[3月12日10:00.天候:晴 福島県会津若松市 会津中央病院]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
リサ達が『1番』との戦いに勝利し、栗原さんは望み通りに兄弟や家族の仇が取れたという話を聞いて私は嬉しくなった。
と思う反面、肝心な時に私は役に立たないことを改めて思い知らされた。
電話でボスは、
ボス:「何を言っている。『1番』にとってキミが脅威だと思ったから、霧生市で座して来るのを待っていたのではなく、奇襲を仕掛けて来たのではないか。キミは何もしなくても、その存在感は大きくなっているのだよ。つまり、存在自体がキミの価値だ。何も心配いらん」
と、言ってくれたが……。
荷物を纏めて病室を出た。
荷物はナースステーションで預かっててくれたので、それを受け取る。
入院費などの支払いは、1階の受付で行われるという。
まあ、入院経験は過去に何回かあるから何となく分かる。
何か、この仕事を初めてから、自分で入院費を払ったことが無いのだが。
善場:「お疲れさまです。愛原所長」
高橋:「先生、お疲れ様っス!お迎えに上がりました!」
愛原:「あ、これはどうも、わざわざ……。高橋、病院の中なんだから静かにしろ」
高橋:「さ、サーセン」
善場:「じゃあちょっと私は受付に行ってきますので……」
愛原:「あ、すいません」
善場主任が退院の手続きに行ってくれている間、私達はロビーの椅子に腰かけた。
高橋:「先生。クソ『1番』に付けられた傷痕はどうなりました?」
愛原:「おかげさまで、だいぶ薄くなったよ。『1番』のヤツ、そこからも俺をウィルスに感染させようと思ったらしいが、そうは問屋が卸さなかったようだ」
高橋:「さすが先生っス!」
愛原:「それより、『1番』が死んで、それからどうなったんだ?色々あるだろ?事後処理とか……」
高橋:「俺も『1番』との戦いの時は、殆ど戦力外通告だったんです。でもまあ、『1番』の遺伝子情報から、更なるワクチンの開発とかできるかもって善場の姉ちゃんが言ってましたけど……」
愛原:「リサのウィルスでも、コロナのワクチンは造れなかったのにか?」
高橋:「そうですよね」
愛原:「エブリンも死んだみたいだし、あとは白井を追い詰めるだけか。ヴェルトロの方はどうなんだ?あのガスマスクの男、俺が入院している間に現れたのか?」
高橋:「いや、無いっスね。そんな話、全然聞いてないっス」
愛原:「そうか……」
しばらくそんな話をしてから、善場主任が戻って来た。
善場:「お待たせしました。それでは帰りましょう」
愛原:「すいません。費用まで持ってくれて……」
善場:「今回の件は、所長は協力者です。協力して頂いた上での災害ですから、費用はこちらで持ちます」
愛原:「ありがとうございます」
病院の外に出て、タクシーに乗り込んだ。
今や地方でも、プリウスのタクシーは珍しくなくなった。
善場:「会津若松駅までお願いします」
運転手:「はい。ありがとうございます」
助手席に座った善場主任が行き先を告げると、タクシーは雪の積もる道に出た。
南会津ほどではないが、この辺りも雪は珍しくない地域のようだ。
[同日10:55.天候:晴 同市内 JR会津若松駅]
愛原:「あ、会津鉄道で行くわけではないんですね?」
駅に着いて、善場主任から渡されたキップを見て私は言った。
善場:「会津鉄道経由がご希望でしたら、そのように変更しますよ?」
愛原:「あ、いえ、結構です。JRの方が速いのは知っています」
とはいうものの、久方ぶりにディーゼルカーに乗って見たい気はした。
が、今はとにかく帰京することが最優先であることは分かっていた。
自動改札機にキップを通して、ホームに入る。
目の前の1番線から、列車に乗れるようだ。
〔この電車は磐越西線、快速、郡山行き、ワンマン列車です。停車駅は磐梯町、猪苗代、磐梯熱海、喜久田、郡山富田、終点郡山です〕
〔This is the Banetsu West line,rapid service train for Koriyama.〕
電車に乗り込むと、驚いたことに福島県内の都市間輸送列車でありながら、2両編成という短さだった。
私が学生の頃、乗り鉄した頃は6両編成とか普通に走っていたのだが……。
それほどまでに利用者が減ってしまったのだろうか。
空いているボックスシートに座る。
前の車両に乗り込むと、確かに運転席の後ろには運賃箱や運賃表があった。
都市型ワンマンではなく、本当に車内で運賃を徴収するタイプらしい。
〔「11時8分発、磐越西線上り、磐梯町、猪苗代、磐梯熱海方面、快速列車の郡山行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕
運転士が放送しているところを見ると、本当にワンマン運転のようだ。
[同日11:08.天候:晴 同市内 JR磐越西線3236M列車先頭車内]
しばらくすると新潟方面から遅れてやってきた気動車が到着し、そこから乗り換えて来た乗客達で満席に近くなった。
ラッシュでもないのに満席になるのだから、これ、観光シーズンの時は車両足りなくないか?
