報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「リサの卒業旅行」 1

2021-03-24 20:16:32 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月20日07:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 私達はマンションに呼んだタクシーに乗り込み、それで東京駅に向かった。
 斉藤絵恋さんは直接私のマンションに来た。

 運転手:「はい、ありがとうございます。1380円です」

 タクシーが八重洲側の乗降場に到着した。
 私がタクシー代を払おうとすると、絵恋さんが先に手を出した。

 絵恋:「タクシーチケットで払います」

 絵恋さんがクレジットカード会社発行のタクシーチケットを差し出した。

 運転手:「あ、はい。では、御記入お願いします」

 タクシー運転手も、まさか少女からタクシーチケットを差し出されるとは思わなかったのだろう。
 少し驚いた様子でチケットを受け取り、それをバインダーに挟んでボールペンと一緒に渡した。
 絵恋さんは慣れた手付きで、チケットに必要事項を書き込んだ。
 今日みたいにお抱え運転手の新庄さんが送り迎えができず、タクシーを使う場合はいつもこのようにしているのだろう。
 いくら社長でも……いや、社長だからこそ今日みたいな日は休みで、お抱え運転手もヒマだろうに、何か理由があるのだろうか。
 それとも、働き方改革はお抱え運転手にも及んでいて、今日は休みにしないとダメなのだろうか。

 運転手:「ありがとうございました」
 絵恋:「どうも~」

 絵恋さんはチケットの控えと領収書を受け取って、タクシーから降りた。

 高橋:「いきなり金持ちぶりを見せつけやがって」
 絵恋:「あら?ビジネスマンなら普通よ」
 高橋:「オメーはビジネスマンじゃねーだろうがよ」
 愛原:「まあまあ。本当にいいの?私が払うつもりだったけど……」
 絵恋:「いいんです。父も頷いてくれますよ」
 愛原:「そ、そうか」

 絵恋さんがタクシーチケットで払っている間、先に助手席から降りた高橋がトランクから荷物を下ろしてくれた。
 それから駅構内に入る。

 愛原:「そうそう。これから行く静岡県富士宮市なんだけどね、大勢の方が楽しいだろうと思って、途中まで同じ学園の人達が付いて来てくれます」
 リサ:「おー!だれ?」
 絵恋:「えー?私、なるべくならリサさんと2人っきりがいいんですけどォ……」
 リサ:「いや、皆で行こうよ」

 八重洲南口改札に行くと、栗原蓮華と栗原愛里の姉妹がいた。
 2人とも何故か制服姿である。
 で、蓮華さんの方は相変わらず布袋に包んだ長物を持っている。

 栗原蓮華:「愛原先生、おはようございます!」
 リサ:「!」
 絵恋:「げ……!」
 愛原:「はは、おはよう」
 高橋:「あー?どういうことだ?」
 栗原愛里:「…………」
 蓮華:「ほら、愛里。ちゃんと挨拶しな」
 愛里:「お、おはようございます……」

 リサはジッと愛里を見据えた。

 愛里:「ひぅ……!」

 愛里はリサに『捕食』されそうになったのだが何とか免れ、しかしリサとしてはそれに失敗したことに腹を立て、トイレで失禁させるイジメを行なったのである。
 もちろん、加害者たるリサが全面的に悪い。
 これを聞いた姉の蓮華が現在持っている刀を手に復讐しに行ったことは当然の結果であり、そのせいで更にリサの正体がこの姉妹に露見してしまったということがあった。
 そこに日本版リサ・トレヴァーで唯一の男性である『10番』が関わって来たものだから、かなりややこしいことになった。
 最終的にはリサが謝罪し、2度と愛里には関わらないという約束をさせて収まった。

 愛原:「リサ」
 リサ:「はぁい……」

 私の注意にリサは愛里さんから目を放した。
 愛里さんは中学1年生だったから、来月から2年生になる。

 蓮華:「愛里。確かにこのコは『鬼』だけど、お兄ちゃん達の敵討ちの協力をしてくれたのも事実なの。それはそれとして、ちゃんと御礼を言わなきゃね」
 愛里:「あ、あの……。兄達の敵討ちをしてくれて、ありがとうございました……」
 リサ:「別にいいよ、御礼なんて。私はヤツを追い回しただけで、それ以上のことは何もしていない」

 だが結果的にそれが、『1番』が“青いアンブレラ”と鉢合わせすることになり、高野君が放ったロケットランチャーの直撃を食らうことになったのだ。
 なのでリサが『1番』を追い回した結果については、賞賛に値するだろう。

 愛原:「そうか。愛里さんにとっては、2人のお兄さんか」
 愛里:「は、はい。私は……末っ子なので……」

 蓮華さんの兄で長男と弟で次男が食い殺された。
 愛里さんだけは東京の家にいて、難を逃れたのである。
 本当は『1番』は蓮華さんも食い殺すはずだったのだが、左足に食らい付いたところでBSAAが駆け付け、仕方なく左足だけ食い千切って逃走した。
 なので今、蓮華さんの左足は義足となっている。
 スラックスにすれば義足は隠せるだろうに、あえて蓮華さんはスカートである。

