報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜アルカディアメトロ(魔界高速電鉄)〜」 4

2016-11-03 21:28:31 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月24日10:00.天候:晴 サウスエンド地区(南端村)・白麗神社]

 坂吹:「先生、辻馬車が参りました」
 威吹:「うむ」
 稲生:「よし、準備OK」

 稲生はスーツの上から魔道師のローブを着込むと、境内の外へと向かった。

 威吹:「オレはユタを駅まで送って来る。坂吹、さくらを頼む」
 坂吹:「了解しました!」
 稲生:「お世話になりました」
 さくら:「また、いつでもおいでくださいね」
 坂吹:「お気をつけて」

 稲生と威吹は馬車に乗り込んだ。

 稲生:「サウスエンド駅までお願いします」
 御者:「はい」

 馬車が神社の前を出発する。
 駅まではほぼ下り坂だ。
 まるで大石寺から富士宮駅までの道のりみたいだ。
 もっとも、そこまで距離のあるものではないが。

 威吹:「魔道師達との暮らしぶりはどうだい?」
 稲生:「まあまあ、楽しくやってるよ」
 威吹:「女ばかりの集団だ。ましてや、その悪い部分の生き写しの集まりだろう?キミが苦労していないかと……いや、感化されていないかと心配だったよ」
 稲生:「イリーナ組に入れて良かったよ。他の先生が師匠だったら、確かに持たなかったかも」
 威吹:「そうかなぁ……?ボクとしては、あの師匠だからこそ苦労してるんじゃないかと思うよ」
 稲生:「キミだって弟子持ちじゃないか」
 威吹:「ボクも弟子を取るつもりは無かったんだけど、こう押し掛けられちゃね……」
 稲生:「キミはよく弟子入り志願者に押し掛けられるよね」
 威吹:「何でかなぁ……?」
 稲生:「それだけキミの評判が里で広まってるってことだろう」
 威吹:「悪評が?」
 稲生:「いや、良い評判だよ。坂吹君、どうやって育成するの?」
 威吹:「目標はカンジとよく似ているから、カンジの時と同じでいいと思うけど……」
 稲生:「いや、それは違うな」
 威吹:「違う?」
 稲生:「カンジ君は結局ダンテ先生の化身だったわけだけど、坂吹君は本物だからね。本当に威吹に憧れて弟子入りしに来たって感じだ。もっと威吹が師匠として、厳しく稽古を付けてもらうことを望んでいるみたいだよ」
 威吹:「それは……昨夜話していてのことだったのかい?」
 稲生:「本人がそう言ったわけじゃないけど、でも何となくそう思った」
 威吹:「ふむ……。しかし、今は身重のさくらについていてやらねばならん時だ。子が生まれれば、少しは坂吹の修行を見てやる余裕もできるだろう」
 稲生:「僕みたいな者がSクラスの“獲物”で、それと似た人間が他にいるかねぇ……?」
 威吹:「難しいな。だからこそ、ボクには金塊を掘り当てた気分だったよ。金塊を手に入れる為なら、手持ちの小判を全て捨てても良いと思ったからね」
 稲生:「ああ、それで……」

 威吹は稲生を稲生の両親から“買った”。
 20両一束の小判を3束も出したのである。
 稲生家の富は、威吹のその小判を元手に成し得たものである。
 因みに威吹が小判を手にした当時は江戸時代初期であった為、一両が現在の価値にして10万円ほどである。
 つまり、威吹は600万円を出して稲生勇太を“獲物”にしたのである。
 尚、幕末期には一両が数千円まで下落したもよう。

[同日10:15.天候:晴 アルカディアメトロ(魔界高速電鉄)環状線サウスエンド駅]

 駅前で馬車を降りる。
 10ゴッズ紙幣を出すが、何故か……何故かそこに描かれているのが横田。
 かつて顕正新聞に写っていた、あの写真が使われている。
 やはり横田、党内ではそれなりの力を持ってはいるようだ。
 尚、最高紙幣である100ゴッズ札はルーシーではなく、双子の亡き妹、ローラになっている。
 双子である為、一瞬、ルーシー本人が写っているということで、王室の者を貨幣にするとは何と恐れ多いという誤解の声が発生した。
 安倍は50ゴッズ札。
 その為か、ダンテ一門の魔女達はあまりこの王国の紙幣を使おうとはせず、高額なら小切手、少額なら小銭を使うことが多い。

 稲生:「アルカディアメトロの運賃は2.5ゴッズ(日本円で約25円)均一だから安いね」

 つまり、1ゴッズのレートが日本円で約10円ってこと。
 物凄く物価は安い。

(※往路で辻馬車の料金10ゴッズは、日本円にして約1000円ほどというのは100円の誤りでした。訂正致します

 威吹:「確かになぁ……。さくらの社(やしろ)も、ボクの手持ちの小判で簡単に建っちゃうくらいだし……」
 稲生:「人間界の、それも日本に帰ったら、日本の物価の高さにびっくりするよ」

 それでも日本の物価は世界一高いわけではない。

 2人は馬車を降りて、駅構内へと入って行った。
 稲生はすぐに販売機でトークンを買い求める。
 昔、旧・営団地下鉄の自動券売機に、初乗り運賃の乗車券専用の機械が置いてあったのを記憶している方は、どれだけいらっしゃるだろうか。
 付いているボタンと言えば、大人何枚か、子供何枚かといったものくらいである。
 それのキップではなく、トークンが出る販売機だと思えば良い。

 稲生:「それじゃ」
 威吹:「また来てね」
 稲生:「今度はキミの子供を見せてもらいに来るよ」
 威吹:「ああ」

 最後に稲生と威吹は握手を交わした。
 威吹は銀狐の類である為、雪のように白い肌であるが、爪は尖っている。
 稲生と過ごしていた時は定期的に丸く削っていたのだが、今はそこまではしていないらしい。

 稲生は改札口を入って、内回り電車が来るホームに上がった。
 東京・山手線の大崎駅に位置しているだけでなく、実際に車両基地もある所まで同じで、ここ始発・終着の電車もあるくらいだ。
 それ用のホームもある為か、2面4線という昔の大崎駅と同じである。

〔まもなく1番線に、内回り準急、デビル・ピーターズ・バーグ行きが参ります。危ないですから、白線の内側まで下がって、お待ちください〕

 稲生:「あっ、101系だ」

 旧国鉄101系にそっくりな電車がやってきた。
 ウグイス色に塗られていて、大昔の山手線のようである。
 先頭車に乗り込んだが、ある程度改造されたものらしく、大宮の鉄道博物館に展示されているものよりは、運転室の窓が小さかった。
 ここで乗務員交替があるようで、数分間の停車。
 高架鉄道線は人間の乗務員が多いのが特徴。

〔「環状線内回り準急、デビル・ピーターズ・バーグ行きです。次の停車駅はサウスリバーです」〕

 発車ベルがこの駅にはあって、その後で電車が発車する。
 ドアチャイムが無く、エアの音を響かせて閉まるドアは、どことなく情緒を感じさせるものがある。
 走り出す車内に響く音は、インバータの電子音では無く、本当に機械が唸り声を上げているかのようなもの。

〔「ご乗車ありがとうございます。環状線内回り準急、デビル・ピーターズ・バーグ行きです。サウスリバー、42番街、21番街、1番街の順に停車致します。1番街から先は、各駅に停車致します。次はサウスリバー、サウスリバーです」〕

 稲生:(威吹達も頑張ってるんだな。いやあ、来て良かった)

 稲生は上機嫌で手持ちのスマホを見た。
 イリーナによると、このまま魔王城に戻って来てほしいとのことである。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする