報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ギルドのバザール」

2020-05-25 19:44:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月7日15:00.天候:晴 アルカディアシティ1番街 魔界共和党本部]

 応接室に通された稲生達は、勧められたソファに座った。
 背中に剣を背負っているクリスだけは立っている。

 坂本:「こちらが御約束の報奨金です。どうぞ、お納めください」

 坂本は布に包められた封筒を4つ出した。
 1人1袋ということか。
 金一封にしては、ある程度の厚みがある。
 しかも、それぞれ宛先が書いていた。
 人によって、額が違うのだろうか?
 見た目の厚みは皆一緒だが……。

 クリス:「おおっ!3000ゴッズもくれるのか!太っ腹だねぇ!」

 この国で流通している最高額紙幣は1000ゴッズ。
 それがまず3枚入っている。
 最高額紙幣に相応しく、紙幣に印刷されている人物はルーシー・ブラッドプール一世の横顔だった。
 他に入っているのは……。

 稲生:「日本の『温泉ペア宿泊券』だ。これも横田理事の肝煎りですか?」
 マリア:「うん、絶対そうだ!」

 マリアがムキッ歯して睨み付けているものは、人間界のとある下着店で使えるクーポン券だった。
 そしてそれは、イリーナも同じ。
 これで新しい下着を買ってくれという分かり易過ぎる無言のメッセージであった。
 ……いや、無言ではなかった。
 ちゃんと、添え状も入っていた。
 一応、6番街における活躍への謝辞が書かれていたが。
 『ささやかながら金一封と有価証券を贈呈させて頂きます。少ないですが、どうぞ御自由にお使い頂けると幸いです』
 と、書かれていた。
 御丁寧に稲生には日本語で、マリアとクリスには英語で、イリーナにはロシア語で書かれていた。

 イリーナ:「この辺、几帳面なところが日本人って感じよね」
 稲生:「メンバーの殆どが在日確定しているケンショーレンジャーズの中で、グリーンは数少ない生粋の日本人なんですね」
 マリア:「クリスは何が入ってた?クリスは人間界に来れないだろう?」
 クリス:「私のはアルカディアシティの防具屋で使えるクーポン券が入ってた」
 稲生:「防具かぁ……。クリスの欲しいのは剣なのに、武器屋で使えるクーポンじゃないんだね」

 その時、イリーナはピンと来た。

 イリーナ:「いや、多分アレだよ。クリスのに関しても、ちゃんと横田理事の性癖が入ってるよ」
 稲生:「えっ?」
 イリーナ:「クリス。その金一封で新しい剣は買えそうかい?」
 クリス:「ああ。おかげさまで、これで新しい鋼の剣が買える」
 イリーナ:「勇太君。クリスに送られたクーポンの意味が知りたかったら、クリスの買い物に付き合ってみるといいよ」
 稲生:「ええっ?」
 マリア:「そんな時間は……」
 イリーナ:「あるさ。どうせ次のクエストの内容、決まってないんだし」
 マリア:「決まってないんですか!」
 イリーナ:「新型コロナウィルスが収束するまで、魔界に避難していようかとも思ったんだけどねぇ……」
 稲生:「でも、ミッドガード共和国が宣戦布告してくるかもしれないんでしょう?ここはここでちょっと不安ですねぇ……」
 イリーナ:「買い物に付き合うくらいならいいだろ。よし。貰う物は貰ったし、クリスの買い物に付き合ってみるか」

 イリーナの鶴の一声で、稲生達の次の行動が決まった。

[同日15:30.天候:晴 アルカディアシティ1番街 1番街駅東口商店街(First Avenue Guild Bazaar)]

 魔界共和党本部事務所をあとにした稲生達は、1番街駅の中を通り、東口に出た。
 西口は魔王城や共和党本部、その他銀行や企業の本社などもあるオフィス街だが、東口は冒険者が集まるギルドのバザールがある。
 昔は西口に集中していたのだが、内戦で魔王城が狙われたことによる飛び火で壊滅状態になった為、安全な東口へ移転した。

 クリス:「駅を挟んでいるだけだってのに、全然雰囲気が違うねぇ」
 稲生:「いや、全く」

 西口はスーツ姿の役人や護衛の銃を構えた警備兵が往来しているのに対し、東口は稲生達みたいに魔道士のローブを羽織った魔法使いの姿や、クリスみたいなビキニアーマーの女戦士、エリックやノランみたいに上半身裸で筋骨隆々とした重戦士も往来していた。

 イリーナ:「まず、武器を見てみようか」
 クリス:「ういっス」

 手近な武器屋に入ってみる。

 武器屋店主:「らっしゃいせー!」

 流行りのラーメン屋みたいなノリで元気良く客を迎える店主。

 武器屋店主:「何をお探しで?お客人!」

 不慣れだと店主の威勢に気圧されてしまいそうなものだが、クリスは慣れているのか、全く表情を変えることなく、自分が背負っている剣を抜いた。

 クリス:「これと同じくらいの鋼の剣が欲しいんだ。見ての通り、だいぶ使い古したもんでね」
 武器屋店主:「あー、確かに!でもお客人、これはだいぶ可愛がって使ってあげたクチですねぇ!女戦士さんはこの辺、扱いが繊細ですよね!ちょっと待ってください!……あ、そこの魔法使いさん達も、特価セールのミスリルロッドとかありますんで、見ていってください!」
 稲生:「ミスリルロッド……」
 マリア:「強い杖か?」
 稲生:「どうでしょう?RPGでは結構、序盤辺りで手に入るヤツなんで、僕は期待していませんけどね」