 愛原:「そうか。……あ、そろそろ行こう。キップは1人ずつ持とうな」

 私は予め買っておいた新幹線のキップを皆に配った。

 蓮華:「私達はもう買ってありますので」
 愛原:「ああ、分かった」

 蓮華さんだけは障がい者割引で購入したもよう。
 歩く時、確かに義足からは金属のカチャカチャという音はするのだが、歩き方に関しては健常者と大して変わらない。
 よほど歩く訓練をしたのか、或いは義足が特注品なのか(いや、基本的に義足は使用者に合わせて造られた特注品だということは知っている。それを踏まえた上で、更に特別な仕様になっているのかという意味だ)。
 改札口を通ってコンコースに入ると、私達はまず駅弁を購入することにした。
 ただ、コンコース内の売店は混んでいたので、ホーム上の売店に行くことにした。
 緊急事態宣言解除2日前だというのに、もう解除ムードが出ている。
 もっとも、私達もそれに乗じて旅行する者達であるので、他人の事は言えない。
 エスカレーターに乗ってホームに向かう時、私は蓮華さんに聞いた。

 愛原:「そういえば、どうしてキミ達は制服姿なんだ?」
 蓮華:「今日はお彼岸なので」
 愛原:「ああ、そうか。お寺さんに行くって言ってたね。それでか」

 社会人なら喪服に黒いネクタイだろうが、彼女ら学生(高校生以下)だと制服になるか。

〔新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく15番線に、7時27分発、“こだま”705号、名古屋行きが入線致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。……〕

 ホームに上がって売店に向かっていると、接近放送が鳴り響いた。

 愛原:「今やもうN700系オンリーだな」

 その中でもいくつかバリエーションがあるが、それを確認する前に、私達は売店の中に入ってしまった。

 絵恋:「リサさんは何にするの?」
 リサ:「肉系統かな」
 蓮華:「人間の肉はやめてね」
 リサ:「わ、分かってるよ……」

 いくら高野君の一押しがあったとはいえ、実際に『1番』の首を刎ね飛ばしたのは蓮華さんである。
 それまで3人のリサ・トレヴァーを倒していたから、その実力はかなりのものだろう。
 リサもそれを目の当たりにしたので、蓮華さんには逆らえないと思っているようだ。

 高橋:「先生はどうします?」
 愛原:「俺は魚系統でいいよ」
 高橋:「了解っス」

 駅弁や飲み物を買い求めると、私達は再びホームに出た。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「リサ達の卒業旅行前日」

2021-03-24 15:15:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月19日11:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はリサと高橋が散髪に行った。
 私は理容室派なのだが、この2人は美容室派だ。

 愛原:「はい、愛原学探偵事務所です。……あ、斉藤社長お疲れ様です」

 私が1人で事務所にいると、斉藤社長から電話が掛かって来た。

 斉藤:「明日はよろしくお願いします。それにしても、いいんですか?もっと設備の整ったリゾートホテルなんかの優待券もありましたのに……」
 愛原:「いいんですよ。やはり卒業旅行というからには、ただ単に温泉に入って宴会をやるような慰安旅行ではないと思うんです。観光もしてナンボだと思うんですね」
 斉藤:「そうですか」
 愛原:「文字通り慰安目的の慰安旅行と違い、卒業旅行は旅行気分が大事ですから」
 斉藤:「そういうことでしたら、愛原さんにお任せします。コロナ禍のせいで修学旅行が中止になった娘達の為、せめて卒業旅行はさせてやりたいと思いますので」
 愛原:「でしょうね」

 私の勝手な思い込みだが、修学旅行と言えば新幹線、飛行機、観光バスである。
 まずその1つ、新幹線はクリアしたい。
 それで高橋の車案を却下したのである。
 もっとも、現地での観光は車の方がいいだろうから、それは既に考えている。
 飛行機はそもそもまだ遠出をするのが憚れる時期であるし、観光バスなんかも、団体旅行ではないのだから現実的ではない。

 斉藤:「明日は朝から出発ですか」
 愛原:「ええ。やっぱり旅行気分はですね、朝から出発ですよ」
 斉藤:「一家言おありのようですね。期待していますよ」
 愛原:「お任せください」

 そんなやり取りがあってから電話を切ると……。

 リサ:「ただいまー」
 高橋:「戻りましたー」

 美容室に行っていた2人が戻って来る。
 リサは少し髪が伸びていたのだが、それをまた肩の所で切った。

 愛原:「お帰り。リサはまた綺麗にしてもらったな」
 リサ:「ありがとう。先生はロング嫌い?」
 愛原:「そういうわけじゃないんだが、日本版リサ・トレヴァーのロングヘアーって『1番』を思い出すからさぁ……」
 リサ:「ああ、あいつね。だから前にも言ったじゃん?私が『1番』が先生にしたことと同じことをして、そいつの記憶を上書きしてあげるよって。……いたっ」

