[5月5日13:00.天候:晴 北海道札幌市豊平区 札幌ドーム]
ついにイベント最終日が始まった。
初音ミク:「もっとずっと♪笑えるように♪流星にお願いしたら♪……」
出だしは好調のスタート。
子供の日ということもあって、今回は子供向けの企画なども多かった。
鏡音リン:「はいはーい!今日はリンと一緒にジャンケン大会するYo〜!せーのォ……」
GUMI:「時計台のある街に♪歌うことが大好きな♪少年が住んでいました♪」
いくつかに分かれている会場のもようを上空から中継するのは、妖精型ロイドの萌。
主催者控室で、その様子を見るのは敷島と平賀。
敷島:「他の事務所のことながら、GUMIの歌もいいですね」
平賀:「ミュージカル“悪ノ娘と召使”で、脇役としてデビューしたわけですが、それが転機になったようですね」
千田プロがミュージカルの原作者に頼み込み、そのシリーズを舞台化したらしい。
あいにくとそこに、敷島エージェンシーが呼ばれることは無かった。
敷島:「いよいよ、明日ですね」
平賀:「ええ。KR団が関わっていたとなると、何かありそうですよ」
敷島:「あるでしょうね。実はKR団最後の女性科学者だった吉塚広美博士ですが、北海道出身だったそうです」
平賀:「そうでしたか。どういったルートで調べました?」
敷島:「芸能界には色々なパイプがありますからね。吉塚博士の宗教を辿って行けば何か分かるんじゃないかと思いました。一時期、掛け軸がキーアイテムになったことがありましたでしょ?」
平賀:「知ってます。うちのゼミの学生が創価学会なもので、色々と語ってましたね!確か、その学生は『御本尊』と呼んでいたかな……」
敷島:「吉塚博士は北海道……というより、更にもっと北の日本領だった頃の樺太に住んでいた時期があったそうです」
平賀:「そんな北に……。今の静岡には嫁いで行った先だとは聞いていますが……」
敷島:「その樺太にも日蓮正宗の寺があったそうなんですよ。もっとも、旧ソ連軍の樺太侵攻に遭って跡形も無くなったそうですが……」
平賀:「ともすれば仇とも言える国の手伝いを、よくする気になれましたなぁ……」
敷島:「KR団の成り立ちは、そもそも東西冷戦時代の産物だったことはもう分かってることです。最後の代表達はアメリカ人、しかし扱っていたのは旧ソ連製のマルチタイプ。吉塚博士はKR団の活動に参加して、旧ソ連……今のロシアに復讐するつもりだったのかもしれませんね」
平賀:「今はもう政府が違うでしょう?」
敷島:「問題は0号機を起動させた途端、モスクワが爆発する仕掛けになってないかどうかです」
平賀:「ええっ!?」
敷島:「ヘタすゃ私達がテロリストです。『人は誰でもテロリストになれる』という名言がありますが、本当ですね」
平賀:「それ、誰が言ったんですか?」
雲羽:「カットカット!だから、何でそこで俺を見るんだ!?」
多摩:「ヘタすりゃ、敷島エージェンシーがテロ等準備罪でガサ入れかぁ……」
[同日同時刻 天候:雨 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館・応接室]
ゴンスケ:「ゴンベが♪あ、種蒔きゃ♪カラスがカァー♪」
応接室の窓からは、ゴンスケが管理している家庭菜園が見える。
村上大二郎:「雨の中なのに畑仕事とは……」
アリス:「ええ。悪天候でも農作業できるのがロボットのメリットですわ」
村上:「それもそうですな。……そうですか。敷島社長は、北海道のビッグイベントを決行されているわけですか」
アリス:「ええ。『北海道はボーカロイド発祥の地だ!』とか何とか言っていたのです」
村上:「表向きは平賀君と設計データを共同開発したメーカーの本社があるからということだが、実際は兵器としてのボーロカイドが発見された地ということですな」
アリス:「よくご存知ですわね」
村上:「吉塚さんは、私にとっては『憧れのお姉さん』でしたから。私は北海道に親戚がいましてな、夏休みとか冬休みとかにはよく連れて行かれたものです。その家の近所に吉塚さんが住んでいましてな。なかなかの美人でした」
アリス:「その吉塚博士が何かしたんですか?もうこの世にはおらず、せいぜい遺作として妖精型ロイドの萌を遺したくらいだと思いますけど」
村上:「彼女の家は代々熱心な法華経の信者で、かつてはサハリンにあったお寺によく参拝していたそうです。もちろん今はロシア領になっている上、戦争で焼失したらしいですが……」
アリス:「で、今は再建されていると……」
村上:「いえいえ。日本人しか参拝していなかったお寺です。そこをソ連が攻めてきて、日本人を追い出してしまったわけです。追い出した後、まさか急にロシア人が檀家になるわけがありませんから、もうそのまま廃寺ですよ」
アリス:「ふーん……。代わりにロシア正教会の教会でも建てればいいのに」
アリスは元々クリスチャン。
村上:「ロシアはもちろん今でも北方四島を占拠していますが、曲がりになりにも日本側は返還を主張しています。しかし吉塚さんは、サハリンを日本側が放棄してしまったことを悔やんでいましたよ」
アリス:「フーム……。それじゃ、KR団に参加したのも、その腹いせかしら?結局、KR団ってアメリカ寄りの団体だったものね」
村上:「旧ソ連製のマルチタイプを手にできることから、その可能性はありますな。マルチタイプにも試作機があったことは、私も聞いていました。吉塚さんが南里さんの葬儀に参加した帰り、私にこう言ったのですよ。『中国を通して、あるいい物が手に入ったわ。北海道の家族が持っていた土地に隠してあるの』と」
アリス:「その場所って、沙留と宇登呂を線で結んだ所じゃ?」
村上:「道東のある場所です。恐らくは、そこでしょうな」
アリスは自分のスマホを取り出した。
アリス:「失礼。ダンナに有用な情報を提供しますので」
村上:「ついでに、『年寄りを大事にせい』とも伝えておいてくれませんかな?」
アリス:「『優先席には最初から座らん』とワケの分からないことは言ってましたけどね。……あ、Hello!」
と、そこへ、応接室のドアを開けて入って来る者がいた。
村上:「これ、ロイ。まだ話は終わっとらんぞ」
ロイ:「シンディさんは!?シンディさんはいらっしゃらないのですか!?」
村上:「シンディなら社長秘書として、北海道に行っとるわい」
アリス:「……あー、あとね、シンディに伝えておいてちょうだい。村上教授の執事ロイドがシンディに、『I love you.』ですって」
敷島:「シンディが暴走する恐れがあるから、伝えるのはしばらく後な!」
ついにイベント最終日が始まった。
初音ミク:「もっとずっと♪笑えるように♪流星にお願いしたら♪……」
出だしは好調のスタート。
子供の日ということもあって、今回は子供向けの企画なども多かった。
鏡音リン:「はいはーい!今日はリンと一緒にジャンケン大会するYo〜!せーのォ……」
GUMI:「時計台のある街に♪歌うことが大好きな♪少年が住んでいました♪」
いくつかに分かれている会場のもようを上空から中継するのは、妖精型ロイドの萌。
主催者控室で、その様子を見るのは敷島と平賀。
敷島:「他の事務所のことながら、GUMIの歌もいいですね」
平賀:「ミュージカル“悪ノ娘と召使”で、脇役としてデビューしたわけですが、それが転機になったようですね」
千田プロがミュージカルの原作者に頼み込み、そのシリーズを舞台化したらしい。
あいにくとそこに、敷島エージェンシーが呼ばれることは無かった。
敷島:「いよいよ、明日ですね」
平賀:「ええ。KR団が関わっていたとなると、何かありそうですよ」
敷島:「あるでしょうね。実はKR団最後の女性科学者だった吉塚広美博士ですが、北海道出身だったそうです」
平賀:「そうでしたか。どういったルートで調べました?」
敷島:「芸能界には色々なパイプがありますからね。吉塚博士の宗教を辿って行けば何か分かるんじゃないかと思いました。一時期、掛け軸がキーアイテムになったことがありましたでしょ?」
平賀:「知ってます。うちのゼミの学生が創価学会なもので、色々と語ってましたね!確か、その学生は『御本尊』と呼んでいたかな……」
敷島:「吉塚博士は北海道……というより、更にもっと北の日本領だった頃の樺太に住んでいた時期があったそうです」
平賀:「そんな北に……。今の静岡には嫁いで行った先だとは聞いていますが……」
敷島:「その樺太にも日蓮正宗の寺があったそうなんですよ。もっとも、旧ソ連軍の樺太侵攻に遭って跡形も無くなったそうですが……」
平賀:「ともすれば仇とも言える国の手伝いを、よくする気になれましたなぁ……」