それとも、そういう時は車両を増結するのだろうか。
〔まもなく1番線から、磐越西線、猪苗代方面、快速列車、郡山行きが発車致します。お見送りのお客様は、黄色い線までお下がりください〕
ホームに発車メロディが鳴り響く。
いわゆるご当地メロディーってヤツで、曲名は『AIZUその名の情熱』という。
駅で流れているのはメロディだけだが、原曲は南こうせつ氏が歌っている。
首都圏でも、特に埼玉県の駅で市歌を流すのが流行っているが、それは東北でもというわけである。
運転士が窓からホームの方に顔を出して、メロディーが鳴り終わると、笛を吹いてドアを閉めた。
どうやら駆け込み乗車は無かったらしく、側灯滅を確認すると、再び運転席に座る。
そしてガチャッというハンドルレバーを操作する音が聞こえて来て、電車が動き出した。
〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は磐越西線、快速、郡山行き、ワンマン列車です。停車駅は磐梯町、猪苗代、磐梯熱海、喜久田、郡山富田、終点郡山の順です。途中の無人駅では後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、磐梯町です〕
変わったのは編成や運行体制だけではない。
車両も東北本線で乗ったものと同じ、新型車両にはなっていた。
首都圏の中距離電車で走っているものと雰囲気は変わらない。
今の自動放送だって、ワンマン運転に関する放送が加わっただけで、声優や言い回しが変わっているわけではない。
愛原:「おや?リサからLINEだ」
私は窓の下のテーブルに缶コーヒーを置いていたのだが、それを手に一口飲んでいると、リサからLINEが来た。
どうやらこの時間帯は休み時間で、私も電車に乗っている時間だろうと思っているらしい。
実際その通りなので、私も今は磐越西線に乗っていることを伝えた。
それで郡山駅に行き、そこから新幹線に乗り換えるのだと。
善場:「『2番』のリサは信頼できるマスター(主人)がいたから良かったんですよ。それができなかった『1番』との大きな差です」
愛原:「俺なんかがねぇ……」
高橋:「先生だからですよ」
善場:「そうですね。愛原所長だからだと思います」
愛原:「私は特別なことはしていないつもりですが?」
善場:「そんな御謙遜を……」
高橋:「そんな御謙遜を。ん?」
善場主任と高橋のセリフがハモってしまった。
まあ、他人から良い評価を得られるのは良いことだ。
そこは素直に受け止めることとしよう。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
リサ達が『1番』との戦いに勝利し、栗原さんは望み通りに兄弟や家族の仇が取れたという話を聞いて私は嬉しくなった。
と思う反面、肝心な時に私は役に立たないことを改めて思い知らされた。
電話でボスは、
ボス:「何を言っている。『1番』にとってキミが脅威だと思ったから、霧生市で座して来るのを待っていたのではなく、奇襲を仕掛けて来たのではないか。キミは何もしなくても、その存在感は大きくなっているのだよ。つまり、存在自体がキミの価値だ。何も心配いらん」
と、言ってくれたが……。
荷物を纏めて病室を出た。
荷物はナースステーションで預かっててくれたので、それを受け取る。
入院費などの支払いは、1階の受付で行われるという。
まあ、入院経験は過去に何回かあるから何となく分かる。
何か、この仕事を初めてから、自分で入院費を払ったことが無いのだが。
善場:「お疲れさまです。愛原所長」
高橋:「先生、お疲れ様っス!お迎えに上がりました!」
愛原:「あ、これはどうも、わざわざ……。高橋、病院の中なんだから静かにしろ」
高橋:「さ、サーセン」
善場:「じゃあちょっと私は受付に行ってきますので……」
愛原:「あ、すいません」
善場主任が退院の手続きに行ってくれている間、私達はロビーの椅子に腰かけた。
高橋:「先生。クソ『1番』に付けられた傷痕はどうなりました?」
愛原:「おかげさまで、だいぶ薄くなったよ。『1番』のヤツ、そこからも俺をウィルスに感染させようと思ったらしいが、そうは問屋が卸さなかったようだ」
高橋:「さすが先生っス!」
愛原:「それより、『1番』が死んで、それからどうなったんだ?色々あるだろ?事後処理とか……」
高橋:「俺も『1番』との戦いの時は、殆ど戦力外通告だったんです。でもまあ、『1番』の遺伝子情報から、更なるワクチンの開発とかできるかもって善場の姉ちゃんが言ってましたけど……」
愛原:「リサのウィルスでも、コロナのワクチンは造れなかったのにか?」
高橋:「そうですよね」
愛原:「エブリンも死んだみたいだし、あとは白井を追い詰めるだけか。ヴェルトロの方はどうなんだ?あのガスマスクの男、俺が入院している間に現れたのか?」
高橋:「いや、無いっスね。そんな話、全然聞いてないっス」
愛原:「そうか……」
しばらくそんな話をしてから、善場主任が戻って来た。
善場:「お待たせしました。それでは帰りましょう」
