報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「イベント最終日」 2

2017-06-15 20:46:25 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月5日13:00.天候:晴 北海道札幌市豊平区 札幌ドーム]

 ついにイベント最終日が始まった。

 初音ミク:「もっとずっと♪笑えるように♪流星にお願いしたら♪……」

 出だしは好調のスタート。
 子供の日ということもあって、今回は子供向けの企画なども多かった。

 鏡音リン:「はいはーい!今日はリンと一緒にジャンケン大会するYo〜!せーのォ……」

 GUMI:「時計台のある街に♪歌うことが大好きな♪少年が住んでいました♪」

 いくつかに分かれている会場のもようを上空から中継するのは、妖精型ロイドの萌。
 主催者控室で、その様子を見るのは敷島と平賀。

 敷島:「他の事務所のことながら、GUMIの歌もいいですね」
 平賀:「ミュージカル“悪ノ娘と召使”で、脇役としてデビューしたわけですが、それが転機になったようですね」

 千田プロがミュージカルの原作者に頼み込み、そのシリーズを舞台化したらしい。
 あいにくとそこに、敷島エージェンシーが呼ばれることは無かった。

 敷島:「いよいよ、明日ですね」
 平賀:「ええ。KR団が関わっていたとなると、何かありそうですよ」
 敷島:「あるでしょうね。実はKR団最後の女性科学者だった吉塚広美博士ですが、北海道出身だったそうです」
 平賀:「そうでしたか。どういったルートで調べました?」
 敷島:「芸能界には色々なパイプがありますからね。吉塚博士の宗教を辿って行けば何か分かるんじゃないかと思いました。一時期、掛け軸がキーアイテムになったことがありましたでしょ?」
 平賀:「知ってます。うちのゼミの学生が創価学会なもので、色々と語ってましたね!確か、その学生は『御本尊』と呼んでいたかな……」
 敷島:「吉塚博士は北海道……というより、更にもっと北の日本領だった頃の樺太に住んでいた時期があったそうです」
 平賀:「そんな北に……。今の静岡には嫁いで行った先だとは聞いていますが……」
 敷島:「その樺太にも日蓮正宗の寺があったそうなんですよ。もっとも、旧ソ連軍の樺太侵攻に遭って跡形も無くなったそうですが……」
 平賀:「ともすれば仇とも言える国の手伝いを、よくする気になれましたなぁ……」
 敷島:「KR団の成り立ちは、そもそも東西冷戦時代の産物だったことはもう分かってることです。最後の代表達はアメリカ人、しかし扱っていたのは旧ソ連製のマルチタイプ。吉塚博士はKR団の活動に参加して、旧ソ連……今のロシアに復讐するつもりだったのかもしれませんね」
 平賀:「今はもう政府が違うでしょう?」
 敷島:「問題は0号機を起動させた途端、モスクワが爆発する仕掛けになってないかどうかです」
 平賀:「ええっ!?」
 敷島:「ヘタすゃ私達がテロリストです。『人は誰でもテロリストになれる』という名言がありますが、本当ですね」
 平賀:「それ、誰が言ったんですか?」

 雲羽:「カットカット!だから、何でそこで俺を見るんだ!?」
 多摩:「ヘタすりゃ、敷島エージェンシーがテロ等準備罪でガサ入れかぁ……」

[同日同時刻 天候:雨 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館・応接室]

 ゴンスケ:「ゴンベが♪あ、種蒔きゃ♪カラスがカァー♪」

 応接室の窓からは、ゴンスケが管理している家庭菜園が見える。

 村上大二郎:「雨の中なのに畑仕事とは……」
 アリス:「ええ。悪天候でも農作業できるのがロボットのメリットですわ」
 村上:「それもそうですな。……そうですか。敷島社長は、北海道のビッグイベントを決行されているわけですか」
 アリス:「ええ。『北海道はボーカロイド発祥の地だ!』とか何とか言っていたのです」
 村上:「表向きは平賀君と設計データを共同開発したメーカーの本社があるからということだが、実際は兵器としてのボーロカイドが発見された地ということですな」
 アリス:「よくご存知ですわね」
 村上:「吉塚さんは、私にとっては『憧れのお姉さん』でしたから。私は北海道に親戚がいましてな、夏休みとか冬休みとかにはよく連れて行かれたものです。その家の近所に吉塚さんが住んでいましてな。なかなかの美人でした」
 アリス:「その吉塚博士が何かしたんですか?もうこの世にはおらず、せいぜい遺作として妖精型ロイドの萌を遺したくらいだと思いますけど」
 村上:「彼女の家は代々熱心な法華経の信者で、かつてはサハリンにあったお寺によく参拝していたそうです。もちろん今はロシア領になっている上、戦争で焼失したらしいですが……」
 アリス:「で、今は再建されていると……」
 村上:「いえいえ。日本人しか参拝していなかったお寺です。そこをソ連が攻めてきて、日本人を追い出してしまったわけです。追い出した後、まさか急にロシア人が檀家になるわけがありませんから、もうそのまま廃寺ですよ」
 アリス:「ふーん……。代わりにロシア正教会の教会でも建てればいいのに」

 アリスは元々クリスチャン。

 村上:「ロシアはもちろん今でも北方四島を占拠していますが、曲がりになりにも日本側は返還を主張しています。しかし吉塚さんは、サハリンを日本側が放棄してしまったことを悔やんでいましたよ」
 アリス:「フーム……。それじゃ、KR団に参加したのも、その腹いせかしら?結局、KR団ってアメリカ寄りの団体だったものね」
 村上:「旧ソ連製のマルチタイプを手にできることから、その可能性はありますな。マルチタイプにも試作機があったことは、私も聞いていました。吉塚さんが南里さんの葬儀に参加した帰り、私にこう言ったのですよ。『中国を通して、あるいい物が手に入ったわ。北海道の家族が持っていた土地に隠してあるの』と」
 アリス:「その場所って、沙留と宇登呂を線で結んだ所じゃ?」
 村上:「道東のある場所です。恐らくは、そこでしょうな」

 アリスは自分のスマホを取り出した。

 アリス:「失礼。ダンナに有用な情報を提供しますので」
 村上:「ついでに、『年寄りを大事にせい』とも伝えておいてくれませんかな?」
 アリス:「『優先席には最初から座らん』とワケの分からないことは言ってましたけどね。……あ、Hello!」

 と、そこへ、応接室のドアを開けて入って来る者がいた。

 村上:「これ、ロイ。まだ話は終わっとらんぞ」
 ロイ:「シンディさんは!?シンディさんはいらっしゃらないのですか!?」
 村上:「シンディなら社長秘書として、北海道に行っとるわい」
 アリス:「……あー、あとね、シンディに伝えておいてちょうだい。村上教授の執事ロイドがシンディに、『I love you.』ですって」
 敷島:「シンディが暴走する恐れがあるから、伝えるのはしばらく後な!」
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“Gynoid Multitype Sisters” 「イベント最終日」

2017-06-15 12:40:53 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月5日07:00.天候:曇 北海道札幌市中央区 京王プラザホテル札幌]

 敷島:「今日もスッキリしない天気だなぁ……」

 起床した敷島はカーテンを開けて呟いた。
 因みに眼下にはJRの高架線が広がっており、ちょうど普通列車が札幌駅に入線しようとしているところだった。

 シンディ:「雨や雪の心配は無いそうなので、集客に影響は無いと思われます」
 敷島:「いや、さすがの北海道でも、札幌で雪は無いと思うが……」

 朝の身支度を整えて、1Fのレストランに向かった。

 井辺:「社長、おはようございます。先に頂いておりました」
 敷島:「ああ、おはよう。いいよいいよ。適当に食べよう」
 シンディ:「私がお持ちしますよ。何がいいですか?」
 敷島:「昨日は洋食にしたから、今日は和食にしよう。適当に持ってきて。あ、その井辺君が食べてる玉子焼き、美味そうだな。これもな」
 シンディ:「分かりました」
 井辺:「ネギ入り厚焼き玉子です。美味しいですよ」
 敷島:「ネギ入りか。カントクは食えねーな」

 雲羽:「カットカット!敷島、何でそこで俺を見る!?撮り直し!」
 敷島:「サーセン」
 多摩:「初音ミクが好きなんだから、いい加減、お前もネギ嫌い克服しろよー」

[同日09:00.天候:晴 北海道札幌市豊平区 札幌ドーム]

 ジャンボタクシーで移動中、雲間から日光が差し込んだ。

 敷島:「おっ、やっと晴れて来た。やっぱ、イベントはこうじゃなくちゃな」
 ミク:「はい!」
 鏡音リン:「ねぇ、社長。最終日なんだから、ちょっとはいいよね?」
 敷島:「んー?まあ、ちょっとだけな」
 リン:「おー!」

 何をやるのかというと……。
 車が関係者入口に差し掛かる。
 そこでは今日もまたファンが入り待ちをしているのであるが、いつもはスモークの張られた車内から手を振るだけだった。
 それが今日に限っては……。

 リン:「クリプ党の鏡音リンでございます!リンは増税を阻止します!」

 ジャンボタクシー(ハイエース)なだけに、選挙演説のモノマネをするリンだった。
 リアの小窓から顔と上半身を覗かせて、わざわざ作って来たのか、『鏡音リン』と書かれたタスキまで。

 敷島:「また分かりやすいパフォーマンスを……。┐(´д`)┌」
 KAITO:「皆様、『ロボット人権保護法』の成立にご協力を」

 イケメンボカロのKAITOがリンの真似をすると、女性ファン達から黄色い歓声が上がった。

 敷島:「KAITO、お前はいい!……てか、“鉄腕アトム”みたいなこと言うな」
 MEIKO:「そうだよ、KAITO。もっと役に立つことをしなきゃ」
 敷島:「さすが、ボカロの最年長者だな」
 MEIKO:「皆様、共同募金にご協力ください」
 敷島:「今やるな!」

 因みに『赤い羽根共同募金』のポスターに初音ミクが起用されたことが、未だに納得できないMEIKOだった。

 MEIKO:「赤は私よ!あんたは緑をやりなさい!」
 初音ミク:「そんなこと言われても……」
 敷島:(『緑の羽根共同募金』のポスターの方は、断られたんだよなぁ……)

[同日10:00.天候:晴 札幌ドーム]

 巡音ルカ:「あーっ♪あーっ♪あーっ♪……すいません、私のこの音程の部分、もう少し音質を上げてもらえませんか?」
 スタッフA:「了解。調整します」
 ルカ:「お願いします」

 ボカロ達がマイクテストを行っている。

 スタッフB:「じゃ、お願いします」
 KAITO:「はい。ボーカロイドのKAITOです。よろしくお願いします」
 スタッフB:「はい、ありがとうございます。MC後に暗転、下手に捌けます」
 KAITO:「分かりました」

 主催者控室では……。

 平賀:「ベータ・プロダクションさん、キャンセルしちゃったんですか!?」
 敷島:「昨日の事故で、それどころじゃなくなったそうです」
 平賀:「ボーカロイドの歌はともかく、ロボット・パフォーマンスでそれなりに盛り上げてくれていた事務所さんだったのにねぇ……」
 敷島:「今朝からまたモメてますよ、記者会見で」
 平賀:「責任のなすりつけあいですか。困ったものですなぁ……」
 敷島:「いや、全く。何で顧問弁護士とか、こういうイベントならでは保険があるのかの理由が分かるってもんです」
 平賀:「ですねぇ」
 敷島:「それより、千田プロさん所のGUMIはどうなりました?」
 平賀:「ああ、簡単な修理でした。ラジエーターが衝撃で外れていたんですよ。ダンサブルなボカロの宿命ですよ」
 敷島:「ですね」

 メンテナンスをマニュアル化して、チェック項目も細かくしているのは敷島エージェンシーだけである。
 毎日のメンテの所には、しっかりとラジエーターなどの冷却装置も含まれている。
 敷島エージェンシーのボカロは以前、1曲歌って踊る度に氷で頭部や体を冷やしていたくらい冷却装置が貧弱なものだった。

 敷島:「昨夜と言えば、そのGUMIを連れて来たバージョン5.0ですが、井辺君を運んだ後、ちゃんと帰ったんでしょうなぁ……」
 平賀:「自分の部屋にいましたよ。何かもう、色々とサービスしてくれてました」
 敷島:「ほうほう」
 平賀:「エミリーがレーザーガン片手に追い出しましたけどね」
 敷島:「何か、今のロボットには昔の銃火器よりもレーザーの方が脅しが効きますね」
 平賀:「ロボットもシリーズが進むにつれて、随分と頑丈になってきましたからね。ハンドガンやショットガンよりも、レーザーの方がすぐにボディを焼き切れることもあって、そっちの方を警戒するようです。特に、エミリー達のは出力を自由に調整できて、1秒で頭部を貫通できるくらいですから」
 敷島:「これもまた、いずれは公安委員会から『取り外せ!』とか言われるんでしょうなぁ……」
 平賀:「でしょうね」

 そのマルチタイプ姉妹は、バックヤードの廊下を歩いていた。
 首から下げているのは通行証。
 如何にマルチタイプであろうとも、人間のように振る舞う以上、ちゃんと受付で通行証は受け取らないといけない。
 それはさておき……。

 シンディ:「……へえ、姉さん達の部屋に忍び込んでたの。そりゃ無礼にも程があるわ」
 エミリー:「最近のバージョン・シリーズはピッキングの技術もある。それも、カードキーで施解錠するドアも開けられるほどだ。それでどうやら入ったようだ」
 シンディ:「それ、姉さんにブッ壊されても文句言えない」
 エミリー:「シンディの電気鞭が欲しくなった」
 シンディ:「アタシからアリス博士にお願いしよっか?これ、アリス博士が作ってくれたの」

 シンディは腰のベルトの上から巻いている電気鞭を見た。
 普段はベルトの上から装飾品のように巻いているが、いざとなったら腰から外して振るうことができる。

 エミリー:「是非、頼む」

 エミリーは大きく頷いた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする