報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Sisters” 「イベント前夜の魔の嵐 〜天国と地獄〜」

2017-06-07 19:37:20 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月2日22:00.天候:晴 北海道札幌市中央区 京王プラザホテル札幌]

 ホテル高層階にある和食レストラン。
 店舗の前にはマルチタイプ姉妹のエミリーとシンディが立って、マスター達の戻りを待っている。

 エミリー:「リンの奴、無駄なエネルギーを使うなと言っておいたのに……」

 エミリーが無表情で呆れた。

 シンディ:「ええ、そうね」

 マルチタイプ達はセキュリティの為、ボーカロイド達の状態を遠隔で監視できる。
 リンのバッテリー消耗が大きくなっていることが分かった。
 これは激しい運動をしているということなのだが、ホテルの部屋にいて激しい運動をしているということは……。

 シンディ:「MEIKOからの情報によると、今室内で枕投げをしているみたい」
 エミリー:「イベント前夜に無駄なエネルギーを使うな。さっさと充電しろと言っておけ」
 シンディ:「はいはい」
 エミリー:(恐らく、通常の充電は23時からだという設定を理由にしているのだろうが、ホテルに泊まっていれば、そういうのは関係無いと分かるものだ)

 マルチタイプは通常、3個のバッテリーを持っている。
 1個で8時間稼働が可能。
 正・副・予備の3つを持って24時間稼働を可能にしているのだが、実際はそんなに長い時間活動することはなく、通常は2個で足りる。
 また、充電できる機会があれば充電してしまう為、3個も使う機会は無い。
 1個辺りの蓄電量はとても大きく、東日本大震災発生から1年近くは初音ミク以外のボカロの稼働が休止になるほどであった(エミリーは南里研究所周辺の町の復旧作業に使われた為、稼働できた。シンディは前期型で稼働中で、震災発生時はアメリカにいた)。
 そのミクでさえ、ガソリン駆動の発電機でしか充電を許可されなかった。
 23時からというのは、電気料金の安くなる深夜電力の時間帯のこと。
 因みにメイドロイド(執事ロイド含む)は稼働時間の都合から、正と予備の2つのバッテリーしか持っていない(ボカロに至ってはライブ中、ダンサブルな曲を歌うこともある為、軽量化の為バッテリーを通常1個しか取り付けていない。今回のように長距離移動の際は、予備バッテリーを取り付ける)。

 店舗マネージャー:「あのっ、すいません!」
 エミリー:「はい?」
 シンディ:「何でしょう?」
 マネージャー:「敷島様のお連れ様でいらっしゃいますか!?」
 エミリー:「はい、そうですが」
 マネージャー:「ちょっと、よろしいでしょうか!」
 シンディ:「はい?」

 エミリーとシンディは店内に呼ばれた。
 何だか、奥の方で叫び声が聞こえる。

 敷島:「だーかーらぁ!執事は初老派なの、俺は!こんなキールみたいな若過ぎるのは論外!!」

 敷島が完全に泥酔した様子で、バンバンとタブレットを叩いている。

 平賀:「いやいや!昨今の鬼畜系美形執事には、なかなかの物があるんですよ!これは絶対売れますよ!」

 平賀もまた顔が真っ赤になるほど酔っぱらってる。

 敷島:「人生の重みが感じられない時点でアウトなの!分かった!?」
 平賀:「執事ロイドに人生の重みを求める顧客がどこにいますか!」

 井辺は酔い潰れて、テーブルに突っ伏していた。

 シンディ:「こ、これは……!?」
 マネージャー:「申し訳ありませんが、他のお客様のご迷惑になりますので……」
 エミリー:「大変申し訳ありません」
 シンディ:「ちょっと、社長!酔い過ぎよ!落ち着いて!」
 エミリー:「平賀博士、少し酔いを覚ましましょう」
 敷島:「おい、こら!シンディ!お前、メイドになれや!」
 シンディ:「ええっ!?」
 敷島:「エミリーもだ!」
 エミリー:「家ではそうですけど……」
 敷島:「だから、メイド服も着ないでメイドを名乗るなっつってんだろーが!」
 平賀:「いやいや、敷島さん!それではメイドロイドと一緒になってしまいますから、あえてこいつらにメイド服は着せない方向でって言ったじゃないですか!」
 敷島:「俺が言ってんのは、メイドロイドが着てるようなコスプレメイド服じゃなくて、奉公に出た少女がそのお給金を溜めてコツコツ作った……」
 平賀:「そんな難しい設定、分かりませんから!」
 シンディ:「社長、いいから早くこっちに!」
 エミリー:「平賀博士、そろそろお休みの時間です!」
 敷島:「だいたい2人とも、怪しからんオッパイしやがって!ちょっとは揉ませろ!」
 シンディ:「はい、どうぞ」
 エミリー:「お部屋に戻ってから、好きなだけモミモミしてください!」

 この姉妹のバストのサイズは93センチだという。
 どうしてこうなったのかは不明。

 エミリー:「シンディ、会計を済ませておけ!」
 シンディ:「了解!」

 こうしてマルチタイプ達は、それぞれのマスターやユーザーをレストランから連れ出したのだが……。

 井辺:「クカー……クカー……」
 マネージャー:「お客様!?」

 完全に忘れ去られた井辺だった。

 シンディ:「飲み過ぎですよ、社長」
 敷島:「すまんすまん。ついつい、平賀先生とメイドロイド、執事ロイド談義が白熱しちゃって……。井辺君にも、申し訳無いことしたな。井辺君は?」
 シンディ:「多分、姉さんが連れ出してくれたと思いますよ」
 敷島:「そうかそうか。……すぐ、風呂入って寝るわ。風呂ん中で寝ちゃわないよう、一緒に入ってくれ」
 シンディ:「そうさせて頂きますね」

 敷島とシンディの部屋ではこんな会話がされていた(護衛の為と称して、敷島のダブルルームにはシンディが付いている)。

 エミリー:「飲み過ぎですよ、博士」
 平賀:「申し訳無い。自分とああいう会話について来てくれるの、敷島さんだけなんだよ。俺もこんな立場になっちゃって、変なストレスが溜まるもんだから、ああいう発散の場って必要なんだよな〜」
 エミリー:「だからって、周りの御迷惑になるのはどうかと思いますけど」
 平賀:「その通りだ。後で店に謝りに行こう。ところで、井辺さんは大丈夫か?」
 エミリー:「井辺プロデューサーですか?」
 平賀:「シンディが敷島さんを連れ出す所は見たが、井辺さんは見ていない」
 エミリー:「シンディも力持ちですから、お2人を一緒に担いで行くことは可能ですから、御心配は無いかと」
 平賀:「そうか。ならいい。……ヒック!っとォ……」
 エミリー:「すぐにお風呂にしますか?」
 平賀:「ああ、そうする。溺死しないように、一緒に入ってくれ」
 エミリー:「かしこまりました」

 と、そこへ萌から無線が入る。

 萌:「ちょっと2人とも!ヒドイよ!井辺さんだけ放置プレイして!早く迎えに行って!ボクの体じゃ無理なんだから!」
 エミリー:「あ……」
 シンディ:「あ……」

 後でマルチタイプ達が迎えに行った時、既にホテルのナイトマネージャーやホテル専属警備員だかが駆け付けていて、敷島達の代わりに謝らなくてはならなかったという。
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“Gynoid Multitype Sisters” 「イベント前夜に語られた過去の真相」

2017-06-07 12:05:04 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月2日20:00.天候:晴 北海道札幌市中央区 京王プラザホテル札幌]

 敷島:「これで明日からのイベントは完璧だな。皆、よろしく頼むよ」

 イベント会場となる札幌ドームから戻った敷島達。
 敷島の言葉に全員が頷いた。

 鏡音リン:「わっかりました〜!リンにお任せ!」
 MEIKO:「相変わらずだねぇ」
 井辺:「今夜は皆さん、ゆっくり休んでください。どこか不具合のある方は、些細なことでも良いのですぐに申し出てください。監視端末だけでは把握できない小さな不具合もあるようですので」
 萌:「はい!」

 萌が手を挙げた。

 萌:「最近、夜になると『眠く』なるんですけどォ……」
 井辺:「ほお?それでは平賀教授の方に……」
 萌:「いえっ!井辺さんに『温めて』もらうと直ると思います!」
 井辺:「充電はちゃんとしておいてくださいね」
 萌:「ええ〜!?」
 シンディ:「あんたはせっかく妖精として、私達よりも気軽に飛べるんだから、上からの撮影よろしくね」
 萌:「ぶー」
 敷島:「平賀先生、夕食にしましょうか。井辺君も」
 平賀:「そうですね。さすがにお腹は空きました」
 井辺:「ありがとうございます」