 武器屋ということもあり、魔法具屋で売っている魔法の杖と違って、攻撃に特化した杖を売っているようだ。

 武器屋店主:「これなんかどうでしょう?」
 クリス:「フム、見た目は悪くない。ちょっと素振りさせてくれ」
 武器屋店主:「どうぞ。それはこの国に在住するドワーフが打ったもので、刀身はミスリル。魔力は付与されてませんが、柄の所に魔法石を嵌め込む穴が開いてるんで、そこに魔法石を入れることで魔力を付与させることができます」

 クリスは新品の剣をスラッと抜くと、風を斬るように素振りした。

 クリス:「使い心地も悪くない。しかし、鋼ではなくミスリルか。少し値段が張るんじゃないか?」
 武器屋店主:「今なら特価の3000ゴッズでいいよ」
 クリス:「マジか!そんなに安くて大丈夫なのか?」
 武器屋店主:「それは型落ちなんでね。それに、今度起こるかもしれない戦争ってのは、飛空艇団を中心とする空中戦になるって話じゃねぇですか。何でもミッドガードの軍隊は、空軍が強化されてるとか……。なもんで、姉さんには悪いけど、もしかしたら剣を取って最前線で戦う機会は無ェかもですよ」
 クリス:「戦いは常に状況が変わる。それに、いくら空中戦が中心だからといって、地上部隊は王都を守らないといけない。その部隊の傭兵なら募集しているだろう」
 武器屋店主:「それはもちろん」
 クリス:「よし。これをもらおう」

 クリスは先ほど報奨金としてもらった3000ゴッズを店主に差し出した。

 武器屋店主:「毎度あり!」

 クリスが新しい剣を手に入れると、武器屋の外に出る。

 クリス:「まさか鋼ではなく、ミスリル製の剣が安く手に入るとはな」
 稲生:「良かったね!」
 イリーナ:「それじゃ、次は防具屋さんに行きましょう。クリス、浮いたお金で新しい防具が買えるわよ」
 クリス:「私ゃあまり重い鎧は着たくないんですとけどねぇ……」

 そう言いつつ、クリスは稲生達について防具屋に向かった。
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“大魔道師の弟子” 「魔界共和党」

2020-05-25 11:07:27 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月7日14:00.天候:晴 アルカディアシティ1番街 地下鉄1番街駅→魔界共和党本部]

 昔のニューヨークの地下鉄R1系電車に酷似した車両が1番街駅のホームに入線する。
 1番街駅は日本の東京駅に相当する駅なので、アルカディアメトロの中では一番規模が大きく、乗降客数も多い。

 稲生:「本来のスタート地点に戻って来ましたねー」
 マリア:「駅じゃなくて、魔王城でしょ」
 クリス:「さすが都会の駅は賑わってるねぇ。何だか、目が回っちまうよ。田舎者の私じゃね」
 稲生:「東京駅よりは空いてるから、そんなに心配無いよ」

 魔王城の方を向いた出口に向かう。
 丸の内口に相当する場所で、東京駅では歴史を感じさせるレンガ造りの構造になっているが、こちらも魔王城を模した雰囲気になっている。
 東京駅が赤レンガなのに対し、こちらはグレーの石積みの構造だと思えば良い。
 地上に出てコンコースに行くと、やはり東京駅のような吹き抜けがある。
 魔王城の大ホールを模したものである。
 稲生は不参加(一時的に死亡し、地獄界にいた)だったが、旧政府軍(バァル大帝派)と新政府軍(魔界共和党)の最終決戦地になったのがその魔王城大ホールである。

 クリス:「相変わらず魔王城はデッカいなぁ!」

 駅の外に出ると、魔王城が飛び込んで来る。
 大きな通りを挟んでいるのだが、丸の内と違って高層ビルが建っているわけではないので、すぐに目に飛び込んで来るのだ。

 クリス:「何か、工事してるよ?」
 稲生:「ああ。旧館の解体工事と改修工事ね。旧館の中で老朽化したり、この前の内戦で破壊された場所は取り壊すんだってさ。で、改修して使えるものは改修する」

 バァル大帝の玉座があったのは旧館の方。
 新館は工事中だったが、魔界民主党政権の時に工事は中断され、魔界共和党が立憲君主制を行うに当たり、工事は再開され、完成している。

 稲生:「で、党本部は魔王城の中ではなく、その隣の……こっちのビルの中にある」

 東京・丸の内で言うなら、新丸ビルに相当する場所。
 しかし、これといって高層ビルというわけではない。

 クリス:「私、こんな格好で行って大丈夫かねぇ?」
 稲生:「大丈夫だよ。魔王城に行けば、傭兵隊入隊受付でクリスみたいな戦士が大勢出入りしてるから」
 クリス:「ああ、ここでも傭兵隊の受付やってるのか。私もちょっと覗いてみようかな。報酬受け取ったら」
 稲生:「いいんじゃない」
 クリス:「あ、でも、先に剣を買ってからの方がいいかな~」
 稲生:「いいんじゃない」
 マリア:「いいから早く行こう」

 東京駅……もとい、1番街駅でも『正規兵募集』の広告が大きく掲げられていた。
 アルカディア王国の軍事に関しては、特に徴兵制が敷かれていることはなく、志願制である。
 また、『アルカディア軍事学校、入校随時受付中!』という予備校的なノリの看板もあった。
 で、党本部ビルの入口には、『新規党員募集のお知らせ』『賛助会員募集のお知らせ』の貼り紙も。
 よく見ると、あちこちで人材募集の広告が貼られていて、いかにこの国が人材不足に悩まされているか分かるというものである。
 コロナ禍前の日本の求人広告並みである。

 受付:「いらっしゃいませ。アルカディア王国の政治の中枢、魔界共和党本部へようこそ」

 受付には若い男性の受付係がいた。
 立憲君主制とはいえ、議席を持っているのは今や魔界共和党1党だけだからこそ、今のようなセリフが出てくるのだろう。

 受付:「本日はどのような御用件でいらっしゃいますか?」
 稲生:「報奨金を受け取りに来ました。書類がこれです」
 受付:「これはこれは……。ご活躍の件、伺っております。我が党の治安維持業務への御協力、感謝致します。すぐに担当者にお繋ぎ致しますので、あちらにお掛けになってお待ちください。こちらの書類はお預かりします」
 稲生:「よろしくお願いします」

 稲生達、打ち合わせコーナーに移動する。
 クリスも背中に背負っている剣をずらして、長椅子に腰かけた。
 ロビーでは、これまでの魔界共和党の歴史について紹介するパネルなどが展示されていた。
 今ではスーツ姿の安倍春明首相が、まるでDQの勇者の恰好をしてアルカディアシティを歩く写真もある。
 魔界共和党の前身は、バァル大帝の人間冷遇政策に対する反乱組織であったことも紹介されていた。
 その中に一時期政権の座に就いて強硬な共和制を敷いたことで却って政治混乱を招き、共和党の蜂起によって国外追放された魔界民主党のことも紹介されている。
 人間だけの世界なら帝政からの共和制でも良いが、魔王を崇敬しながら動いていた魔族に、いきなり共和制を敷いてもダメなのである。
 魔王の代わりとなる魔族の王を用意し、それに沿って民主政治を行う為には立憲君主制が良いと判断し、今に至ることもパネルで紹介されていた。

 稲生:「魔王の代わりとなる魔族の王が、今のルーシー・ブラッドプール一世陛下だ」

 まだ魔王に即位する前、ニューヨークに住んでいた頃のラフな格好をしたルーシーの姿の写真も展示されている。
 この写真、展示するのにルーシーに相当頭下げたらしいが。
 白人の中でも特に色が白いということを除けば、ラフな格好をしたニューヨーカーという感じしかしない。

 稲生:「これで吸血鬼なんだから信じられないよね」
 マリア:「陛下は人間の血が混じっているんだろう?そのおかげで昼間でも活動できるって話だな。純血の吸血鬼をヴァンパイアと呼び、混血の吸血鬼をダンピアと言う」

 マリアはイギリス人なので英語発音したが、綴りはDhanpirと書き、英語発音だとマリアみたいな感じになるが、東欧の発音でダンピールと呼ぶことが普通。
 純血種の敵になることも多く、安倍はその性質を利用して、純血種の動きを抑えるべく(純血種は旧政権派が多かった)、混血のルーシーを女王に担ぎ上げたともされる。
 純血種は人間を捕食対象としか見ていないが、混血種は元々人間の血が混じっているからか、人間の味方になることが多い為。

 坂本:「お待たせしました。魔界共和党経理部参事の坂本と申します」

 そこへ担当者たる坂本参事がやってきた。

 坂本:「ここでは何ですので、応接室へご案内致します。どうぞ、こちらへ」
 稲生:「よろしくお願いします」
 坂本:「我が党の歴史、ご覧になっておられたのですね?」
 稲生:「はい。なかなかいいアイディアですね。いっそのこと、ワンフロア丸ごと、党の歴史を伝える展示ルームでも設けてみてはどうですか?」
 坂本:「あ、それはもうやってますよ。試行錯誤しながらですが」
 稲生:「あ、ホントですか」
 坂本:「ええ。ただ、監修が横田理事で、安倍総裁に何度も突っ込まれながらの展示なんですが……」
 稲生:「すいません、やっぱやめときますw」
 坂本:「ええ。島村幹事長辺りが担当してくれれば、安心なのですが……」
 マリア:(お笑い政党、魔界共和党……)
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