報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「リサの西瓜割り」

2020-09-04 19:56:25 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月25日11:00.天候:晴 宮城県遠田郡美里町 愛原公一の家]

 私達は公一伯父さんの運転する車で、とある一軒家に着いた。
 国道108号線から1本、町道に入った場所にある平屋建ての一軒家だ。
 農家にしては小さい家だと思うが、しかし1人で住むにしては大きな家ということになるだろう。
 敷地内にはこのプリウスの他に農作業用なのか、軽トラが1台あり、耕運機もあった。

 愛原公一:「ほりェ、着いたぞ」
 愛原学:「ありがとうございます」

 私は無事に到着できたことを心底喜んだ。

 柴犬:「ワンッ!ワンワン!ワンッ!」
 学:「おわっと!?そ、そうか。伯父さん、確か犬飼ってるんだったっけ」

 見た目はオーソドックスな白い柴犬。

 高橋:「あぁ?何だこの犬?」
 公一:「ジョン!ただいまだで!」

 吠えながら尻尾を振っているところをみると、喜んでいるらしい。
 私とは昔1度会っているはずなのだが、すっかり忘れられているようだ。

 ジョン:「ハッハッハッハッ!」

 伯父さんに撫でられると、ジョンは更に尻尾を振るのだった。

 リサ:「かわいいワンちゃんだねー!」

 リサが近づくと……。

 柴犬:「ワウ?」
 リサ:「よーし、よしよしよし。私はリサだよー」

 ビクッとして固まるジョン。
 リサは見た目には人間そのものの姿をしているのだが、野性の勘は誤魔化せなかったようだ。

 リサ:「おとなしくてかわいいワンちゃんですねー」

 リサ、無邪気にジョンの頭をナデナデする。

 公一:「そうだろそうだろ。ジョンは人懐こくて、番犬にはちと向いとらん性格だで」
 高橋:「俺には敵意剥き出して吠えてたぜ?」
 ジョン:((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル(←ジョンにはリサの瞳が赤く光り、牙が覗いているように見える)
 学:「リサ、その辺で。ジョンが怖がってるぞ」
 リサ:「えー?別に犬は美味しそうじゃないから食べないよー?」
 ジョン:「ワウッ!?ワゥゥゥン!」

 ジョン、ついに怖がって尻尾を足の間に挟めて震え出した。

 公一:「おい、ジョン。一体、どうしたというんだ?今日も暑いから家の中に入ってなさい」

 しかしジョンはリサがいる間は、けして家の中に入ろうとしなかった。

 公一:「来客が2人も来たので、驚いているのか……」
 学:「きっとそうですよ」

 私達は家の中に入らせてもらった。
 ジョンがいたからか、家の中は既に冷房が入っていて涼しい。
 犬は暑さに弱いので、夏場は家の中にいさせる場合、冷房を常に点けてあげる必要がある。

 公一:「ちょうどこの前取れた西瓜を冷やしておいた。これを御馳走しよう」
 学:「西瓜かぁ。まだ今年は食べてなかったな」
 公一:「そうじゃろそうじゃろ」
 リサ:「むふー!」

 リサは何故か鼻息を荒くした。
 そして、バッグの中からタオルを出して目隠しを作った。

 リサ:「西瓜割り!西瓜割りやりたい!」
 学:「リサ。それは浜辺でやるものだよ」
 リサ:「浜辺行こ!」
 学:「美里町には海が無い」

 だから東日本大震災の時、津波の被害は一切無かったと聞く。

 公一:「なら、庭でやれば良い。棒ならあるぞ」
 学:「すいませんねぇ……」
 リサ:「兄ちゃんもやろ!」
 高橋:「俺はいいよ」
 リサ:「西瓜が割れなかったら、顔に墨で落書きするんでしょ!?」
 学:「いや、それはお正月の羽根つきのことだと思うが……」
 公一:「何か、色々と間違っているようだが?」
 学:「す、すいません。リサは日本文化が……」
 公一:「まあ、仕方が無い。とにかく西瓜割り、最近の子供は知らんと聞く。この嘆かわしい事態を打開するのだ」
 学:「大げさな……」

 私達は庭に出た。
 そして、私はリサに目隠しをした。

 学:「どうだ?前が見えないか?」
 リサ:「うん。あとはどうするの?亀甲縛り?ボンデージ?」
 学:「いや、全然違うから」
 高橋:「アメリカのオリジナル版リサ・トレヴァーみたいに、手枷・足枷してやったらどうっスか?」
 学:「アホか。3回回るだけでいいんだ。あとは……」
 高橋:「ワンと鳴く」
 リサ:「ワン!」
 ジョン:Σ(゚Д゚)
 学:「高橋!……こうして、少し目が回った状態で西瓜を割りに行く」
 リサ:「はーい」

 リサはフラフラと西瓜の方に向かって歩いていった。
 だが、ここでまた高橋がフザけやがる。

 高橋:「おーい、もう少し真っ直ぐだぞー」

 高橋は西瓜をこっそり抱えて、リサの後ろに回る。
 そして、リサを明後日の方向に歩かせた。

 高橋:「よーし!西瓜に向かって棒を振り下ろせ!」
 リサ:「了解!」

 リサはフンフンと鼻を鳴らして、西瓜の位置を特定した。
 そして!

 リサ:「でやぁーっ!」

 リサはクルッと高橋の方向を向くと、棒を槍投げのようにブン投げた。

 高橋:「え?」

 棒は超驚異的なスピードで、高橋の抱えている西瓜に突き刺さった。
 突き刺さった部分から、西瓜の中身が血のように噴き出し、滴り落ちた。

 高橋:「は、はひ……?」
 学:「り、リサの勝ち!」

 私はリサの目隠しを取ると、右手を挙げさせた。

 リサ:「エッヘン」
 公一:「……何じゃこれ?」

 公一伯父さんも縁側に座って、呆然としていた。

 リサ:「お兄ちゃん、私、鼻が利くんだよ?知らなかったぁ?」
 高橋:「いや、オマ……!そ、それにしても、それにしてもだな!これは無いだろう!?」

 西瓜が串に刺さった玉コンニャクのようになっていた。

 学:「でも伯父さん、さすがにこの西瓜はもう食べれないですよね?」
 公一:「う、うむ。これはジョンのおやつにしよう。し、心配せずとも、こんなこともあろうかと、もう一玉冷やしておる」
 リサ:「わーい!もう1回やるー!」
 学・高橋・公一:「せんでいい!」
 ジョン:(やっぱりこの女、バケモノだワン……)
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“私立探偵 愛原学” 「高齢者プリウス」

2020-09-04 15:52:21 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月25日10:29.天候:晴 宮城県遠田郡美里町 JR小牛田駅]

 『汽車に乗りても松島の 話かしまし鹿島台 小牛田は神の宮ちかく 新田は沼のけしきよし』(鉄道唱歌『奥州・磐城編』31番)

 仙台から小牛田までは普通列車で45分。
 蒸気機関車時代はその倍以上の時間が掛かっていたという。
 そりゃ普通列車でも時速100キロ以上で走行する今の電車とでは、勝負になるまい。
 その高速化だが、便利な反面、弊害も感じることとなった。
 いや、塩釜~松島間なのだが、駅間距離が長く、線形も良いので、それこそ普通列車でも時速100キロ以上で走行する。
 で、トンネルもいくつかあるのだが、その殆どは上下線毎に分けて掘られた単線並列式である。
 それは複線式と違ってトンネル断面が小さく、その風圧は凄いものがある。
 コロナ禍で夏場であっても、換気の為と称して窓は少し開けられた状態。
 もうお分かりだろう。
 時速100キロ以上で窓を開け、断面の狭いトンネルの中に突っ込むと、車内に暴風が吹き込んで来るのである。
 私は持っていた新聞に顔面を直撃された。
 しかしリサにとっては遊園地のアトラクションに乗った気分になったか、彼女だけはテンションを上げていた。
 周囲の乗客は慣れているのか、特段驚く様子は無かった。
 トンネルの風圧については地下鉄で慣れているつもりだったが、元々ずっと地下トンネルを走っていて、しかも複線式の断面の大きいトンネルなもので、車内に暴風ということはなかった。
 まさか、こういうことに遭遇するとは……。

〔まもなく終点、小牛田、小牛田。お出口は、左側です。東北本線下り、石越・一ノ関方面、“奥の細道湯けむりライン”陸羽東線、古川・鳴子温泉方面、石巻線、石巻・女川方面、気仙沼線、前谷地・柳津方面はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 愛原:「いやあ、あのトンネルにはビックリしたものだね」
 リサ:「面白かった!もう1度やってみたい!」
 愛原:「それは遊園地でやってくれ。後で連れて行ってあげるから」
 リサ:「! おー!」
 高橋:「通りでこの辺の客達は、ドア横の席に座りたがったわけですね」

