報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「イベント2日目の夜」 2

2017-06-13 19:06:22 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月4日22:00.天候:曇 北海道札幌市中央区 京王プラザホテル札幌]

 エミリーが敷島達と共にレストランに入ったので、シンディは1人で店の外で待っていた。

 シンディ:(随分話し込んでるねぇ……。マルチタイプの試作機か……。ウィリアム博士も、そんなことは言ってなかったな。きっともうこの世に無いと思われていたのでしょう)

 試作機に関して、シンディは何か特別な思いがあるということは無い。
 何しろ、ポッと出の話だったので、何の実感も湧かないのだ。
 ボーカロイドやメイドロイドにも試作機があったように、マルチタイプにも試作機は存在した。
 確かに常識で考えれば分かる。
 だが、それが現存しているかどうかとなれば話は別だ。
 量産機たる7姉弟ですら、現存しているのは2機だけなのだから。
 8号機のアルエットはフルモデルチェンジであり、現在稼働のメドが立っていない9号機のデイジーはオリジナルモデルのアレンジ版(正直言って劣化版)である。
 その試作機がミクの持ち歌の歌詞の中にヒントが隠されており、それを解明したところ、北海道のどこかに埋まっているという。
 旧ソ連製のマルチタイプの、それも試作機がどうして日本の北海道に埋められているのかは不明だ。
 敷島の予想では、恐らくKR団(ケイン・ローズウェル財団。公式には代表らの死と1人だけ残っていた女性科学者が老齢で死亡し、ザコしかいなくなった為に崩壊した)が持ち込んだものと予想しているが……。

 シンディ:「ん?」

 その時、ロビーの方から1機のロボットが慌てた様子で入って来た。
 見たところ、バージョン5.0のようだ。
 4.0まではテロロボットとしての用途が大きく、世間のイメージも頗る悪かった上に頭もあまり良くなかった為に、ここ最近になって5.0が量産化されるようになると、それに大きく取って替わるようになった。
 4.0との違いは、それまでずんぐりむっくりした体型からよりスマートなものになり、動きも滑らかで俊敏、喋り方もより滑らかなものになっている。
 但し、見た目は明らかに金属剥き出しのロボットであるので、アンドロイド(ロイド)と呼ばれることはない。

 5.0:「シンディ様!大変です!」
 シンディ:「何か用?」

 シンディは腕組みをしたままで答えた。
 バージョン・シリーズはヴァージョン・アップが進もうとも、シンディらマルチタイプと比べれば下位機種とされている。

 5.0:「平賀博士に、すぐお会いできますでしょうか!?」
 シンディ:「最初から説明しろ!……んっ?」

 シンディが言葉足らずの新型ロボットを睨みつけたが、すぐにまた別のロボットの反応があって、そちらに視線を映した。
 エントランスから入って来たのは、ロボットではなくロイドだった。
 但し、別の5.0に支えられて、ようやく歩いているといった状態。

 シンディ:「あなた確か……ボーカロイドのGUMIとか言ったわね。どうしたの?」
 GUMI:「お願いです……助けてください……。頭が熱い……」
 シンディ:「チッ、しょうがない。ちょっとそこで待ってな」

 シンディはすぐに平賀と同席している姉のエミリーに、通信を送った。
 すると、すぐに中から平賀が出て来た。

 平賀:「ボーカロイドが“急患”として来たって!?」
 シンディ:「そうなんです」
 平賀:「多分、冷却関係に異常だな。エミリー、すぐに私の部屋まで運んでくれ」
 エミリー:「かしこまりました」
 シンディ:「いいんですか?大事なお話の最中でしょうに」
 敷島:「いや、もうだいたい話は終わっていたところだから別に大丈夫だ。あれは『Megpoid』のGUMIだな。所属事務所が……千田プロか。そこのプロデューサーに電話しておこう。シンディも運ぶのを手伝ってくれ」
 シンディ:「は?GUMIなら姉さん1人で十分だと思いますが……」
 敷島:「違う!……井辺君だ!」
 シンディ:「また酔い潰れたんですか!……おい、お前ら!厄介事持って来たんだから手伝え、オラ!」
 5.0A:「は、はい!」
 5.0B:「分かりました!」

[同日23:00.天候:晴 同ホテル・ロビー]

 平賀:「ラジエーターの故障が原因でした。GUMIもなかなかダンサブルな持ち歌が多いですから、衝撃とかには気をつけた方がいいですよ」
 プロデューサー:「大変お手数をお掛けしました」
 GUMI:「お世話になりました」

 GUMIは深々と頭を下げた。

 平賀:「明日、披露するんだっけ?“少年と魔法のロボット”(作詞・作曲・編曲:40㍍P。2013年8月発表。NHK“みんなのうた”で放送された)あれは泣けるね。楽しみにしてるぞ」

 するとGUMIはパッと顔を明るくした。

 GUMI:「はい!頑張ります!」

 そして、プロデューサーと共にホテルをあとにした。

 平賀:(ライデンよりはまだまともな整備状態ではあったけれども、敷島エージェンシーと比べればまだまだだな。ラジエーターが故障しやすいことくらい、ボーカロイドを扱う事務所なら知ってるはずだけど……)

 それでもGUMI辺りの世代からは、まともなラジエーターが取り付けられたという。
 初音ミクはボディを交換しているが、平賀が組み立てた時はラジエーターなど取り付けられておらず、敷島がダンスをさせた時は壊れるかと思ったくらいだ。
 当初のボーカロイドは、本当にただの歌うだけのアンドロイドだと思われていたのだ。
 自動車用のラジエーターならまだ衝撃に強いのだが、それは大き過ぎる。
 かといってPC用だと小さいし、衝撃に弱い。
 ようやくデイライト・コーポレーションで、ボーカロイド用のラジエーターが発明されていて、今はそれが標準装備となっている。
 ただ、値段が高い為、それより前に造られたボーカロイドにはまだ取り付けられていないことがある。
 今回のGUMIもそうだった。
 別に無理して付ける必要は無いのだが、その場合、きめ細かいメンテがより一層必要となる。
 GUMIの所属事務所は悪質ではないのだが、かといって良心的と言えるわけでもない所だったようだ。

 エミリー:「良いのですか?修理費用、だいぶ格安でお引き受けになりましたけど……」
 平賀:「自分はロイドの整備役・修理役で付いて来たんだ。それなりの報酬なら、既に敷島さんからもらっている。ロイドがまた元気に人間の役に立つようになってくれればいいさ」
 エミリー:「殊勝です。早く部屋に戻りましょう。そろそろお休みになりませんと」
 平賀:「分かってる」

 平賀とエミリーと共に、エレベーターに乗り込んだ。

 平賀:「歌えない少年の為に、歌うロボットを作ってあげた博士のような博士になりたい」
 エミリー:「平賀博士ならなれます。必ず」
 平賀:「ところで、あの5.0達は帰ったか?」
 エミリー:「見てませんね」

 エレベーターが客室フロアに到着する。
 降りて客室に向かった。

 平賀:「何か嫌な予感がするんだが……」

 部屋に戻ると……。

 5.0A:「お帰りなさいませ。お風呂にお湯を張っておきました。お茶が美味しい温度です
 5.0B:「私はベッドを温めておきました。良い汗が掛けますよ
 平賀:(;゚Д゚)
 エミリー:「消え去れ、キサマら!」

 ジャキッとエミリーは右手をレーザーガンに変形させた。
 そして、5.0達を追い出したのだった。
コメント (2)
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“Gynoid Multitype Sisters” 「イベント2日目の夜」

2017-06-13 13:57:46 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月4日19:00.天候:曇 北海道札幌市豊平区 札幌ドーム]

 爆発したライデンのバラバラになった部品が回収された。

 オーナー:「トホホ……ライデン……。えらいこっちゃなぁ……」

 と、そこへ大柄な外国人男性が通訳と共にやってくる。
 アメリカのシカゴで、大手の興行会社を経営しているカポネと言った。

 カポネ:「散々でしたな?オーナー」
 オーナー:「こ、こりゃ、カポネ商会のカポネはん!」

 カポネ社長はベータ・プロダクションのオーナーに冷酷な通達を行った。

 オーナー:「ええーっ!?シカゴでの興行契約を取り消す!?違約金を払えっちゅうわけですか!?んな殺生な!」
 カポネ:「高圧電流ブランコ無しのベータ・サーカスなんて魅力無いからね。あんな状態でシカゴに来られても困るのよ、ウチとしては」
 オーナー:「そ、そないなことになったら、ウチは破産や〜!orz」

 別の関係者出入口では、敷島がマスコミの立ち取材に応じていた。

 記者A:「敷島社長、終盤で大きな事故が発生してしまいましたが、これについてどう思われますか?」
 敷島:「真に遺憾なことであります。多大なご迷惑をお掛けしたお客様方、そして関係者の皆様に、主催者として深くお詫びを申し上げたいと存じます」

 敷島の横には井辺がおり、その脇にシンディが立っているというような状態である。

 記者B:「イベントは明日まで行われる予定ですが、明日も行うのですか?」
 敷島:「はい。明日は再びライブなどが中心となります。本日のようなスリリングなイベントはございませんので、お客様方に安心してお楽しみ頂けることをお約束できると考えております」
 記者C:「敷島社長、ずばり今回の事故の原因についてはどのようにお考えでしょうか?」
 敷島:「そうですねぇ……。先方さんを憚らず申し上げますと、プロダクションの『商品』であるロイドのケアを怠ったことが最大の原因でしょう。何故そのように至ったのかは、私が申し上げるべきことではないと思いますので、コメントは差し控えさせて頂きたいところであります」
 記者D:「敷島エージェンシーのボーカロイドは安全なのでしょうか?……そちらの秘書さんとか?」