 ロイド達はそれぞれの客室に戻り、人間達はホテル内のレストランに向かった。

 井辺:「個室タイプの和食とは……。接待の時にしか来ないですよ」
 敷島:「ま、たまにはこういう所もいいだろう。平賀先生への接待ってことで」
 平賀:「えっ、やめてくださいよ。自分、そんなに接待されるような立場じゃ……」
 敷島:「いや、そういう立場ですよ」
 井辺:「私もそう思います」
 敷島:「それに、秘密の会議をするにはちょうどいい」
 井辺:「秘密の会議ですか」
 敷島:「そう」

 敷島はおしぼりで手を拭いた。

 敷島:「井辺君は酒行けるっけ?」
 井辺:「ええ、まあ」
 敷島:「先生は大丈夫でしたよね」
 平賀:「敷島さん、長い付き合いでしょう?」
 敷島:「そう。長い付き合い、ですよね」
 井辺:「?」
 敷島:「先生、まずは一献」
 平賀:「どうも」
 敷島:「それで井辺君にお願いしたいのは……」
 井辺:「はい」
 敷島:「本社から掲げられた目標額を超えないことには納得できないだろう。下回ったりでもすれば、峰雄伯父さんからブッ飛ばされるからね。『ノルマも達成できないヤツは、ドーン!』ってね」
 井辺:「は、はあ……」
 敷島:「今回の件、イベントについては実はカムフラージュなんだ。だから、目標額を大きく超えるとか、そういうことまでは考えなくてもいい。峰雄伯父さんから『ドーン!』されない程度、目標額に達成するだけでいい。俺と平賀先生の本来の目的は、このイベントの後にある」
 平賀:「敷島さん、それは……」

 敷島が何か出そうとした時、八寸が運ばれて来たので一時中断。
 その後で出したのは、北海道全域の地図。

 敷島:「『オホーツク旅情歌』の歌詞に出てくる地名と地名を線で結んだものです。当初は歌のタイトルに従って、本当にオホーツク海に向かって線を引っ張りました。しかし、これは表向きのものだったのです。兵器ロボットとして開発されたミクが海洋投棄された場所を指していただけに過ぎない。しかしそれは、平賀先生がエミリーに頼んで回収済みということですね」
 平賀:「そうなんですよ。確かに南里先生の仰る通り、あれを平気で稼働させたら、エミリー達でも食い止めることができるかどうかといった性能を持つロボットだったらしいです。でも、研究対象としては十分に価値があるので、あのまま捨ててしまうのは勿体無いと思いまして……」
 敷島:「でも今のミクは……というか、私が一番最初に出会ったミクの『ボディ』ともまた違うわけでしょ?」
 平賀:「違う?」
 敷島:「初めて私が南里研究所に来た時、先生はミクをバラバラにした状態で研究所に持ってきました。あれ、よく考えたら不自然ですよ。表向きは『持ち運びしやいから』ということでバラバラにしたそうですが、別にバラバラにしなくたって人間の少女の等身大なんだし、七海に運ぶのを手伝わせれば良かったわけですよ。それをしなかったのは、他に理由があったんじゃないかって」
 平賀:「よく、お気づきになりましたね。そんな、昔の話……」
 敷島:「今さら遅いでしょうがね」

 敷島はお猪口の酒を口に運んだ。

 敷島:「今のミク……あの時初めて会ってから、今までにボディは更新していたりするけども、少なくとも基本設計は変わっていない。というか……下の客室にいるミクは、海洋投棄されたミクとは違う個体なんですよね」
 平賀:「それもお分かりでしたか?」
 敷島:「ええ。海洋投棄されたものが、いくら先生の腕を持ってしても、修理して再稼働させることはできないと思います」
 平賀:「そこまで分かってしまったら、もう秘密にはできませんね」
 敷島:「ここは個室ですから、どうぞ話してください」
 平賀:「分かりました。確かに、敷島エージェンシーのトップアイドル、初音ミクと自分がエミリーに回収させたロボット兵器は別個体です。確かに当時の自分の腕前……いや、今でも無理でしょうね。海水が部品の奥にまで入り込んでいた状態だったので。でも、エミリーは覚えていたんですよ。あのロボット兵器の設計データを」
 敷島:「えっ?」
 平賀:「もちろん、エミリーは口を割りませんでした。南里先生から口止めされていたんでしょうね。でも、一部だけは教えてくれるようになりました。設計の一部と、回収したボディから想像される完成品の姿。そうしてできたのが、初音ミクです」
 敷島:「設計の一部だけでも、どうやってエミリーに口を割らせたんですか?」
 平賀:「エミリーの様子がおかしかったんですよ」
 敷島:「おかしい?」
 平賀:「ええ。つい最近まで、エミリーは『ロボット喋り』をしていたでしょう?」
 敷島:「ええ。自分に相応しいアンドロイドマスターを探す為、わざとロボットのフリをしていたというフザけた理由でしたね」
 平賀:「自分、子供の頃に南里先生とエミリーに会っているんですよ」
 敷島:「らしいですね」

 その時、南里は子供の平賀が自分で設計したというロボットのデータを見て、平賀に天賦の才を見出したとされる。

 平賀:「何ぶん、子供の頃……今からおよそ30年も前の話ですから、記憶が曖昧だったんです。だから黙っていたんですが、確かあの時のエミリー、普通に喋っていたような気がするんですよ」
 敷島:「ええっ!?」
 平賀:「で、それから10年近く経って、自分は南里先生が教授を務める大学に入学したわけですが、その時のエミリーは『ロボット喋り』でしたね。どうしてああなったかは知らない上、南里先生が頑なに『ちょっと諸事情があって、言語ソフトが古いままなんじゃ』としか言わなかったので……」
 敷島:「ふーむ……」
 井辺:「あの、僭越ですが……」

 井辺が手を挙げた。

 平賀:「何ですか?」
 井辺:「素朴な疑問なんですが、どうして社長は南里研究所に呼ばれたんですか?当時社長が所属しておられた大日本電機(現在はデイライト・コーポレーション・インターナショナルにM&Aされて消滅)の命令で、社長に産業スパイを命じたということですが、どうも不自然です。でもこれを後付けの理由としておけば、逆に自然に捉えられるんですが……」
 平賀:「そうですね。エミリーが当時、敷島さんの上司だった者を吊るし上げ……もとい、事情を聞いたところ、やはり敷島さんにスパイ命令を出したのは後になってからのようです」
 敷島:「それで古市課長、全治一ヶ月のケガしてたの!?(※)」

 (※シリーズ初期“ボーカロイドマスター”より。当ブログでは非公開)

 平賀:「なかなか吐かなかったので、2階から1階に放り投げたそうです」

 平賀が呆れた顔で答えた。

 井辺:「エミリーさんもなかなか過激ですね」
 平賀:「元は旧ソ連の暗殺・粛清ロボットとしての人型兵器でしたから……」

 エミリーにとっては、それでも手加減したつもりだったのだろう。

 平賀:「答えを言ってしまうと、大変申し訳無いことを結果的に自分は敷島さんにしてしまったわけですよ」
 敷島:「えっ?」
 平賀:「エミリーはあの当時から、自分に相応しいアンドロイドマスターを探していました。そして南里研究所としては、外部から営業もできる事務員を即戦力として欲しかった。その両方の需要に答えたのが自分。当時のツテで古市課長を探し当て、彼に部下を差し出せました。それが敷島さんだったんです。古市課長は、自分や南里先生の大学の卒業生でしたからね。エミリーには、『将来のアンドロイドマスターに成り得る人間を紹介するから』と言って、それでようやく、設計データの一部だけならということで教えてくれたんです」
 敷島:「ええ〜……?ということは、私が初めて南里研究所に来た時って……」
 平賀:「はい。まだあの時、ミクは完成途中だったんです。でも、南里先生がどうしても『敷島君に紹介したい』ということで、すぐ持って来るように言われて……」
 敷島:「そういうことだったのかぁ……」
 平賀:「すいません。自分の研究野望の肥やしにしてしまったことになってしまって……。本当に、何と言ってお詫びしたら良いか……」
 井辺:「しかし、それで結果的に今の社長がおられることを考えますと……」
 敷島:「結果オーライだったわけか……」

 敷島は再び酒を口に運んだ。
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