報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「東京湾フェリーの旅」 3

2024-05-28 20:16:05 | このブログについて
[4月9日10時30分 天候:晴 千葉県富津市 東京湾フェリー“かなや丸”船内]

 船は数分遅れで、金谷港を出港した。
 岩壁の釣り客の見送りを受けて、東京湾内の航路を進む。

〔♪♪♪♪。本日は、かなや丸に御乗船頂きまして、真にありがとうございます。皆様に、船内の御案内を申し上げます。売店、カフェテリアは2階客室フロアに。お手洗いは、1階客室フロアにございます。航海中、車両甲板は立入禁止です。また、客室内は禁煙となっておりますので、宜しく御協力お願い致します。本船では、常に船旅の安全に努力致しておりますが、万一、本船に非常事態が発生した場合は、非常ベル、船内放送などにより、皆様にお知らせ致しますので、その際は必ず係員の指示に従って、行動してくださいますよう、お願い致します。また、救命胴衣の保管場所やその着け方など、客室内に掲示しておりますので、お確かめください。ありがとうございました〕

 リサ「わたしが暴走したら?」
 愛原「まあ、それも非常事態の1つに入るだろうな。エブリンがそうだったんだから」
 リサ「まあ、研究所に連れて行かれると分かったら、暴走したくもなるよねぇ……」
 愛原「お前は連れて行かないから、暴走するなよ?」
 リサ「分かってるよ。わたしは、あんな欠陥特異菌の化け物じゃないんだし。崇高なるGウィルスの鬼だよ」
 愛原「それも制御に失敗すると、怖いんだよなぁ……。まあいいや。食べ終わったら、ちょっとデッキに出てみないか?」
 リサ「そうしよう!」

 食べ終わった空き容器などはゴミ箱に捨てて、洗面所で手を洗った。
 いや、サイダーが噴出した際、やっぱり少し手に掛かったからだ。

 リサ「それ、塩水?」
 愛原「いや、真水だよ」
 リサ「船のトイレの水は、海水を使うって聞いたことある」
 愛原「あー、そうかもしれないな」

 この船はどうだか知らないが。
 とはいえ、大なり小なり、船内では真水は貴重だろう。
 豪華客船だって、大枚はたいて乗船している客は入浴が制限されることはないし、何なら大浴場やプールまであるくらいだが、船員は船長などの高級船員以外はシャワーのみと聞いたことがある。
 船首甲板は立入禁止なので、船尾甲板に出てみる。

 リサ「おー!風が気持ちいい!」
 愛原「こういう経験、内陸に住んでたら滅多に無いな」

 

 愛原「八丈島に行く時は夜行船だったから、のんびり海を眺めるなんてことはできなかったな」

 辛うじてレインボーブリッジの下を潜る所は見たが。
 海風がビュウッと時折強く吹いてくる。

 

 愛原「リサ、スカート気をつけろよ?」
 リサ「うん、分かってる」

 リサはそう言って、片手でスカートを押さえた。

 リサ「ねぇ、先生!わたしを撮ってよ」
 愛原「いいよ」

 リサは手すりに寄り掛かって、ポーズを取った。

 愛原「あいよ!」

 そして、リサを撮影する。

 リサ「先生と船旅なうって、『魔王軍』のタイムラインに載せるんだ」
 愛原「そういうことか。レイチェルには連絡したのか?」
 リサ「今、久里浜港に向かってるって」
 愛原「そうか。久里浜駅から少し離れてるから、駅からバスで行く方法とか分かるかな?」
 リサ「えっ?何か、『船で行く』みたいなことを言ってたよ?」
 愛原「えっ!?」
 リサ「まさか、軍艦で向かったりして?」
 愛原「いや、それは無理だろう。東京湾フェリーの港に、軍艦は入港できんぞ?」
 リサ「そうだよねぇ……」