愛原:「すいません。費用まで持ってくれて……」
善場:「今回の件は、所長は協力者です。協力して頂いた上での災害ですから、費用はこちらで持ちます」
愛原:「ありがとうございます」
病院の外に出て、タクシーに乗り込んだ。
今や地方でも、プリウスのタクシーは珍しくなくなった。
善場:「会津若松駅までお願いします」
運転手:「はい。ありがとうございます」
助手席に座った善場主任が行き先を告げると、タクシーは雪の積もる道に出た。
南会津ほどではないが、この辺りも雪は珍しくない地域のようだ。
[同日10:55.天候:晴 同市内 JR会津若松駅]
愛原:「あ、会津鉄道で行くわけではないんですね?」
駅に着いて、善場主任から渡されたキップを見て私は言った。
善場:「会津鉄道経由がご希望でしたら、そのように変更しますよ?」
愛原:「あ、いえ、結構です。JRの方が速いのは知っています」
とはいうものの、久方ぶりにディーゼルカーに乗って見たい気はした。
が、今はとにかく帰京することが最優先であることは分かっていた。
自動改札機にキップを通して、ホームに入る。
目の前の1番線から、列車に乗れるようだ。
〔この電車は磐越西線、快速、郡山行き、ワンマン列車です。停車駅は磐梯町、猪苗代、磐梯熱海、喜久田、郡山富田、終点郡山です〕
〔This is the Banetsu West line,rapid service train for Koriyama.〕
電車に乗り込むと、驚いたことに福島県内の都市間輸送列車でありながら、2両編成という短さだった。
私が学生の頃、乗り鉄した頃は6両編成とか普通に走っていたのだが……。
それほどまでに利用者が減ってしまったのだろうか。
空いているボックスシートに座る。
前の車両に乗り込むと、確かに運転席の後ろには運賃箱や運賃表があった。
都市型ワンマンではなく、本当に車内で運賃を徴収するタイプらしい。
〔「11時8分発、磐越西線上り、磐梯町、猪苗代、磐梯熱海方面、快速列車の郡山行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕
運転士が放送しているところを見ると、本当にワンマン運転のようだ。
[同日11:08.天候:晴 同市内 JR磐越西線3236M列車先頭車内]
しばらくすると新潟方面から遅れてやってきた気動車が到着し、そこから乗り換えて来た乗客達で満席に近くなった。
ラッシュでもないのに満席になるのだから、これ、観光シーズンの時は車両足りなくないか?
それとも、そういう時は車両を増結するのだろうか。
〔まもなく1番線から、磐越西線、猪苗代方面、快速列車、郡山行きが発車致します。お見送りのお客様は、黄色い線までお下がりください〕
ホームに発車メロディが鳴り響く。
いわゆるご当地メロディーってヤツで、曲名は『AIZUその名の情熱』という。
駅で流れているのはメロディだけだが、原曲は南こうせつ氏が歌っている。
首都圏でも、特に埼玉県の駅で市歌を流すのが流行っているが、それは東北でもというわけである。
運転士が窓からホームの方に顔を出して、メロディーが鳴り終わると、笛を吹いてドアを閉めた。
どうやら駆け込み乗車は無かったらしく、側灯滅を確認すると、再び運転席に座る。
そしてガチャッというハンドルレバーを操作する音が聞こえて来て、電車が動き出した。
〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は磐越西線、快速、郡山行き、ワンマン列車です。停車駅は磐梯町、猪苗代、磐梯熱海、喜久田、郡山富田、終点郡山の順です。途中の無人駅では後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、磐梯町です〕
変わったのは編成や運行体制だけではない。
車両も東北本線で乗ったものと同じ、新型車両にはなっていた。
首都圏の中距離電車で走っているものと雰囲気は変わらない。
今の自動放送だって、ワンマン運転に関する放送が加わっただけで、声優や言い回しが変わっているわけではない。
愛原:「おや?リサからLINEだ」
私は窓の下のテーブルに缶コーヒーを置いていたのだが、それを手に一口飲んでいると、リサからLINEが来た。
どうやらこの時間帯は休み時間で、私も電車に乗っている時間だろうと思っているらしい。
実際その通りなので、私も今は磐越西線に乗っていることを伝えた。
それで郡山駅に行き、そこから新幹線に乗り換えるのだと。
善場:「『2番』のリサは信頼できるマスター(主人)がいたから良かったんですよ。それができなかった『1番』との大きな差です」
愛原:「俺なんかがねぇ……」
高橋:「先生だからですよ」
善場:「そうですね。愛原所長だからだと思います」
愛原:「私は特別なことはしていないつもりですが?」
善場:「そんな御謙遜を……」
高橋:「そんな御謙遜を。ん?」
善場主任と高橋のセリフがハモってしまった。
まあ、他人から良い評価を得られるのは良いことだ。
そこは素直に受け止めることとしよう。