 ボックスシートの進行方向向きの座席だと、風圧をもろに受ける為。
 しかし、これだと蒸気機関車時代はさぞ煙が入って来て大変だったろうと推察するのだった。
 複線トンネルなら、風圧も少ないから煙もそんなに入って来なかったのかもしれないが……。

〔「今度の東北本線下りは、だいぶ時間がございます。11時35分発の普通列車、一ノ関行きは3番線から。陸羽東線、普通列車の鳴子温泉行きは1番線から10時40分。気仙沼線、普通列車の柳津行きは4番線から10時40分。石巻線は、だいぶ時間がございます。11時36発の普通列車、女川行きは4番線から発車致します。……」〕

 東北本線は接続の頗る悪い電車だ。
 いや、小牛田以南はまだ本数が多く、それ以北・以西・以東の本数が少ないので、どうしても接続の悪い電車が出てくるのはしょうがないか。
 小牛田駅には操車場もあり、使われているのかいないのか分からない転車台まである。

〔「ご乗車ありがとうございました。小牛田、小牛田、終点です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。2番線に到着の電車は……」〕

 電車が下り本線ホームに到着し、そこで私達は電車を降りた。
 相変わらず夏の暑い空気が私達を出迎える。
 小牛田駅は橋上駅舎であり、ホームは地上にあるものの、改札口などは2階にあるタイプだ。
 そこに上がる前に、新聞紙や空のペットボトルなどをホームのゴミ箱に捨てた。

 高橋:「先生。元教授はどちらに?」
 愛原:「西口にいるってさ」

 階段を上り、改札口を通過する。
 コンコースは跨線橋も兼ねていて、陸羽東線や側線を渡って西口に向かうことになる。
 ちょうど私達が階段を下りる時、貨物列車が入換で来たところだった。
 陸羽東線も石巻線も貨物列車が走っているが、いずれも非電化路線なので、電化路線の東北本線は電気機関車で、小牛田駅からはディーゼル機関車に交換するのだろう。
 ……ということは、あの転車台はやっぱり現役だったのだろうか。

 愛原:「えーと……ああ、あれだ」

 西口の駅前ロータリーに行くと、高齢者マークの貼られたプリウスを見つけた。

 愛原学:「伯父さん」
 愛原公一:「おー、やっと来たか」
 高橋:「ちゃス!」
 リサ:「こんにちはーっ!」
 公一:「おーっ!元気で何より。若いっていいねェ!んじゃ、早速乗ってくれ」

 私は助手席に、高橋とリサはリアシートに座った。

 公一:「まずはワシの家に案内しよう」
 学:「よろしくお願いします」

 伯父さんは車を走らせた。

 高橋:「家は近いんスか?」
 公一:「そうだの~……。ワシの運転だと、だいたい15分ってとこかの~」
 学:「仙台駅からうちまでの距離と同じくらいかね?」
 公一:「ま、そんなところだべね」

 高齢者プリウスは要注意車だと高橋は言う。
 しかし、公一伯父さんに関しては、今のところ乗っている限り、不安は感じない。
 が!

 高橋:「先生!後ろからパトカーが!」

 何と、パトカーがサイレンを鳴らして接近してきた。

 高橋:「サツはブッちぎってくださいっ!」
 学:「オマエの車じゃないだろ!」
 高橋:「何でしたら、俺が運転代わります!」
 学:「その間に捕まるし!」
 公一:「慌てるな」

 伯父さんはハザードランプを点けた。

〔「緊急車両通過します!緊急車両通過します!道を空けてください!」〕

 しかしパトカーはこの車を追い越して行った。
 どうやら、この車に用は無いらしい。

 高橋:「ったく。びっくりさせんなや……」
 学:「まあまあ」

 しかし今のパトカー、一体どこへ行ったのだろうか。
 それはすぐに分かった。

 高橋:「せ、先生!コンビニに突っ込んでる高齢者プリウスがーっ!」

 高橋が反対車線側にあるコンビニを指さした。

 学:「おわぁお!」
 公一:「ああはならんよう、気をつけようぞ」

 伯父さんは他人事のように言うと、軽やかに事故現場の前を通過した。

 公一:「案ずるな、若造。ワシの『死亡フラグ』は敵対者限定だで」
 高橋:「お願いします!!」

 高橋は切実な感じて答えた。
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