 それとも何か?
 上陸用舟艇の操縦訓練でもやる気なのか?
 それはそれで、ちょっと見て見たい気もするが。

 愛原「……少し肌寒いな」
 リサ「そう?」

 日に当たれば暖かいのだが、まだ海風は冷たさを感じる。

 リサ「わたしは涼しくていいけどね」
 愛原「お前は体温が高いから、暑がりだもんなぁ……」
 リサ「そうかな?」
 愛原「ま、とにかく船室に戻ろう」

 船室に戻ろうとすると……。

 リサ「あっ、カモメ!」

 というより、ウミネコだ。
 まあ、ウミネコはカモメ科の鳥なので、間違いではない。
 もちろん、鳴き声が猫の鳴き声に似てるからその名が付いたというのは、誰でも皆知っていることである。

 愛原「ウミネコだな。都内でも、海に近い所ではよく見かける」
 リサ「美味しそう!おらぁーっ!!」
 愛原「狩るな!」

 リサ、いきなり鬼形態に変化し、長く尖った爪でウミネコを捕まえようとした。

 ウミネコ「クェッ!?」

 突然のリサの行動に驚くウミネコ。
 どうやら、魚を咥えていたらしく、驚いて魚を吐き出してしまった。
 それが甲板に落ちる。

 リサ「美味しそうな鳥肉ーっ!待てーっ!」
 愛原「美味そうな魚だな。何だこれは?」
 高橋「何やってんスか、先生?」
 愛原「これはアイナメかな?」
 高橋「どうですかね?」
 パール「それより、リサちゃんが狩りしてますけど?」
 リサ「捕まえたーっ!」
 ウミネコ「ギャー!ギャー!」
 愛原「放してあげなさい!」

 昼食は海鮮を楽しむつもりが、危うく鳥肉を食わされるところだった。
 私はリサを船室に連れて行った。

 高橋「先生、こいつは暫く、外に出さない方がいいですね」
 愛原「久里浜港に着くまでは、ここで大人しくしてるように!分かった?」
 リサ「はーい……」

 2階客室の後ろ半分は売店とカフェテリアになっているが、前半分は客席が並んでいる。
 そのうち、左舷と右舷の窓側はボックスシートになっていて、あとは進行方向の座席が並んでいる。
 やや背もたれは低く、リクライニングはしない。
 ボックスシートは既に先客で埋まっていたので、真ん中の座席に座った。

 愛原「お前達はどこに行ってたんだ?」
 高橋「喫煙所で一服と、1階の客室っスね。あそこ、自販機コーナーあるんで」
 愛原「そうなのか」

 船尾甲板の別の場所には喫煙所がある。
 また、2階客室には売店があるが、1階は1階で自販機コーナーがあるらしい。
 便によっては売店の営業が無い場合もあるので、その時は自販機コーナーを利用することになるのだろう。
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“私立探偵 愛原学” 「東京湾フェリーの旅」 2

2024-05-28 17:38:37 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月9日10時10分 天候:晴 千葉県富津市金谷 東京湾フェリー金谷港→かなや丸船内]

 

 ターミナルの建物に入った私達は、券売機で乗船券を買い求めた。
 2023年現在のフェリー運賃は、大人片道900円である。
 これは徒歩客用の運賃であり、車両の運賃ではない。
 高橋とパールは、そういった車両の航送料金についても注目していた。

 愛原「バイクを買ったら、2人で新婚旅行に行くんだろ?途中、こういう船に乗るのもいいかもな?」
 高橋「そうっスね」

 尚、車両航送用のキップは券売機ではなく、有人窓口で購入する形になっているようだ。
 車検証の確認などもあるからだろう。
 ターミナルの中は、売店やレストランもある。
 ここで、“びわサイダー”なる物を買って飲んでみる。
 千葉県は、枇杷の産地でもあるからだ。

