報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「鬼首温泉での一夜」

2020-09-15 20:01:50 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月26日20:00.天候:雨 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首 某旅館内]

 愛原:「ごっそさんでしたー」

 夕食を終えた愛原達は、食堂を出て客室に戻ることにした。
 外は雨音が強くなっている。

 高橋:「先生、どうします?もう1回風呂に入りましょうか?」
 愛原:「そうだなぁ……。まずは部屋で一息吐いてからにしようか」
 高橋:「了解です」

 食堂から部屋に戻る為には、1度帳場の前を通らないといけない。

 女将:「いらっしゃいませー。2名様ですねー。どうぞ、こちらに」

 ちょうどそこへ、玄関から2人の宿泊客が入って来るところだった。
 外は大雨のせいか、2人とも傘を持っているのにずぶ濡れだ。
 両方とも男性で、1人は60代半ばくらいの初老。
 もう1人は30代半ばであった。

 女将:「2名様で御予約の五十嵐様ですね。本日は雨の中、大変でしたね」
 初老:「ああ。……!」

 その時、五十嵐という名の初老の男性は階段を昇る先客、愛原に注目した。
 正確には1番後ろを歩くリサにだ。

 愛原:「風呂入るのはいいんだけど、また風呂上がりにビール飲みたくなるんだよ」
 高橋:「いいじゃないスか。もうこの際、ジャンジャン飲んじゃいましょうよ~」
 愛原:「観光に来たんならそれでもいいけど、俺達は仕事で来たんだぞ」
 高橋:「じゃあノンアルで」
 愛原:「都合良くあるのか、それ……」
 五十嵐(父):「ちょっとキミ!」

 初老の男性は階段を昇るリサの手を掴んだ。

 リサ:「!?」

 リサはびっくりした様子でその男性を見た。

 五十嵐(父):「き、キミ!名前は!?」
 リサ:「愛原……」
 高橋:「おい、何だオッサン!こいつに何か用か!?」
 五十嵐(父):「似てる……!キミ、番号はいくつかね?」
 リサ:「ば、番号?!」
 五十嵐(子):「父さん!何をしてるんだ!失礼じゃないか!」

 眼鏡を掛けた30代半ばの男性が初老の男性を制した。

 五十嵐(子):「申し訳ありません!父が失礼なことを……。父さん、どう見ても人間じゃないか。他のお客さんだよ」
 五十嵐(父):「いや、しかしだな!」
 五十嵐(子):「だいたい、こんな所にいるわけがないだろう。それより、チェック・インの手続きがまだだよ!失礼しました!」

 どうやら初老の男性の息子らしい。
 息子が代わりに愛原達に何度も謝ったので事なきを得た。

 高橋:「何なんだ、あいつ……!」
 愛原:「リサの知り合いか?」
 リサ:「分かんない。全然分かんない」

 リサは首を横に振った。
 部屋に戻ると、既に布団が敷いている。
 部屋は二間になっていて、八畳間に二組、襖を挟んで隣の四畳半の部屋に一組の布団が敷かれていた。

 愛原:「じゃあ、リサはそっちな」
 リサ:「うん。……もしかしてさっきのお爺さん、私がBOWだって分かったのかな」
 愛原:「何だって?」
 リサ:「私の番号を聞いてきたのは、私に付けられた管理番号のことなのかなって……」
 高橋:「俺は年甲斐も無くナンパしてきて、電話番号聞いて来たのかと思ったぜ」
 愛原:「高橋の説を信じた方が平和なんだけど、俺はリサの直感を信じたいな」
 高橋:「そうっスか?」
 愛原:「だってさ、息子さんの方がリサのことを『人間だ』って言ったんだぞ?」

 それだけリサが、人間に擬態するのが上手になったということだろう。
 元は人間だった者が『人間に擬態』というのもおかしい言い方だが、実際リサの今の人間の姿は、彼女が『意識して』そうなっているのだからしょうがない。
 気を抜くと鬼娘の姿になる。
 できれば今の姿のリサが、本当のリサであるようにしてあげたいと愛原は願っている。

 愛原:「わざわざそう言ったんだ。てことは、親父さんの方はリサを人間じゃないと気付いた可能性はある」
 高橋:「……旧アンブレラの関係者ですかね?ほら、善場の姉ちゃんが言ってたじゃないスか。国内に潜伏している奴らもいるって」
 愛原:「いくらコロナ禍で人の少ない山奥の温泉だからって、こういう所にのこのこ来るか?日本の警察からも指名手配食らってるんだろ?」
 高橋:「まあ、それもそうですけど……」
 愛原:「風呂にはもう一回入って、それから寝よう。幸い今日、女性の宿泊客はいないみたいだ。それでいいか?」
 高橋:「そうですね」
 リサ:「もう一回入る」
 愛原:「よし。そうと決まったら、もう一回行こう」

 リサは愛原達について行った。
 大浴場に行くのに、また帳場の前を通らないといけない。

 女将:「先ほどは失礼致しました。びっくりしましたでしょう?」
 愛原:「あっ、女将さん」
 高橋:「さっきのオッサン、何だったんだ?」
 女将:「恐らく、きっとどなたかと人違いをされたのでしょう。今、食堂で夕食を取られてございます」
 愛原:「どこの人達なの?確か、五十嵐さんって言ってたね?」
 女将:「そうですね。ただ、これ以上はお客様のプライバシーになりますので……」
 愛原:「ま、そりゃそうだ」
 リサ:「五十嵐……」

 リサは首を傾げた。
 リサにはその名字に心当たりがあるような気がした。
 ただ、そんなに珍しい名字というわけではないので、学校にも教職員や生徒で同じ名字の者はいる。
 どうしても、学校関係者とごっちゃになってしまい、違和感の先にある名前を思い出せないのである。

 愛原:「風呂上がりに、ノンアルコールの飲み物とかおつまみが欲しいんだけど、どこかで売ってない?」
 女将:「客室の冷蔵庫に入れてございます」
 愛原:「ああ、あれか」

 ビジネスホテルのそれと違い、こういう温泉旅館の客室冷蔵庫には有料の飲み物とかが入っているのがベタな法則。
 確かに瓶ビール以外に、ジュースとかも入っていたような気がする。
 もちろんこれまたベタな法則で、どうしても自販機で買うよりも高い。
 その為、温泉旅館であっても、客室冷蔵庫方式は廃止して、ロビーやエレベーターホール近くに自販機を設置して、そこに飲み物の販売を集約するというビジネスホテル形式を取る所も増えて来た。

 愛原:「まあ、しょうがないか。あの変な客達が夕飯食ってる間に、俺達は風呂に入ってしまおう」
 高橋:「はい」
 リサ:「……!」

 その時、リサは尿意を感じた。

 リサ:「先に行ってて。トイレに行って来る」
 愛原:「ああ、分かった。気をつけろよ」
 リサ:「うん、大丈夫」

 まだ例の五十嵐親子は食堂にいるみたいだし、リサもこの人間形態を維持していれば、少なくとも息子の方は誤魔化せると分かったので、少し自信があった。
 実際、学校でもバレていないのだから大丈夫だと。
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“私立探偵 愛原学” 「鬼首温泉」

2020-09-15 16:14:25 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月26日15:30.天候:雨 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首 某旅館2F客室→1F大浴場]

 私達が通された部屋は、趣のある和室であった。

 愛原:「八畳間と四畳半の二間か。何か、実家に帰ったみたいな部屋だなぁ……」
 高橋:「先生の御実家に泊まらせて頂いた時も、和室でしたね」
 愛原:「そうそう。俺と高橋はここで寝るから、リサはそっちの部屋で寝てくれ」
 リサ:「分かった」

 そこへ女将がやってくる。

 女将:「本日は、こんな田舎の宿へお泊り頂き、真にありがとうございます」

 60代後半くらいの、うちの母親と大して変わらない年代の女将だ。

 愛原:「お世話になります」
 女将:「従業員一同、歓迎させて頂きます。本日はどうぞ、ごゆっくりとお過ごしくださいませ」
 リサ:「おー、ドラマで観た女将さんみたい!」
 高橋:「こっちはガチ者だぜ?」
 愛原:「この辺って、温泉どんな感じなの?鳴子温泉と違って、あんまり硫黄の臭いがしないね?」
 女将:「そうですね。こちらは単純泉、食塩泉などの無色透明のお湯が特徴ですね」
 愛原:「へえ。結構シンプルなんだ」
 女将:「さようでございます。お風呂の場所ですが……」

 あまり大きくない旅館だ。
 建物の構造も、そんなに複雑ではない。

 女将:「お夕食ですが、夜6時からとなっておりますが、それでよろしいでしょうか?」
 愛原:「そうですね。それでお願いします」
 女将:「かしこりました」
 愛原:「それじゃ早速入りに行こうかな」
 女将:「どうぞ。そちらに浴衣とタオルがございますので」
 愛原:「ある?こういうのはさ、着替えてナンボでしょ」
 女将:「そうですね。お寛ぎください」
 高橋:「リサはそっちで着替えろ!」
 リサ:「え?」

 既にブラウスを脱いで、黒いスポブラの状態。

 私と高橋は当然ながら男湯に入る。

 高橋:「貸し切りっスね。他に客いないんスかね?」
 愛原:「そんなことはない。……と、信じたいが、コロナ禍の影響はここにも出ているだろうからなぁ……」
 高橋:「先生、不肖の弟子、高橋正義がお背中お流しさせて頂きます!」
 愛原:「おっ、ありがたい。よろしく頼むよ」
 高橋:「唯一無二の師匠、愛原先生に断固としてお応えして参る決意であります!」
 愛原:「大げさなw 何か、どこかで聞いたことのある言い回しだな」

 高橋は私の背中を流しながら聞いてくる。

 高橋:「先生、聞き込み調査とかやんないんスか?」
 愛原:「やるよ。飯の時間とか、夜にでも聞くさ」
 高橋:「そうですか。しっかし、こんな山奥の温泉にアンブレラの研究所がねぇ……」
 愛原:「この辺の人達にはいい迷惑だっただろうさ。とにかく、不快にならないように聞くぞ」
 高橋:「うっス」

[同日18:00.天候:雨 某旅館1F食堂]

 食堂に行って夕食に舌鼓を打つ。

 愛原:「天ぷらか。これも久しぶりだ」
 高橋:「サーセン。油を使う料理はネンショー(少年刑務所)じゃ教わんなかったんで」

 少年受刑者に扱わせると危険だからか?
 しかし、だったら既に料理をさせる時点で包丁とか使うだろうがなぁ……。
 それとも、防火の観点だろうか。

 愛原:「ビール、追加お願いします」
 女将:「かしこまりました」
 高橋:「アネゴがいないからって、遠慮無いっスねー、先生」
 愛原:「いや、ハハハ……。高野君には内緒だよ」
 高橋:「俺も、もう一本頼んでいいスか?これで、怒られるのも俺と一緒っス」
 リサ:「私もジュースお代わり~」
 愛原:「はいはい」
 リサ:「あと、ご飯も」

 食事がある程度進んた時、私は女将に聞いてみた。

 愛原:「そういえば女将さん、この辺って昔、爆発事故があったんだって?いや、俺達、仙台にも寄って来たんだけど、あそこもガス爆発事故があったからね」
 女将:「事故ではないようなんですよ。ただ、私達もよく分からなくてですねぇ……」
 愛原:「あれでしょ?日本アンブレラっていう、昔に潰れた製薬会社の保養所があった所でしょ?」
 女将:「そうなんです。この辺、たまにサバイバルゲームをやりに来る人達がいらっしゃるんですが、その割には自衛隊みたいにヘリコプターが出動するわ、ジープとかトラックが来るわで大騒ぎでしたねぇ……」
 高橋:「いやオバちゃん、それもうサバゲーってレベルじゃねーしw」

 “青いアンブレラ”がやってきたことは、この辺りの住民の記憶には新しいようだ。

 愛原:「その保養所ってどこにあったんですか?」
 女将:「この旅館の前の通りを、もっと先に進んだ所に林道の入口があるんですけど、要はキャンプ場に向かう道の途中ですね。その先にあったんです。でも、昔から滅多に人の出入りはございませんでしたし、私達も一体何の建物なんだろうと首を傾げてございました」

 それこそが保養所を隠れ蓑にした秘密の研究施設か。

 愛原:「今はどうなってるの?爆破されたってことは、多分もうその建物は跡形も無いとは思うけど……」
 女将:「そうでございますね。そこに至る道も崩れてしまって、今は通行止めになってるんです。あ、もちろんキャンプ場や間欠泉の所へは行けるようになってはございますが」
 愛原:「なるほどね」

 ま、当初の予想通りか。
 建物は爆破されて跡形もない。
 そこへ至る道も爆破の衝撃のせいなのか、はたまたその後の悪天候による地盤の崩壊のせいなのかは不明だが、道も無くなってしまったと。
 何かもうこの情報だけで調査終了って感じだが、さすがにそれではクライアントは納得すまい。
 取りあえず現地に行ってみて、その様子を写真に収める。
 そして、それを添付して報告書を作成し、善場主任に提出すれば良い。
 この時は、それくらい安易に考えていた。

 女将:「お客様方は、どういったお仕事をされておられるのですか?」
 愛原:「あ、私は東京都内で小さな探偵事務所を経営しています」
 高橋:「俺は先生の一番弟子です」
 リサ:「先生のお嫁さんでーす」

 私の隣に座るリサは、私の手を取って寄り掛かった。

 愛原:「ブッ!」
 高橋:「くぉらっ!……俺の妹分っス」

 おお、ついに高橋がリサを妹分と認めてくれた。
 実際リサは高橋を『お兄ちゃん』と呼んでいるので、その辺は違和感無い。

 女将:「探偵さんでしたか。何だか大変そうですね」
 愛原:「ちょっと、その保養所跡が今どうなっているかの調査を頼まれましてね。今日は天気が悪いんで、今日はこちらに泊まらせてもらって、明日調査に行こうと思ってるんです」
 女将:「そうでしたか。噂ではかなり道が悪い……というか、そこに道があったかどうかも分からないくらいの状態らしいので、大変だと思いますよ」
 愛原:「ええ、頑張って行きますよ」

 それが探偵魂ってもんだ。
 私はそう決意すると、ビールの入ったグラスを一気に飲み干した。
 お代わりのビールを注ぐは、高橋ではなくリサ。
 さっきは高橋に注いでもらったので、順番か。

 女将:「大雨注意報が発令されてまして、もしかしたら夜中は警報に切り替わるかもしれないとのことです。今夜は当館でお過ごし頂くのが安全だと思います」
 愛原:「ええ。そうさせてもらいます」

 あくまでも今回の目的は調査。
 それを完遂する為には、まず自分達の安全を確保しなければならない。
 なので、そこは女将さんの言う通りにするべきだろう。
 というか、元々そういうプランだったのだが。
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