報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「開いた壁」

2021-03-04 21:16:32 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月28日16:00.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校・教育資料館(旧校舎)]

 東京都心を揺らした震度4の地震は、当然、上野でも観測された。

 花子さん:「ちっ、また地震か……」

 旧校舎2階の女子トイレに棲む花子さんは、舌打ちをしながらトイレから出た。
 人間だった頃の名前は覚えていない。
 学校の怪談に出て来る“トイレの花子さん”と立ち位置が酷似していることから、花子さんの通称を使用している。
 正体は、半世紀ほど前にイジメを苦に自殺した女子生徒の幽霊である。
 花子さんがトイレから出ると、他にも旧校舎に巣くう『異形のモノ』達がザワついていた。
 しかし花子さんに言わせれば、妖力の弱いザコだ。
 よっぽど霊感が強かったり、たまたま波長の合う人間でもいなければ、その姿を見ることはできないだろうとのこと。
 その証拠に、その『異形のモノ』達は地縛霊として、その場から動くことができなかった。
 しかし花子さんは違う。
 あくまでも拠点が2階女子トイレの奥から2番目の個室というだけで、他の個室への移動もできるし、何なら1階へ下りることもできる。
 まだ旧校舎が現役であった頃、行方不明になった男子生徒がいた。
 それを自分のせいにされた時には、さすがにイラついたものだ。
 いや、確かにその男子生徒を獲物にしようとは思っていたが、別の『異形のモノ』に先を越されてしまった。
 如何に花子さんはマップ移動ができるほど自由度の高い幽霊とはいえ、他人のテリトリーの中ではアウェイなのである。
 しかし今回は地震の被害調査と称して、久しぶりに1階に下りてみることにした。
 地震の被害調査をする幽霊。

 花子さん:「ん?」

 花子さんが1階への階段を下りようとすると、1階をテリトリーにしている『異形のモノ』達が動揺しているのが分かった。
 2匹ほど、後ずさりして来る。

 花子さん:「何だ?1階は被害があったのか?」

 花子さんが1階に下りると、そこで『異形のモノ』達が動揺している理由が分かった。

 花子さん:「あ、あれは……!?」

 最近ここに来た愛原リサとその仲間達が調査していたという壁。
 何故だか自分をモデルに造られたという『異形のモノ』なのか何だか分からないが、しかし自分と同じ仮面を着けている女が気になった。
 実際、異形の力を持ってはいるようだが、しかし自分が持つ怨念の力には勝てないようだ。

 花子さん:「壁に少し穴が開いている……。さっきの地震で崩れたのか。しかし、どうしてだ?この壁は比較的新しいのに、他の壁は何とも無い。他の古い壁が崩れたというのなら分かるが……」

 その先、少しだけ開いた穴からブワッと物凄い妖気を感じた。
 生身の人間なら怨念の力であの世に送れる力を持つ花子さんが、危うく腰を抜かすほどだった。

 花子さん:「な、何だ、この妖気……!?この奥に化け物でもいるのか……!?」

 そして、その壁が更に壊れて行く。

 花子さん:「な、何かマズい!」

 花子さんは亡霊になって初めて、自分より強いモノに遭遇した。
 そして、他のザコ『異形のモノ』達と共に逃げ出した。
 花子さんは軽やかに階段を駆け上るが、他のザコ達は階段を上がることができない。
 階下から逃げ遅れた『異形のモノ』達の断末魔が聞こえてくる。

 花子さん:「い、一応、あいつに教えてあげよう」

 花子さんは2階の教室に何故か放置されている黒電話を取り上げると、それである番号に掛けた。
 黒電話は埃被っており、線も繋がっていない。
 しかし、それは掛かった。

[同日16:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 リサ:「むー……」

 リサは埼玉の斉藤家から帰ると、自分の部屋に籠っていた。
 夕食の時間までヒマである。
 と、そこへスマホが鳴り出した。
 リサは最初、斉藤絵恋からかと思っていたのだが、画面を見て違うことに気づいた。
 因みにリサ、あの花子さんに対して電話帳登録名を『花子お婆ちゃん』としている。
 確かにまあ、花子さんが生きていたら、もう60代半ばから後半といった感じなのだが。
 15歳のリサから見れば、祖母くらいの年齢である。
 しかし、花子さんは16歳で自殺したから、見た目の年齢は自分より1つ上なだけである。

 リサ:「はい、もしもし?」
 花子さん:「もしもし、リサ!?」

 恐らくこれを普通の人間が聞いたら、雑音だらけで殆ど何も聞き取れないだろう。
 そして、霊感の強い人間が聞いたら、地獄の底から聞こえるような怨念の声に聞こえただろう。
 しかしBOWのリサは、花子さんの声を普通の少女の声のように聞いた。

 リサ:「お婆ちゃん、どうしたの?」

 リサはまるで祖母からの電話を受けるような感覚で応答した。

 花子さん:「……その呼び方はやめろ。私は16歳で生涯を終えた。肉体年齢はあなたと1つしか変わらない。『花子さん』と呼べ」
 リサ:‘「分かったよ。それで、どうしたの?」
 花子さん:「お前達はうちの校舎……今は『教育資料館』と呼んでいる建物の1階の壁について調べていただろう?」
 リサ:「うん」
 花子さん:「さっきの地震であの壁、崩れたぞ」
 リサ:「ほんと!?」
 花子さん:「だが、大変なことになった。あの壁の向こうに何かあるというお前達の見立ては正しかった。今、校舎内が大変なことになってる」
 リサ:「何が起きてるの?」
 花子さん:「私も『異形のモノ』は何度も見て来たが、あれほどおぞましいものは初めてだ。今のところは2階に上がって来る気配は無い。どうやら、外に出たいようだが、何故か出られないようだ。あの巨体、力はありそうなのに、ドアすら壊せないらしい」
 リサ:「どんなヤツなの!?壁の向こうはどうなってるの!?」
 花子さん:「壁の向こうについては分からない。私もヤツから逃げるのに精一杯で……。ヤツはどうやら闇の力を使う、闇が化けたものらしい。……そうか。今はまだ夕方だ。ヤツが強くなるのは夜になってから。……しまった!2階に上がって来る。私は一旦身を隠す!調査をするなら、夜はやめておけ。以上」

 一方的に切られてしまった。

 リサ:「もしもし!もしもし!?」

 しかし、応答は無い。
 電話帳登録はしているが、名前だけ登録できる、実質的な非通知である。
 こちらから掛けることはできない。
 リサは急いで部屋から出た。

 リサ:「先生!先生!」

 愛原はリビングのソファにいた。

 愛原:「ん、どうした?そんなに慌てて……」
 リサ:「今ね、“トイレの花子さん”から電話来た!」
 愛原:「なに!?またヴェルトロを焼き殺したのか!?」
 リサ:「違う!さっきの地震で、旧校舎のあの壁が崩れたんだって!」
 愛原:「なにっ!?」
 リサ:「で、その壁の中から化け物が出て来て、旧校舎のオバケ達が襲われてるんだって!」
 愛原:「なににっ!?」
 リサ:「あの花子さんが慌ててたから、よっぽど強いヤツだと思う。その化け物、闇を力にするみたいだから、夜は危険だって」
 愛原:「そうなのか……。で、そのゲームのタイトルは!?」
 リサ:「ゲームじゃない!!」

 リサは愛原の反応に感情が高ぶり、第0形態から第1形態に変化した上、両手や背中から触手を出した。

 愛原:「わわわ、分かった!分かった!冗談だから、落ち着け!」

 リサは触手はしまったものの、第1形態である鬼の姿のままだった。
 額の一本角が生え、口を開ければ牙が覗き、両手の爪は長く鋭く尖る。
 触手はネメシス細胞の影響によるものだが、鬼の姿をしている理由までは分からない。

 リサ:「あの花子お婆さんが逃げ回るくらいだから、夜は行かない方がいいと思う。さすがに危険過ぎる」
 愛原:「そ、そうだな。俺も人の忠告は素直に受け止める主義だから、依頼も無いのに好奇心に任せてそんな危険地帯に突っ込んで行くほどバカじゃない。『1番』やエブリンがいるってわけでもないだろうからな」
 リサ:「うん、違うと思うね」
 愛原:「取りあえず一応、善場主任にだけは報告しておこう。それでいいかな?」
 リサ:「いいと思う。それがあの人達の仕事だから」

 リサが頷くのを確認した愛原は、自分のスマホを手に善場主任に連絡した。

 リサ:(それにしても、私やお兄ちゃんの攻撃を一切受け付けなかったあのお婆ちゃんが慌てて逃げるほどの相手って……。さすがにあの旧校舎にいるうちは、手が出せそうに無いね)

 第1形態になれば好戦的な性格になり、食欲も性欲も俄然増加する。
 そして羞恥心は弱くなる。
 何が言いたいかというと、さっき触手を背中から出した時に、着ていたTシャツの背中部分が破れてしまった。
 それを今この場で脱いだのである。
 愛原の前で上半身ブラジャーだけの姿になっても、全く恥じらう気が無く、そのまま部屋に戻って行くリサだった。
コメント (2)
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