報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「昼食とその後」

2020-09-27 22:54:54 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月28日13:00.天候:晴 宮城県仙台市宮城野区宮千代 ビッグボーイ]

 穴から戻った私達は、善場主任達の車に乗って近くのファミレスに向かった。

 善場:「調査と情報提供ありがとうございます。御礼に昼食代はこちらで持たせて頂きますので」
 愛原:「え?いいんですか?」
 善場:「御心配に及びません」
 愛原:「でも……」
 斉藤絵恋:「リサさん、何食べる?」
 リサ:「こ、このステーキ……2つ合わせて320gもある……!」
 高橋:「おい、気をつけろ!第一形態に変化しかかってんぞ!」
 リサ:「……けど、まだ足りない……」

 リサ、完全に口から牙を覗かせている。

 絵恋:「リサさん、マスクして!」

 絵恋さんは急いでリサにマスクを着けさせた。
 因みにリサと絵恋さんはお揃いでピンク色のマスクを着けていた。
 高橋は一貫して黒いマスク、私は白のだ。
 善場主任も白であることが多い。

 愛原:「約一名、高い確率で予算オーバーになるくらい食べるのがいますが、大丈夫ですか?」
 善場:「これも対BOWの為の経費です。私達は人類に仇成すBOWの駆逐の他、これから仇成しそうなBOWの暴走を防止するのも使命ですので」
 愛原:「そ、そうですか」
 善場:「というか、彼女の食費の高さは本当だったんですね」
 愛原:「ようやく信じて頂けましたか……」
 善場:「毎月のリサに関する経費の請求額、食費だけ異様に突出していたのが気になりましたが、それは正当なものであると確認できました」
 愛原:「承認して頂けて何よりです」
 高橋:「ていうか姉ちゃん、いっそこいつ、ガチで駆逐しちまった方が安上がりなんじゃね?」
 善場:「それは目先の利益優先の悪い考え方ですね。私達はその先の益を見ています。このリサ・トレヴァーを類稀なる身体能力を残したまま人間に戻し、私達の組織に入ってもらって、国家の為に働く。それによって得られる利益、国益とも言いますが、それは今現在彼女に掛かっている経費などすぐに回収できるものだと考えています」
 愛原:「何度も主任から聞きましたが、改めて聞きますと、リサに掛ける期待って大きいんですね?」
 善場:「大きいですとも。これだけ完全に制御できている状態で動いているBOWは、恐らく史上初なのではないかと。ましてや化け物の姿ではなく、こうして人間の姿で活動できるのですから」
 愛原:「なるほど……」
 絵恋:「あの、そろそろ注文してよろしいでしょうか?」
 愛原:「あっと、そうだった」
 絵恋:「リサさん、お腹がペコペコで暴走しそうです」
 リサ:「早く食べたーい!」

 リサ、ついに口だけで不織布マスクを破いてしまった。

 愛原:「分かった分かった!主任は何にします?」
 善場:「え、えーと……」
 愛原:「リサ、ステーキもいいが、バイキングセットを頼めばサラダやらスープやらカレーも食べ放題だぞ」
 リサ:「! おー!」

 しかし、リサはステーキは譲らなかった。
 そしてようやく注文が終わると、リサは待ち切れないとばかりにサラダバーの方に向かって行った。

 高橋:「俺も行って来ます。ついでに先生の分もお持ちしますよ」
 愛原:「俺は後でいいから、善場主任のを先に持ってきてくれ」
 高橋:「でも姉ちゃん、サラダバーとか頼んでませんよ?」
 愛原:「あ、そうか。すいません、何か私達だけ……」
 善場:「いいんですよ。五十嵐親子の埼玉の住所という重大な情報を提供して下さったのですから」
 愛原:「高橋、取りあえずスープな。スープは何でもいい」
 高橋:「分かりました」

 高橋がサラダバー(の隣にスープバーもある)に向かうと、私達は話を続けた。

 愛原:「そんなに重大な情報なんですか?」
 善場:「重要ですとも。それまで五十嵐元社長のことについては、こちらも詳しい情報は得ていなかったのです。先ほど本部に報告しました。恐らく別のチームが踏み込むことでしょう」
 愛原:「踏み込むって、何の罪で?」
 善場:「こちらも色々と押さえているのです。捜査令状を裁判所から取ることなど、造作も無いですよ」

 怖い怖い。
 この組織、敵に回したら、国家権力でもって裏で消されるぞ。
 一応民間人の私達の前に現れているのだから、善場主任は裏の組織の中でも、表立って行動が許される立場なんだろうが。
 別のチームとやらが、民間人の前にも姿を現してはいけない、本当の裏の人達なのだろう。

 リサ:「んー、んー」

 リサが戻って来た。

 愛原:「って、おま!」

 私は目を丸くした。
 リサはサラダバーの野菜を山盛りにし、更にカレーも山盛り。
 それを両手に持って、更にスープバーのスープのカップを口にくわえて戻って来た。

 リサ:「ん!」
 絵恋:「はいはい。今、お取りしますわ、リサ様」

 絵恋さんがリサのカップをまずは取る。

 愛原:「お前、そんなに食って……!」
 リサ:「お腹空いたもの。頂きまーす」
 愛原:「残さず食べるんだぞ?」
 リサ:「もちろん。むしろ、お代わりするかも」
 愛原:「お前なぁ……」

 私は呆れた。

 善場:「いいのよ。普通の食事なら、沢山食べても。だけど、人を襲って食べたりしてはダメよ?」
 リサ:「はーい」
 善場:「もしこの約束を破ったら、あなたはもう2度とこの人達に会えなくなる」
 リサ:「はい……」

 善場主任の目が異様に冷たいものとなった。
 あのリサが一瞬、食べたものを喉に詰まらせかけたほどだ。

 善場:「愛原所長、こちらのリサはどんどん強くなっていますか?」
 愛原:「うーん……というか、元々強いと思いますけど……。最近はハンターとしか戦っていないので……」

 ハンターなんか素手で倒してしまうリサだが、それは前々からだからな。

 善場:「ですが不完全体とはいえ、彼女の亜種だったBOWを一発で倒したそうではありませんか」
 愛原:「確かに。頭を蹴り飛ばしただけで、首と胴体が引き千切れたそうですね。高橋から聞きました」
 善場:「リサは明らかに強くなっています。恐らく、このままでは、この前の離島の時に連れ去ったネメシスまでも倒せるくらいになるでしょう」
 愛原:「むしろその方がいいんじゃ?」
 善場:「私が疑問に思っているのは、何故彼女がそこまで強くなれるのかです。本来、BOWというのは人肉を食べないと強化できないのです。もちろん、薬剤の投与や更なる改造手術というのもありますが。しかし、リサはそのようなものは受けていない。となると、人間を食べてるとしか思えないのです」
 愛原:「いやいやいや、そんなことはないでしょう。そんなことしたら、すぐ大騒ぎなるはず。きっと、リサの変異か何かですよ。お疑いでしたら、もう一度彼女の体を調べてみてはいかがです?」
 善場:「ええ。近いうち、そうさせて頂きます」
 絵恋:「リサさん、このカレー、美味しいわね」
 リサ:「うん。…………」

 その時、リサが絵恋さんの方に半分視線を向け、もう半分を私達に向けていることに気づいた。
 私達の話を聞いていないようで聞いているようだ。
 その時、リサの私達の向けている目だけ一瞬、金色に光ったのだ。
 リサは何か知っている。
 まさか、本当に人間を食べて……いやいやいや、そんなはずはない。
 そんなことしたら大騒ぎになるし、私とも一緒に暮らせなくなる。
 私と結婚したがっているリサが、そんなことをするわけがない。

 リサ:「ね?先生もカレー食べてみてよ?美味しいよ」

 リサは無邪気な顔で私を見た。

 愛原:「あ、ああ」

 しかし、リサの笑顔に影があるような気がしてしょうがなかった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする