報恩坊の怪しい偽作家!

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“Gynoid Multitype Sisters” 「バスの旅」 3

2017-08-18 12:22:16 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月11日03:20.天候:晴 福島県本宮市 東北自動車道下り・安達太良(あだたら)サービスエリア]

 バスが2回目の休憩箇所に到着する。

 敷島:「んむ……?」

 それまでは寝ていたのだが、やはり停車すると目が覚めてしまうのは高速バス旅に慣れた人間のサガか。

 敷島:(しょうがねぇ)

 敷島はビールの空き缶を捨てに行くがてら、バスを降りることにした。

 敷島:「何か涼しいな……」
 エミリー:「現在の気温21.6度です」
 敷島:「あー、そりゃ涼しいわ〜……って!」

 敷島が後ろを振り向くとエミリーがいた。

 敷島:「今度はお前か」
 エミリー:「今度……は?」
 敷島:「羽生でも俺は降りたんだよ。そしたら付いて来たのはミクだった」
 エミリー:「ミクが?」
 敷島:「俺への監視は厳しいな」
 エミリー:「それはそうです。その体、社長お1人の物だけではないということです」
 敷島:「なるほど。いや、俺はちょっと缶ビール捨てに降りたんだ」
 エミリー:「いつの間に……」
 敷島:「羽生で降りた時。寝酒代わりにな。そしたら、2回目のここで起きたってわけ。それまでは爆睡していたつもりなんだが……」
 エミリー:「器用でいらっしゃいますね」
 敷島:「あー?……あー、まあそういうことでもあるか。まあいいや。何かいつもより涼しいから、トイレ行きたくなってきた。ちょっと行ってくる」
 エミリー:「行ってらっしゃい。ついでに何か買っておきますか?」
 敷島:「……水でいいよ」
 エミリー:「かしこまりました」

 エミリーは自動販売機でペットボトル入りのミネラルウォーターを購入した。
 それを手に、トイレの入口で待つ。

 エミリー:「…………」
 敷島:「お待たせ」
 エミリー:「お帰りなさいませ。水を購入しておきました」
 敷島:「そうなのか。いや、水道の水でいいと思ったんだが、まあいいや。ありがとう」
 エミリー:「バスに戻りますか?」
 敷島:「ああ。他にやることが……」
 エミリー:「!!!」

 エミリーは両目をギラリと光らせた。
 そして敷島の前に立つと、すぐにバッと振り返る。
 建物の陰から1人の男が飛び出して、エミリーに鉄パイプを振り下ろした。
 エミリーはそれをあえて左手で受け止め、体を低くして右手で男の腹部を軽くパンチ。
 そして受け止めた左手から電気を流して痺れさせた後、右手で顔面に拳を……入れる前に寸止めした。

 エミリー:「何のマネだ?……用途:執事、製造番号4番、ロイ!」
 ロイ:「いやー、申し訳無い。ちょっとドッキリを……」
 村上:「おー!相変わらず、鬼のように強いマルチタイプじゃのぅ……」
 敷島:「村上教授!……何やってるんですか、こんな所で?」
 村上:「ワシも仙台に行く所ぢゃ(^_^)v」

 村上大二郎は駐車場に止まっているキャンピングカーを指さした。
 最近はお手軽価格の軽ワゴンタイプも流行っているそうだが、村上のはマイクロバスを改造した本格的なものだ。
 家族と一緒に乗っているのだろうか。

 敷島:「……何しに?」
 村上:「息子夫婦と愛しのマイプリティ……もとい、孫娘に会いに行くのとボーカロイドの活躍ぶりを見に行くところだ」

 村上はボーカロイド達のライブのチケットを取り出した。

 村上:「最近はチケットを取るのも難しくなるくらい活躍しているそうじゃな」
 敷島:「おかげさまで。平賀先生経由で取りましたね?」
 村上:「おー、さすが分かっておるの〜」
 敷島:「平賀先生の大学でも、ボーカロイドのファンクラブがあるそうなんで……」
 村上:「凄い人気ぶりじゃの」
 エミリー:「社長。そろそろバスの出発する時間ですので……」
 敷島:「おっ、そうだ」
 村上:「ワシの車に乗り換えんか?」
 敷島:「うちのボーカロイドのナンバー1とスターを輸送中なんでね、またの機会にさせて頂きますよ」
 村上:「それは残念だ」

 敷島とエミリーはバスに戻った。

 敷島:「全く。あの爺さんも無茶しやがる。ヘタにロイをぶっ壊したらどうするんだよ。なあ?エミリー」
 エミリー:「そうですね。私は責任を負いかねます」
 敷島:「あー、それでいいよ」

 エミリーは敷島がプライバシーカーテンを閉めるのを確認してから、自分も充電コンセントを繋いだ。

 エミリー:(それにしても……)

 バスは安達太良サービスエリアを出発した。
 今後、何事も無ければ仙台駅西口まで直行することになる。

 エミリー:(ロイのヤツ、戦い方がキールに似ていた……。もしかしてロイは、キールのデータを受け継いでいる?まさか……)

 そして、キャンピングカーに戻った村上とロイ。

 村上:「ただいまじゃ」
 助手:「先生、あのマルチタイプとロイを戦わせるなんて無茶させないでくださいよ」

 運転席に座っている若い助手が文句を言った。

 助手:「いくらマルチタイプの生の戦闘データが欲しいとはいえ……」
 村上:「心配要らん。シンディなら壊してたかもしれんが、エミリーなら手加減すると思った。ワシの予想大当たりぢゃ(^_^)v」

 ロイがキャンピングカーのキッチンで入れたコーヒーを出す。

 ロイ:「でも、よろしいんですか?私のデータ更新の際、あのマルチタイプ5号機のキールのものを一部インストールしたことがあの御方にバレたら……私が壊されるだけでは済まないかもしれませんよ?」
 村上:「十条さんは道を誤った。マルチタイプの開発者じゃったからあれに拘ったのは理解できるが、しかしやはりあれはじゃじゃ馬じゃ。じゃじゃ馬を個人で飼い慣らせることができると明らかに判断できるのは、この日本でただ2人」
 助手:「敷島エージェンシーの敷島社長と、東北工科大学の平賀先生だけですか」
 村上:「いや、それは違うぞ」
 助手:「は?」
 村上:「敷島社長は合っているが、少なくとも平賀君は飼い慣らせるほどの力はあるまい。南里博士が見込んだのはマルチタイプを飼い慣らせる力ではなく、それを作る力じゃ。作る力を持ち合わせているからといって、飼い慣らせる力があるとは限らんよ」
 助手:「なるほど。確かに特撮モノの合体ロボだって、操縦しているのはそれの製造者ではなく、専属のパイロットですもんね」
 村上:「うむ。つまりはそういうことじゃ。平賀君の動向を見るに、ついにはエミリーをも手放しかねん状態になってる。それほど手に余る存在だということなんじゃ」
 ロイ:「もし敷島社長が、合体ロボが出てくる特撮番組でラスボスを張る悪の組織のリーダーだったとしたら大変なことになりますね」
 村上:「あのKR団をして傘下組織扱いになるじゃろうな」

 村上はズズズとロイに入れてもらったコーヒーを入れた。

 村上:「ワシは執事ロイドでも作って売る方が合っとるよ」

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