 リサの発言の直後、高橋がリサにゲンコツをかます。

 高橋:「アホか!先生はあんな変態プレイは御望みじゃねぇ!」
 リサ:「そうかなぁ……?」

 リサは目を細めて私を見た。

 愛原:「高橋も髪形キマったな」
 高橋:「あざっス」

 まあ、イケメンはどんな髪形でも似合うんだがな。

 高橋:「留守の間、何かありましたか?」
 愛原:「さっき斉藤社長から電話があった。明日、よろしくって」
 高橋:「ああ。そうですか」
 愛原:「それと警察から。高野君の行方について」
 高橋:「またですか。何度聞いてきても、俺達はアネゴの居場所なんて知らねぇってのに」
 愛原:「あれだろ?霧生市で“青いアンブレラ”のヘリに乗ってたんだろ?で、『1番』にロケランぶっ放したって」
 高橋:「らしいっスね」
 リサ:「うん。高野さんが一番美味しい所持ってっちゃった」

 それで『1番』が大ダメージ食らったところを、栗原さんが首を刎ねてとどめを刺したとのこと。

 愛原:「今や“青いアンブレラ”の活動拠点は海外だから、高野君もそっちにいるだろ」
 高橋:「でしょうね」
 愛原:「次に会うとすれば、またどこかでバイオハザードが発生した時だろうなぁ……」
 高橋:「ですね。先生が行方不明になっておられる間、この事務所やマンションの場所を決めたのはアネゴなんですよ」
 愛原:「え?そうなの?」
 高橋:「世界探偵協会と交渉していたのは俺じゃなくてアネゴだったもんで、王子の事務所兼マンションが爆破された後はアネゴが主導で動いていたんですよ」
 愛原:「そうだったのか」
 高橋:「ちょうど新築のビルとマンションが見つかったからってんで、紹介されたのがここだったわけです」
 愛原:「高野君スゴいな。でもそれって……」
 高橋:「“青いアンブレラ”がバックにいたんでしょうね」
 愛原:「ここにしたのも、何か理由があるのかな?」
 高橋:「さあ……?たまたま新築で、その割には家賃も安いからって話でしたけど……」
 愛原:「確かにな。まあ、墨田区だから、そりゃ港区とか世田谷区とか、あっち方面よりは安いだろうよ。それでも新築だと、高めに設定されそうなものなんだけどな。王子のボロビルとだいたい同じ値段って凄いなって思った」
 高橋:「ええ。そうっスね」

 別にこのビルもあのマンションも、特に変わった所は無い。
 墨田区や隣の江東区によくある小規模のテナントビルだ。
 1フロア毎に1テナントが入るようなビル。
 エレベーターは辛うじて存在するが、定員10人前後の小さい物が1基だけ。
 そしてそれは、マンションも同じ。
 3LDKなのでそこそこ大きなマンションではあるが、それでも港区や世田谷区にあるようなタワマンと比べれば、何十分の一ほどにも小さい。
 そんなことを話しているうちに、そろそろお昼の時間になりつつあった。

 愛原:「どれ、そろそろお昼にしよう。12時台になると店が混むからな、今のうちに買ってこよう」

 何だかんだ言ってこの辺、小さな事業所がいくつもあるから、昼休みになれば飲食店は混雑するのである。

 高橋:「俺、行ってきますよ」
 愛原:「いや、いいよ。今度は俺が行こう。ずっと午前中は事務所に居っ放しだったし」
 高橋:「先生は何になさいますか?」
 愛原:「今日は“ほっともっと”にしよう。リサ、一緒に来てくれ。高橋は留守番頼む」
 リサ:「分かったー」
 高橋:「分かりました」

 私とリサは事務所を出た。
 さすがのリサも今は私服を着ている。
 年頃ながら、あまり私服には無頓着のようだ。
 斉藤さんがいかにも御嬢様といった感じの服装なのに対し、リサはパーカーやデニムのショートパンツといったところである。
 事務所の入口のドアの斜め向かいにあるエレベーターのボタンを押す。
 5階建てのビルの最上階なので、外側のボタンは下しか無い。
 当たり前だ。

〔下に参ります〕

 エレベーターがやってきて、ドアが開く。
 1階のボタンを押すが、ここでふと気づく。

〔ドアが閉まります〕

 このエレベーター、B1のボタンもあるのだ。
 確かに1階から乗ろうとすると、下のボタンもある。
 但し、普段は行けないように設定されているのか、ボタンを押してもランプは点かない。

〔ランプの点かない階には、止まりません〕

 このようなアナウンスも流れる。
 このビルには地下駐車場は無く、代わりに裏手に数台止まれる駐車場がある。
 私は恐らく機械室とか、管理人室でもあるのかと思っていたが……。
 今度、管理会社の人から来たら聞いてみるか。

〔ピンポーン♪ ドアが開きます。1階です〕

 エレベーターが1階に着いて、ドアが開く。
 そしてエレベーターを降りた時に、ふとまた気づいた。
 マンションも5階建てだが、やはりそこのエレベーターも地下1階のボタンがあったような気がする。
 そのマンションの地下にも、やはり住人が利用できる施設は無く、機械室か倉庫があるだけかと思っていたのだが……。

 リサ:「どうしたの?」
 愛原:「いや、何でも無い」

 私は首を振って、ビルの外に出た。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする