報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「サウスエンド、南端村、日本人街」

2020-05-28 20:15:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月7日17:00.天候:晴 アルカディアシティ・サウスエンド地区(南端村) サウスエンド駅→南端村]

〔「まもなくサウスエンド、サウスエンド、南端村。お出口は、右側です。この電車は環状線外回り、普通電車です。当駅まで各駅に停車して参りましたが、この先も引き続き普通電車で参ります。環状線外回り、ドワーフバレー、インフェルノタウン、デビル・ピーターズ・バーグ方面行きです」〕

 旧型のアナログ電車の為か、揺れはデジタル制御のそれよりも大きい。
 ガックンガックンと揺れる感じだ。
 それでもホームドアが無いだけ、停止目標の位置に止まれればいいらしい。

 稲生:「東日本じゃ、もう103系に乗れないからなぁ……」

〔「8両です、8両。もっと前に行って」〕

 稲生:「ん!?」

 電車が再加速する。
 この電車は8両編成なのだが、どうやら間違って、それよりもっと短い編成の停止位置に止まろうとしたらしい。
 停止位置を行き過ぎるオーバーランなら、人間界の鉄道でもたまにあるが、逆に停止位置手前で止まろうとするのは珍しいかもしれない(但し、作者は過去に2回経験済み。西武池袋線と阿武隈急行線。どちらも車掌にツッコまれていた)。
 1両分ほど前に進んで、それから停車した。

〔「ご乗車ありがとうございました。サウスエンド~、サウスエンド~、南端村です。1番線の電車は環状線外回り、各駅停車です。デビル・ピーターズ・バーグまで各駅に停車致します。発車まで2分ほどお待ちください」〕

 電車を降りる。
 様々な風体の乗客達。
 スーツを着たサラリーマン風の者もいれば、妖狐の少年達のように着物を着た者もいる。
 魔王軍(国防軍)の正規兵が帰還したのか、それを迎えに来た家族らしき姿も。

 稲生:「ここからどうするの?威吹の神社まで、少し歩くでしょ?僕達はいいけど、うちの先生がなぁ……」

 駅前には辻馬車が客待ちをしている。
 アルカディアシティには自動車交通が無く、それに代わる交通手段が馬車なのである。
 この部分は一気にファンタジーの世界に戻って来たといった感じだ。

 銀髪:「稲生殿は、うちの神社の場所は御存知なんですよね?」
 稲生:「まあ、何度か行ったことあるからね」
 銀髪:「オレ達、一足先に行って、威吹先生に稲生殿方の御到着をお知らせしようかと思います」
 稲生:「あ、なるほど。それはいいね」
 茶髪:「それじゃ、皆さんはゆっくり来てください」

 2人の妖狐少年は草鞋の紐を締め直すと、まるで短距離走の選手並みのスピードで走り去って行った。

 イリーナ:「これで3人か。余裕で馬車に乗れるね」
 マリア:「そうですね」

 馬車は4人乗りである為。
 中には6人乗りの大型馬車もあったり、日本人街であるが為に、妖怪・朧車が客待ちしていることもある。
 さすがにいくら日本人街だからといって、籠や人力車までは存在しない。
 ましてや、東南アジアで見かけるトゥクトゥクやオートリキシャーの類も存在しない。

 稲生:「でも、料金交渉しないとな」
 マリア:「高くても10ゴッズだな」

 マリアはいざとなれば自分が料金交渉しようと思った。
 そこはさすが欧米人。
 相手の言い値の料金を払おうとした稲生を制止して、値切ったこともある。
 ところが……。

 御者:「初乗りは1キロで7ゴッズです。それから300メートルごとに1ゴッズずつ上がります」
 稲生:「ありゃ!?メーターがある!」

 いつの間にか辻馬車に料金メーターが導入されていた。

 御者:「明朗会計です」

 但し、日本のタクシーではデジタル表示が当たり前だが、こちらのメーターは反転フラッグ表示、いわゆる『パタパタ表示』とか『ベストテン表示』である。
 さっき駅の発車標でそういうの見たような気がしたが。

 イリーナ:「じゃあ、乗せてちょうだい」
 御者:「どうぞ。どちらまで?」
 稲生:「魔界稲荷神社まで!」
 御者:「ありがとうございます」

 稲生達は辻馬車に乗り込んだ。
 こちらの馬車も6番街で乗ったのと同様、4人用ボックスシートである。
 恐らく、6番街で乗ったのも辻馬車だったのだろう。
 こっちは明確に、屋根に『TAXI』という表示がしてあるのだが。

 稲生:「威吹にお土産買って行けなかったなぁ……」
 マリア:「まさか、サウスエンドに行くとは思わなかったんだからしょうがない」
 イリーナ:「もし何だったら、藤谷さんからもらった支援物資をそこで解放してもいいけどね」
 稲生:「あー……非常食の余り……」
 イリーナ:「妖狐達は大食漢が多いのでしょう?ちょうどいいんじゃない?宿代代わりってことで」
 稲生:「あ、なるほど。それはいいかもしれませんね」

[同日17:30.天候:晴 アルカディアシティ南端村 魔界稲荷神社]

 辻馬車が石段の下で泊まる。

 御者:「はい、着きました」
 稲生:「どうも。いくらですか?」
 御者:「10ゴッズです」
 稲生:「ちょうどマリアさんの想定内。はい」

 稲生はローブの中から10ゴッズ硬貨を差し出した。

 イリーナ:「チップ、チップ」
 御者:「こりゃどうもありがとうございます!」
 稲生:「あ、忘れてた」

 イリーナはローブの中から1ゴッズ硬貨を3枚御者に渡した。
 1人1ゴッズのチップということか。
 チップを払う習慣の無い日本人の稲生は、ここでしくじりをしてしまった。
 アルカディアメトロなどの公共交通機関の運賃にチップをプラスして払う必要は無いが、物価の安い国なだけに、その分チップを払うことは多い。
 6番街の三星亭でも、イリーナがジーナにチップを渡していた。
 日本では、まず財務省が日本国内のチップ習慣化を阻止するだろう。
 チップは『合法的な脱税』と言われ、そこから税金が取れないからである。
 何としてでも、国民から税金を取りたい財務省が許すわけがないだろう。

 マリア:「おー、日本の神社・仏閣にありがちな長い階段だ。師匠、頑張ってください」
 稲生:「そう考えると、大石寺は階段少なくていいよなぁ」
 イリーナ:「ん?何か言った?」
 マリア:「Huh!?」

 イリーナ、魔法の杖を片手に浮遊していた。
 そして、スーッと階段の上を滑るように上って行く。

 稲生:「魔法は便利ですねぇ!」
 マリア:「いや、全く!」

 そのような便利な魔法を使うにはまだ至らない若い魔道士達は、普通に階段を駆け上って行った。

 マリア:「この階段、魔法でエスカレーターに変えたくなる!」
 稲生:「手始めに池上本門寺からお願いします!」
 マリア:「宗派違うだろ!」
 稲生:「カントクとトチロ~さんの意向です!」

 稲生とマリアはそんなことを言い合いながら、息せき切って階段を上がって行った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「妖狐達に誘われて」

2020-05-28 15:09:35 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月7日16:30.天候:晴 アルカディアシティ1番街 1番街駅]

 アルカディアシティでも1番賑わう駅構内をイリーナ組は歩いている。
 その前を先導するは、着物に袴を穿いた少年が2人。
 人間ではない。
 1人は銀色の長い髪を沖田総司のように後ろに束ねており、もう1人は茶髪を短く切っている。
 そして、耳。
 人間のように短く丸くなく、長くて先端が尖っている。
 俗に言う、『エルフ耳』である。
 しかし、彼らはエルフではない。
 妖狐の第一形態である。
 更に妖力を解放し、変化をするとエルフ耳が消え、代わりに頭に狐耳が生える。
 そこでようやく妖狐だと分かるのだ。
 つまり、彼らは妖力を抑えて、一応あれでも正体を隠しているということだ。
 これは人間界にいた威吹もそうであった。
 稲生達を先導する妖狐2人は、1番街駅東口商店街で偶然会った。
 銀髪の方が稲生を知っており、声を掛けて来たのが始まりである。
 あいにくと稲生は知らなかったが。
 威吹は今や家族持ち、弟子持ちである。
 住み込みの弟子が1人いるが、どうやら彼らもその後に弟子入りしたらしく、つまり、弟子の数が増えているということだ。
 彼らの話では、結構な大所帯になったということだが、威吹は威吹で新たな流派を立ち上げたのだろうか。

〔「4番線、環状線外回り、各駅停車の到着です」〕

 威吹の住む町はサウスエンド、日本語で南端村という所である。
 文字通り、アルカディアシティの南端に位置する場所だ。
 もっとも、狭義におけるアルカディアシティが城壁の内側を指すのに対し、サウスエンドは外にある為、厳密にはアルカディアシティではない。

 

 やってきたのはスカイブルーの103系。
 時折、急行運転も行う高架鉄道だが、発車標を見るに、しばらく各駅停車しか無いようだ。

 銀髪:「どうぞ、この電車で行けますから」
 稲生:「ありがとう」
 マリア:「というか、知ってる」

 先頭車に乗り込むと、車内は人間の方が多かった。
 アルカディアメトロの高架鉄道は明るい場所を走るからか、魔族よりも人間の乗員・乗客が多い。
 また、地下鉄と違って1番後ろに車掌が乗務するツーマン運転である。
 同じ鉄道会社なのに、運行形態がとても違う。

 銀髪:「おい、威吹先生に連絡したか?」
 茶髪:「もちろん!」
 稲生:「まさか、ここに来て威吹に会えるなんてねぇ……」
 銀髪:「威吹先生も稲生殿との再会を楽しみにしておられます」
 茶髪:「さすが、あの南光坊天海僧正の生まれ変わりとされるだけあって、凄い霊力ですね!」
 稲生:「やめてくれよ。僕は日蓮正宗の信徒だよ。天台宗の僧侶じゃない」
 茶髪:「も、申し訳ありません!」

 3人の魔道士達は連結器横の3人席に座ったが、妖狐の少年2人はその横と前に立って、がっちりガードしている。
 まるで、サウスエンド駅に着くまで逃がさないといった感じに。

〔「お待たせ致しました。環状線普通電車外回り、まもなく発車致します」〕

 地下鉄は昔の営団地下鉄のようなブザーがホームに鳴り響いていたが、こちらは電子電鈴と呼ばれるベルである。
 微かに最後尾にいる車掌が笛を吹く音が聞こえる。
 そして、ドアが閉まるとすぐに発車した。
 どうやらJR東日本のように、車掌からの発車合図のブザーは省略されているらしい(新幹線はともかく、何故か気動車も除く)。

〔「環状線外回り、サウスエンド方面行きの普通電車です。次は1番街南、1番街南、お出口は右側です。運転士は山田、車掌は安倍です。サウスエンドまでご案内致します。次は、1番街南です」〕

 ノリはどちらかというと東京の山手線というより、大阪環状線に近い。
 何しろ、頑なに各駅停車しか走らせない山手線と違い、大阪環状線はそれだけでなく、快速から特急まで走っている。

 稲生:「窓が開いて扇風機回ってるけど、別に新型コロナウィルス関係無いよね?」
 銀髪:「……と、思いますが」

 103系みたいな旧型電車の特徴は、天井に設置された扇風機。
 現在ならエアコンの送風か、或いは空気清浄機であろう。
 しかし、常春の国アルカディアにはそれは無く、扇風機が回っている。
 真ん中に座るマリアの金髪や、妖狐の銀髪少年の髪が扇風機の風が当たる度に揺れる。

 イリーナ:「私の占い、当たったわね」

 イリーナは妖狐達には内緒話なのか、自動通訳魔法具をOFFにして英語で話しかけた。

 マリア:「あのバザールを歩いていれば、新たな展開が訪れるってヤツですか?」
 イリーナ:「サウスエンド。どうやら、新しいクエストができそうじゃないの。宿泊先もそこにすれば安心ね」
 マリア:「はあ……。ぶっちゃけ、シルバーフォックス達に囲まれた所で寝泊まりするのはどうかと……」
 イリーナ:「勇太君がいるから、邪険にはされないわよ、きっと」
 稲生:「大丈夫だと思います」

 ところが意外にも、銀髪の少年が英語を話して来た。

 銀髪:「威吹先生からは、皆さんを丁重にお連れするように言われております。だから、どうか御心配無く」
 稲生:「! 英語上手いね!?」
 銀髪:「この国の第2公用語ですから」
 茶髪:「いやいや、上手く話せるのオマエくらいだから」
 稲生:「何だ、そうか」
 茶髪:「逆に英語しか通じない者もいるので、街で買い物する時とかの通訳用です」
 銀髪:「オマエも勉強しろよ!」

 この国には日本の妖怪も在住しているが、やはり日本語しか話せない者が大多数だそうだ。
 そのような者達が人魔一体となって形成しているのが、南端村ことサウスエンド地区なのである。
 日本人街であり、安倍春明率いる魔界共和党がバァル大帝に対して蜂起した場所でもある。

 稲生:「はは、仲いいね」
 銀髪:「稲生殿と先生との間柄には負けます」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする