報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔王城へ」

2020-05-06 23:08:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月5日11:00.天候:曇 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ デビル・ピーターズ・バーグ駅]

 魔道士ギルドをあとにした稲生達は、その足でデビル・ピーターズ・バーグの中心駅に向かった。
 国土の形が東京都のそれと酷似しており、アルカディアシティの位置も東部に偏っている所は正に魔界版東京である。
 他国侵逼の話が出たが、アルカディア王国だって内戦の憂いが無いわけではない。
 このデビル・ピーターズ・バーグは東京で言えば池袋に位置する地区である。
 鉄道は魔界高速電鉄が運営するアルカディアメトロの環状線と地下鉄線、そして軌道線(路面電車)の他に支線として魔の森線が存在する。
 これはJRで言う赤羽線(埼京線の池袋~赤羽間)に辺り、終点の魔の森駅はデミヒューマン(亜人)の代表格エルフ族の住む広大な森の入口である。
 大魔王バァルですら統治が困難であったこの森は、今は表向き王国には従うが強大な自治権を持つ自治区となっている。
 鉄道線があるのは、魔界高速電鉄が大魔王バァルの意向を汲んで敷設したものである(魔界高速電鉄株式会社は、基本的に中央政府の意向に沿った運営を行う。民鉄でありながら、国鉄のような方針である)。
 人間でも白人と黒人で激しい人種間闘争があったのと同様に、エルフ族も白いエルフと黒いエルフ(ダークエルフ)が対立して激しく争っていた(因みに外国製ゲームを中心に、何故かダークエルフの肌が青く表現されていることがある。黒人人権団体からの抗議のためらしい。基本的にダークエルフは悪役側として登場することが多い為)。
 今は和解が表向きされているが、かつては視察に訪れた魔界共和党のメンバーが軟禁されたり、王立飛空艇団が出撃したりと内戦さながらの事態が起きたことを市民達も知っているので、のこのこ森へ向かう者はいない。
 但し、駅構内と駅周辺だけは安全が保障されている為か、観光客が来ることもある。
 気高いエルフ族が滅多に王都内に来ることは無く、物珍しさもあるからだろう。
 本来デビル・ピーターズ・バーグ駅の高架鉄道乗り場と地下鉄乗り場は、そもそも入口が分かれていたいたのだが、工事の為に今は高架鉄道の駅構内を通って、それから仮設の地下鉄乗り場へ行くようになっている。
 その為、魔の森線ホームに向かう観光客らしき姿を見ることができた。

 稲生:「環状線の急行電車に乗れれば、意外と1番街へは早く着きます」
 イリーナ:「すぐに乗れるの?」
 稲生:「ダイヤ上は無いみたいですねぇ……」

 稲生が駅構内の発車標を見ると、1番街へ行く環状線外回りは、しばらく各駅停車しか無いようだ。
 しかし、ダイヤはいい加減であることが多く、各駅停車が遅れると準急や急行に変身して遅れを取り戻すようなことを平気でやっている。
 このスタイルはニューヨークの地下鉄でも行われており、それを真似したものと思われる。
 こっちの地下鉄は基本的に各駅停車しか運行されていない。

 稲生:「地下鉄の方が確実ですよ」

 但し、地下鉄乗り場の構内は薄暗く、利用者層もあまり良いとは言えない。
 高架鉄道は人間が多く利用するのに対し、地下鉄は魔族が利用することが多い。
 高架鉄道ではツーマン運転が行われているが、地下鉄はワンマン運転が基本である。

 稲生:「お、これは……」

 1番街へ短絡する路線は1号線。
 路線の形が東京メトロ丸ノ内線に酷似しているかと思えば、ホームに停車している電車も開業当時の丸ノ内線車両に酷似していた。
 地下鉄ホームは1面2線の島式ホームという所も、池袋駅の丸ノ内線ホームと同じだった。

 稲生:「500形電車か」

 電車に乗り込むと、明らかに人型ではあるものの、人間ではない乗客が座席に腰を下ろしていた。
 稲生達の場合はより人間に近い『人外』扱いされるし、魔法使いにケンカを売ると後々面倒なことになることを知っているのか、魔族の乗客達は稲生達を一瞥しただけで視線を戻した。

〔「この電車は1号線、1番街、4番街、7番街経由、インフェルノタウン行きです。終点まで各駅に止まります。まもなく発車致します」〕

 すると反対側のホームに、開業当時の大阪メトロ御堂筋線の車両が入って来た。
 稲生的にはあっちの電車に乗りたい衝動に駆られたが、すぐホームに短いブザーが鳴って、すぐにドアが閉まった。
 古い車両のせいか、バッタンと乱暴にドアが閉まる(いわゆる、ギロチンドア)。
 稲生達は先頭車に乗っているが、その後でガチャンと運転室のドアが閉まる音がして電車が走り出した。

〔本日もアルカディアメトロをご利用頂き、ありがとうございます。この電車は1号線、1番街、4番街、7番街経由、インフェルノタウン行きです。次は33番街、33番街です。お客様にお知らせ致します。只今、王国全域におきまして、緊急警戒宣言が出されております。アルカディアメトロも危機管理対応の為、緊急特別ダイヤで運転しております。通常ダイヤでの運転は行っておりませんので、お客様のご理解、ご協力をお願い致します〕

 稲生:「凄い!旧型電車なのに自動放送入ってる!」
 イリーナ:「今まで放送が無いこと自体がおかしかったのよ」

 運転中でも余裕があれば運転士が肉声放送を行うことはあった。
 しかし、高架鉄道に比べて案内が不親切であるという悪評に、さすがに魔界高速電鉄も重い腰を上げざるを得なかったのだろう。

[同日11:30.天候:曇 アルカディアメトロ1番街駅]

 因みにこの1号線、たまに地上に顔を出す区間が存在する。
 そういうところも丸ノ内線っぽいと思えてしまう理由だろう。
 尚、ホームドアは全駅において存在しない。

〔まもなく1番街、1番街です。お出口は、左側です。環状線、中央線と軌道線各系統はお乗り換えです。尚、本日の中央線ですが、冥界鉄道公社からの乗り入れ列車はございません。予め、ご了承ください〕

 高架鉄道は日本のように左側通行だが、地下鉄線は右側通行。
 東京メトロ東京駅のように島式ホームだが、右側通行なので、出口は左側になる。
 到着すると運転士が席から立って、ホーム側の乗務員室扉を開ける。
 と、同時に客用扉も開く。
 駅に着く度にこのようなことをしているのは、地下鉄線内全部である。
 また、ワンマン運転を行っている為か、運転席の横にサイドミラーが付いている。
 これで乗降客の確認をしているのだろうが、運転士は直でホームを見ることはなく、駅ホームの発車ブザーが鳴り終わると、客用ドアを閉め、次に乗務員室扉を閉めて発車する。
 真面目に安全確認をしているようには見えない。

 稲生:「毎回乗る度に不思議な思いをさせられる鉄道ですねぇ……」
 イリーナ:「外国はこんなもんさ。私の故郷の地下鉄と、よく似てるさね」
 稲生:「なるほど……」

 因みに乗客層も魔族が多ければ、乗務員や駅係員も魔族が多いのだそうである。
 ホイミスライムみたいなのが制帽を被り、触手(足?)を使って器用にハンドルを操作したり、ドアスイッチを操作したりしている所を稲生は見たことがある。
 たまに普通の人間も乗務していることがあり、今回稲生達を乗せた電車の運転士は恐らくそれではないかと思う。

 イリーナ:「姉さんと一緒にランチができるといいねぇ」
 マリア:「そんな厚かましい。追い返されるのだけは勘弁ですよ」

 そんなことを話しながら、イリーナ組は魔王城へ向かった。
 尚、イリーナはポーリンのことを姉のように慕っているというだけで、別に本当の姉妹ではない。
 イリーナより先に入門した先輩(姉弟子)に過ぎない。
コメント
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