報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「宇登呂と沙留の間」

2017-06-18 19:20:42 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月6日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

 敷島達が北海道に行っている間、ロボット未来科学館は通常営業していた。
 館長以下、館員達が慰安旅行中に誘拐されたことなどウソのようだ。

 Pepper改:「こんにちは。御見学ですか?」

 総合受付にやってきたのは、50代半ば頃と思しき男性だった。
 スーツ姿であった。

 男性:「いえ。実はこちらの館員さんに、面会したい人がいるんですが……」
 Pepper改:「御面会の方ですか?……本日の予定にございませんが?」
 男性:「ああ、申し訳ないが、実は約束はしていない。何とか、会えないだろうか?」
 Pepper改:「当館はお約束の無い方とは面会……」
 アリス:「コラーッ!展示室エリアでヲタ芸やるなって何回言わせんの!!」
 マリオ:「北海道ボカロフェス、行きたかったなぁ……」
 ルイージ:「初音ミクさんと握手……」
 アリス:「アタシの護衛をしなきゃ行けないんだから、しょうがないでしょ!」
 男性:「あの……ちょっといいですか?」
 アリス:「なに!?」
 男性:「アリス・フォレストさん……ですよね?」
 アリス:「そうですけど?」
 男性:「ちょっと、お話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」
 アリス:「はい?」

[同日10:32.天候:雨 JR遠軽駅]

 4両編成の気動車特急が駅のホームに滑り込む。
 ここで列車はスイッチバックするとの放送が流れたが、敷島達にとっては下車駅なので関係無い。
 昔はここから名寄本線という鉄道線が出ていたのだが廃止になり、石北本線のスイッチバック駅となった。

 敷島:「ここからは車だな。レンタカー屋があるから、そこで借りて来よう」
 平賀:「はい」

 エミリーは駅近くのレンタカー会社で敷島達が車を借りる手続きをしている間、信号を送ってみた。
 宇登呂と沙留から内陸に向かって線を伸ばし、そこが交差する辺り。
 当初は沙留から真南、宇登呂から真西に向かって線を伸ばすものだと思われた。
 南と西は合っているのだが、少しズレていた。
 もっとも、初音ミクの原型機が見つかったのだって、オホーツク海に向かって真っすぐに2つの線が交差した所というわけでも無かったので、別にそこは大きな問題では無い。

 敷島:「よし。乗ってくれ」
 エミリー:「はい」
 ミク:「はい」

 ハイブリットカーを借りてきて、ロイド達も車に乗り込んだ。

 平賀:「取りあえず、西へ向かってください。遠軽駅ですと、東にズレているので」
 敷島:「分かりました」

 方向的には来た道を戻ることになる。
 実は特急が通過するような駅で降りた方が近かったのかもしれない。
 もちろん大都市圏のように特急が各駅停車と都合良く接続しているわけでもないし、そんな最寄り駅だって、実際そこから結局は車でないとアクセスできないわけだから、やっぱりレンタカー屋がある所で降りた方が良い。

[同日12:00.天候:曇 北海道某所]

 車で1時間以上も走った所だろうか。
 最後には農道のような所を走っていた敷島達だったが、その道の舗装が無くなった所を更に走っていると、ついに道が無くなった。
 具体的には、道のど真ん中に大きな木が立っていて、それが道を塞いでいたのだ。

 エミリー:「撤去しますか?」
 敷島:「いや、いい。ここから歩いて行こう」

 敷島達は車を降りた。

 平賀:「驚きましたね。自分はつい、何も無い原野のような場所を想像していたんですが、実際は森の中のようです」
 敷島:「そうですね。よし、ここで準備しよう」

 それまでミクは白いブラウスに紺色のベスト、エメラルドグリーンのネクタイに紺色のミニのプリーツスカートという恰好をしていた。
 敷島と平賀は車を降りて、ミクは車内に残り、そこでステージ衣装に着替えた。
 といっても、宣材写真(クリプトン公式イラスト)の衣装であるが。

 ミク:「お待たせしました」
 敷島:「よし。……じゃあ、行くぞ」

 ここからは道なき道を進むことになる。
 ……はずなのだが。

 敷島:「あれ?何だろう?」

 敷島は首を傾げた。
 森の部分は最初だけで、あとは家が見えて来た。

 敷島:「平賀先生?」
 平賀:「方向は合ってます。え?家なんか建ってる?」

 もっとも、遠くから見た感じでは、廃墟のように見えた。
 グーグルマップを見ても、家が建っているような感じには見えない。
 普通に、森のようになっているだけだった。