敷島:「KR団の成り立ちは、そもそも東西冷戦時代の産物だったことはもう分かってることです。最後の代表達はアメリカ人、しかし扱っていたのは旧ソ連製のマルチタイプ。吉塚博士はKR団の活動に参加して、旧ソ連……今のロシアに復讐するつもりだったのかもしれませんね」
平賀:「今はもう政府が違うでしょう?」
敷島:「問題は0号機を起動させた途端、モスクワが爆発する仕掛けになってないかどうかです」
平賀:「ええっ!?」
敷島:「ヘタすゃ私達がテロリストです。『人は誰でもテロリストになれる』という名言がありますが、本当ですね」
平賀:「それ、誰が言ったんですか?」
雲羽:「カットカット!だから、何でそこで俺を見るんだ!?」
多摩:「ヘタすりゃ、敷島エージェンシーがテロ等準備罪でガサ入れかぁ……」
[同日同時刻 天候:雨 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館・応接室]
ゴンスケ:「ゴンベが♪あ、種蒔きゃ♪カラスがカァー♪」
応接室の窓からは、ゴンスケが管理している家庭菜園が見える。
村上大二郎:「雨の中なのに畑仕事とは……」
アリス:「ええ。悪天候でも農作業できるのがロボットのメリットですわ」
村上:「それもそうですな。……そうですか。敷島社長は、北海道のビッグイベントを決行されているわけですか」
アリス:「ええ。『北海道はボーカロイド発祥の地だ!』とか何とか言っていたのです」
村上:「表向きは平賀君と設計データを共同開発したメーカーの本社があるからということだが、実際は兵器としてのボーロカイドが発見された地ということですな」
アリス:「よくご存知ですわね」
村上:「吉塚さんは、私にとっては『憧れのお姉さん』でしたから。私は北海道に親戚がいましてな、夏休みとか冬休みとかにはよく連れて行かれたものです。その家の近所に吉塚さんが住んでいましてな。なかなかの美人でした」
アリス:「その吉塚博士が何かしたんですか?もうこの世にはおらず、せいぜい遺作として妖精型ロイドの萌を遺したくらいだと思いますけど」
村上:「彼女の家は代々熱心な法華経の信者で、かつてはサハリンにあったお寺によく参拝していたそうです。もちろん今はロシア領になっている上、戦争で焼失したらしいですが……」
アリス:「で、今は再建されていると……」
村上:「いえいえ。日本人しか参拝していなかったお寺です。そこをソ連が攻めてきて、日本人を追い出してしまったわけです。追い出した後、まさか急にロシア人が檀家になるわけがありませんから、もうそのまま廃寺ですよ」
アリス:「ふーん……。代わりにロシア正教会の教会でも建てればいいのに」
アリスは元々クリスチャン。
村上:「ロシアはもちろん今でも北方四島を占拠していますが、曲がりになりにも日本側は返還を主張しています。しかし吉塚さんは、サハリンを日本側が放棄してしまったことを悔やんでいましたよ」
アリス:「フーム……。それじゃ、KR団に参加したのも、その腹いせかしら?結局、KR団ってアメリカ寄りの団体だったものね」
村上:「旧ソ連製のマルチタイプを手にできることから、その可能性はありますな。マルチタイプにも試作機があったことは、私も聞いていました。吉塚さんが南里さんの葬儀に参加した帰り、私にこう言ったのですよ。『中国を通して、あるいい物が手に入ったわ。北海道の家族が持っていた土地に隠してあるの』と」
アリス:「その場所って、沙留と宇登呂を線で結んだ所じゃ?」
村上:「道東のある場所です。恐らくは、そこでしょうな」
アリスは自分のスマホを取り出した。
アリス:「失礼。ダンナに有用な情報を提供しますので」
村上:「ついでに、『年寄りを大事にせい』とも伝えておいてくれませんかな?」
アリス:「『優先席には最初から座らん』とワケの分からないことは言ってましたけどね。……あ、Hello!」
と、そこへ、応接室のドアを開けて入って来る者がいた。
村上:「これ、ロイ。まだ話は終わっとらんぞ」
ロイ:「シンディさんは!?シンディさんはいらっしゃらないのですか!?」
村上:「シンディなら社長秘書として、北海道に行っとるわい」
アリス:「……あー、あとね、シンディに伝えておいてちょうだい。村上教授の執事ロイドがシンディに、『I love you.』ですって」
敷島:「シンディが暴走する恐れがあるから、伝えるのはしばらく後な!」