報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「合法ロリ吸血鬼」

2020-05-12 19:58:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月5日20:00.天候:晴 アルカディアシティ6番街 ブラッドリバー家]

 6番街は全体がカブキンシタウンという歓楽街ではない。
 その一画を除けば、あとは普通の町である。
 カブキンシタウン電停からアルカディアメトロの路面電車に乗り、6番街駅に向かう。
 その途中で案内役のエリックがこう言っていた。

 エリック:「カブキンシタウンはアルカディアでも随一の歓楽街だから、毎日来る客が絶えねぇんです。だから路面電車も5分に1本もの割合で運転してる。だけど見ての通り、元々の通りが狭いもんだから、軌道は単線なんですよ。そこで魔界高速電鉄は6番街支線というか、カブキンシ線みたいな地下鉄を通す工事をしてるんです。これなら、路面電車より大量の人を運べる。また、多くの荷物を運ぶことができる。だけど、あの工事にも問題があって、なかなか進まねぇらしいです」

 と。
 多くの荷物を運べることができるというのは、アルカディアメトロでは荷物電車や普通の電車を荷物専用として運転することもあるという意味だ。
 魔界高速電鉄では、機関車や貨車を保有していない為。
 6番街駅で電車を降り、そこから北の方向に歩く。
 すると地下から地上に出るトンネルが現れて、そこから線路が伸びていた。
 その向こうには操車場がある。
 架線が無いのは、第三軌条方式の地下鉄だからである。

 エリック:「分かりますかい?向こう側にでっけぇ家が建ってるのを」
 稲生:「本当だ。車止めの向こう側にある」

 まだ電車が運転されている時間帯だからか、電留線に電車の数は少なかった。
 それでも開業当時の地下鉄銀座線の車両や丸ノ内線の車両、大阪メトロ御堂筋線の車両やニューヨークの地下鉄車両まで留置されていて、まるで世界の旧型地下鉄電車の博物館のようである。

 エリック:「どうします?侵入するなら、ちょうどあの電車の屋根を昇って行けば2階から入れます」
 稲生:「いや、そんなことしないよ」
 マリア:「まあ、そうだな」
 エリック:「え?まさか、正面突破で?」
 稲生:「いや、普通にピンポン押して開けてもらうよ。エリックは外で待ってて」
 エリック:「気をつけてくださいよ?」

 稲生とマリアは屋敷の正面入口に回った。
 確かに建物に明かりは点いていない。
 マリアの屋敷でさえ、取りあえず玄関や居室には照明を点けているというのに。

 稲生:「では、押してみます」
 マリア:「頼むよ」

 稲生は門扉の脇のインターホンを押した。
 微かに館内からブザーの音がする。
 どうやら、昔ながらのブザーの音が響くタイプのようだ。
 何回か押すが、誰かが出てくる様子は無かった。

 稲生:「やっぱりダメか?」
 マリア:「シッ!」

 マリアは稲生を黙らせると、屋敷の2階部分を見た。
 コウモリがぶら下がっていて、こちらをジーッと見ている。
 マリアはそのコウモリに向かって手を振った。

 マリア:「Hello!Anybody here!?(すいませーん!誰かいますかー!?)」

 するとコウモリ、屋根の向こう側に飛んで行ってしまった。
 それから少し経って、玄関の照明が点灯した。
 で、堅く閉ざされた門扉のロックが自動で解除し、ギィィッとやはり自動で開いた。

 マリア:「入れってことだな」

 マリアが先に入り、後で稲生も入る。
 すると、門扉が自動で閉まった。
 玄関まで行くと、そのドアが少し開いた。

 男:「何か御用ですか?」

 すると、中から若い男が現れた。
 紺色のスーツに赤いネクタイを着けている。
 日本人のように見えたが、本当に人間かどうかまでは分からない。
 何しろ、ここは吸血鬼の貴族の屋敷なのだ。

 マリア:「私達は魔道士の一門に所属している者でして、マリアンナ・スカーレットとユウタ・イノウと申します。こちらの御主人に話があって参りました」
 男:「あいにくですが、サラ様は基本的にどなたともお会いになりません」

 男はどことなく雰囲気が稲生に似ていた。
 そしてマリアは、男がサラという女主人の下僕であることをすぐに見抜いた。
 首元に、主従の証である犬歯の刺し傷痕があったからである。

 マリア:「なるほど。しかしこうしてあなたが応対してくれたということは、まんざらでもないということではないですか?」
 男:「と、言いますと?」

 稲生はマリアが何も臆すること無く、屋敷の下男と会話していることに、彼女の変化を感じた。
 それまでは男と会話など一切できず、ようやく稲生と話せるようになっただけでも第一歩であった。
 それが今やトラウマを克服したことで、こうして交渉などをできるようにまでなっている。

 マリア:「ここにいるのは私の後輩なんだけど、ルーシー陛下のお気に入りでもある。もちろん、陛下が彼の何を気に入ったかは分かるよね?」
 男:「サラ様に血液を提供して下さると……?しかし、それはこの私のだけで十分であり……」

 すると、コウモリが男の横に飛んで来た。
 何か超音波でも使って、男に何か言っている。

 男:「何と……!」

 男は信じられないという顔をしたが、コウモリの言って来たことが冗談なんかではないことを知ると、マリアに向き直った。

 男:「サラ様の気が変わられたそうです。どうぞ、お入りください」
 マリア:「また気が変わらないうちに、会いたいものですね」

 マリアと稲生は屋敷の中に入った。
 館内は真っ暗であったが、2人が入ると、自動でローソクに火が灯った。

 男:「こちらへどうぞ」

 通された部屋は応接間だった。

 稲生:「一体、どんな方なんでしょうね?まさか、いきなりボス戦になったりして……!?」
 マリア:「その時はその時だ」

 応接間には誰もいなかった。
 もちろんだからといって、無人だと思わぬ方が良い。
 ここは吸血鬼の館だ。
 どこかに潜んでいるしもれない。
 2人の魔道士が中に入ると、天井のシャンデリアのローソクがやっぱり自動で点灯した。

 男:「サラ様を呼んで参りますので、しばらくお待ちください」

 男は稲生達にソファを勧めると、応接間を出て行った。

 マリア:「さあ、一体誰が来るか……」

 しばらくすると、応接間のドアが開いた。
 そこから入って来たのは……。

 サラ:「こんばんは。魔道士の皆さん。サラ・ブラッドリバーです」

 見た目、12~13歳くらいの少女であった。

 稲生:「は、はっ!?」
 マリア:「勇太、見た目に惑わされるな。見た目は子供でも、あれは……師匠並みの年月を生きているシニア・ヴァンパイアだ」
 稲生:「ええーっ!?」

 見た目は12歳かそこらなのに、実年齢は1000歳以上とはこれ如何に!?
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「クエスト開始」

2020-05-12 15:03:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月5日19:00.天候:晴 アルカディアシティ6番街カブキンシタウン エリックス・ジム]

 かつて稲生は“魔の者”の策略に嵌められ、魔界に1人飛ばされたことがある。
 不幸中の幸いだったのは、そこがまだアルカディア王国内であったこと。
 そして、新婚の夫である重戦士エリックを捜して旅をする女戦士サーシャと出会えたことだった。
 エリックは賞金稼ぎの為に、とあるモンスターを倒しに行ったが、返り討ちに遭ってしまい、亜空間へ飛ばされてしまった。
 しかし、運良く出口が開いて出られたのだが、そこは人間界の日本。
 もっと運が良かったのは、そこで藤谷春人に拾われたことだった。
 藤谷の父親が経営する土建会社に、アルバイト作業員として働いていたのである。
 かくして、稲生達を介してこの2人の戦士夫婦は晴れて再会が叶ったというわけだ。
 よもやその2人が何年も経ってから、アルカディアシティ6番街で道場を経営しているとは夢にも思わなかったわけだが。

 サーシャ:「おーっ、本当にイノーだ!久しぶり!」
 稲生:「サーシャも元気そうで、何より……いでででで!」

 稲生は自分よりも身長が高く、体重もある女戦士に力強いハグを受けた。
 普段は嫉妬深いマリアも、この時ばかりはそんな気持ちは起こらなかった。

 マリア:「あの、勇太の骨が折れるんで、そろそろ放してやってください」
 サーシャ:「おっと!これは失礼!」

 サーシャは稲生を放した。

 エリック:「サーシャ、お客さんに茶くらいも持っていけよ。あ、こりゃどうもお久しぶりで……」
 稲生:「どうもです」

 応接間でソファを勧められたので、稲生とマリアは座った。
 サーシャはかつてビキニアーマーを着用していたが、今は普通のワンピースを着ている。
 しかも、何だか少し腹が大きい。
 その視線に気づいたか、サーシャはそのお腹をポンポン叩いて言った。

 サーシャ:「今、4人目なの」
 稲生:「マジか!」
 エリック:「調子に乗り過ぎましたね。ジム経営頑張らないと」

 エリックは恥ずかしそうに頭をかいて言った。

 サーシャ:「お2人さんも結婚したのかい?」
 稲生:「あ、いや、それはまだ……」
 サーシャ:「どうして?お互い好き合ってるんだろ?」
 エリック:「サーシャ、失礼だぞ。魔法使いさんには、魔法使いさんの事情ってもんがあるだろうよ。俺達みたいに勢いで子作りするような人達じゃあない。ですよね?」
 稲生:「ま、まあ、そう捉えてもらって結構です、ハイ」
 マリア:「…………」
 稲生:「うちの一門、結婚は一人前になってからっていう不文律があるもんで、僕はまだ見習いなもんで……」
 サーシャ:「へえ!?イノー、前よりも魔力が強くなったような気がするけどね?今でも時々魔法使いさんが訪ねてくることもあるから、だいたい魔力を読み取るスキルはついたよ」
 マリア:「このジムを訪ねる魔法使いは、あまり強くなさそうだな。戦士に魔力を読み取られるようでは、まだまだ甘い」
 エリック:「仰る通り。本来なら、魔法を使えない戦士の方が魔法使いさんに声を掛けてパーティーに入ってもらうのが筋なんですよ。魔法が使えないとクリアできないダンジョンってのが、まだアルカディア近郊にはありますもんでね。で、実際仲間にしたら、本当に初歩的な魔法しか使えないってもんです」
 マリア:「デビル・ピーターズ・バーグに行けば、ギルドがあるよ」
 サーシャ:「確かにあそこは優秀な魔法使いさんが多いけど、その分吹っ掛けてくるからね」
 稲生:「こっちのギルドにも、エレーナみたいなのがいるんだな」
 マリア:「実際にいるから反論できないな」
 エリック:「おっ、そうだ。今の話で思い出した」

 エリックがポンと手を叩いた。

 エリック:「せっかく来たんだ。仕事の依頼を受けてみませんか?」
 稲生:「サブクエストか。どんなの?」
 サーシャ:「この6番街の外れに、魔族の屋敷がある。帝政時代の貴族の屋敷で、今は使われていない。……はずなんだけど、どうもそれはまやかしで、実際にはまだ住んでいるらしいんだ」
 稲生:「帝政時代の魔族の貴族か。魔界民主党が政権に就いていたら、根こそぎ死刑だっただろうね」
 マリア:「種族は?」
 サーシャ:「吸血鬼だ。つまり、今の女王陛下と同種の貴族だ。しかし、血の繋がりは無いらしい」
 稲生:「帝政時代、バァル大帝側に就いていたとしても、今の王国に忠誠を誓うなら、取り潰しにはならないと思うけどね」

 但し、貴族としての地位は剥奪される。
 とはいえ、その名残で代議士になったり、商売を始めて成功した者もいるようである。
 また、新政権になったとしても、そこでまた新たな利権や特権はどうしても発生するもので、それまではただ魔族の1つにしか過ぎなかった吸血鬼が、女王もまた吸血鬼ということで、俄かにその地位が上がっている。
 中には、女王の血族を僭称して取り締まられた者もいるという。

 マリア:「それで、その吸血鬼がどうした?」
 エリック:「調査に出かけた人達が全く帰って来なかったらしい。警備兵に通報しても、『陛下と同種の魔族には手出しできない』と怖気づくばかりで……」
 サーシャ:「相手が吸血鬼となると、戦士の力だけじゃ心許ないからね。魔法使いさんがいるといい。だけど、ここを訪ねて来る魔法使いは弱い。そこで、あなた達に頼めないかと……」
 マリア:「分かった。吸血鬼なら夜の方がいいな。今から行って来よう。場所はどこだ?」
 エリック:「6番街駅の北側に操車場があるのを知ってますか?地下鉄の電車が地上に出て、車両を保管しておく場所ですが……」
 稲生:「へえ、それは知らなかった」
 エリック:「その操車場には廃車置き場があるんですが、その敷地の向こう側にあります」
 サーシャ:「どうやら、魔界高速電鉄にも出資していたみたいだね。収入はそこから得てるんだろう」
 稲生:「株か何かの不労所得か。羨ましいな」
 マリア:「ま、そこはこっちも似たようなものだよ」

 マリアはそう言って席を立った。

 マリア:「この仕事は真剣にやらせてもらう。実は私達、課題を達成しに魔界へ来たんだ。達成率が高ければ、勇太もマスターに上がれる。そうなれば……」
 サーシャ:「お互い一人前になれるので、晴れて結婚できるってわけか。よーし!イノーには世話になったからね、私も応援させてもらうよ!」
 エリック:「屋敷の入口までは俺が案内しよう。あんた達なら大丈夫だと思うが、一応うちの会員も手配しておく」
 マリア:「その必要は無いけども、もしも朝になって私達が出てこなかったら、師匠に伝えてほしい。師匠は三星亭にいる」
 エリック:「分かりました」

 稲生とマリアは、吸血鬼の元貴族が住んでいるという屋敷に向かった。

 マリア:「いざとなったら、女王からもらった功労賞見せてやれ。それで怯んでくれるだろう、きっと」
 稲生:「陛下からもらった金杯ですか?逆に、『陛下に献血した分、私にも寄越せ!』って襲われませんかね?」
 マリア:「その時は、『流血の惨を見る事、必至であります』」
 稲生:「なるほど」
 会員:「会長、何かあの魔法使いさん達、怖い話してますよ?」
 エリック:「な?今までここにやってきたひ弱な魔法使い達とは違うだろ?魔族の元貴族を相手にしようってんだから、逆にああでないとな」
 会員:「はあ……」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする