報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“魔女エレーナの日常” 「深夜の訪問者」

2020-05-02 20:00:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日24:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 エレーナはオーナーが持って来た恋愛指南書の本をロビーで読んでいた。
 小さな個人経営のホテルとはいえ、ちょこちょこ宿泊客が出入りするものだが、今夜は全く出入りが無い。
 新型コロナウィルスの影響で宿泊客が激減しているのは、このワンスターホテルとて例外ではないということだ。

 オーナー:「お帰りなさいませ」
 宿泊客A:「415号室、松本です」
 オーナー:「松本様ですね。どうぞ、ごゆっくり」

 既に宿泊している客で、外出していた者が戻って来たようである。
 疲れた様子のその客は鍵を受け取ると、エレベーターに乗って行った。

 エレーナ:「今のお客……薬の臭いがしましたね」
 オーナー:「お客様の個人情報は厳重に保管する。エレーナ、分かってるね?」
 エレーナ:「分かってますよ。(医者か何かか?この近くにデカい病院は無かったと思うけど、それでもこのご時世、アレ絡みを疑ってしまう……)」

 その時、フロントの電話が鳴った。

 オーナー:「はい、フロントでございます」
 鈴木:「あ、すいません。宿泊中の鈴木ですけど、そちらにエレーナはいますか?」
 オーナー:「ああ、エレーナですね。少々お待ちください。……鈴木さんからだよ」
 エレーナ:「んん?何だぜ?」

 エレーナは電話に出た。

 エレーナ:「何だ?“呪い針”の魔法なら、私には効かねーぜ?」

 半分以上嘘のハッタリ。
 少なくとも、相手が導師級(ハイマスター。High Master。ベテラン魔道士。弟子持つ資格あり)なら返り討ち不可。

 鈴木:「なワケないだろ。それとも、それが使えるように入門させてくれるの?」
 エレーナ:「あー、それは無理だぜ。で、何の用だぜ?」
 鈴木:「リリィが寝込んじゃったんだ。悪いけど、迎えに来てくれる?」
 エレーナ:「あぁ?……ったく、しょうがねーなー。あー、分かったぜ。今行くぜ。セクハラするんじゃねーぜ?分かったか?」

 エレーナは電話を切った。

 エレーナ:「オーナー、ちょっと鈴木の部屋に行ってきます。うちの妹分が寝込んじゃったみたいで」
 オーナー:「ああ、いいよ、行ってきな。本は私が戻しておくから」
 エレーナ:「サーセン」

 エレーナはエレベーターを1階に戻し、それから3階に向かった。

 エレーナ:(あの本……結構、あざといやり方しか書いてなかったな……。ああしないと、男はオチないってか……フム……。ま、鈴木にやる必要は無い)

 3階で降りて、鈴木の部屋に向かう。

 鈴木:「ああ、エレーナ。申し訳ないね。ゲームをクリアして、エンディングを見たまでは良かったんだけど、最後のスタッフロールの時に寝ちゃって……」
 エレーナ:「ったく、リリィ……って!?」

 部屋の中には空き缶やスナック菓子が転がっていたが、その中に缶ビールや缶チューハイも転がっていた。
 もちろん、このホテルの自販機コーナーで売っているものである。
 鈴木は成人年齢だからいいとして、何故かリリィが顔を赤くしている上、上着を脱いでキャミソール姿になっているのが思いっ切り怪しかった。

 エレーナ:「……おい、エレーナに何かしたか?」
 鈴木:「ゲームクリア記念に乾杯したんだ。俺はビールだけど、リリィにはジュースにしてたさ。ところが、リリィが『ムッシュ鈴木!私にもチューハイ!』っておねだりされて……」
 エレーナ:「リリィのヤツ……。鈴木も、何でそこでホイホイやるんだ!」
 鈴木:「フランス人は10代の頃から飲むって聞いたから、まあここは日本だけどいいかって思って……。俺もゲームクリアしてハイテンションになってたし」
 エレーナ:「あのな!……てか、ワイン飲んでハイになるリリィが、ビールくらいで酔い潰れるか?」
 鈴木:「……でね、よく見たらリリィ、ゲームやってる最中から飲んでたみたい」

 鈴木が指さした所には缶チューハイの空き缶が転がっていた。

 鈴木:「俺はついレモンサイダーか何かだと思ってたんだよ」
 リリィ:「フヒヒヒ……鈴木……大好きだぜ……ヒック!」

 と、リリィが寝言を言った。

 エレーナ:「リリィへの好感度抜群に上げやがったな、ロリコン野郎」
 鈴木:「いや、俺は何もしてないって!これだって、『暑い暑い』って勝手に脱いだんだから!」
 エレーナ:「ほら、リリィ!ここで寝るな!部屋に戻るぞ!」

 エレーナはリリィを担ぎ上げ、背中に背負った。

 エレーナ:「邪魔したぜ」
 鈴木:「申し訳ないね」

 エレーナは鈴木の部屋を出て行った。

 エレーナ:「リリィ、後でオマエ説教な!?」
 リリィ:「フヒヒ……ヒック!」

 エレベーターに乗って、B1Fのボタンの横にある鍵穴に鍵を差し込んでONの方に回す。
 するとB1Fのボタンが点いた。

 エレーナ:「本当に鈴木に何もされなかっただろうな?」
 リリィ:「フヒヒ……はい……」

 エレベーターが2階、1階と下りて行く。
 このホテルのエレベーターはホテルにしては珍しく、ドアに窓が付いているタイプである。
 1階を通過した時、エレーナはふと違和感を覚えた。

 エレーナ:「……?」

 そして、地下1階に到着する。
 廊下は暗かったが、すぐ近くのスイッチを操作すると照明が点いた。
 それでも地上階に比べれば薄暗い。

 エレーナ:「ほら。着いたぜ。いつもは上段を使ってもらうところだが、今日だけ下段を使っていいぜ」
 リリィ:「お手数お掛けしますぅ……ヒック」

 リリィは2段ベッドに横になると、そのまま眠ってしまった。

 エレーナ:「こりゃ翌朝は二日酔いだぜ、全く」

 身軽になったエレーナ、室内にあった中折れ帽を被り、魔法の杖を持ち、魔道士のローブを羽織って再び部屋の外に出た。
 そして、またエレベーターに乗り込んで1階に向かう。

 宿泊客B:「おーい、どうなってるんだ?何で誰も出てこないんだ?」

 エレベーターを降りると、フロントの前に男性の宿泊客がいた。

 エレーナ:「どうかしたんですか?」
 宿泊客B:「え?いや、さっきから呼んでるのに、誰も出てこないんだよ。このホテル、門限でもあったか?」
 エレーナ:「いえ、そんなはずは……」

 エレーナはフロントの中に入った。

 エレーナ:「!!!」

 そこでエレーナ、違和感の正体を知る。
 フロントの下にオーナーがうつ伏せで倒れていたのだ。

 エレーナ:「オーナー!?オーナー、大丈夫ですか!?」

 エレーナはオーナーの所に駆け寄った。
 一体何が起きたのか?
 オーナーの安否や如何に!?
 本編へ続く!
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“魔女エレーナの日常” 「魔女達の稲生に対する好感度」

2020-05-02 15:56:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月25日22:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 静まり返ったビジネスホテル5階の廊下を歩くは、このホテルの住み込み従業員エレーナ・M・マーロン。
 手に飲食物を持って、502号室へ向かう。
 そこは稲生が宿泊している部屋だ。
 今日のエレーナは仕事休みのはずで、客室フロアを歩く理由は無いはずだが……。

 エレーナ:「コホン」

 エレーナは咳払いをしてから、稲生の部屋をノックした。

 稲生:「はい?」

 少ししてから稲生がドアを開けた。

 エレーナ:「よう、稲生氏。ルームサービスだぜ」
 稲生:「ルームサービス?僕は別に頼んでないよ?てか、このホテルにルームサービスなんてあったっけ?」
 エレーナ:「ガチで私からのサービスだぜ。……今、1人か?」
 稲生:‘「そうだけど?」
 エレーナ:「よっしゃあぁーっ!ルームサービス、第2弾だぜ!中にお邪魔させて頂くぜ!」

 エレーナは鼻息荒くして、稲生の部屋に突撃した。

 稲生:「ちょちょちょ、待ってくれ!」
 エレーナ:「待たせる男は嫌いだぜ!さっさと覚悟を決めるんだぜ!」

 エレーナ、稲生をベッドに押し倒そうとしたが……。

 エレーナ:「ぎゃっ!」

 エレーナの後頭部から鈍い音がした。

 マリア:「全く。油断も隙もない……!」

 マリアの手には魔法の杖が握られていた。
 本当は魔法陣を描いたり、召喚獣や悪魔を呼んで指示するのに使う為の物のはずだが、往々にして直接攻撃に使われることもある。

 エレーナ:「ま、マリアンナ!?いつの間に!?ドアはオートロックだぜ!?」
 マリア:「魔道士が魔道士に聞く質問じゃないだろ?さて、3秒以内にここを出て行かないと、【お察しください】
 エレーナ:「わ、分かったぜ!だけど稲生氏!」
 稲生:「な、なに?」
 エレーナ:「アンタの部屋に真っ先に来たの、私だぜ?その意味、分かるよな?」
 稲生:「えっと……?」
 マリア:「……3秒過ぎたぞ?パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!……」
 エレーナ:「分かったぜ!失礼しました!」

 エレーナは慌てて稲生の部屋を出て行った。

 エレーナ:「ちっ、もう少し早く行くんだったぜ……」

 エレーナはエレベーターに乗り込んだ。

 エレーナ:「しゃあねぇ。鈴木の部屋を訪問してやるか」

 3階に下りる。
 そして、鈴木の部屋に向かった。

 エレーナ:「ん?」

 その時、鈴木の部屋から鈴木が出て来た。

 鈴木:「おう、エレーナ!」
 エレーナ:「鈴木、どこか行くのか?」
 鈴木:「1階の自販機コーナー。ジュース切らしたからさ」
 エレーナ:「何してるんだぜ?」
 鈴木:「リリィとゲーム」
 エレーナ:「はあ?リリィのヤツ、鈴木の部屋にいたのか?」
 鈴木:「部屋のテレビにPS4繋げさせてもらってるよ」
 エレーナ:「それはいいけどよ。あんまりリリィを夜更かしさせるなよ?」
 鈴木:「分かってるって。それじゃ」

 鈴木はエレベーターに向かった。
 それからエレーナ、鈴木の部屋のドアをノックする。

 リリィ:「フヒッ?はいー!」

 リリィがドアを開ける。

 エレーナ:「おう、リリィ。ここにいたのか」
 リリィ:「フヒッ!?エレーナ先輩!む、ムッシュ鈴木がゲーム持って来たって言うんでぇ……」
 エレーナ:「男の部屋に入り浸るなんて、オマエも魔女卒業するつもりか?」
 リリィ:「フヒッ!?わ、私はただゲームを……」
 エレーナ:「で、何をやってるんだぜ?」
 リリィ:「“バイオハザードRE:3”です。い、今、病院の中……」
 エレーナ:「後半に入った所か。いつまでも起きてねーで、早く寝ろよ。見習いは夜寝て昼起きるもんだ」
 リリィ:「は、はい……」
 エレーナ:「オマエがこの部屋に来た時、鈴木以外に誰かいたか?」
 リリィ:「フヒッ?誰もいませんでしたけど……」
 エレーナ:「すると、オマエが1番鈴木に対する好感度が高いというわけか……」
 リリィ:「ムッシュ鈴木、いい人です!」
 エレーナ:「変わったな……。オマエもあいつも」
 リリィ:「フヒッ?」
 エレーナ:「何でもない。じゃあな」

 エレーナはドアを閉めた。

 エレーナ:「変わんねーのは私だけか……」

 エレベーターのボタンを押すと籠が上がって来たのだが、そこに鈴木が乗っていた。

 鈴木:「だいぶ買い込んで来ちゃった。今日までにクリアするぞ」
 エレーナ:「それはいいけど、あんまリリィを夜更かしさせんなよ?」
 鈴木:「分かってるよ。敵を倒したり、ギミックを解いたりする度に興奮して、『ムッシュ鈴木、スゴーイ!』とか言ってくれるのが可愛くてさぁ……」
 エレーナ:「あいつがもっと小さい頃は勉強どころか、ゲームすらできない環境に置かれてたんだ。せいぜい、楽しませてやんな」
 鈴木:「もちろん!」
 エレーナ:「私は何も変われない……」
 鈴木:「え、なに?」
 エレーナ:「いや、何でもない。それじゃ」

 エレーナは鈴木の部屋をあとにした。
 地下階の自分の部屋に戻る前に、1階に立ち寄る。

 エレーナ:「ん?オーナー、何をしてるんですか?」

 フロントにオーナーはいなくて、代わりにロビーのマガジンラックの所にいた。

 オーナー:「おお、エレーナか。いや、マガジンラックに新しい本を入れてたんだけどね」
 エレーナ:「手伝いますか?」
 オーナー:「いやいや。どうせ1冊増やすだけだ。大したことじゃない」
 エレーナ:‘「何の本ですか?聖書とかじゃないですよね?」
 オーナー:「そんなことしたら、このホテルの経営が傾いてしまうよ。そうじゃなくて、これ」

 オーナーが見せたのは女性向けの恋愛指南書。

 オーナー:「大きなお世話だということは分かってるんだが、どうもここに来られる魔女さん達は恋愛下手が多いような気がしてならない。それで、ちょっとここにヒントを仕掛けてあげようかと思ってね」
 エレーナ:「その中に私も入ってるんですね?」
 オーナー:「そう思うかい?これまた大きなお世話だと思うが、せっかく鈴木さんがキミに熱を上げているというのに残念だよ」
 エレーナ:「……今、鈴木への好感度が高いのはリリィのようです」
 オーナー:「なるほど。鈴木さんも言ってたねぇ。『俺、御受誡してから、何故か子供と婆さんからの好感度しか上がらないんですよー』なんてね」
 エレーナ:「それでオーナーは何と?」
 オーナー:「『子供とお年寄りに好かれるのは、人間性が素直に評価されている証ですよ』ってね。そしたら、『評価されなくてもいいから、普通の若い女性にモテたい』とか言ってけどねw」
 エレーナ:「後でうちの魔女達に復讐されるような男のことですよ、それは。それでも良ければどうぞってね」
 オーナー:「それでもいいと答えるのが、肉食系男子なんだろうなぁ……」
 エレーナ:「オーナーにも覚えが?」
 オーナー:「あるから、ここでホテル経営の仕事をしているようなものだよ」
 エレーナ:「?」
 オーナー:「ま、長くなるからその話はまた今度ね」
 エレーナ:「私にも後でその本、見せてもらってもいいですか?」
 オーナー:「いいよ。てか、後で戻してくれるなら、今読んでもいい」
 エレーナ:「ありがとうございます」

 エレーナは早速その本を手にすると、ソファに座った。
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