報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「宇登呂と沙留の間に旅人が来たよ」

2017-06-20 23:26:04 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月6日12:30.天候:曇 北海道オホーツク総合振興局東部付近]

 初音ミクが持ち歌の1つである『オホーツク旅情歌』を歌った。
 だが、何も起こらない。

 敷島:「くっ!……もっと近くで歌わないとダメか?」
 平賀:「いや、もっとピンポイントに歌う場所が決まっているのかもしれませんね」
 エミリー:「そうなると、あの屋敷に入ることになりますが……」
 敷島:「エミリー、シンディからの返信は?」
 エミリー:「まだありません。返信を急がせますか?」
 敷島:「井辺君が忙しいのかもしれない」
 平賀:「ミクは表向き、オーバーホール中ということになってますからね。その誤魔化しと、他のボーカロイド達の調整で忙しいのかもしれません」
 敷島:「しょうがない。入ってしまうか」
 平賀:「ええっ?」
 敷島:「不法侵入になるって?……念の為、小切手を持ってきた。もし家主から訴えられたら、これで示談にしちゃおう」
 平賀:「さすがですねぇ……」

 敷島達は正門らしき場所に近づいた。
 だが当然のごとく、閂には頑丈なチェーンが掛けられていた。

 敷島:「どこか、抜け道となるような場所は……」
 エミリー:「……っ!!」

 バキィン!(エミリーがスチール製のチェーンを引きちぎった)

 平賀:「……チェーンは、後で自分が弁償します」
 敷島:「エミリー、お前……」
 エミリー:「お役に立てましたでしょうか?」
 敷島:「今回は許す。早く門を開けろ」
 エミリー:「はい」

 エミリーは観音開きの門を押し開けた。

 バキッ!……バーン!(蝶番が腐っていたせいでそこから門扉が外れ、地面に落ちた)

 敷島:「……ここまで来ると、次の台風シーズンや雪のシーズンでブッ壊れてたんじゃないか?」
 平賀:「そういうことにしておきましょう」

 正門から中庭に入り、正面エントランスまでの石畳の上を進む。

 エミリー:「私が囮になりますので、後からついてきてください」
 敷島:「何が!?」
 エミリー:「あのガーゴイルや外灯、こちらに向かってビームライフルが放たれる仕組みになっているようです」
 敷島:「何だって!?」
 エミリー:「もっとも、どれほどの殺傷能力があるかどうかは不明ですが……」
 平賀:「だが、もう朽ちた屋敷だぞ?仮にそんなシステムがあるとして、今も稼働してるかな?」
 エミリー:「とにかく、私が行ってみます」

 エミリーはクラウチングスタートの体勢を取った。
 ロングスカートだが、スリットが深い為に、そこから白いおみ足が覗く。
 一気にダッシュした。

 平賀:「待て待て待て、エミリー!」

 平賀が何かに気づいたのか、急いで制止を求めた。
 だが、エミリーは急には止まれない。
 ビームライフルを放つ仕掛けは、どうやら生きているようだ。
 だが、エミリーには放ってこなかった。
 ただ、センサー自体は感知するせいか、それで一瞬、赤いランプが光る。

 平賀:「やっぱりな……」
 敷島:「何ですか?」
 平賀:「生体反応タイプだと思ったんです。だから、エミリーがセンサーに感知しても作動しなかったんですよ」
 敷島:「何ですって!?……エミリー、お前、役に立ってないぞ!早く戻ってこい!」
 エミリー:「

 エミリー、イラッとした顔になると、右手を光線銃に変形させた。
 そして、次々とガーゴイル像や外灯に偽装されたビームライフル発射装置を破壊した。

 エミリー:「……これでもう安心です。どうぞ、こちらへ」
 敷島:「お前なぁ……」
 平賀:「お前も気の短い性格になったなぁ」

 敷島達、エントランスへ向かう。

 敷島:「あれ、弁償しようとすると、いくら掛かるでしょうか?」
 平賀:「もうこの際、いいんじゃないんですか?本当の廃墟かもしれませんよ。管理者は元より、所有者すら不明の」
 敷島:「だからといって、勝手に破壊するわけにはいかないでしょう」
 平賀:「それは正論ですが、エミリーが更に先走ってしまったことがある」
 敷島:「何ですか?」
 平賀:「本当に今の仕掛けが作動するのか、一回試してみたかったんですよ」
 敷島:「わざとトラップに引っ掛かれと?それは危険じゃないですか?」
 平賀:「いや、あれも防犯装置の一環のつもりであるなら、必ず点検モードがあるはずなんです。それに切り替えることによって、安全を確保した上で手動で作動させることができるはずです」
 敷島:「なるほど。……だ、そうだ。エミリー」
 エミリー:「申し訳、ございません」

 エミリーは頭を下げたが、憮然とした顔だった。

 敷島:「どうしたんだ?今日は随分と空回りしてるじゃないか?」
 エミリー:「私、今回の旅行であまりお役に立っていないんです」
 敷島:「そうかぁ?ボーカロイド達の護衛や俺達の護衛、上手くやってたじゃないか」
 平賀:「そうそう。ていうか、今お前を連れて来てるのもそれが目的だぞ?」
 エミリー:「私はアンドロイドマスターたる敷島社長のお役に立ちたいのです。今回、それができていないのが心苦しい……です」
 敷島:「エミリー、現時点におけるお前の立場は俺専用の秘書でもなければ護衛でもメイドでもない。あくまで、ここにいる全員の護衛役だ。いいか?これは俺からの命令だぞ?これに従って上手くできたら……頭撫でてやるよ」
 エミリー:「かしこまりました。そういうことでしたら、御命令お受けします」
 平賀:(命令を受ける代わりに、軽いスキンシップとはいえ、報酬を求めるロイド……マルチタイプか。こいつら、どんどん進化しているということ……だな)
 敷島:「それじゃ、早速中に入りましょう。エミリー、ピンポンやってくれ」
 エミリー:「はい」

 エミリーはドア横のインターホンを鳴らした。
 だが、そもそも鳴っているのかさえ不明だ。

 平賀:「当初の七海は同じ命令を出すと、卓球のラケットと球を用意したものです」
 敷島:「で、平賀先生が、『誰がピンポンやれっつった!!』とお怒りになる」
 平賀:「そうですそうです。で、エミリーが『ドクター平賀・ですよ』と、冷静に突っ込んで来たものです」

 当初のエミリーは自分の秘めたる思いを隠し、『仮面』を羽織って、マルチタイプながらあたかもロボットのように振る舞っていた。

 敷島:「……何の反応も無いな」
 平賀:「鍵が掛かってるでしょうね。しまった。こういう時、萌がいた方がピッキングできるんだよなぁ……」
 敷島:「井辺君から借りて来るべきでしたね。どうしましょう?」
 エミリー:「私がこじ開けます」
 敷島:「まあ、そうなるよな」

 さすがにここまで来ると、敷島達はエミリーの強硬的行動を止めることはしなかった。
 エミリーがドアノブに手を掛け、思いっ切り力を込めようとした時だった。

 ……カチャ。

 エミリー:「!!!」

 内側から鍵が開けられた。
 エミリーは慌ててドアノブから手を放した。

 ……カチッ。

 エミリー:「!?」

 今度は鍵が掛かった。
 再び手を掛けると鍵が開き、放すと鍵が掛かった。

 平賀:「何やってるんだ?早く開けろ」
 エミリー:「……はい」

 エミリーは普通にドアノブを回してドアを開けた。

 敷島:「何だ、鍵開いてるじゃん」
 平賀:「外側のセキュリティがしっかりしているつもりなので、ここまでは施錠しなかったのかもですね」
 エミリー:「あ、あの……」
 敷島:「エミリー、お前が先だ。外側にビームライフルのトラップが仕掛けられてるってことは、中も似たようなトラップがあるんだろう。先に進んで、トラップの有無と状態を確認してくれ」
 エミリー:「かしこまりました。(このドアの仕掛けについては、いいかしら……)」

 とにかく敷島達は、屋敷の中へと潜入した。
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