報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「卯酉東海道」

2021-03-25 21:01:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月20日07:27.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅15番線ホーム→東海道新幹線705A列車1号車内]

 

〔15番線に、停車中の電車は、7時27分発、“こだま”705号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。自由席は1号車から6号車までと、15号車、16号車です。グリーン車は8号車から10号車です。尚、全車両禁煙です。喫煙ルームは3号車、7号車、10号車、15号車です。……〕

 

〔ご案内致します。この電車は“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。……〕

 雲羽:「カットカット!おい、愛原!もうカメラ回ってるぞ!早くトイレから出ろ!」
 多摩準急名誉監督:「ちょっとカメラ止めろ!」

 ガチャ、ガラガラガラ……バンッ!(トイレの引き戸を急いで開けた音)

 愛原:「失礼!ちょっと長居してしまいました!」
 雲羽:「困るよ!もう発車なんだから!」
 多摩:「はい、もう1回!愛原がトイレから出て来る所から!」
 AD:「テイク2いきまーす!5、4、3、2……」

 カチン!🎬

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はリサ達を卒業旅行に連れて行ってやるところだ。

〔「お待たせ致しました。7時27分発、“こだま”705号、名古屋行き、まもなく発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 トイレから出て座席に戻ろうとした時、発車の時刻になった。
 空いているドアからは、賑やかな駅員の放送が聞こえる。

〔「レピーター点灯です」〕

 そして、かつては“のぞみ”号の車内で放送前のチャイムとして流れていた発車メロディが鳴り響く。

〔15番線、“こだま”705号、名古屋行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「15番線はまもなく発車致します。11号車のお客様、車内にお入りください。ドアが閉まります。……ITVよーし!乗降、終了!」〕

 ブー!という客終合図の音がして、ドアチャイムと共にドアが閉まった。
 ピンポーンピンポーンというチャイムが2回鳴ったが、京王電車のそれや、同じJR東海の在来線車両のそれと比べれば柔らかい音色だ。

 高橋:「あ、先生。遅かったですね。まさか、このまま降りちゃったのかと思いましたよ」
 愛原:「んなわけない」

 客室に入って座席に戻ると、高橋にそんなことを言われた。

〔♪♪(車内チャイム。“いい日旅立ち・西へ”イントロ)♪♪。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。次は、品川です〕

 私達は進行方向右側の2人席に腰かけている。
 ちょうど6人いるのだから、仲良く3人席を向かい合わせにしてワイワイやりたいところだ。
 だが、コロナ禍でそれは許されなかった。
 実際に、

〔「……お客様に新型コロナウィルス対策について、お願いを申し上げます。【中略】座席を向かい合わせにしての会話や飲食は御遠慮頂きますよう、感染症対策に御理解と御協力をお願い申し上げます」〕

 という車掌の肉声放送が流れたからだ。
 因みに、在来線車両のボックスシートは致し方無いらしい。
 だが恐らく今後、鉄道会社はボックスシート車の製造を行わなくなるのではなかろうかという不安が過る。
 ロングシートか転換クロスシート、あるいはリクライニングシートしか造らないのではないかと。
 実際、横須賀線・総武快速線に新しくデビューしたE235系は普通車からボックスシートを廃止し、全てロングシートにしている。
 まあ、これは違う理由だろうが、とにかくボックスシート以外で向かい合わせに座ることは禁止されてしまった。
 その為、私達は2人席を3つ並んで確保している。
 もちろん、向かい合わせにはしていない。
 乗車車両は先頭車であり、これには事情を知らない栗原愛里さんが首を傾げていた。
 ここにリサがいなかったら、もっと中間車に乗っていただろう。
 愛煙家の高橋に合わせて、3号車辺りにでも乗るか。
 NPO法人デイライトを通してBSAAから、リサが暴走した際、外から対応しやすいよう(攻撃目標を定めやすいよう)、先頭車か最後尾に乗るように言われたからだ。
 もちろん、指定席やグリーン車に乗るなどの理由で、それが中間車にしか無い場合はこの限りではない。

 愛原:「どれ、駅弁食うか」

 私は窓側の座席に座ると、弁当の蓋を開けた。

 

 私と高橋の後ろにリサと斉藤絵恋さんが座り、その後ろに栗原姉妹が座っている。

 高橋:「先生の駅弁はビールのつまみに合いそうですね。ていうか、ビールは買わなかったんですね」
 愛原:「さすがに引率者として、昼間から飲むわけにはいかんな。それに、これは俺達にとっては仕事なんだから、それを考えてもやっぱり昼間から飲むわけにはいかない」
 高橋:「仰る通りだと思います」

 高橋は大きく頷いた。
 そして高橋自身は、牛タン弁当を食べていた。
 仙台に行くわけではないのに、何故か東海道新幹線乗り場の駅弁売店で売っていたのである。
 それも、紐を引っ張ると温かくなるタイプであった。

 高橋:「牛タンも美味いっスね」
 愛原:「また実家に帰省する機会があれば、連れてってやるよ」
 高橋:「あざーっス!お供させて頂きます!」

 新幹線の旅はまだまだ始まったばかり。
 緊急事態宣言解除を目前にしての人出であるが、“のぞみ”や“ひかり”はそれなりに賑わっていたのに対し、この“こだま”はガラガラである。
 JR東海は“のぞみ”を1時間に12本運転する計画を打ち出したが、“こだま”は1時間に2本だけである(朝夜を除く)。
 それだけ“こだま”は需要が少ないということの現れであろう。
 しかし、私達はその“こだま”しか停車しない駅で降りようとしているので、この列車に乗っているわけである。
コメント (1)
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