報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「帰りの旅路」

2024-05-06 23:14:35 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月26日16時55分 天候:晴 栃木県那須塩原市某所 ホテル天長園前県道上→関東自動車N3系統車内]

 リサ「それでねー、鬼をバッタバッタと倒したの!最後には奴らが持ってる金棒奪い取って……」
 愛原「あー、分かった分かった。そろそろバスが来るから、一旦切るぞ」
 リサ「えー……」
 愛原「また後で電話するから」
 リサ「絶対だよ!?」
 愛原「もちろんだ。じゃあな」

 私はスマホの通話終了ボタンを押した。
 意識を取り戻したリサの回復力は早く、体調不良は見受けられなかった。
 強いて言うなら2~3日の間、意識が無かったこともあり、体の節々が痛くなっていたり、頭がボーッとしていたくらいか。
 昼食を終えた私は大浴場に行って最後の温泉を堪能したり、売店で買い物したり、天長会の展示コーナーに行ったりして時間を潰した。
 結局、高橋とパールが起きて来たのは15時過ぎになってからだった。

 上野利恵「申し訳ございません。駅までお送りできなくて……」

 ホテルの前まで見送りに来た上野利恵が申し訳なさそうに言った。

 愛原「いやいや、しょうがない。車を壊されたんじゃねぇ……」
 上野凛「先生、リサ先輩にLINEとかしていいんでしょうか?」
 愛原「いいと思う。リサも施設で1人ぼっちだから、むしろ『魔王軍』からLINEをしてやると喜ぶかもしれんよ?」
 凛「ありがとうございます!早速、送ってみます」
 愛原「ああ」

 そんなことを話していると、バスがやってきた。
 ヘッドライトを灯している。
 オレンジ色のLEDによる行先表示は、『黒磯駅経由 那須塩原駅西口』と書かれていた。

 愛原「おーい!乗せてくでー!」

 私がバスに向かって大きく手を振ると、バスは左ウィンカーを上げて私の前で止まった。
 そして、引き戸式の中扉を開ける。

 愛原「それじゃ、どうもお世話になりました」
 利恵「是非またお越しくださいませ」
 凛「先生、ありがとうございました」
 上野理子「ありがとうございました」
 愛原「ああ、それじゃ」

 私達はバスに乗り込んだ。
 ICカードを読取機に当てると、空いている後ろの席に座る。
 乗客は私達だけであり、バスは中扉を閉めて発車した。
 そして、見送りをしてくれた上野母娘に向かって手を振った。
 母娘も手を振り返してくれた。
 バスの車内に西日が差し込む。
 真冬ならもう真っ暗な時間帯だが、だいぶ日が長くなった。
 バスには数人の先客が乗っている。

 愛原「何とか、無事に帰れそうだな」
 高橋「ええ。タップリ寝させてもらいましたが、腹減りましたね」
 愛原「オマエ達だけ昼飯食ってないもんな」

 一応、売店で買ったスナック菓子とかは食べていたが。

 高橋「そうっス」
 愛原「ちょうど新幹線の発車時間が18時過ぎだ。駅弁でも買って、それを夕飯にしよう。俺が奢ってやるよ」
 高橋「いいんスか?ありがとうございます!」
 パール「ありがとうございます」
 愛原「いやいや、いいよ」

 何だかかんだ言って、皆無事……どころか、無傷で良かったよ。

[同日17時40分 天候:晴 同県那須塩原市大原間 JR那須塩原駅→東北新幹線ホーム]

 バスは渋滞に巻き込まれたりはしなかったので、多分ダイヤ通りに走れたんだと思う。
 終点に着く頃には、私達以外にも10人以上の乗客が乗っていた。
 西口のバスプールに到着し、前扉が開く。

 高橋「うわ、マジか……」
 愛原「どうした?」
 高橋「このバス、1230円も料金取るんスよ……」
 愛原「まあ、田舎のバスだし、そこそこの時間乗ったから、それくらい取るだろ」

 とはいうものの、手持ちのICカードで、路線バスで一気に4桁引かれるのは、なかなか無い経験だとは思う。
 幸い誰も残額不足で弾かれることはなかったが、駅に入った時に、高橋が自分のICカードをチャージしていた所を見ると、高橋はギリギリだったらしい。
 その間、私は指定席券売機に行き、新幹線のキップを買うことにした。

 愛原「指定席、空いてるかな……。お、何とか空いてた」

 郡山始発とはいえ、各駅停車タイプの“なすの”だと、直前でも席が取れるようだ。
 まあ、普通の日曜日だからというのもあるだろう。

 愛原「これで良し。キップは1人ずつ持とう」
 パール「ありがとうございます。今度は水色のキップなんですね」
 愛原「ああ。指定席券売機や“みどりの窓口”で買うと、この色のキップだな」
 パール「先生は窓側へどうぞ」
 愛原「ああ、ありがとう」

 3人席横並びで購入した。
 その後、ICカードにチャージが終わった高橋と合流する。

 愛原「その前に、弁当だな」

 改札口の横にあるNewDaysに立ち寄った。
 そこで夕食となる弁当を買う。
 お土産も売っていたが、ホテルで購入してしまった為、ここでは買わない。
 他に、つまみや缶ビールも購入した。

 愛原「とにかく、リサの経過が良好で良かった」
 高橋「そうっスね」

 食料や飲み物を購入し、それからやっと改札の中へと入る。

 高橋「先生、ちょっと一服して来てもいいですか?」
 愛原「ああ、いいよ。

 喫煙所はホームにある為、ホームに上がる。

 愛原「……日が落ちて来ると、寒くなってくるなぁ……」
 高橋「山が近いからっスかね?」
 愛原「そうかもな」

〔「今度の東京行きの電車は、18時3分発車の“なすの”280号、東京行きです。終点、東京までの各駅に止まります。電車は、長い17両編成で参ります。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車と11号車。普通車の指定席は、7号車と8号車です。尚、10号車と11号車の間は通り抜けできませんので、ご注意ください。……」〕

 私は指定席特急券と乗車券が1枚になったキップを片手に、7号車が来る位置に並んだ。
 自由席車両の割合が多い列車なので、指定席に乗る客は少ないもよう。
 また、グランクラスやグリーン車に並んでいる客は殆どいなかった。
 こうしている間にも、リサからの鬼LINEが来る。
 移動中は通話ができないことを覚えていて、それならばとLINEを送ってくるのだ。
 話し相手なら『魔王軍』にお願いしたのだが、それにしてもリサ、スマホが使えるほどに回復したのだろうか?
 列車が来るまでの間、そういう確認をしておこう。
 尚、冒頭のリサの話は、意識が無くなっている間に見ていた夢の話である。
コメント
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