 私は窓の前に立ち、その下を見た。
 窓の下はホテルのエントランスがあり、ロータリーが見える。
 そこに接続する県道も、僅かに街灯が付いているが、とても薄暗い。
 夜しか活動できない妖怪達がそろそろ現れ、非力な子供達などは不幸にもエンカウントしてしまうと、連れ去られ、食い殺されるという。
 それが逢魔が時だ。

 上野利恵「いかがですか?窓から那須の山並みが一望できるんです」
 愛原「ああ。素晴らしい景色だ。まさかとは思うが、あの山の方から鬼達が来るなんてことは無いだろうな?」
 利恵「そう思いまして、何名かが様子を見に行っております。少しでも異常を発見しましたら、こちらに報告が来る手筈になっております」

 そう言って利恵は、自分のスマホを取り出した。

 利恵「先生方の御安全は、私共で確保させて頂きます。ですので、どうぞご安心ください」
 愛原「それは助かる」
 利恵「それでは、御夕食の準備が整いましたので、どうぞお席まで……」
 愛原「ああ」

 高橋とパールは、喫煙所に行ってしまっている。
 なので私が先に、食卓に就くことになる。
 テーブルの上には、『701 703 愛原様』という札が置かれていた。
 数字は部屋番号だろう。
 ホテルの夕食ということもあり、それはそれは立派な和膳が運ばれてきた。
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