 敷島:「最近、中国人が北海道の無人の土地を買い漁って問題になっていますからねぇ……。それ絡みだったりして」
 平賀:「それにしては、随分と古そうな建物ですよ。それも洋館だ」
 敷島:「この前の廃ペンションを思い出すなぁ……。なるべく近くまで行って、それからミクの歌をノック代わりにしましょう」
 平賀:「そうですね」
 エミリー:「あの……」
 敷島:「何だ?」
 エミリー:「試作機はKR団が持ち込んだのですよね?」
 敷島:「そう思われるって話だ」
 エミリー:「KR団がアジト用に建てた可能性は無いでしょうか?表向きは、個人の別荘とかということにして」
 敷島:「なるほど。それは考えられるな」
 平賀:「KR団は表向き崩壊しましたが、まだあの中に残党がいたり、或いはロボットがまだ稼働している恐れがありますね」
 敷島:「よし。それじゃ、ここで一旦鷲田警視に連絡を……あれ?『圏外』になってる!?」
 平賀:「自分のもです。今時、物理的に電波の入らないような場所以外で圏外になるなんて……」
 敷島:「エミリーの通信はどうだ?衛星通信を使えば大丈夫だろう?」
 エミリー:「……はい、それなら大丈夫です」
 敷島:「シンディに、この位置と現況を送信しておいてくれ。シンディから井辺君に、井辺君から鷲田警視達に連絡してくれればいい」
 エミリー:「かしこまりました」
 敷島:「エミリーが送信したら、ミク、『オホーツク旅情歌』を歌ってみてくれ。これで何かしら反応があるかもしれない」
 ミク:「分かりました」
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“Gynoid Multitype Sisters” 「早朝の出発」

2017-06-18 12:48:38 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月6日06:00.天候:曇 北海道札幌市中央区 京王プラザホテル札幌]

 シンディ:「社長、お時間です。起きてください」
 敷島:「ん?ああ……」

 シンディに起こされて、敷島が起床した。

 敷島:「外の天気はどうだ?」
 シンディ:「どんよりと曇っています。もしかしたら、雨が降るかもしれません」
 敷島:「そうか。まあ、しょうがない」

 敷島は起き上がると、洗面台に入った。

 初音ミクを除くボーカロイド以外の全員がロビーに集まる。

 井辺:「社長、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
 敷島:「井辺君はあとを頼む。こんなことは、もう最後にしたいものだな」
 井辺:「はい」
 敷島:「シンディは井辺君達を頼む。俺達を出し抜いて、井辺君達が危険になるかもしれないからな」
 シンディ:「分かりました」

 現地に行くのは敷島、平賀、エミリー、ミクということになる。

 シンディ:「姉さん、これを」

 シンディは腰から電気鞭を外した。

 シンディ:「何かの役に立つかもしれないから持って行って」
 エミリー:「シンディ……」

 エミリーはシンディから電気鞭を……。

 ①受け取った。
 ②受け取らなかった。

 敷島:「準備ができたら行くぞ。平賀先生は大丈夫ですか?」
 平賀:「自分はOKです」
 初音ミク:「わたしもです」
 敷島:「よし、行こう」

[同日06:40.天候:雨 JR札幌駅 プラットホーム]

 北海道最大のターミナル駅に移動する頃、雨が降って来た。
 今日は1日中、天気が悪いらしい。
 本州などのターミナル駅と比べてディーゼルカーの発着が多い為、とてもホームは賑やかだ。
 特に、ホーム全体を覆う屋根のおかげで、そのアイドリング音が反響している。

〔♪♪♪。お待たせ致しました。まもなく7番線に、6時56分発、網走行き特別急行“オホーツク”1号が入線致します。危ないですから、黄色い線の内側まで下がってお待ちください〕

 ホームにディーゼルエンジン音に負けないほどの大音響で接近放送が流れる。

〔「今度の7番線の列車は函館本線、石北本線回り、網走行きの特別急行“オホーツク”1号が発車致します。4両編成、グリーン車は3号車の後ろ半分、自由席は1号車です。……」〕

 短い汽笛を鳴らし、ディーゼルエンジンを唸らせながら列車がやってきた。

 エミリー:「お待たせしました。お弁当です」
 敷島:「おっ、ありがとう」
 平賀:「朝から駅弁、旅ですね」
 敷島:「全くですよ」

 やってきたのはキハ183系という車両で、旭川から東は電化されていないこともあり、ディーゼルカーである。
 特急用として設計されている列車ではあるが、道内では古参の車両になっていて、敷島達が札幌入りするに利用した“スーパー北斗”との車両よりも古い。
 ドアが開くと、敷島達はグリーン車に乗り込んだ。
 “スーパー北斗”と同様、2列シートと1列シートが並んでいる。
 敷島と平賀、エミリーとミクとで乗った。

 敷島:「充電コンセントは……無いか」
 平賀:「まあ、そうでしょうね」

 グリーン車だから、座席は広いのだが。
 肘掛けからテーブルを出して、その上に駅弁とお茶を置く。

〔「ご案内致します。この列車は6時56分発、函館線、石北線回り、網走行きの特急“オホーツク”1号でございます。自由席は1号車、グリーン車は3号車の後ろ半分です。2号車の前半分と4号車は指定席となっております。列車は4両編成、1番前が1号車、後ろが4号車です。途中の遠軽で、列車の進行方向が変わります。当列車に車内販売はございませんので、予めご了承ください。……」〕

 敷島:「昨日、あえてミクの例の持ち歌を披露したのに、何の反応もありませんでしたね」
 平賀:「あれで反応があったら、あからさま過ぎますよ。第一、反応するわけが無いんです。何しろ、自分の予想としては残骸の状態で発見されるはずなんですから」
 敷島:「そうですね。上手く行って、残骸の状態で発見。ダメだったら、発見すらできない」
 平賀:「学者の自分としては、何かしら発見したいものです」
 敷島:「自分も、『子供のお使い』みたいになるのは嫌だな。表向きにはイベントは成功させたから、四季グループ的には『子供のお使い』にはならないけど……」

 敷島は緑茶のペットボトルを開け、弁当の蓋を開けた。

 敷島:「幕の内弁当だな」
 エミリー:「はい。1番、無難なのを買ってきました」
 敷島:「お前らしい」
 平賀:「いや、全く」

 シンディは面白い物を買ってこようとするのだが、当たりかどうかは50%である。
 ハズレの時もある。

 ミク:「昔はわたしがたかお社長に、お弁当や飲み物を買ってきましたよ」
 敷島:「会って最初の頃の話だろ。あの時は、どう売り出して良いやら分からなかったもんなぁ……」

 南里研究所時代は仕事が無い日が多く、予定表のホワイトボードは鏡音リン・レンの落書きコーナーになっていたくらいだ。
 その後、ミク達の不思議な歌声で人々の心を魅了し続けたことで、仕事も軌道に乗り出した。
 それが今や、その『不思議な歌声』こそが兵器だったことが判明している。

 敷島:「ボーカロイドの歌声が、人間の脳波に影響を与えるものだとは知りませんでしたよ」
 平賀:「自分もです。脳科学者に知り合いがいるんですが、その脳科学者が何気に、『ボカロの人間の脳に与える影響』について調べてみたところ、偶然発見してしまったものなんです。もちろん、通常使用している分には、むしろ人間の脳に良い影響を与える効果があると証明されています。但し、設定を誤操作……或いはわざと……してしまうと、最悪……」
 敷島:(聴いた人間の脳幹を破壊するほどのレベル。そんなことがあるんだろうか……)

 もちろんそんなもの実験する気にはなれない。
 ただ、数字で予想するとそうなるのだそうだ。
 最初は平賀も、南里の言っていることは元マッドサイエンティストならではの誇大妄想だと思っていた。
 ただ、それでも天才科学者ではあったから、それがせっかく作ったものを投棄するのは勿体無いと思い、エミリーに頼んで回収してもらった。
 『エミリーの欲するアンドロイドマスターの資格を持つに相応しい人間を探すのに協力する』というのを条件にして。

 敷島達が弁当に箸を付けている間に出発時刻となり、ディーゼルエンジンの音が響いて、列車が出発した。
 札幌駅を出ると、車窓に雨粒が当たり始めた。
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