 愛原「うん、枇杷だ」
 リサ「枇杷……初めて飲むなぁ」
 愛原「そうなの?」
 リサ「うん。でも美味しい」
 愛原「東京でも枇杷の木くらいはあるからな。警備員やってた頃、派遣先の会社の敷地内に枇杷の木があって、収穫を手伝ったもんだ」
 リサ「へえ!」
 愛原「豊作だった年は籠に入り切らなくて、帽子の中に入れたよ。で、そこの会社の社長さんが、『帽子に入れた分は全部持ってって』なんて言ってくれたりしてさ」
 リサ「帽子って、藤野の守衛さん達が被ってるヤツ?」
 愛原「そう。官帽って言うんだ」
 リサ「ヘルメットを被ることもあるよね?」
 愛原「まあ、現場によってはな。それがどうした?」
 リサ「いや、ヘルメットの方が大きいから、枇杷もいっぱい入るだろうなぁ……って」
 愛原「意地汚いことを考えるな!」

 乗船できるようになったらしいので、私達は徒歩乗船口に向かった。

 

 ガラス扉の奥、スロープを昇って進むと……。

 

 まるで、自動改札機が設置される前の駅の改札口のようなブースが並んでいる。
 そこに係員が立っていて、乗客のキップを確認していた。

 リサ「おー!これから乗るんだ!」
 愛原「ゲームで言えば、『1度乗船すると、ターミナルには戻れません。船に乗りますか? はい いいえ』だな」
 リサ「『はい』で!」
 愛原「そうか。高橋達もいいか?」
 高橋「うっス!」
 パール「大丈夫です」

 私達は乗船することにした。
 乗船券を係員に渡すと、これまた駅の改札印のようなスタンプを押して返してくれる。
 JRの改札印は赤色だが、こちらのフェリーのは黒いインクである。
 タラップを渡って、船内に入った。

 リサ「先生と船旅をするのは、2回目だね」
 愛原「2回?そうか。八丈島に行った時にも乗ったもんな」
 リサ「そうそう!」

 八丈島旅行。
 往路は船舶を利用し、復路は旅客機を利用した。
 リサが陸路以外の交通を利用しても大丈夫かという実験も兼ねており、両方とも問題無く乗れたので、リサには船舶と航空機の利用も解禁された。
 但し、パスポートは発行できないので、国内線オンリーだが。
 船尾甲板から乗り込む形となる。

 愛原「2階に行くか」
 リサ「行こう行こう!」

 急な階段を昇る。
 甲板側の階段は急傾斜だが、船室内の階段は普通である。

 

 愛原「かなや丸というのか」
 リサ「船底倉庫で、ドアをドンドン叩きながら『メーデー、メーデー』って……」
 愛原「お前が化け物に変化したら、そうしてくれ」

 客室2階の船尾甲板寄りは、売店とラウンジがある。
 お土産物も売ってたりするが、他にも食べ物や飲み物も扱っている。

 愛原「さすがは横須賀市に向かう船だ。横須賀海軍カレーとか売ってる」
 リサ「本当だ。お土産に買って行かない?」
 愛原「そうだな……。多分、久里浜港側にも売店はあるだろう。そっちでも売ってるだろうから、そっちで買ってみるか」
 リサ「おー!……でも、いま食べたい」
 愛原「おいおい」
 リサ「いま食べれるカレー、発見!」
 愛原「マジで今食うのか……」

 私は私で、カップに入ったアジの竜田揚げとサイダーを買ってみた。

 愛原「これ、アレだ。甲板でブシュッと開けよう」
 リサ「そうなの?」
 愛原「作者が友人と取材で乗り込んだ際、サイダーが吹き出して大変なことになったらしい」
 リサ「ほーほー」

 私は船尾甲板に出て、サイダーを開けた。
 案の定、泡が吹き出すが、予備知識のあった私は、少なくとも船室内で零すというような失態はせずに済んだ。

 

 愛原「本当に買うとは……」
 リサ「いただきまーす!」

 私とリサはラウンジ内のテーブルに向かい合わせに座った。

 愛原「あれ?高橋達は?」
 リサ「デッキに出てるよ。タイタニックごっこでもするんじゃない?」
 愛原「船首甲板は立入禁止だったと思うが……」

 後で怒られるようなことをしなければいいのだが……。
 先ほど乗り込んだタラップが、窓の下に見える。
 まもなく出港時間となる為か、係員がタラップを引っ込めていた。
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