報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「鬼首温泉」

2020-09-15 16:14:25 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月26日15:30.天候:雨 宮城県大崎市鳴子温泉鬼首 某旅館2F客室→1F大浴場]

 私達が通された部屋は、趣のある和室であった。

 愛原:「八畳間と四畳半の二間か。何か、実家に帰ったみたいな部屋だなぁ……」
 高橋:「先生の御実家に泊まらせて頂いた時も、和室でしたね」
 愛原:「そうそう。俺と高橋はここで寝るから、リサはそっちの部屋で寝てくれ」
 リサ:「分かった」

 そこへ女将がやってくる。

 女将:「本日は、こんな田舎の宿へお泊り頂き、真にありがとうございます」

 60代後半くらいの、うちの母親と大して変わらない年代の女将だ。

 愛原:「お世話になります」
 女将:「従業員一同、歓迎させて頂きます。本日はどうぞ、ごゆっくりとお過ごしくださいませ」
 リサ:「おー、ドラマで観た女将さんみたい!」
 高橋:「こっちはガチ者だぜ?」
 愛原:「この辺って、温泉どんな感じなの?鳴子温泉と違って、あんまり硫黄の臭いがしないね?」
 女将:「そうですね。こちらは単純泉、食塩泉などの無色透明のお湯が特徴ですね」
 愛原:「へえ。結構シンプルなんだ」
 女将:「さようでございます。お風呂の場所ですが……」

 あまり大きくない旅館だ。
 建物の構造も、そんなに複雑ではない。

 女将:「お夕食ですが、夜6時からとなっておりますが、それでよろしいでしょうか?」
 愛原:「そうですね。それでお願いします」
 女将:「かしこりました」
 愛原:「それじゃ早速入りに行こうかな」
 女将:「どうぞ。そちらに浴衣とタオルがございますので」
 愛原:「ある?こういうのはさ、着替えてナンボでしょ」
 女将:「そうですね。お寛ぎください」
 高橋:「リサはそっちで着替えろ!」
 リサ:「え?」

 既にブラウスを脱いで、黒いスポブラの状態。

 私と高橋は当然ながら男湯に入る。

 高橋:「貸し切りっスね。他に客いないんスかね?」
 愛原:「そんなことはない。……と、信じたいが、コロナ禍の影響はここにも出ているだろうからなぁ……」
 高橋:「先生、不肖の弟子、高橋正義がお背中お流しさせて頂きます!」
 愛原:「おっ、ありがたい。よろしく頼むよ」
 高橋:「唯一無二の師匠、愛原先生に断固としてお応えして参る決意であります!」
 愛原:「大げさなw 何か、どこかで聞いたことのある言い回しだな」

 高橋は私の背中を流しながら聞いてくる。

 高橋:「先生、聞き込み調査とかやんないんスか?」
 愛原:「やるよ。飯の時間とか、夜にでも聞くさ」
 高橋:「そうですか。しっかし、こんな山奥の温泉にアンブレラの研究所がねぇ……」
 愛原:「この辺の人達にはいい迷惑だっただろうさ。とにかく、不快にならないように聞くぞ」
 高橋:「うっス」

[同日18:00.天候:雨 某旅館1F食堂]

 食堂に行って夕食に舌鼓を打つ。

 愛原:「天ぷらか。これも久しぶりだ」
 高橋:「サーセン。油を使う料理はネンショー(少年刑務所)じゃ教わんなかったんで」

 少年受刑者に扱わせると危険だからか?
 しかし、だったら既に料理をさせる時点で包丁とか使うだろうがなぁ……。
 それとも、防火の観点だろうか。

 愛原:「ビール、追加お願いします」
 女将:「かしこまりました」
 高橋:「アネゴがいないからって、遠慮無いっスねー、先生」
 愛原:「いや、ハハハ……。高野君には内緒だよ」
 高橋:「俺も、もう一本頼んでいいスか?これで、怒られるのも俺と一緒っス」
 リサ:「私もジュースお代わり~」
 愛原:「はいはい」
 リサ:「あと、ご飯も」

 食事がある程度進んた時、私は女将に聞いてみた。

 愛原:「そういえば女将さん、この辺って昔、爆発事故があったんだって?いや、俺達、仙台にも寄って来たんだけど、あそこもガス爆発事故があったからね」
 女将:「事故ではないようなんですよ。ただ、私達もよく分からなくてですねぇ……」
 愛原:「あれでしょ?日本アンブレラっていう、昔に潰れた製薬会社の保養所があった所でしょ?」
 女将:「そうなんです。この辺、たまにサバイバルゲームをやりに来る人達がいらっしゃるんですが、その割には自衛隊みたいにヘリコプターが出動するわ、ジープとかトラックが来るわで大騒ぎでしたねぇ……」
 高橋:「いやオバちゃん、それもうサバゲーってレベルじゃねーしw」

 “青いアンブレラ”がやってきたことは、この辺りの住民の記憶には新しいようだ。

 愛原:「その保養所ってどこにあったんですか?」
 女将:「この旅館の前の通りを、もっと先に進んだ所に林道の入口があるんですけど、要はキャンプ場に向かう道の途中ですね。その先にあったんです。でも、昔から滅多に人の出入りはございませんでしたし、私達も一体何の建物なんだろうと首を傾げてございました」

 それこそが保養所を隠れ蓑にした秘密の研究施設か。

 愛原:「今はどうなってるの?爆破されたってことは、多分もうその建物は跡形も無いとは思うけど……」
 女将:「そうでございますね。そこに至る道も崩れてしまって、今は通行止めになってるんです。あ、もちろんキャンプ場や間欠泉の所へは行けるようになってはございますが」
 愛原:「なるほどね」

 ま、当初の予想通りか。
 建物は爆破されて跡形もない。
 そこへ至る道も爆破の衝撃のせいなのか、はたまたその後の悪天候による地盤の崩壊のせいなのかは不明だが、道も無くなってしまったと。
 何かもうこの情報だけで調査終了って感じだが、さすがにそれではクライアントは納得すまい。
 取りあえず現地に行ってみて、その様子を写真に収める。
 そして、それを添付して報告書を作成し、善場主任に提出すれば良い。
 この時は、それくらい安易に考えていた。

 女将:「お客様方は、どういったお仕事をされておられるのですか?」
 愛原:「あ、私は東京都内で小さな探偵事務所を経営しています」
 高橋:「俺は先生の一番弟子です」
 リサ:「先生のお嫁さんでーす」

 私の隣に座るリサは、私の手を取って寄り掛かった。

 愛原:「ブッ!」
 高橋:「くぉらっ!……俺の妹分っス」

 おお、ついに高橋がリサを妹分と認めてくれた。
 実際リサは高橋を『お兄ちゃん』と呼んでいるので、その辺は違和感無い。

 女将:「探偵さんでしたか。何だか大変そうですね」
 愛原:「ちょっと、その保養所跡が今どうなっているかの調査を頼まれましてね。今日は天気が悪いんで、今日はこちらに泊まらせてもらって、明日調査に行こうと思ってるんです」
 女将:「そうでしたか。噂ではかなり道が悪い……というか、そこに道があったかどうかも分からないくらいの状態らしいので、大変だと思いますよ」
 愛原:「ええ、頑張って行きますよ」

 それが探偵魂ってもんだ。
 私はそう決意すると、ビールの入ったグラスを一気に飲み干した。
 お代わりのビールを注ぐは、高橋ではなくリサ。
 さっきは高橋に注いでもらったので、順番か。

 女将:「大雨注意報が発令されてまして、もしかしたら夜中は警報に切り替わるかもしれないとのことです。今夜は当館でお過ごし頂くのが安全だと思います」
 愛原:「ええ。そうさせてもらいます」

 あくまでも今回の目的は調査。
 それを完遂する為には、まず自分達の安全を確保しなければならない。
 なので、そこは女将さんの言う通りにするべきだろう。
 というか、元々そういうプランだったのだが。

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