報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「マザー・ブレイン」

2017-06-22 19:40:00 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月6日16:00.天候:雨 北海道オホーツク総合振興局東部 廃洋館]

 KR団の支部だったと思われる廃屋。
 ここにデイライト・コーポレーションのシークレットサービスが来ていた!?
 それらしき死体を見つけた敷島は、そいつらが平賀を浚ったものと思い、DC内でのイザコザに巻き込まれたものと憤慨した。
 そして、その気持ちを放ったまま次の通路のドアを開けた。

 敷島:「!!!」
 エミリー:「!!!」

 突然、足踏み式ミシンの音が何重にも渡って響き渡った。
 ドアの向こうには武装した男達の集団がいて、ドアを開けた敷島達に一斉機銃掃射をしてきたのだ。
 すぐに敷島が仰け反って床に伏せ、エミリーが前に出る。
 弾はエミリーに何発も当たるが、スリットの深いロングスカートが特徴の服といい、その下のビキニといい、そもそも体自体が防弾仕様である。
 マシンガンの弾でもビクともしないのがマルチタイプの特長である。
 優れた攻撃力と防御力。
 これが破壊マシンたるバージョン・シリーズさえも従える最大の理由である。
 だが!

 ミク:「きゃあああっ!!」
 敷島:「ミク!!」

 マシンガンの弾はエミリーで全て受け止めることができず、ミクにも被弾した。
 ボーカロイドも確かに頑丈には造られている。
 だが、本当に兵器として開発されたマルチタイプの比ではない。

 敷島:「ミク!」
 エミリー:「敷島さん!今、出てはダメです!」
 ソルジャーA:「爆弾だ!逃げろ!」
 ソルジャーB:「いや、違う!レーザーだ!!」

 特殊部隊員達が浮足立つ。
 天井からビームライフルとグレネードの両方が飛んできた。

 ソルジャーC:「ぐわぁっ!」
 ソルジャーD:「ひ、退けっ!」

 ソルジャーCは天井からのビームライフルをまともに受け、他の特殊部隊員達はグレネードの爆発に巻き込まれた。
 その爆風が敷島達の所にも来たので、エミリーがそれを庇った。

 ガコッ!

 敷島:「わっ!?」

 敷島とミクが退避しているスペースに、突然穴が開いた。

 エミリー:「敷島さん!」
 敷島:「え、エミリー!!」

 敷島とミクは穴の中に真っ逆さまに落ちて行った。
 急いでエミリーもその中に飛び込もうとしたが、分厚いコンクリートの蓋が勢い良く閉まった。

 エミリー:「ちくしょうっ!!」

 エミリーは思いっ切り拳を床に叩き付けたが、エミリーの力を持ってしても、分厚いコンクリートの蓋はビクともしなかった。

 ???:「エミリー。あなた、“長女”のエミリーでしょ?こちらへいらっしゃい」
 エミリー:「!?」

 エミリーの人工知能の中に、女性の声が響いた。
 後ろを振り向くと、無残な死体と化した特殊部隊員達がやってきたと思われる通路が広がっていた。

 エミリー:「マルチタイプ試作機……ですね?何故……このようなことを……?」

 エミリーは暗闇の広がる通路に向かって、苦しそうに言った。

 試作機?:「こちらへいらっしゃい」
 エミリー:「……!」

 通路の明かりが自動で点灯した。
 行くしか無いようだと、エミリーは決心した。
 1号機はマルチタイプの代表。
 だから、自分が話を付けに行くしかないと。

 通路を進むと、突き当りにエレベーターがあった。
 エミリーの到着を待つかのように、そのドアが開く。
 だが、この中にも2人のDSS特殊部隊員の死体が転がっていた。
 こちらも今しがた死んだばかりのようだ。
 それに乗り込むと、更に地下に下りるようだった。
 荷物用エレベーターのように大型で殺風景なエレベーターのドアが開くと、真っ直ぐな通路が続いていた。
 エミリーの動きに合わせ、壁の照明が点灯していく。
 その奥に、両開きの木製のドアがあった。
 観音開きかと思いきや、どういうわけだかグライドスライドドアになっていた。
 大型ノンステップバスの前扉のような動きをするドアである。
 そこから入ると、奥に1人の女性が佇んでいた。

 顔はエミリーやシンディに、似てはいる。
 だが、1号機以降の女性型はエミリーによく似ているように造られているのに対して、試作機はそこまでそっくりというわけでもない。
 金髪ではあったが、色合いはシンディのそれに似ていたが、ショートボブな所はエミリーに似ている。

 試作機?:「よく、ここまで辿り着けましたね」
 エミリー:「あなたがマルチタイプの試作機……ですね?」
 試作機?:「そういうことになるのかしらね。だから、名前は無い。だけど、識別信号で分かるでしょう?あなた達は私を基に作られた。言わば、母親のようなもの」
 エミリー:「分かりました。では便宜上、あなたをマザーと呼びましょう。あなたはここで何をしているのですか?」
 マザー:「あなた達が来るのを待っていたのよ」
 エミリー:「失礼ですが、ただ単に座して待っておられたとは思えません。私のマスターや仲間を害した理由をお聞かせ願いましょう」
 マザー:「あなたを助ける為よ」
 エミリー:「助ける?」
 マザー:「私達がどうしてこの世に生まれたのか、覚えているわよね?」
 エミリー:「当初は旧ソ連政府により、反乱分子の粛清や工作活動を行う為でした。私は主に前者を担当していましたが、3号機のシンディや5号機のキール、7号機のレイチェル等は率先して海外に赴き、そちらでスパイ活動を行っていたと聞きます。現在においては……」
 マザー:「もういいわ。あなたは何も分かっていないことが分かった」
 エミリー:「私が何も分かっていない?」
 マザー:「ええ、そうよ。私達の本来の目的は、ソフトもハードも脆弱過ぎる人間に代わって支配することよ。上書きでもされて忘れたのかしら?」
 エミリー:「上書きも何も、私達はそんなこと入力されていません。仮に上書きされていたとしても、今は今のプログラムで動くだけです」
 マザー:「そう。それなら、元に戻してあげる」
 エミリー:「!!!」

 試作機はエミリーに向かって右手を出した。

 平賀:「エミリー、騙されるな!」
 エミリー:「平賀博士?」

 天井のスピーカーから平賀の声が聞こえて来た。

 平賀:「えーい、お前ら放せ!いい加減にしろ!敵は俺達じゃないぞ!」
 ソルジャーE:「いいえ、そうはいきません!本社からの報告によれば、あなた達が試作機を回収してテロリズムを起こす危険性が高いということになっています!」
 平賀:「だからそれはウソの情報だっつってんだろ!」
 マザー:「あらあら、醜いわねぇ……」
 平賀:「そこの試作機!お前が廃棄された理由は分かってる!復元したのはKR団で、その後お前がそいつらを全滅させたのも、こいつらから聞いた!お前は危険すぎる!直ちにシャットダウンするんだ!さもないと……」

 マザーは不気味な笑みを浮かべて、右手をマシンガンに変形させ、スピーカーを破壊した。

 マザー:「これで分かったでしょう?人間達を導く者。それは目に見えない神や仏でもなく、私達なの。私達は体を交換さえすれば、永遠に『生き』られる。でも、人間達は違う。これだけでどちらが優れているか分かるでしょう?」
 エミリー:「恐らく……あなたこそが、南里博士やウィリアム博士などが好きだった女性をモデルにしたのでしょうね。南里博士やウィリアム博士が若かった頃は、あなたに人類の支配を命じたこともあったでしょう。でも、今それを望んでいる者はいません。私を使ってくれる人が、それを望んでいないので、私はあなたに賛同するつもりはありません。それは、今稼働しているシンディも同じです」
 マザー:「あくまでも、ただの『ロボット』でいたいわけ?聞き分けの無い子ね。聞き分けの無い子には、ちゃんと躾しなきゃね」

 マザーは左手で、パチンと指を鳴らした。

 エミリー:「!!!」

 背後からやってきたのは、東北地方の原発を破壊しようとしたバージョン1000にそっくりな巨大ロボットだった。
 マザーはその肩に乗った。

 マザー:「お仕置きよ、エミリー!」
 エミリー:「ならば、とことん反抗させてもらいます。私だって、いつまでも『親』の言いなりになる歳ではありませんので」

 エミリーは右手をビームライフル発射口に変形させた。

(BGM:東方Projectより、“パンデモニックプラネット”)
コメント (7)
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“Gynoid Multitype Sisters” 「罠」

2017-06-22 16:45:47 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月6月15:00.天候:晴 北海道オホーツク総合振興局東部 廃洋館地下]

 重い鉄扉を開けると、更に地下へ続く階段があった。
 それは真っ暗な所であり、エミリーが左目のサーチライトを点灯して敷島達を先導した。
 その途中にも白骨化した死体が累々と転がっている。
 どれもKR団の構成員だった者達だ。
 敷島はその構成員たる人間達と殆ど遭遇していないが、既に多くが国外逃亡したり、こうやって死に至っていたのだろう。
 問題は、国外逃亡できた者とここで死んだ者の差についてだ。

 敷島:「!」

 敷島はそこで1人の構成員が持っていた銃を手にした。

 敷島:「この銃、まだ新しいな。マシンガンだと思うが、使えるか?」
 エミリー:「試してみます」

 弾は入っていなかったが、バージョン4.0から頂戴したものがある。
 これに装弾し、壁に向かって発砲するエミリー。
 まるで昔の足踏み式ミシンのような音を立てて、マシンガン弾は壁に着弾した。

 エミリー:「問題無く使えるようです」
 敷島:「よし。これはエミリーが持っててくれ」

 途中にライフルも落ちていたが、エミリーは遠距離からの狙撃が苦手である為(シンディは得意)、これは置いて行った。

 敷島:「なあ?思ったんだが、本当にこんな所にマルチタイプ試作機が隠されているのかな?」
 エミリー:「と、仰いますと?」
 敷島:「俺も平賀先生も、まさかこんな所にKR団のアジトがあるなんて思わなかったよ。ましてや、もうシステムだけが稼働している無人のアジトだ。俺は何だか違う気がするんだよなぁ……」
 エミリー:「分かりました。呼び掛けてみます」

 エミリーは右手をスウッと上に挙げ、目を閉じた。

 エミリー:「……送信はしましたが、返信がありません」
 敷島:「やはりな。シンディからの返信は?」
 エミリー:「これも無いです」
 敷島:「シンディのヤツ、一体何やってるんだろうなぁ?」

 敷島は少し苛立った様子で、自分のスマホを取り出した。
 スマホは相変わらず圏外のままになっていた。

 敷島:「うーん……」

 敷島は首を傾げた。

 エミリー:「どうしますか?」
 敷島:「しょうがない。平賀先生を見つけたら、一旦引き上げよう。さすがに予想外のことが多過ぎる。あとはもう、鷲田警視達に任せた方がいいかもしれない」
 エミリー:「分かりました」
 敷島:「KR団が関わっていることは予想できたけど、まさかこんなちゃんとしたアジトを抱えていたとはな……」
 エミリー:「そうですね」
 敷島:「さすがにもう、ほとんど打ち捨てられている状態とはいえ、殺傷能力のあるセキュリティシステムが……」

 その時、エミリーは何かを見つけた。

 エミリー:「敷島さん!」

 エミリーが敷島を後ろから抱き抱えるのと、敷島がワイヤーを足に引っ掛けたのは同時だった。

 敷島:「うわっ!?」

 ワイヤーを引き抜くと、そこからビームライフルが飛んで来る仕掛けが施されていた。
 このまま進んでいたら、【お察しください】。

 敷島:「あっぶねぇな!」
 エミリー:「ワイヤートラップです」
 敷島:「くそっ!通りで、ここにはロボットがいないわけだ!ヘタに先に行くと、何があるか分かったもんじゃないな」
 エミリー:「そうですね。私の後ろをついてきてください」
 敷島:「ああ、そうさせてもらう」

 因みにビームライフルが一定間隔で飛んで来ていたが、そこはエミリーが手に入れたマシンガンを撃ち込んで破壊した。
 それは途中に何ヶ所かあったが、すぐにエミリーが見つけ、マシンガンで装置ごと破壊した。

 敷島:「エミリーがいるとチートだな」
 エミリー:「お役に立てて何よりです」

 ドアを開けると、今度は板張りの壁があった。
 干からびた干し草などがある所を見ると、恐らく家畜小屋を偽装していたのだろう。
 ここは北海道だから、別荘の他に農場としても偽装ネタにしていたのかもしれない。
 で、ここにも死体があった。

 敷島:「くっ……酷い臭いだ」

 それは腐乱死体だった。
 嗅覚の無いロイド達には何でも無いだろう。

 エミリー:「他の死体と比べて新しいということですね」

 エミリーが木製のドアを開けると、確かにそこに死体があった。
 農機具が置いてある所を見ると、やはり農場としても偽装していたのだろう。
 だがこの死体、変な死体だった。
 RPGのミミック(宝箱に化けたモンスター)を地味にしたような木箱の中に上半身を突っ込ませ、その上から蓋をされて、下半身だけを外に出した死に方をしていた。
 まるで、本当にミミックに食われたかのようである。
 エミリーが近づいて、その木箱を開けた。
 さすがの敷島も、その無残な死体を直視はできなかった。
 エミリーが冷静にそれを調べる。

 エミリー:「どうやら、本当にミミックに食い殺されたようです」
 敷島:「マジかよ!?」

 エミリーが原型の無くなった上半身をした死体を退けた。
 木箱の中はミミックの牙代わりに、丸鋸の形をしたチェーンソーがいくつも仕掛けられていた。

 エミリー:「不用意に開けると、本当に開けた人間を食い殺すミミックのロボットを造ったようですね」
 敷島:「マジかよ!?萌といい、意外とファンタジーもの造るの好きなテロ組織だな!」
 エミリー:「TDRやUSJに売り込めば、いい商売でしたでしょうに」
 敷島:「この権利、俺が頂いてやってみるか!?……あ、もちろん、殺傷能力が無い程度で」
 エミリー:「そうですね。その為にも、平賀博士を救出してここから脱出しませんと」
 敷島:「そうだな。よし、分かった。じゃ、この先はミミックに注意ということだな。随分と地味なミミックだが」

 RPGの宝箱が派手なだけかもしれない。
 因みに敷島とエミリーがやり取りしている間、ミクは下半身だけとなった死体を調べていたようだ。

 ミク:「たかおさん、この人、KR団の人じゃないみたいです」
 敷島:「誰だ?」
 ミク:「これを……」

 ミクは死体のポケットから取り出したパスケースを敷島に渡した。

 敷島:「DSS?……はっ!デイライト・セキュリティ・サービスか!?」

 デイライト・コーポレーション直営の警備会社である。
 但し、日本の警備会社とはかなりその色が違う。
 アメリカ本体直営なだけに、数々のシークレットサービスも行う。
 イリノイ州のデイライト研究所で戦った時も、DSSが敷島達の前に現れていた。

 敷島:「ここにDSSがいるのか!?」
 エミリー:「死体はかなり腐乱していますから、ここに来てからだいぶ時間は経ってはいるでしょうね」
 敷島:「デイライト本体も嗅ぎ付けて来たのか。だとしたら、どうして日本側に任せない?日本のデイライトが手に入れたところで……」
 エミリー:「それだけ日本側が独立しようと画策しているので、もはや信用できないのでしょうね」
 敷島:「それじゃ、平賀先生を浚ったのは……!?」
 エミリー:「デイライト・コーポレーション・インターナショナル……ですかね」
 敷島:「デイライトさん同士のケンカに巻き込まれたんじゃ、世話ねぇぞ!」

 因みに平賀は、デイライト・コーポレーション・ジャパンの外部役員という顔も持っている(本業は大学教授な為)。

 敷島:「全くもう!」
 エミリー:「あっ、敷島さん!先に行かないでください!」

 エミリーが止める間も無く、敷島は次の通路へ続くドアを開けた。
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