報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「北海道上陸」

2017-06-02 22:50:03 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月2日10:30.天候:曇 北海道新幹線“はやぶさ”1号→JR新函館北斗駅]

 青函トンネルを高速で突き抜けた。
 この時、乗車中のロイド達はGPSを使用できなくなる。
 どの端末を見てもロイド達のトレースができなくなる為、端末にエラーが発生する。
 その為、青函トンネル通過中においては端末の電源を切らなくてはならなかった。
 修整が大変なエラーを直すより、1度シャットダウンして再起動した方が楽だからである。
 しかしそうなると、1つ懸念材料がある。
 敷島達のような管理者が持つ端末は、言わば制御機のようなもの。
 もしもロイド達に暴走するようなことがあったら、それで遠隔で強制停止させることができるのだが、それをシャットダウンするということは【お察しください】。
 鉄道で言うなら交直流切替の際、ATSまで切れるようなものか(実際どうなるのかまでは不明。ただ、最近の車両は切替区間通過中であっても照明が切れないところを見ると……)。

 エミリー:「大丈夫です。もし不遜にも社長達に弓を引くようなヤツがいれば、私が全力で阻止します」

 と、エミリーは言っていたが……。

 シンディ:「その姉さんが暴走したら世話無いじゃない。ま、その時は私が止めるけど」

 シンディはいつものように軽口を叩いていた。
 これでも現行機の今は人間に対し、接客もできるくらいに腰が低くなっているのだが。
 で、トンネルを通過し、すぐに端末の電源を入れたが、何しろそこはタブレット。
 再起動して安定するまで、若干のブランクがある(因みに実際、敷島達の持っている端末は子機である。親機はそれぞれ敷島エージェンシーや東北工科大学の研究室にある)。

『エミリー・ファースト…。通常監視、開始しました』
『シンディ・サード…。通常監視、開始しました』
『初音ミク…。通常監視、開始しました』
『鏡音リン…。通常監視……ブロックされました。至急、確認してください』

 敷島:「リン、どういうことだ!?」
 リン:「ええっ!?リン、知らないYo〜!?」
 エミリー:「端末監視を断るとは、いい度胸しているな?」
 シンディ:「敷島エージェンシー以外から、スカウトでもあったの?」
 MEIKO:「ええっ!?」
 リン:「ウソだYo!リン、ずっとこの事務所にいたいYo!」
 シンディ:「だけどね、実際にブロックが掛かるってことは、あなたが何かしてるのよ?」
 リン:「本当だYo!リン、何もしてないYo!」
 エミリー:「ちょっとこっちまで来てもらおうか。私の尋問に応えられないなら……」

 エミリーの両目がギラッと赤く光る。

 リン:「ひぃぃぃぃ〜!」

 と、そこへ8号車から井辺が戻ってきた。
 井辺は井辺で、直接担当しているMEGAbyteの監視端末を持っているのだった。

 井辺:「参りましたよ。結月さんだけエラーが出たものですから何事かと思って見に行ったんですが……」
 敷島:「ゆかりまで!?」
 シンディ:「しょうがないね。ゆかりの方は、私がボコしてくるわ」

 シンディは左手だけで骨を鳴らした。
 人間のようにポキポキ鳴るのではなく、機械らしく、ギギギという金属の擦れる音だ。

 敷島:「待て待て待て!その前に井辺君の話だ!……で?見に行って、どうだったんだ?」
 井辺:「ええ。調べてみたら、ゆかりさんだけ充電していたんですよ。普通車にも窓の下に充電コンセントがありますから。で、充電コードを外したら元に戻りました」

 一同、リンの方を見る。
 するとリンの脇腹からコードが伸びていて、グリーン車の大きな肘掛けの下にあるコンセントに刺さっていた。

 リン:「あ、リンちゃん、充電なうw」
 井辺:「ダメですよ!」

 井辺はコードを引き抜いた。
 すると……。

『鏡音リン…。通常監視、開始しました』

 敷島:「マジかよ!?」

 と、そこへ10号車から平賀がやってくる。

 平賀:「あ、敷島さん。監視を再開させる時は、ロイドの充電をやめさせてください。って、あれ?」
 敷島:「平賀先生……」
 井辺:「先に言ってください……」

 つまり、制御不能の状態で暴走状態に陥った時、最悪はバッテリーを破壊するという方法がある。
 そんな時、バッテリーが充電中だったりすると、再起動した端末がバッテリーの状態をどういうわけだか監視できないらしい。
 それでエラーになるとのことだ。

 平賀:「本来、スマホやタブレットも、充電しながら使用するとバッテリーに負担が掛かるというのは御存知でしょう?ロイドも似たようなもので、『無理な使い方をしている』→『暴走状態に入っている』と、端末が誤解するようです」
 敷島:「へえ……」
 平賀:「後で修正しますけどね」
 リン:「ね!?リン、何もしてなかったでしょ!?ね?ね?」
 エミリー:「悪かったな」

 エミリーはリンの頭を撫でた。

 リン:「えへへ……」

 頭を撫でられたことで、リンは機嫌を直した。
 それだけでいいのだから、『ちょロイド』と呼ぶかどうか……。

[同日10:57.天候:曇 JR新函館北斗駅]

 列車は東京から約5時間25分かけて、終点に着こうとした。
 北海道新幹線、次は札幌まで伸ばす予定らしいが……。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、新函館北斗です。函館線は、お乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR北海道をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔「長らくのご乗車、お疲れ様でした。まもなく終着、新函館北斗でございます。12番線に入ります。お出口は、左側です。お乗り換えのご案内です。函館線上り、函館行きの快速“はこだてライナー”は、1番線から11時10分。下り、札幌行きの特別急行“スーパー北斗”9号は、2番線から11時9分。その後、森行きの普通列車は、3番線から11時24分です。……」〕

 敷島:「やっと着いたか……」
 平賀:「まだまだですよ。あと、乗り換えが1回」
 敷島:「ほんと、大変ですね」
 平賀:「青函トンネル通過の際、どういうことが起こるのかの実験にはなりましたよ。あと、北海道新幹線内はエラーが出やすいことが分かりました」
 敷島:「ですねぇ……」

 北海道新幹線内のトンネルに入ると、よくケータイが『圏外』になってしまう。
 もちろん普通のトンネルでロイド達の遠隔監視が切れるわけではないのだが、要は親機から無線通信で現況を伝えられている子機がそれを受信できず、エラーが出てしまうのだ。

 敷島:「楽なのは海上輸送だということが分かりましたね。1度、苫小牧から大洗まで乗りましたけど、あれは何とも無かった」
 平賀:「そういうことになりますかね。端末の方を改良した方が良さそうだ」

 列車はグングン速度を落とす。

 リン:「……優しく抱いて〜♪くれるとこ〜♪北の大地は〜♪果てなく懐かしい〜♪我は今〜♪北海道〜♪」

 9号車のデッキからは、リンの歌声が聞こえてきた。
 JR北海道社歌“北の大地”の一フレーズである。
 因みにこれもライブで歌うつもりだろうか?

 平賀:「リンのヤツ、小節が効いてますねぇ……」
 敷島:「おかげさまで、演歌の方でも売り出せてます」

〔「ご乗車ありがとうございました。新函館北斗、新函館北斗です。……」〕

 こうして敷島達は無事に『北の大地』に足を付けることができたのである。
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“Gynoid Multitype Sisters” 「“はやぶさ”1号」 3

2017-06-02 10:23:16 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月2日08:45.天候:雨 JR東北新幹線“はやぶさ”1号→JR盛岡駅新幹線ホーム]

 強い雨が降る中、17両連結の高速列車は北へと向かっていた。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、盛岡です。山田線、花輪線、田沢湖線、IGRいわて銀河鉄道線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。盛岡を出ますと“はやぶさ”号は二戸(にのへ)、“こまち”号は田沢湖に止まります。盛岡で切り離しとなりますので、お乗り間違えの無いよう、ご注意ください〕

 盛岡市内に入ると列車は自動でブレーキが掛かり(ATCブレーキ)、グングン速度を落として行く。
 時々ガクッと揺れるのは雨でレールが滑り、車輪が空転しているのだろう。
 在来線の通勤電車ほどではないが、新幹線でも起こる現象というわけだ。

〔「盛岡駅14番線に到着致します。お出口は、右側です。盛岡で“はやぶさ”1号と“こまち”1号の切り離し作業を致します。“こまち”1号は8時48分、“はやぶさ”1号は8時49分の発車です。引き続きご乗車のお客様、発車までしばらくお待ちください」〕

 敷島:「おっ、もう盛岡ですよ」
 平賀:「ついつい話し込んでしまいましたよ。敷島さん、話しやすい人ですからね」
 敷島:「そうですか」
 平賀:「さすがは、ボーカロイド営業の第一人者」
 敷島:「そのボーカロイドを造った南里所長って、やっぱり凄い人だったんですね」
 平賀:「そりゃそうですよ」

 列車が駅に停車し、ドアが開いた。

〔「おはようございます。ご乗車ありがとうございました。盛岡、盛岡です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。在来線お乗り換えのお客様は……」〕

 平賀は煙草の箱を手に、席を立った。

 平賀:「ちょっと一服してきます」
 敷島:「どうぞどうぞ」

 敷島は手持ちのスマホを取り出した。

 敷島:(アリスはもう出勤したか。トニーは二海が見ててくれてるからな。保育園不足の待機児童解消策に、メイドロイドを売り込むという方法は……)

 こんな時でも営業には余念が無い。
 が、あいにく敷島エージェンシーの業種ではメイドロイドの売り込みはできない。
 一手に行っているのはDCJ(デイライト・コーポレーション・ジャパン)である。

 敷島がスマホとPCの画面を見ていると、車内放送が流れた。

〔「お待たせ致しました。8時49分発、“はやぶさ”1号、新函館北斗行き、まもなく発車致します。ご利用のお客様、ご乗車になりましてお待ちください」〕

 平賀が戻ってきた。
 煙草を吸わない敷島にとっては、平賀の煙草の臭いはすぐに分かる。

 平賀:「秋田新幹線にメイドロイドが乗ってましたよ」
 敷島:「ほー、そうですか。平賀先生規格の量産機ですか?」
 平賀:「そうです。今では高給取りの若年層もユーザーになっているようです」
 敷島:「なるほど」

 そういう点においては、敷島夫婦も似たようなものだろう。
 列車は雨の中、定刻通りに発車した。

 平賀:「ただ、大雨で秋田新幹線は山脈越えが大変みたいですよ。雨量規制掛かってるみたいです」
 敷島:「そんなに強い雨ですか?」

 敷島は窓の外を見た。
 確かに窓に打ち付ける雨粒は大きい。

 敷島:「さっきそのLED表示板に出て来た天気予報を見たら、札幌は晴みたいですけどね」
 平賀:「ええ。北海道は天気が良いみたいなので、東北を越えたら安心なんだと思います」

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は東北新幹線、“はやぶさ”号、新函館北斗行きです。次は、二戸に止まります。……〕
〔「盛岡からご乗車のお客様、お待たせ致しました。おはようございます。本日も東北新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。8時49分発の“はやぶさ”1号、新函館北斗行きです。停車駅は二戸、七戸十和田、新青森、奥津軽いまべつ、木古内(きこない)、終点新函館北斗の順に止まります。【中略】終点、新函館北斗には10時57分の到着です。【中略】次は二戸に止まります」〕

 平賀:「どれ、ちょっと後ろのコ達の様子でも見てきましょう」
 敷島:「私も井辺君に話が……」

 9号車に行くと、リン達がはしゃいで……はいなかった。

 敷島:「ヤケに静かだな」

 向かい合わせになっている座席を見ると、リン達が携帯ゲーム機でカチカチカチとボタンを連打していた。

 井辺:「あっ、平賀教授!今日からよろしくお願い致します」
 平賀:「いえいえ、こちらこそ。それより、何だか静かですね」
 井辺:「元々ゲームが好きな鏡音さん達なんですが、新しいゲームをやり始めてから、ずっとあの調子なんです」
 平賀:「まあ、学習能力を上げるという意味では、けして悪いことではないですが……」

 他のボーカロイド達は手持無沙汰になっている為か、省電力モードが働いている。
 つまり、スリープ状態に入っているわけだ。

 敷島:「ミク、起きろ。平賀先生だぞ」
 ミク:「……はっ!」

 小さくモーターが再起動する音が聞こえた。

 ミク:「あっ、平賀博士!おはようございます!」
 平賀:「おはよう。特に、不具合などは出てないな?」
 ミク:「はい。特に異常ありません」
 平賀:「よし。問診終了」
 敷島:「問診なんですか?!」

 因みに移動中、ボーカロイド達は宣材写真(という名のクリプトン公式イラスト)通りの衣装を着ているわけではない。
 あれはあくまで、ステージ衣装。
 ミクの場合は白いブラウスの上に紺色のベストを羽織り、エメラルドグリーンのリボンを着けている。
 スカートも黒いが、裾の所にリボンと同じ色のラインが入っていた。
 衣装は1番露出度の高いMEIKOでさえ、移動中は普通の服を着ている。
 ただ、赤いコートを着たり、もしくはチュニックを着たりとイメージカラーに沿った私服ではある。
 リンだけは殆ど宣材と変わらない恰好だった。
 顔も隠さないのですぐにファンに顔バレしてしまうのだが、リン達にとっては別に苦というわけではなく、笑顔でファンサービスをしている。

 平賀:「人間と違って、こういう受け答えができればOKなんですよ」
 敷島:「なるほど。あ、井辺君。さっき、ドームの関係者からメールがあって……」
 井辺:「はい」

 フル規格の東北新幹線は、多少の大雨でも平気である。
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