 シンディは笑みを浮かべて答えた。

 シンディ:「私の場合、毎日自己診断を行い、それを端末に送信しています。3ヶ月に一度はオーバーホールを受けておりますし、1年に1度はパーツの交換を行っております。ボーカロイドも同じです。音楽家さんから新曲が送信されてダウンロードするわけですが、ウィルスチェックは必ず行っています」
 敷島:「ですので、どうぞご安心ください」

 また、別の場所……。

 オーナー:「これは全てライデンを作った発明狂の責任ですわ!事故の責任はウチにはありまへん!全て欠陥ロボットを作った発明狂にあります!これからウチは発明狂を訴える所存でっせ!ここのドームの修理代も、全部発明狂に背負わせます!」
 記者E:「ですがオーナー、所有者責任というか、ロボットを手に入れてからの管理責任というものがあるんじゃないでしょうか?」
 オーナー:「あんた、どこの新聞社や?あん?」
 記者E:「北海道虚構新聞ですが……」
 オーナー:「ウチとあんたんとこの社主は友達やで?変な質問しよったら、どないなるか分かってんやろな?」
 記者E:「脅迫ですか?」
 オーナー:「怨嫉謗法は罰や言うとるんや!」
 沖修羅秘書:「オーナー、そろそろ時間です」
 オーナー:「そやな。こっちはクソ忙しいんやで、ほな」
 記者F:「ちょっと待ってください!質問に答えてください!」
 記者G:「札幌ドーム側からも誠意ある対応を求められると思いますが!?」
 沖修羅秘書:「100人の衆生がいるなら、100通りの拝し方があって良いのです!」
 んっ?記者:「出た出た、反論出来ない時の逃げ、沖修羅ボット『貴方は貴方、私は私』ww お前は前日、先生からそう教わったと云ったではないか!先生が百通り教えられたのかね?ww なのに、結局は己の思い込みだったと認める訳か?」
 記者H:「オーナー、待ってください!質問に答えてください!今回の責任はどう取られるつもりですか!?」

 んっ?さん、友情出演ありがとうございます。

[5月4日21:00.天候:曇 北海道札幌市中央区 京王プラザホテル札幌]

 敷島エージェンシーの面々は無事にホテルに戻り着いた。

 井辺:「今日も皆さん、お疲れさまでした。すぐに部屋に入って、充電を開始してください。会場を出るまでに平賀教授が整備をしてはくれましたが、不調を感じた場合にはすぐに申し出てください」
 シンディ:「社長もお疲れでしょう。すぐ部屋に入りましょう」
 敷島:「ああ。だが、まずは夕食だな。平賀先生、御一緒にどうですか?」
 平賀:「そうですね。明日のこともありますし」
 敷島:「井辺君も」
 井辺:「はい、ありがとうございます」
 鏡音リン:「しゃちょー、今度は飲み過ぎて騒ぎ過ぎないでね〜?」
 鏡音レン:「こぉら、リン。失礼だぞ」
 敷島:「いや、まあ、事実だからな……。気をつけるよ」
 シンディ:「今度は私達が見てるから、心配しなさんな」
 敷島:「いや、シンディ。今回、お前はいい」
 シンディ:「はい?」
 敷島:「エミリーが来てくれ」
 エミリー:「かしこまりました」

 レストランでエミリーに同席させた理由は、イベント後の行動についての確認する為であった。

 敷島:「シンディにはミクの全面的な護衛を頼むことになるだろう。エミリー、お前は先導役だ」
 エミリー:「私がですか?」
 敷島:「シンディよりもお前の方が真相に近い所にいるからな。ミクの『オホーツク旅情歌』に出てくる地名を点と線でオホーツクへ伸ばした所に、ミクの原型となったロボットがいた。では、その反対側はどうか?お前はそれを知ってるはずだ」
 エミリー:「詳しくは知りませんよ。本来なら、ロシアのどこかにいるはずですから。私的には、北方四島のどこかに隠されていると思っていたんです」
 井辺:「一体、何がですか?」
 敷島:「ボーカロイドにMEIKOやKAITOなどの試作機がいるように、マルチタイプにも試作機がいたってことさ」
 井辺:「何ですって!?」
 敷島:「ロシアのどこかにいて、既にもう他の兄弟機と同じく破壊処分されているものと俺は思っていた」
 平賀:「ミクの歌を解析して歌詞が指す場所に、マルチタイプが放つ識別信号を送ると、マルチタイプの反応がするんですよ。それも、エミリー達、オリジナルタイプの信号です。1号機から7号機についてはもう把握できていますから、そうなると残りは試作機であると予想がつくんですよ」
 井辺:「そんなことをしたのは一体……?」
 敷島:「KR団だろうな。奴らの生き残りが手にする前に、俺達で手に入れないと」
 井辺:「手に入れて、どうなさるおつもりですか?」
 敷島:「そればかりには国家に引き渡すさ。エミリー達みたいに、きちんと管理・制御されている可能性は低い。起動した直後、いきなり襲ってくるかもしれないしな」
 井辺:「なるほど……」
 
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