報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「愛原の帰京」

2021-03-19 19:58:21 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月12日14:16.天候:雨 東京都千代田区丸の内 JR東北新幹線212B列車8号車内→JR東京駅21番線ホーム]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 ようやく東京に帰ることができた。
 車窓から見える通勤電車が、まるで出迎えてくれるかのように並走している。
 しかし、福島県内は辛うじて太陽が見えるほどの晴れ間があったのだが、都内は雨だった。
 分厚い窓ガラスには、いくつもの水滴がついては風圧で右から左に流れている。

〔「長らくの御乗車お疲れさまでした。まもなく終点、東京、東京です。21番線に入ります。お出口は、右側です。お降りの際、車内にお忘れ物の無いよう、今一度よくお確かめの上、お降りください。……」〕

 愛原:「リサと斉藤さんが迎えに来てくれているみたいなんです」
 高橋:「ちっ、余計なことしないで、家にいりゃあいいものを……」
 善場:「ですが、これは喜ばしいことです。『2番』のリサが如何に愛原所長を信頼して『制御できている』ことの表れですからね」

 と、善場主任が味気ないことを言う。
 しかし、その口元に微笑が浮かんでいたことから、あえてわざとそういう言い方をしたのだと分かった。
 そして、列車がホームに滑り込む。
 限られた有効長で長い編成を押し込む為、東京駅の新幹線ホームは曲がっている。
 もっとも、名鉄名古屋駅のようにS字に曲がっているわけではない。

〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。21番線の電車は折り返し、14時28分発、“はやぶさ”29号、新函館北斗行きとなります。……」〕

 私は東京駅のホームに降り立った。
 福島県会津地方では見られた雪も、ここでは一切見られない。

 愛原:「無事に帰って来られたなぁ……」
 高橋:「そうですね。先生の勝利です」
 愛原:「だから俺は何もしてないって」

 そんなことを話していると……。

 リサ:「先生!」

 改札口で待っているものと思っていたリサが、斉藤さんと共にホームにいた。

 愛原:「リサ!」
 リサ:「迎えに来たよ!」
 愛原:「わざわざホームまで来たのか」

 私はリサに抱き付かれた。

 斉藤:「ちょっ、リサさん!」
 善場:「こらこら。公共の場ですよ」
 愛原:「よく入場券買うって分かったな?」
 斉藤:「私が教えてあげたんです。リサさんがどうしてもって言うので……」

 斉藤さんは入場券を見せながら言った。

 愛原:「あ、そう。悪かったね」
 善場:「愛原所長、事務所までよろしいですか?書類手続きがありますので……」
 愛原:「あ、すいません。このコ達はどうしましょう?」
 善場:「事務所の中には入れませんので、先に帰ってもらうか……」
 リサ:「えーっ?一緒に行きたい」
 善場:「事務所の中には入れないのよ?」
 リサ:「先生達が終わるまで待ってる」
 善場:「……仕方ないですね」
 斉藤:「はい!私も行きます!」
 善場:「あなたはもっと帰っていいのよ」
 斉藤:Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン

 さすがはキャリア組政府特務機関エージェント、善場優菜の氷の言葉が炸裂した!

 リサ:「私、サイトーと一緒に待ってる」
 善場:「分かりました。とにかく、移動しましょう」

 私達は新幹線ホームから移動した。
 新幹線改札口を出て在来線コンコースに行き、そこから山手線ホームに向かった。

[同日14:30.天候:雨 JR東京駅5番線ホーム→JR山手線1313G電車11号車内]

〔まもなく5番線に、品川、渋谷方面行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックの内側までお下がりください。次は、有楽町に止まります〕

 山手線ホームに移動して電車を待つ。
 山手線では最新型のE235系電車が滑り込むようにしてやってきた。
 ギッという車輪の軋む音がするのは、如何に最新型車両であっても、雨の日でレールが濡れている時には車輪が空転するからだ。
 それでも従来の電車よりは揺れは少なくなり、オーバーランもしなくなった。

〔とうきょう~、東京~。ご乗車、ありがとうございます。次は、有楽町に止まります〕

 最後尾の車両に乗り込む。
 リサというBOWが一緒にいる時は、指定席などの止むを得ない事情がある場合を除いて、基本的に先頭車か最後尾に乗ることとなっている。
 これは万が一リサが暴走した時に、BSAAが外から攻撃する場合、攻撃目標にしやすい為である。
 平日とはいえ昼下がりの時間帯は山手線と言えども、車内は空いている。

〔「各駅に停車致します山手線外回り、品川、渋谷方面電車です。有楽町、新橋でお降りのお客様は、この電車をご利用ください。お隣の京浜東北線は只今、全ての電車で快速運転を行っております。有楽町、新橋には止まりませんのでご注意ください。まもなく発車致します」〕

 ホームに陽気なテクノポップ(?)な発車メロディが大音量で流れる。

〔5番線の山手線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 チャイムが鳴りながらドアが閉まる。
 チャイムの音色は都営地下鉄新宿線の東京都交通局の車両のそれと同じだ。
 尚、乗り入れて来る京王電車のドアチャイムはJR東海のそれと同じなのだという。
 ドアが閉まって走り出す時は、空転はしない。
 昔の電車は走り出す時も空転していたというが、さすがに今現役で走っている通勤電車で、走り出す時も車輪が空転することは無いのではなかろうか。

〔この電車は山手線外回り、品川、渋谷方面行きです。次は有楽町、有楽町。お出口は、左側です。地下鉄有楽町線と地下鉄日比谷線はお乗り換えです〕
〔This is the Yamanote line bound for Shinagawa and Shibuya.The next station is Yurakucho.JY30.Please change here for the Yurakucho subway line and the Hibiya subway line.〕

 リサ:「あ、そうだ。先生」
 愛原:「何だ?」
 リサ:「卒業旅行はどこに連れて行ってくれるの?」
 愛原:「斉藤社長から依頼があるかどうかだな……」

 私はチラッと斉藤さんを見た。

 斉藤:「さっきお父さんに聞いたら、先生の事務所に依頼書を送ったって言ってましたよ?」

 斉藤さんが自分のスマホを私に見せながら言った。
 何気に斉藤さんのスマホ、新しくなっている。
 卒業祝いで新しいiPhoneを買ってもらったのだろうか。
 リサは特に欲しがっているわけではないようだが……。

 愛原:「そうなのか。帰ったら確認してみよう」
 斉藤:「多分、先生の好きな温泉地のどこかだと思います」
 愛原:「はは……。何だか俺の趣味に付き合わせるみたいで悪いな」
 高橋:「俺は先生の行かれる所なら、どこへでも行きますよ」
 リサ:「私も」
 斉藤:「私はリサさんの行く所なら、どこへでも行きます」

 事実上、私の希望次第となるようだ。
 とはいえ、最終的な旅行先の決定権は斉藤社長にある。
 そもそも最初の選択肢を出す権利からして、斉藤社長にあるのだ。
コメント (3)
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“愛原リサの日常” 「リサと出迎え」

2021-03-19 15:42:34 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月12日08:00.天候:雨 東京都墨田区内某所 東京中央学園墨田中学校]

 斉藤絵恋:「おはよう、リサさん」
 リサ:「おはよう、サイトー」
 絵恋:「いよいよ、今日で最後だね」
 リサ:「? 明日、大掃除があるし、卒業式は15日だよ?」
 絵恋:「あ、いや、そういうことじゃなくて、普通に登校するのが最後ねってこと」
 リサ:「ああ」

 リサと絵恋は昇降口で上履きに履き替えた。

 絵恋:「この制服を着るのも、いよいよ最後……。明日は大掃除だから、ずっとジャージだし」
 リサ:「卒業式で着る。それまで」

 中高一貫校なので、中等部の生徒の大半は高等部へそのまま上がるのだが、通う校舎は変わるし、しかも東京中央学園は完全一貫校ではない。
 中等部を卒業して他の高校へ通う者や、高等部から入学してくる者も一部にはいる。
 その為、中高一貫校でも、中等部3年生の終わりには卒業式を行うし、高等部1年生最初の行事として入学式を行うのである。

 絵恋:「リサさん、今日ヒマ?」
 リサ:「今日は先生達を迎えに行く」
 絵恋:「愛原先生?今日退院なの?」
 リサ:「ん。今はまだ病院だろうけど、午前中には電車に乗って、昼過ぎに東京駅に着くはず」
 絵恋:「そうなの。じゃあ、私も一緒に行っていい?」
 リサ:「いいよ」
 絵恋:「萌えぇぇぇぇっ!!」
 リサ:(何故そこで悶絶?!)

[同日13:24.天候:雨 同区菊川 都営バス菊川駅前停留所]

 学校が終わったリサ達は昼食を取ると、一旦帰宅した。
 私服に着替えてから、また外出する。
 バス停へ向かう途中、信号待ちをしている間に絵恋が自分の傘を閉じ、リサの傘の中に入って来る。

 リサ:「何してるの?」
 絵恋:「あら、リサさん、知らないの?相合傘って言うのよ」
 リサ:「いや、知ってるけど、何でわざわざ……」
 絵恋:「これも愛の証なのよ」
 リサ:「愛の証……」

 リサは愛原と自分が相合傘をしている様子を想像した。

 リサ:「むふー。悪くないかも」
 絵恋:「でしょ?でしょ?このままバス停まで行きましょ!」

 バス停に行き、バスを待つ。

 絵恋:「新庄に頼めば、丸の内から飛んで来てくれるはずよ?どうせお父さんが仕事の最中は、地下駐車場でヒマしてるはずだから。何なら、タクシーチケットももらってるから、タクシーで東京駅まで行っても……」
 リサ:「別にいいよ。バスで行こう」
 絵恋:「リサさんがそう言うならぁ……」

 そんなことを話しているうちに、都営バスがやってきた。
 塗装はオリジナルのもので、車種自体も珍しいものではなく、全国的に見られるオーソドックスなノンステップバスである。

 運転手:「東京駅丸の内北口行きです」

 都営バスの中でもローカル線に当たる東20系統。
 時刻表で見ても、1時間に1本しか無い。
 前扉から乗って、先にPasmoで運賃を払った。
 そして、後ろの2人席に腰かけた。
 路線バスの2人掛け席は大の大人2人が座ると狭いが、中学生の少女2人が座るのにはちょうど良いサイズだった。

〔発車致します。お掴まりください〕

 前扉と中扉両方が同時に閉まり、バスが走り出す。
 外は雨なので、大きなフロントガラスの大きなワイパーが規則正しい動きで、左右に扇を描きながら雨を拭き取っていた。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは東京都現代美術館、門前仲町、日本橋経由、東京駅丸の内北口行きでございます。次は森下五丁目、森下五丁目でございます。……〕

 絵恋:「ねえ、リサさん」

 通路側に座っている絵恋が、窓側に座っているリサに話し掛ける。

 リサ:「なに?」
 絵恋:「卒業旅行なんだけどォ、どこがいいか決めた?」
 リサ:「卒業旅行……」
 絵恋:「ほら、卒業式が終わって、高等部の入学式まで2週間くらい春休みじゃない?」
 リサ:「何か、先生が、『斉藤社長から依頼があるだろう』みたいなこと言ってた」
 絵恋:「そのまさかなのよォ!お父さん、また『仕事が忙しい』って言って、旅行に連れてってくれないの!」
 リサ:「いや、春休みに休める大人っていないと思う。今月の祝日、20日の一日だけだし。しかも土曜日。勿体ない。金曜日か月曜日なら3連休なのに」
 絵恋:「そうなのよねぇ」
 リサ:「サイトーんち、金持ちでしょ?サイトーんちの金の力で、今月もう一日くらい休みを作れない?」

 リサがメチャクチャなことを言う。

 絵恋:「ごめんなさい。うちの一族、情けないから、誰一人として国会議員になってないのよォ!伯父様は公明党の推薦外されて落選したし、叔母様は万年埼玉県議会議員だし」
 リサ:「いや、親戚に県議会議員がいるだけでも凄いと思う」
 絵恋:「ありがとう!リサさん!」
 リサ:「(サイトーの叔母さん、何党の議員なんだろう?まあいいや。そんなことより……)それで、サイトーのお父さん、先生にどこへ連れてけって依頼するんだろう?」
 絵恋:「分かんないけど、多分国内だと思うわ。お父さん、色んな企業と取引している上、自分も株主だったりするし、色々と優待券とか持ってるみたいだけど……」
 リサ:「さすがに全国のホテルの優待券をトランプのようにして、先生に引かせた時には私もヒいた」
 絵恋:「うん、あれは私もドン引きしたわ。あの時はさすがのお母さんも、思いっ切り突っ込んだからね。もちろん私も」

 妻や娘に強いツッコミを入れられたら、ヘコむだろう。

 リサ:「今回も温泉だろうなぁ。先生、温泉好きだから」
 絵恋:「それ関係の優待券もあるから、それを絶対に使わせるわね。愛原先生に行き先を決めさせるだろうから、決まったら教えてちょうだいね」
 リサ:「ん。サイトーは行きたい所とか無いの?」
 絵恋:「いいのよ。私はリサさんの行く所なら、どこへでも行くから。そう、地獄の果ての果ての果てまでも」
 リサ:(サイトーにバーサーカー状態で追跡されたタイラント君、逆に怖かっただろうなぁ……)

[同日13:56.天候:雨 東京都千代田区大手町 都営バス呉服橋停留所]

〔ピンポーン♪ 次は呉服橋、呉服橋でございます。地下鉄大手町駅、東京駅日本橋口へおいでの方は、こちらでお降りください。次は、呉服橋でございます〕

 リサ:「ん、ここで降りよう」

 リサは降車ボタンを押した。

 絵恋:「そうねぇ。東北新幹線なら、終点まで乗っても歩く距離はそんなに変わらないかもね。それに、雨のせいか、段々道が混んで来たし……。渋滞に巻き込まれる前に降りた方がいいかもね」
 リサ:「ん、やっぱり」

 バスは停留所の名前にもなっている呉服橋交差点を越えた。
 そして、JRバスの降車場ではなく、永代通り沿いのバス停に停車する。

〔「呉服橋です」〕

 バスを降りると、すぐに傘を差した。

 リサ:「先生とお兄ちゃんの分もあるから大変」

 リサは自分の傘の他に、2本の傘を持っていた。

 絵恋:「さすがに帰りはタクシーじゃない?」
 リサ:「どうだろう?」

 そんなことを話しながら、2人は多くのサラリーマンが行き交う永代通りから東京駅日本橋口のロータリーへと入って行った。

 
(東京駅日本橋口。ロータリーはJRバスの到着場の為、多くのJRバスが停車している。尚、“やきそばエクスプレス”もここに到着する。聳え立つビルはJR東海丸の内中央ビル)
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