報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「リサにも訪れる怪異」

2021-03-31 21:01:22 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月21日02:00.天候:晴 静岡県富士宮市 かめや旅館4Fリサの客室]

 リサ:「……!?」

 リサは夢を見て目が覚めた。
 それは自分がBOWとして、人間を襲う夢。
 どこかのヨーロッパの古城みたいな所で、リサは第1形態に変化し、迷い込んだ人間を追い回していた。
 もちろん、ただの夢で、自分は古城になど行ったことは無い。
 いざ人間に爪を振り下ろそうとした時、目の前の視界が開けて、自分は断崖絶壁から真っ逆さまに落ちた。
 そこで目が覚めた。

 リサ:(オリジナルの人とシンクロしたのかな……)

 アメリカのオリジナル版リサ・トレヴァーも、古い洋館内を徘徊し、母親の遺体を見つけた後は絶望に駆られて、崖から飛び下りたという。
 但し、オリジナル版は普通に歩く時は緩慢なものであり、普通の人間が狙われても、全速力で逃げれば追い付かれることはない。
 しかし洋館の内外を熟知していたオリジナル版リサは、先回りすることができた。
 こっちの日本版リサは、素早い動きで闇雲に追い掛けるだけだ。

 リサ:(トイレ……)

 リサは周りが寝静まっているのを見て、起こさないようにそっと布団から出た。

 愛里:「鬼……怖い……」

 栗原愛里が布団の中でうなされている。
 寝る前に怪談披露会をしたからだろう。
 或いはリサにイジメられた記憶からか。

 リサ:(さすがに悪い事したか……)

 リサは極力愛里からは離れて、部屋の入口に向かった。
 愛里に近づこうものなら、熟睡しているはずの栗原蓮華が刀を抜いて襲って来そうな感じがしたからだ。
 物音を立てないように、部屋の外に出る。
 廊下はさすがに真夜中だからか、照明は少し落とされていた。
 しかし常夜灯が至る所で点灯しているので、暗いわけではない。
 廊下に出てトイレに向かうと、男女トイレとも照明が落とされていた。
 もちろん、ドアを開けてすぐ横にスイッチがあるのは知っているし、リサほどのBOWなら照明など点けなくても用が足せる。
 だが、さすがに後から来た人がびっくりするだろうからと、リサは照明を点けた。
 と、その時、バシューッ!という音と共に、隣の男子トイレから水の流れる音が聞こえて来た。
 先述した通り、男子トイレも照明が消えている。

 リサ:「!……あ、そうか」

 リサは事務所のトイレのことを思い出した。
 最近の男子トイレの小便器は水を流す時、センサー式になっている。
 そのセンサー式の場合、利用が無くても、一定時間ごとに自動で水が流れるシステムが組み込まれていることが多々ある。
 そういう場合、便器によっては『人がいなくても水が流れることがあります。配管のつまりや臭いを防ぐためです』なんて書いてあったりする。
 事務所の男子トイレの小便器もこのタイプで、愛原と高橋が、『知っていても、いきなり勢い良く水が出るもんだからびっくりする』なんて話していたのを思い出した。
 もちろんリサは男子トイレになど入ったことはないが、今のが愛原達が話していたのと同じ便器だとすると合点は行く。
 ましてや夜中なのだから、尚更トイレの利用は少ないだろう。

 リサ:「なるほど。確かにこれはびっくりする」

 リサはそう呟いて、トイレに入った。
 と、今度は女子トイレの中から水の流れる音がした。

 リサ:「!?」

 リサは急いで勝手に水の流れたトイレを見た。
 もちろん、個室には誰もいない。
 しかし、確かに水が流れた痕跡があった。

 リサ:(この旅館の女子トイレも、一定時間の利用が無いと勝手に流れるようになっているんだろうか?)

 斉藤がここで何か変な体験をしたらしいが、斉藤が言ってた変な声は聞こえない。
 今起こったのは、勝手に水が流れたことだけだ。
 しかしこれは、そういうシステムということで説明がつく。

 リサ:「フム……」

 リサは斉藤が変な目に遭ったトイレの個室で用を足すことにした。
 自分自身が怪奇現象を起こす側であるし、今では幽霊とも知り合いになっている。
 びっくりさせられることはあれど、恐怖を感じることはなかった。

 リサ:(……特に何も無さそうだな。やっぱりサイトーが聞いた変な声というのは、気のせいか、或いは蓮華先輩の言う通り、外から聞こえたもの……)

 リサは用を足して個室から出ようとした。

 リサ:「ん?」

 だが、鍵を開けたのにドアが開かない。
 まるで、外から押さえつけられているかのようだ。

 リサ:「何か、ドアが重いな。よっと」

 バキッ!という音がしてドアが開いた。
 見た目には、ドアが壊れた感じはしない。
 見えないつっかえ棒を無理やり折ったような感じ。

 リサ:「フム……」

 個室から出て手を洗う。
 すると、何か鏡に映るモノがあった。
 これが斉藤や愛里などの怖がりな人間であれば、それを見ただけで大絶叫を上げることだろう。
 だが、リサはチラ見をしただけで、特にそのモノが何かを追及するつもりは起きなかった。
 怖くて現実逃避する為ではなく、相手する気にもなれないといった感じだ。
 そして手を洗い、今度はトイレから出る為にドアを開けようとする。
 だが、トイレの外に気配を感じた。
 霊感の強い者なら、それが人間ではない何かだと気付いただろう。
 リサは霊感云々以前に、そもそも人間ではないので。
 リサは第1形態に変化すると、ドアを少しだけ開け、その隙間から外を睨み付けた。
 確かにドアの向こうには、普通の人間なら大絶叫するモノがいた。

 リサ:「キサマ、いい加減にしろよ……!」

 リサの目にも、確かに普通の人間なら大絶叫するだろうなというモノが確認できた。
 だが、大絶叫を上げたのはリサの姿を見た、モノの方だったのである。
 そして、ダッダッダッダッと慌てて廊下を走り去る音がして、そのモノは窓から出て行ったのである。

 リサ:(“花子”先輩が言ってたな……。幽霊の中には“花子”先輩みたいな地縛霊とは対照的に、移動する浮遊霊とかいうヤツがいるって。そいつが居場所を見つけると居つくことがあるって言ってたけど、あれがそうか?まあ、追い出したからいいか)

 幽霊を追い出す鬼。
 リサが部屋に戻ろうとすると、眠い目を擦りながら蓮華が出て来た。

 蓮華:「何か今、強い霊気を感じたんだけど、知らないか?」
 リサ:「旅館荒らしがいたから、追い出した」
 蓮華:「……そうか。人助けをしたのなら許す」
 リサ:「ありがとう」

 リサは再び布団に入って眠りに就いた。
 今度は人食いの夢を見ることはなかった。
コメント
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