報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「2日目最後の事故」

2017-06-11 19:52:14 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月4日17:00.天候:曇 北海道札幌市豊平区 札幌ドーム]

 イベント2日目もそろそろ終わりに近づこうとした時、会場はまだまだ熱気に包まれていた。

 MEIKO:「はいはーい!北都酒蔵の名酒“大吟醸 竜殺し”ですよー!」

 MEIKOはシンボルカラーの赤いバドスーツを着て、CM契約している酒造メーカーのキャンペーンをやっている。

 MEIKO:「これから暑くなりますからね、冷や酒にして頂くと美味しいですよ。これに含まれているエタノールの味が、ボーカロイドの私でもたまりません」
 鏡音リン:「MEIKOりん、エタノールに味は無いYo〜」
 MEIKO:「そ、そうだったかしら?」

 くすくすと笑いが起こる。

 鏡音リン:「ほんとだYo!ウソだと思うなら、リンが味見してみるYo〜!」
 MEIKO:「あんたまだ未成年でしょ!」

 ドッと笑いが起きた。

 鏡音リン:「今ならこのイベント限定、一升瓶が200本!全てのラベルにMEIKOりんのサイン付き!」
 ファン達:「おお〜!」
 MEIKO:「限定10本、抽選でスーパー大吟醸にはリンのサインも入ってまーす!」
 鏡音リン:「ていうか、今サインしちゃおっと!」
 ポテンヒット:「ヒック!……スーパー大吟醸なんてもん、フツー無ェだろうがよ〜、ヒック!インチキ商売してんじゃねぇよ、ヒック!……って、うおっ!?」

 勢い良く列を作るファン達に弾き飛ばされるポテンヒット氏。

 ポテンヒット:「雲羽よぉ〜!後でよォ〜!出演料たんまりもらうからなぁ、ああっ!?ヒック!」

 ポテンヒットさん、(勝手に)友情出演ありがとうございました。
 出演料は大宮公園駅前の“庄や”でオナシャス!

 巡音ルカ:「円尾坂(えんびざか)の片隅にある〜♪仕立て屋の若い女主人〜♪気立ての良さと確かな腕で〜♪近所でも評判の娘♪」

 舞台公演“円尾坂の仕立て屋”のテーマソングを歌うルカ。
 テーマソングを歌うだけに、その舞台の主役に抜擢された。
 江戸時代の日本が舞台なだけに、赤い着物に緑色の帯、黄色いかんざしという舞台衣装を着てのライブだ。
 この舞台のテーマは、スバリ『ヤンデレ』なのであるが、ストーリー性の高い歌詞が進む度に話がどんどんあらぬ方向へ向かって行くのが特徴である。
 最初は普通に微笑を浮かべて歌っているルカも、歌詞が3番、4番と行く度に笑顔に歪みが増し、更に目に光が無くなるというヤンデレの顔に変わって行く。
 そして最後のパートは、何食わぬ顔に戻って歌い上げるというものだった。
 その間、主人公たる女性(演:巡音ルカ)は一家惨殺事件の犯人になっているのだが。

 ファンA:「いやあ、ルカさんの歌いながらの演技、パないっス」
 ファンB:「マジでヤンデレキャラっスね〜」
 ファンC:「『その女は誰!?』という部分で、ギラリと両目が赤く光る所が怖かったっス」

 ボーカロイドにも感情表現の為、目が光るという機能が付いている。
 今ではだいぶ人間と同じ豊かな表情をするようになった為、無用の機能になりつつあるが、未だに取り外しはされていない。
 舞台公演は、そんなボーカロイドの機能に着目したものが多い。
 改造さえすれば、ギロチンで本当に首を落としても平気な所とか。

 さて、敷島エージェンシーのボーカロイド達が2日目も盛り上げている最中のことだった。
 関係者用のバックヤードで、座り込むライデンの姿があった。
 このイベントに参加した別の芸能プロダクション所属で、スリリングな空中ブランコ技を得意とするアンドロイドである。
 その芸能プロのオーナーがやってくる。

 オーナー:「ライデン、こんな所にいたのか。何をやってるんだ?お客さん達が首を長くして待ってるぞ?」
 ライデン:「オーナー、何か調子悪いんですよ。今年に入ってから、まだオーバーホールを1度も受けてない……」
 オーナー:「このイベントが終わるまで我慢しろ。それにな、今日はアメリカのシカゴから、カポネ商会のカポネ社長が来られてるんだ。シカゴじゃ有名な興行師だぞ。このイベントでいい所を見せれば、シカゴで海外公演ができるんだ。分かるか?」
 ライデン:「分かったよ、オーナー」

 ライデンは重い腰を上げた。

〔「皆様、大変お待たせ致しました!本日のイベントのトリを務めさせて頂きまするは、ベータ・プロダクションが誇るエンターテイナーロイド、ミスター・ライデンが披露させて頂く『電極輪潜り』です!空中ブランコと緻密なタイミングを計算した……」〕

 平賀:「よし、自分の出番が終わった者から点検を始めるぞ。控室に戻れ」
 初音ミク:「はい」

 毎回、公演が終わる度に整備をしてもらえることを知った、他の事務所のボーカロイドはそれだけで驚いたという。

 平賀:「6月に入ったら、まずKAITOからオーバーホールな?」
 KAITO:「はい。3ヶ月に1回もしてもらえるなんて、ありがたいです」
 平賀:「敷島さんが、『鉄道車両の交番検査は3ヶ月に1回だ』なんて言い出したもんだからね」
 KAITO:「都議会議員の勝又先生が、『都営地下鉄の車両は3ヶ月に一回、部品をバラして検査している』と仰ったのが始まりだと伺いましたが……」
 MEIKO:「アタシ達ゃ、電車と同じかい」

 だが、他事務所のボカロ達からは、何でもいいから高頻度で高レベルの検査をしてもらえることが羨ましいとのことだ。

 シンディ:「ん?」

 シンディはメイン会場の警備の為、ライデンの空中ブランコの近くにいた。
 ライデンの胸のモニタを自分の目(カメラ)でズームしてスキャンしてみると、明らかに精度が落ちているのが分かった。

 シンディ:「えっ!?あんな状態で飛ぶの!?」
 敷島:「どうした、シンディ?」
 シンディ:「あいつのコンピューター、故障してるよ?それでも飛ぶの?」
 敷島:「何だって!?……あ、でも、あの事務所のことだから、何か狙ってるかもしれないし……」
 シンディ:「そ、そう?」

 ライデンは空中ブランコに足を掛け、勢い良く弾みを付けて、高圧電流の鉄輪に向かって飛んだ。

 シンディ:「やっぱり!」

 ライデンは鉄輪を潜ることに失敗した。
 そればかりか、予想外の事故に鉄輪はライデンごと大爆発!

 シンディ:「まずい!」

 鉄輪やライデンの爆発した破片がピッチ内に散乱した。
 幸い、観客席にまで部品が飛んで来ることは無かったが、ショートした為にドーム内が停電を起こしたほどである。

 敷島:「くそっ!だから言わんこっちゃない!」
 シンディ:「社長、取りあえず控室に……」

 シンディは右目のサーチライトを点灯させて、敷島を誘導した。
 尚、この事故を受けて、ベータ・プロダクションのアメリカ公演は現地興行会社からの契約取り消しにより、白紙になってしまったとのことである。
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“Gynoid Multitype Sisters” 「イベント2日目」

2017-06-11 09:59:28 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月4日08:00.天候:曇 北海道札幌市中央区 京王プラザホテル札幌]

 ボーカロイド達の部屋割りだが、4人部屋の“ファミリー”にMEIKO、初音ミク、鏡音リン、巡音ルカ。
 3人部屋の“トリプル”にMEGAbyteの3人(結月ゆかり、Lily、未夢)、“ツイン”にKAITOと鏡音レンが寝泊まりしている。
 皆一斉に時間になると起き出す(スリープモード解除)のだが、その際に行われるのが『ロボット工学三原則』。
 JARA財団の取り決めで行われたもので、それが崩壊した今は無効なのだが、今でも行われている。

 初音ミク:「三原則その1……」
 鏡音リン:「ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない」
 MEIKO:「三原則その2……」
 巡音ルカ:「ロボットは与えられた命令に服従しなければならない。但し、与えられた命令が第一条に反する場合は、この限りではない」

 KAITO:「三原則その3!」
 鏡音レン:「ロボットは第一条及び第二条に掲げる内容に反する恐れの無い限り、自己を守らなければならない」

 今日は1階のレストランで朝食を取った敷島達。

 シンディ:「あのコ達の唱和が終わったようです」
 敷島:「そうかそうか」

 エレベーターで客室に戻るところだった。
 因みに『起床時』に唱和を行うので、その設定時間により唱和時間はバラける。

 敷島:「思い出すなぁ……」
 シンディ:「何がですか?」
 敷島:「キールだよ。勝手に第5条まで作っただろ?あいつ」
 シンディ:「『三原則その5!……己の意思に基づき、前掲全ての項目を否定する!』ですか。あのクソ野郎……!」

 三原則なのに第5条まであるという不思議さにツッコミが入る。

 シンディ:「姉さんを誑かした上に、裏切りまでするとは……!」
 敷島:「まあまあ。その恨みはお前のライフルで果たせたじゃないか」

 当時まだ銃火器を搭載していたシンディ。
 本当は頭を撃ち抜いてやりたいところだったが、敷島の命令で背中から胸を貫通させるだけであった。

 シンディ:「そうですね」
 敷島:「あの時、キールのメモリーを咄嗟の判断で飲み込んだのは凄かったな」
 シンディ:「あの時はそうした方が良いと思ったのです。姉さんみたく、【ぴー】に自分から入れるほど私は痴女じゃありませんので」
 敷島:「ほおほお」

 敷島の隣の部屋のドアが開く。
 そこは平賀とエミリーの部屋。
 出て来たのは……。

 エミリー:「ほお?誰が痴女だって?」
 シンディ:「!!!!!」

 ゴッ!と鈍い音がそのフロアに響いたことは言うまでもない。
 エミリーとシンディには、本当に子宮に相当する部分に重要機密媒体を隠し持つ入れ物がある。
 スパイとしての用途も想定して設計されたのが分かる一面だ。

[同日09:00.天候:曇 北海道札幌市豊平区 札幌ドーム]

 再びジャンボタクシー2台に分乗して札幌ドームに向かう。
 関係者駐車場出入口付近には、入り待ちのファン達が待っていた。

 敷島:「エミリー、お前も注目されてるぞ?」
 エミリー:「光栄ですが、私は『用途外』ですので」

 助手席に座るエミリーは後ろを振り向いて微笑を浮かべた。
 そして、関係者入口の前で車が止まる。

 鏡音リン:「今日は何やるの?」
 MEIKO:「それくらい覚えておきなさい。2日目はライブよりも、触れ合いイベントの方がメインなのよ。でしょ?社長」
 敷島:「まあ、そうだな。他の事務所に花を持たせるという意味合いが今日は強い。ボーカロイドの中には歌だけじゃなく、パフォーマンスが得意なのもいる。レンがちょうどバック宙が得意なのと似てるかな」
 鏡音レン:「バック宙ですか。昨日もやりましたけど、もう1回やります?」
 敷島:「まあ、今日の流れ次第だな。詳しい話は、また事前の打ち合わせがあるから」
 KAITO:「トークとかもあるんじゃない?」
 結月ゆかり:「AKBみたいにジャンケン大会とか?」
 Lily:「私は普通にライブやってる方がいいかな……」
 未夢:「何だか今日は楽しそうねぇ」

[同日13:00.天候:曇 同ドーム内]

 敷島:「マジでやるのか!?」

 ドーム内に設けられたのは、かつてロボットサーカスで使われたセットによく似ていた。

 敷島:「ベータ・プロダクションさん!」
 オーナー:「ウチのロボットはただ単に歌えるだけやのうて、パフォーマンスも完璧ですわ。やっぱり、エンターテイメントは必要でっせ」
 敷島:「いや、それは分かりますが、本当に大丈夫なんですか?」
 オーナー:「うちのはボーカロイドよりも更にエンターテイメント性を高めた物や。発明狂に作らせた最高のロボットがうちにはいまっせ」
 敷島:「ほお……」

〔「さて、これより皆様にお見せ致しますのは、直流1万5000ボルトの高圧電流の鉄輪の中を上手く潜れますかどうか!『世紀の電極ブランコ!』まずは、普通のロボットが飛んでみせます!」〕

 恐らくは旧式のバージョン辺りを流用したものと思われるロボットが空中ブランコに乗り、それで輪っかに向かって飛ぶ。
 が、ロボットは上手く潜ることができず、高圧電流に触れて爆発した。
 それもまた観客にスリルを味わわせるパフォーマンスなのだろう。

〔「おーっと!やはり、普通のロボットでは潜ることは不可能のようです!それではお待たせしました!ついに真打ちの登場です!ベータ・プロダクションが誇る最新鋭のロボット!ミスター・ライデンの登場です!」〕

 ライデンは身長180cm以上を誇る大柄の男性を模して造られたロイドのようだ。

 オーナー:「ライデンの胸に、モニタが付いとりますやろ?あそこには1万分の1秒まで測れるコンピューターが搭載されておりますのや。ライデンにとっちゃ、あんな輪っか、止まって見えるっちゅうもんでっせ」
 敷島:「ほお……それはそれは。(ていうか、うちのマルチタイプはそれ以上の性能だけど……。まあ、あの輪っか潜りをするだけなら、1万分の1秒の計算で十分か……)」

 ライデンの顔付きは、まるでハリウッドの映画スターのような感じで、この見た目もファンを付かせる要因の1つだろう。
 そのライデンが空中ゴンドラでブランコの所まで上がる時、マルチタイプ達の方を見てウィンクした。

 シンディ:(キモっ!こっち見んな!)

 シンディがライデンに睨み返し、エミリーの方を見ると……。

 エミリー:「〜〜〜〜
 シンディ:「くぉらっ!いい加減、学習しろ!このビッチ!」

 姉には頭の上がらないシンディも、姉の性に関してだけは思いっ切り突っ込める。

〔「さあ、世紀の瞬間です!皆様、とくとご覧ください!」〕

 ライデンは空中ブランコに乗り、そして勢いをつけて輪っかの中を潜り抜け、反対側のブランコに乗り移った。
 その瞬間、客席から歓声が起こる。

 敷島:「ほお……なかなかやりますなぁ……」
 オーナー:「ジャニーズさんですら、タレントに歌って躍らせるだけやのうて、バラエティとかもやらせておりますやろ?ロボットを使うのもええですが、あないな感じでエンターテイメント性を持たせるんも大事やと思ております」
 敷島:「なるほどねぇ……。そのうち、ロイドに漫才でもやらせますか?」
 オーナー:「漫才!?あー、ええですなぁ!それ、頂きまっせ!」
 敷島:「どうぞどうぞ。(アイドル性が高いうちのボカロには無理そうだなぁ……)」

 2日目もこのまま順調に行くかと思われた。
 
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