[8月26日10:00.天候:雨 宮城県遠田郡美里町 愛原公一の家]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
公一伯父さんの家の前に、善場主任達を乗せた黒塗りのクラウンが止まった。
ナンバーこそ普通の3ナンバーだが、リアにアンテナを搭載していることから、それが覆面パトカーの一種であることが分かる。
しかしその車は警察車両ではない。
降りて来たのは善場主任だけだった。
善場:「おはようございます」
愛原学:「おはようございます。雨の中、ありがとうございます」
善場:「いいえ。お約束ですから」
愛原学:「どうぞ、お上がりください」
善場:「お邪魔致します」
私は善場主任を客間に案内した。
善場:「あなたが愛原公一名誉教授ですね。『枯れた苗を元の苗に戻す化学肥料』のサンプルを頂きに参りました」
愛原公一:「うむ。残り1つだで。大切に扱ってもらいたい」
愛原学:「残り1つ!?量産は?」
公一:「んだから、ワシが居眠りしている間に勝手にできた肥料だから、作り方が分からんのだ」
学:「旧アンブレラに全部売ったのかと思ったよ」
公一:「売ったのはサンプルだけだで」
学:「そうか」
公一は奥から瓶に入った薬品を持って来た。
瓶自体は大きなものではなく、栄養ドリンクの瓶くらいの大きさである。
善場:「ありがとうございます。これを解析して、必ず『BOWリサ・トレヴァーを人間に戻す』薬品を作ってみせます」
学:「よろしくお願いします。リサも人間に戻りたいと言いました」
善場:「そうですか」
学:「リサが体内に有しているウィルスでは、新型コロナウィルスのワクチンは作れなかった。恐らく、今後も何か新型のコロナウィルスなどが出てきたとしても、リサでは役に立てない。それで方針を転換して、リサを人間に戻すというプランになったということですか?」
善場:「さすがは愛原所長。名推理ですね。概ね正解ですが、少し違う所があります」
学:「どこですか?」
善場:「『リサ・トレヴァーから新型コロナウィルスのワクチンを造り出すことに失敗したから方針転換した』のではなく、『リサ・トレヴァーから新型コロナウィルスのワクチンを造り出すプランと同時進行で、人間に戻す計画を実行していた』というのが正しいです」
学:「そんなことを私達に内緒で?」
善場:「申し訳ありません。私とて中間管理職です。上の命令には逆らえません。そのプランが上から承認を得られて、初めて実行できるのです。今回リサ・トレヴァーを人間に戻す計画についても、藤野の時点ではまだ承認を得られていなかったので、お話しすることができなかったのです」
学:「具体的にはどうするのですか?伯父さんの薬が、どのように役に立つのですか?」
善場:「私はここにいるリサ・トレヴァーを、アメリカの政府エージェント、シェリー・バーキン氏のようにしたいと思っております。御存知のように、バーキン氏は幼少の頃、Gウィルスに感染し、危うくBOWになるところでした。しかし、そのGウィルスにもワクチンはあります。しかしそのワクチンは、ウィルスを無効化するのではなく、その人体に無理なく取り込めるようにする効果を発揮するものです。そしてバーキン氏は正しく期待通り、Gウィルスを自然に取り込み、人間の姿、自我、理性、知性全てを失うことなく、しかし驚異的な身体能力を有することができたのです」
因みに善場主任はこの説明をする際、専用のタブレットを使って説明した。
紙の資料にすると紛失したり、流出したりの危険性があるからだろう。
確かに資料を見る限り、シェリー・バーキン氏は人間と言って差し支えない感じであった。
あくまでも驚異的な身体能力を持っているというだけで、例えば今のリサみたいに人外に変化するわけではないそうだ。
もちろん他人にウィルスを感染させたりすることもないし、人肉を食らうこともしない。
善場:「こちらのリサ・トレヴァーは検査した所、Gウィルスを保有しています。これにシェリー・バーキン氏に投与されたGウィルスのワクチンとこの薬剤、そして……他に存在しているウィルスなどを上手く調剤して、リサ・トレヴァーを人間に戻す薬を作ろうと思っています」
高橋:「マンガやアニメみてーに、随分と都合のいい話に聞こえるな?」
善場:「言葉にするからそのように聞こえるのですよ。実際、その薬を作る方は大変ですよ」
公一:「それは確かに」
善場:「他に名誉教授にお願いしたいのは、この薬剤が偶然できた時の実験、その状況を記した資料などの提出もですね」
公一:「ああ。それについても、あの胡散臭い製薬会社が欲しがってたな」
学:「まさかあげたの!?」
公一:「無いとはウソ付けんだろうが」
学:「いや、そりゃそうだけど……」
公一:「だけど当時の助手が資料をコピーしていたので、それは持っておるよ」
学:「何だ……」
公一:「それで良ければ、持って行くといいでしょう」
善場:「ありがとうございます」
学:「居眠りしてて偶然できたって話の方が、よっぽどマンガみたいだよ」
公一:「だってできちゃったんだもん、スかたねーべよ!」
高橋:「先生、先生の調査の方は?吉田なんとかって家に行ったんでしょう?」
学:「いや、いい話は聞けなかった。写真のメモ書きを見せても、『そんなのは知らない』の1点張りだ」
高橋:「よし、でしたら俺の出番ですな」
高橋はマグナムを取り出した。
高橋:「門扉に一発、玄関に一発撃っときゃ、いい警告になりますかね?」
学:「それはヤーさんの組事務所に頼むよ?」
善場:「でも、写真のことは反応したわけですね?」
学:「吉田律子さんの御実家であることは認めてくれましたよ。ですが、娘さんを失った悲しみがまだ癒えていない為に、赤の他人の私が言ってもダメでした」
公一:「まさか、小牛田から古川に引っ越してたとは……」
高橋:「で、俺とリサが相手した吉田美亜ってヤツ、結局何だったんでしょう?何であいつはリサみたいな化け物に?」
善場:「それこそが、正に私がこれからお話ししたい内容です。皆さん、日本アンブレラのことは御存知ですね?」
公一:「知ってるも何も、わしの研究成果を爆買いしていった胡散臭い製薬会社だで」
学:「知っても何も、霧生市で嫌ほど知らされましたよ」
高橋:「先生の仰る通りだ。何を今さら……」
リサ:「その研究所にいました」
善場:「もちろん、潰れたことも御存知ですね。当然です。経営母体のアメリカ本社が潰れたわけですから。その本体と直接繋がっていた日本アンブレラも2004年3月14日に、一旦は無くなっています。が、すぐに独立企業として再生したわけですが」
しかしそれも、霧生市のバイオハザードで会社としての信用を一切失い、そのまま潰れたと聞く。
善場:「霧生市に在住していた関係者の大半は亡くなりましたが、市外在住の関係者、或いは市内在住であっても、上手く脱出した関係者も多数います。それらの多くは“青いアンブレラ”に参加して贖罪活動をしているわけですが、中にはそうでない者もいるのです。その中に、そこにいるリサをBOWたる日本モデル完全版リサ・トレヴァーとした者がいます」
愛原:「な、何だってー!?」
公一:「噂なら知ってる。だが連中は、海外に逃亡したと聞くが?」
善場:「そうです。捜索は困難を極めましたが、このコロナ禍のおかげで助かりましたよ」
世界中を恐怖と不幸に陥れた新型コロナウィルス。
しかし、今回はそれが幸運な方向へと導いただと?
それは一体?
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
公一伯父さんの家の前に、善場主任達を乗せた黒塗りのクラウンが止まった。
ナンバーこそ普通の3ナンバーだが、リアにアンテナを搭載していることから、それが覆面パトカーの一種であることが分かる。
しかしその車は警察車両ではない。
降りて来たのは善場主任だけだった。
善場:「おはようございます」
愛原学:「おはようございます。雨の中、ありがとうございます」
善場:「いいえ。お約束ですから」
愛原学:「どうぞ、お上がりください」
善場:「お邪魔致します」
私は善場主任を客間に案内した。
善場:「あなたが愛原公一名誉教授ですね。『枯れた苗を元の苗に戻す化学肥料』のサンプルを頂きに参りました」
愛原公一:「うむ。残り1つだで。大切に扱ってもらいたい」
愛原学:「残り1つ!?量産は?」
公一:「んだから、ワシが居眠りしている間に勝手にできた肥料だから、作り方が分からんのだ」
学:「旧アンブレラに全部売ったのかと思ったよ」
公一:「売ったのはサンプルだけだで」
学:「そうか」
公一は奥から瓶に入った薬品を持って来た。
瓶自体は大きなものではなく、栄養ドリンクの瓶くらいの大きさである。
善場:「ありがとうございます。これを解析して、必ず『BOWリサ・トレヴァーを人間に戻す』薬品を作ってみせます」
学:「よろしくお願いします。リサも人間に戻りたいと言いました」
善場:「そうですか」
学:「リサが体内に有しているウィルスでは、新型コロナウィルスのワクチンは作れなかった。恐らく、今後も何か新型のコロナウィルスなどが出てきたとしても、リサでは役に立てない。それで方針を転換して、リサを人間に戻すというプランになったということですか?」
善場:「さすがは愛原所長。名推理ですね。概ね正解ですが、少し違う所があります」
学:「どこですか?」
善場:「『リサ・トレヴァーから新型コロナウィルスのワクチンを造り出すことに失敗したから方針転換した』のではなく、『リサ・トレヴァーから新型コロナウィルスのワクチンを造り出すプランと同時進行で、人間に戻す計画を実行していた』というのが正しいです」
学:「そんなことを私達に内緒で?」
善場:「申し訳ありません。私とて中間管理職です。上の命令には逆らえません。そのプランが上から承認を得られて、初めて実行できるのです。今回リサ・トレヴァーを人間に戻す計画についても、藤野の時点ではまだ承認を得られていなかったので、お話しすることができなかったのです」
学:「具体的にはどうするのですか?伯父さんの薬が、どのように役に立つのですか?」
善場:「私はここにいるリサ・トレヴァーを、アメリカの政府エージェント、シェリー・バーキン氏のようにしたいと思っております。御存知のように、バーキン氏は幼少の頃、Gウィルスに感染し、危うくBOWになるところでした。しかし、そのGウィルスにもワクチンはあります。しかしそのワクチンは、ウィルスを無効化するのではなく、その人体に無理なく取り込めるようにする効果を発揮するものです。そしてバーキン氏は正しく期待通り、Gウィルスを自然に取り込み、人間の姿、自我、理性、知性全てを失うことなく、しかし驚異的な身体能力を有することができたのです」
因みに善場主任はこの説明をする際、専用のタブレットを使って説明した。
紙の資料にすると紛失したり、流出したりの危険性があるからだろう。
確かに資料を見る限り、シェリー・バーキン氏は人間と言って差し支えない感じであった。
あくまでも驚異的な身体能力を持っているというだけで、例えば今のリサみたいに人外に変化するわけではないそうだ。
もちろん他人にウィルスを感染させたりすることもないし、人肉を食らうこともしない。
善場:「こちらのリサ・トレヴァーは検査した所、Gウィルスを保有しています。これにシェリー・バーキン氏に投与されたGウィルスのワクチンとこの薬剤、そして……他に存在しているウィルスなどを上手く調剤して、リサ・トレヴァーを人間に戻す薬を作ろうと思っています」
高橋:「マンガやアニメみてーに、随分と都合のいい話に聞こえるな?」
善場:「言葉にするからそのように聞こえるのですよ。実際、その薬を作る方は大変ですよ」
公一:「それは確かに」
善場:「他に名誉教授にお願いしたいのは、この薬剤が偶然できた時の実験、その状況を記した資料などの提出もですね」
公一:「ああ。それについても、あの胡散臭い製薬会社が欲しがってたな」
学:「まさかあげたの!?」
公一:「無いとはウソ付けんだろうが」
学:「いや、そりゃそうだけど……」
公一:「だけど当時の助手が資料をコピーしていたので、それは持っておるよ」
学:「何だ……」
公一:「それで良ければ、持って行くといいでしょう」
善場:「ありがとうございます」
学:「居眠りしてて偶然できたって話の方が、よっぽどマンガみたいだよ」
公一:「だってできちゃったんだもん、スかたねーべよ!」
高橋:「先生、先生の調査の方は?吉田なんとかって家に行ったんでしょう?」
学:「いや、いい話は聞けなかった。写真のメモ書きを見せても、『そんなのは知らない』の1点張りだ」
高橋:「よし、でしたら俺の出番ですな」
高橋はマグナムを取り出した。
高橋:「門扉に一発、玄関に一発撃っときゃ、いい警告になりますかね?」
学:「それはヤーさんの組事務所に頼むよ?」
善場:「でも、写真のことは反応したわけですね?」
学:「吉田律子さんの御実家であることは認めてくれましたよ。ですが、娘さんを失った悲しみがまだ癒えていない為に、赤の他人の私が言ってもダメでした」
公一:「まさか、小牛田から古川に引っ越してたとは……」
高橋:「で、俺とリサが相手した吉田美亜ってヤツ、結局何だったんでしょう?何であいつはリサみたいな化け物に?」
善場:「それこそが、正に私がこれからお話ししたい内容です。皆さん、日本アンブレラのことは御存知ですね?」
公一:「知ってるも何も、わしの研究成果を爆買いしていった胡散臭い製薬会社だで」
学:「知っても何も、霧生市で嫌ほど知らされましたよ」
高橋:「先生の仰る通りだ。何を今さら……」
リサ:「その研究所にいました」
善場:「もちろん、潰れたことも御存知ですね。当然です。経営母体のアメリカ本社が潰れたわけですから。その本体と直接繋がっていた日本アンブレラも2004年3月14日に、一旦は無くなっています。が、すぐに独立企業として再生したわけですが」
しかしそれも、霧生市のバイオハザードで会社としての信用を一切失い、そのまま潰れたと聞く。
善場:「霧生市に在住していた関係者の大半は亡くなりましたが、市外在住の関係者、或いは市内在住であっても、上手く脱出した関係者も多数います。それらの多くは“青いアンブレラ”に参加して贖罪活動をしているわけですが、中にはそうでない者もいるのです。その中に、そこにいるリサをBOWたる日本モデル完全版リサ・トレヴァーとした者がいます」
愛原:「な、何だってー!?」
公一:「噂なら知ってる。だが連中は、海外に逃亡したと聞くが?」
善場:「そうです。捜索は困難を極めましたが、このコロナ禍のおかげで助かりましたよ」
世界中を恐怖と不幸に陥れた新型コロナウィルス。
しかし、今回はそれが幸運な方向へと導いただと?
それは一体?